他者から奪い取るという負の行動は第三者に対しても連鎖する

立正大学学園

2023年7月31日

国立大学法人筑波大学

学校法人立正大学学園 立正大学

 

他者から奪い取るという負の行動は第三者に対しても連鎖する

 人には、自分の資源が他者から奪い取られたとき、奪った相手から資源を奪い返そうとする傾向があることが知られています。本研究では、この「奪い取る」という負の行動が、奪い取られた直接的な相手だけでなく、第三者に対しても連鎖的に発生する傾向にあることを示しました。


 人は他の種と比較して、とても協力的な種とされています。実際に、人には、自分に協力してくれた相手に直接返報する「お返し」や、協力された人が見ず知らずの第三者に協力する「おすそ分け」などの行動があります。協力によって利益を与えた場合、相手からの協力的な返報が生まれる傾向がある一方で、裏切りによって損失を与えた場合には、その相手からの報復を誘発します。しかしながら、自分に損失を与えた相手に直接報復できない場合、見ず知らずの第三者からであっても、失った分を取り戻そうとするのか、また、そうした行動はどの程度連鎖するのか、といった定量的な分析は不足していました。

 本研究では、この課題に対して定量的な検討を行いました。その結果、人は自分の持つ資源が奪われた場合、それが相手の意図的な行動であったかどうかに関わらず、第三者からであっても奪われた分と同じくらいの量を奪い取る傾向にあることが分かりました。

 本研究グループはこれまでに、おすそ分けのような、第三者に対する協力の連鎖には行動の意図が重要な役割を果たしていることを明らかにしています。しかし今回の結果は、奪い取るというネガティブな行動に関しては、その行動の意図とは関係なく、第三者に連鎖することを示しました。

 このようなネガティブな行動のメカニズムを知ることは、安定した協力社会の実現に貢献すると考えられます。

 

 研究代表者 

筑波大学

 梅谷 凌平 理工情報生命学術院システム情報工学研究群 博士後期課程

 秋山 英三 システム情報系 教授

立正大学

 山本 仁志 経営学部 教授

 

 研究の背景 

 人は他の種と比較して、とても協力的な種であることが知られています。よく知られている協力行動の一つに、直接互恵性、すなわち、協力してくれた相手に協力する「お返し」というような行動があります。また、お返しではない協力を行うこともあり、その一例がアップストリーム互恵性と呼ばれるものです。これは「恩送り」や「Pay it forward」ともいわれる行動で、協力された者が協力した者ではない第三者に協力する「おすそ分け」のような行動を指します。

 しかし、人の行動は協力的なものばかりではありません。人は時として、相手を傷つけたり、資源を奪い取るなどの、損害を与えるネガティブな行動をとります。そうした行動に対しては、お返しとして相手への報復が生じます。しかしながら、アップストリーム互恵性の状況においても、自分に損失を与えた相手に直接報復できない場合、見ず知らずの第三者からであっても失った分を取り戻すというような、ネガティブな行動が連鎖するのか、についての定量的な分析は行われていませんでした。

 

 研究内容と成果 

 本研究では、自分の持つ資源が誰かに奪い取られた時、それが意図的な行動であったかどうかに関わらず、その損失を取り戻すために見ず知らずの第三者からでも資源を奪い取る、つまりネガティブな行動は第三者に対しても連鎖することを示しました。

 オンラインでの経済実験注1)を行い、課題を検討しました(参考図)。実験には、3つの役割の参加者A(被験者から資源を奪う)、B(被験者)、C(第三者)があり、実験参加者(Yahoo!クラウドソーシングを用いて594名を募り、途中で回答を止めた者を除いた437名(男性69.3%; 平均年齢46.17歳)を対象とした)は全員役割Bに割り当てられ、それ以外の役割はコンピュータ・プログラムが担いました。まず、A、B、Cの全員に、主催者から初期資源として100円が提供され、その後、Aが、Bに配布された資源を奪い取る状況を設定しました。この時、実験者は、Aの行動として、Bから奪い取る金額を自分の意志で決める、もしくは、くじ引きによって強制的に決める、のいずれかを操作しました。またAから資源を奪われたBは、Cが持つ資源をどの程度奪い取るかどうかを決定し、最終的にCの手元に残った金額を協力の指標としました。

 その結果、実験参加者であるBが第三者のCから奪う金額は、Aから奪われた金額によって異なり、奪われた額と同程度でした。また、Aが意図的に奪うか、そうでないかという行動意図の影響は見られませんでした。つまり、奪い取るというネガティブな行動は、その行動が意図的であったがどうかに関係なく、奪い取られた量と同程度で第三者に連鎖するということが分かりました。本研究グループはこれまでに、アップストリーム互恵性には行動の意図が重要な役割を果たしていることを明らかにしています(社会心理学研究、2020)。しかし今回の結果は、誰かがネガティブな行動を行った場合、それが起点となって、奪い取るという行動が連鎖する傾向がある一方で、その起点となる行動がなければ、そうした負の連鎖は生じないことを意味しています。

 

 今後の展開 

 奪い取るといったネガティブな行動と、協力のようなポジティブな行動は、経済的に等価なものであっても異なる結果を生むことは知られていましたが、本研究結果は、第三者に対しても同様に、ポジティブな行動とネガティブな行動は異なる結果を生むことを示唆しています。今後さらに、相手に対して協力することも、相手から奪い取ることも可能な状況を想定した研究を進めていきます。このようなネガティブな行動のメカニズムを知ることは、安定した協力社会の実現に貢献すると考えられます。

 

 参考図 

図 本研究で行なった実験の概要

 まず最初に、すべての実験参加者A、B、Cに、原資として100円が主催者から提供される。意思決定は、A、Bの順で行われ、AはBから、BはCから、それぞれ相手が持つ資金のうち任意の金額を奪い取ることができる。この時、Cの手元に残った金額を協力の指標とした。被験者はすべてBに割り当てられ、AがBから奪い取る金額と行動の意図は実験者によって操作される。奪い取る金額は、全額、半額、取らないの3択で、Bに対しては、この金額がAの意思によって決まったものか、もしくは、くじ引きによって決まったものかが教示される。これらを組み合わせた計6条件を、被験者間計画注2)により操作した。その結果、行動の意図の有無に関わらず、Bは、奪い取られた量と同じくらいの量を第三者であるCから奪うこと傾向が見られた。なお、本研究で得られた全ての実験データは、OSFデータベース(https://osf.io/mva4c/?view_only=e0822dcccbbc4d4fbc80b311a08fadb4)に公開されている。

 

 用語解説 

 経済実験(economic experiment)

 実験内での意思決定の動機づけとして経済的報酬を用いる実験。実験参加者への報酬額は実験内での意思決定に応じて変動する。

 被験者間計画(between-subjects design)

 設定した実験条件のうち、一人の参加者が一つの条件のみを行う実験デザインのこと。これに対して、一人の参加者が複数の条件の実験を行うことを被験者内計画と呼ぶ。

 

 研究資金 

 本研究は、科研費による研究プロジェクト(JP19H02376、JP20K20651、JP21H01568、JP21KK0027、JP22H03906)およびJST 次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2124)の一環として実施されました。

 

 掲載論文 

【題 名】 Individuals reciprocate negative actions revealing negative upstream reciprocity.

(ネガティブな行動をとると負のアップストリーム互恵性が生じる)

【著者名】 Ryohei Umetani¹*, Hitoshi Yamamoto², Akira Goto³, Isamu Okada⁴, Eizo Akiyama⁵

¹Graduate School of Science and Technology, Degree Programs in Systems and Information Engineering, University of Tsukuba, Ibaraki, Japan

²Faculty of Business Administration, Rissho University, Tokyo, Japan

³Meiji University School of Information and Communication, Tokyo, Japan

⁴Faculty of Business Administration, Soka University, Tokyo, Japan

⁵Faculty of Engineering, Information and Systems, University of Tsukuba, Ibaraki, Japan

【掲載誌】 PLoS ONE

【掲載日】 2023年7月5日

【DOI】 10.1371/journal.pone.0288019

 

 

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