夏場の感電事故に注意!
~感電リスクが高く死亡事故も発生しています~
独立行政法人製品評価技術基盤機構[NITE(ナイト)、理事長:長谷川 史彦、本所:東京都渋谷区西原]は、電気事業法に基づく電気工作物(発電、変電、送電、配電又は電気の使用のために設置する工作物)に関する事故情報データベースを用いて、2019年度から2021年度までの「電気工作物に係る感電死傷事故(以下、感電死傷事故という。)」の詳細分析を行いました。その結果、分析を行った3年間の感電死傷事故においては、夏場に発生件数が増加をはじめ、秋頃まで発生件数の高止まり状態が続くこと、さらには、高齢作業者が保守点検作業中に受傷する死傷者数・事故率が高い傾向にあることが明らかになりました。
[図1] キュービクル (高圧受電設備)
[図2] 受電室の感電死傷事故のイメージ※ ※実際の事故画像ではありません。
夏場は感電死傷事故が多く、1年を通して最も注意が必要な季節です。作業者、管理者(電気主任技術者)並びに設置者の皆様におかれましては、危険性が高まる夏場を迎えるにあたり、より一層の注意が必要です。 |
事故情報の分析結果
1.感電死傷事故の過年度推移
全国の自家用電気工作物における感電死傷事故件数の過年度推移を示します(図3)。感電死傷事故件数は減少傾向にありますが、近年下げ止まりの傾向が続いています。
[図3] 感電死傷事故件数の推移(2012~2021年度)
(令和3年度電気保安統計より)
2.1.感電死傷事故の発生状況(夏場の事故の発生状況)
全国の自家用電気工作物における感電死傷事故は、2019年度から2021年度の3年間で133件(死亡14件、負傷119件)報告されています。
発生月別に見ると、6月から感電死傷事故が増加をはじめ、7月に最多となり、11月頃まで高い発生傾向が続いています。また、6月~9月の夏場においては、死亡事故も多く発生しております(図4、図5)。
夏場に感電死傷事故が増加する理由としては、①暑さのため、軽装などで肌を露出する機会が増えること、②集中力の低下により、人為的ミスが発生しやすくなることや、③高温・多湿の環境下での作業のため、作業者が発汗して人体の電気抵抗が低下し、皮膚の表面で電流が流れやすい状態になることなどが考えられています。そのため、感電死傷事故は夏場の電気設備において、起こりやすい傾向にあります。
また、作業者の感電被害は、高圧の受変電設備における「電気工作物の点検」作業中の被害が最多であり、次いで、「電気工事」、「電気工作物の修理」作業中の被害が多くなっています(図6)。
[図4] 発生月別・被害別の感電死傷事故件数(2019~2021年度)
[図5] 発生月別・死傷場所別の感電死傷事故件数(2019~2021年度)
[図6] 作業内容別の感電死傷事故件数(2019~2021年度)
※公衆の死傷者による感電死傷事故を除く。
2.2.感電死傷事故の被害状況(高齢者の事故の発生状況)
2019年度から2021年度に発生した感電死傷事故133件の年齢別の死傷者数・事故率※1の分布を示します(図7)。この分析結果より、60歳台・70歳台以上の高齢作業者における事故率が高いことが明らかとなりました。また、20歳台の事故率も高くなっていますが、他の年代の作業者と比較して、現場での実務経験が浅いことなどが影響していると考えられます。
次に、65歳以上の高齢作業者の感電被害を見ると、発生設備では高圧の受変電設備(キュービクルなど)に集中しており、作業内容では通電中の「電気工作物の点検」作業中の感電死傷事故(17件、うち16件が高圧以上)が高い割合を占めていることが分かります(図8、図9)。「電気工作物の点検」には、例えば、漏洩電流の測定中に誤って他の充電部に接触してしまったなどの事例が挙げられます。
事故発生原因としては、「被害者(作業者)の過失」が最多(8件)であり、次いで、「作業方法不良」、「作業準備不良」、「工具・防具不良」となっています。具体的には、作業中の不注意(作業手順の確認不足、検電の未実施など)、作業手順違反(絶縁用保護具の未着用、充電部に身を乗り出して測定作業を行ったなど)、身体的異常(作業中のふらつき、よろけなど)などが挙げられます(図10)。
高齢作業者の皆様におかれましては、通電中の「電気工作物の点検」作業中の感電リスクが高いことに十分ご注意ください。
[図7] 年齢別の死傷者数・事故率(2019~2021年度)
※公衆及び年齢不明の死傷者を除く。
[図8] 事故発生設備別の感電死傷事故件数(2019~2021年度)
※公衆及び年齢不明の死傷者による感電死傷事故を除く。
[図9] 高齢作業者(65歳以上)における作業内容別の感電死傷事故件数(2019~2021年度)
[図10] 高齢作業者(65歳以上)における電気工作物の点検作業中の事故発生原因
3.感電死傷事故の事故事例
事例1 事故発生年月 2021年8月
【被害の状況】需要設備(高圧)-電気工作物の点検 負傷 60歳台 電気主任技術者
当該事業場の高圧設備の漏電調査の際に、動力用変圧器の漏れ電流を測定していた電気主任技術者が高
圧進相コンデンサーの接続端子部に接触・感電負傷した。
【事故の原因】
被災した電気主任技術者は安全を担保するために指揮・監視を行うべきところ、自らも漏電調査の測定作
業に参加しており、動力用変圧器の漏れ電流を測定しようとした際に、背面にある高圧進相コンデンサー
の接続端子部に接触し、感電したものと推定される。
事例2 事故発生年月 2020年8月
【被害の状況】需要設備(高圧)-電気工作物の銘板確認 負傷 20歳台 従業員
当該事業場における制御盤の蛍光灯用安定器のPCB調査(型式調査)において、従業員が充電中のパワ
ーヒューズ取付部に右手首から肘間を接触させたことで感電負傷した。
【事故の原因】
被災者と職場責任者間で、作業計画のすり合わせが不十分であったため、被災者は調査対象でない盤の調
査を行ってしまった。被災者は調査箇所が充電部であることを認識していたが、必要な安全対策を怠って
いた。
事例3 事故発生年月 2021年9月
【被害の状況】需要設備(高圧)-その他の作業 死亡 公衆
看板撤去工事のための足場を解体していた作業員が、構内第1柱に設置されているPASの1次側接続点
(6.6kV)に触れて感電し、約5m下の地上に墜落した。被災者は緊急搬送されたが、死亡が確認された。
【事故の原因】
PAS1次側接続点には端子カバーが取り付けられていたが、カバーはずれ、充電部が露出していた。作業
員が触れた際にずれた可能性があるが、詳細は不明。
看板撤去工事に際して主任技術者への事前連絡がなかったため、高圧部の停電や防護がないまま、構内柱
に近接して足場が設置され作業が行われていた。
事例4 事故発生年月 2020年8月
【被害の状況】需要設備(低圧)-電気工事 死亡 30歳台 作業者
当該事業場の照明器具増設工事(100V回路)において、作業者がケーブルの被覆を剥ぐためにワイヤー
ストリッパを使用したところ、ケーブルが充電状態であったため、感電死亡した。
【事故の原因】
当該事業場の照明器具増設工事の際に、作業者は絶縁手袋等の防具を装着せず、また、電源を開放しない
ままの状態で作業を開始したため、ケーブルの被覆をワイヤーストリッパで剥がそうとして、感電したも
のと推定される。また、照明器具が接続されている電路には漏電ブレーカーが設置されておらず、感電状
態が継続したことから、感電死亡に至ったと考えられる。
感電死傷事故を防ぐためのポイント
感電死傷事故を未然に防ぐために
未然防止に有効と考えられる対策を以下に示します。
感電死傷事故の発生を未然に防ぐためには、作業者個人が行う安全対策、管理者(電気主任技術者)や設置者が行う設備面の安全対策、さらには、組織的な安全対策が重要です。これから感電死傷事故のリスクが高まる夏場を迎えるにあたり、事故の未然防止に係る取組の徹底・強化をお願いいたします。
作業者個人が行う安全対策 ① 検電の徹底 作業前に必ず検電を実施し、無電圧であることを確認してください。正しく検電をしていれば、防げた感電死傷事故も起こっています。常に検電器を所持してください。
[図11] 検電のイメージ
② 絶縁用保護具の着用 ・作業内容に応じた絶縁用保護具を正しく着用してください。併せて、肌の露出が少ない服装(長袖等)を着用してください。 ・作業前に必ず絶縁用保護具を点検し、異常の有無を確認してください。
③ 作業手順の確認・遵守 ・作業内容や作業方法を正しく理解した上で作業を行ってください。 ・思いつきによる予定外作業は行わないでください。 |
高齢作業者の方に行っていただきたい安全対策 ① 体調管理の徹底 体調不良時の作業は避けてください。持病がある方は普段の健康状態に注意するとともに、治療薬の適切な服用や服薬下での影響などの確認を行ってください。
② 自分のペースでの作業実施 高齢の方はご自身の身体的特性を理解し、焦らずに作業することを心がけてください。
③ 通電中の「電気工作物の点検」作業時に事故多発 通電中の「電気工作物の点検」作業時の事故が多くなっています。点検を行う際は十分注意して作業を行ってください。 |
管理者(電気主任技術者)や設置者側の安全対策 ① 設備面の安全対策 ・充電部に保護カバーを取り付けるなど、物理的な防護措置が可能かどうかを検討してください。 ・キュービクルや盤の扉の施錠、及び危険表示を掲示するなど、取扱者以外が容易に触れられないよう設備管理を適切に行ってください。
② 組織的な安全対策 ・予定外作業の実施は避けてください。 ・充電部での近接作業を避け、停電作業が可能かどうかを検討してください。 ・単独での作業を避け、停電操作等の際は複数名で相互確認を行ってください。 ・作業者との意思疎通を十分に図るとともに、関係者への教育を行い、安全対策の実施状況を継続的に確認してください。
③ 新技術(スマート保安技術)の導入検討 新技術(スマート保安技術)の導入についてご検討ください。 近年普及が進むスマート保安技術導入によるメリットとして、一般に、センサー類や常時監視システムなどの稼働により、電気設備における異常の早期発見につながることが期待されていますが、それと同時に、電気設備の定期点検の実施を延伸するといった保安業務の運用変更も可能となります。電気設備の点検頻度を抑えることにより、点検コストが削減できるだけではなく、作業者にとっても、現場での直接の点検作業を減らせることとなり、結果として、死傷事故に遭うリスクを低減させることにもつながると考えられます。 |
(参考リンク)
※「電気使用安全月間(8月)について」(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/oshirase/2023/07/20230701.html
※「【緊急注意喚起】点検作業中の感電死傷事故が頻発しています」(中部近畿産業保安監督部近畿支部)
https://www.safety-kinki.meti.go.jp/denryoku/2022/2022kandenkinkyuchuikanki.html
※「最近の感電死亡災害の分析と今後の対策」(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所)
https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/mail_mag/2016/88-column-1.html
感電死傷事故に関係する用語
電気工作物 :発電、蓄電、変電、送電、配電又は電気の使用のために設置する工作物(電気設備)です。
例えば、ビルや工場で電気を使用するための需要設備(キュービクル内の受電設備)や
発電のために使用する発電機などの発電設備をいいます。
需要設備 :ビルや工場等で電気を使用するために設置する電気工作物であり、受電室や変電室などの
設備、非常用予備電源設備、構内電線路、電気使用場所の設備などが含まれます。
検電器 :電気が通っているかどうかを確認するための機器です。高圧用・低圧用があります。
検電 :検電器を用いて、電気回路や電気配線が電気を帯びているかどうかを判別するために行う
安全行動です。
絶縁用保護具:電気用帽子(ヘルメット等)、電気用ゴム袖・ゴム手袋・ゴム長靴などの作業者が身体に
着用する感電防止のための安全装備をいいます。高圧用・低圧用があります。
参考情報
〇詳報公表システムについて
詳報公表システムは、電気事業法に基づく電気工作物に関する全国の事故情報(詳報)が一元化された国内初のデータベースです。2020年度からの事故情報について順次公開を行っております。本システムは、電気事業者をはじめ、どなたでもご自由にお使いいただけます。事故情報を条件やキーワードで簡単に検索することができ、抽出されたデータはCSVファイルとしてダウンロードすることも可能です。
詳報公表システム >>
https://www.nite.go.jp/gcet/tso/kohyo.html
[図12] 詳報公表システム概要
〇NITE 電力安全センターについて
NITE電力安全センターは、経済産業省(原子力発電設備等以外を所掌)からの要請を受け、電気保安行政(電気工作物の工事、維持及び運用における安全を確保するため行政活動)を技術面から支援するために、2020年4月、電気保安業務の専従組織として発足しました。現在、NITEがこれまで培ってきた知識や経験を活用し、経済産業省や関係団体と連携しながら、電気保安の維持・向上に資する様々な業務に取り組んでいます。
NITE電力安全センターの業務紹介 >>
https://www.nite.go.jp/gcet/tso/index.html
本プレスリリースは発表元が入力した原稿をそのまま掲載しております。また、プレスリリースへのお問い合わせは発表元に直接お願いいたします。
このプレスリリースを配信した企業・団体
- 名称 独立行政法人製品評価技術基盤機構
- 所在地 東京都
- 業種 政府・官公庁
- URL https://www.nite.go.jp/
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