日本盲導犬協会が社会の「盲導犬や視覚障害に対する認識」を初調査
~盲導犬受け入れ拒否の原因を探る~
2023年9月29日
公益財団法人日本盲導犬協会
公益財団法人 日本盲導犬協会(理事長:井上幸彦)は、今年7月、市民を対象とした『盲導犬および視覚障害に関する意識調査』を初めて実施しました。
その背景には、盲導犬を同伴して施設を利用する際の受け入れ拒否が後を絶たず、盲導犬の使用者である盲導犬ユーザー(以下、ユーザー)の多くが活動の制限を受けている現状があります。本調査では、目の見えない人・目の見えにくい人(以下、視覚障害者)が暮らしやすい社会となるよう、受け入れを阻む要因を明らかにし、円滑な受け入れや視覚障害者へのサポートが広がるには何が必要なのかを探るために、市民に対して大規模なアンケートを行いました。
その結果から、社会の理解をより一層深め、盲導犬の受け入れ拒否を解消していくために有効な手立ても見えてきました。
本報告では、47項目に及ぶアンケート結果の中から、データを抜粋して報告します。
【調査概要】
・調査名:盲導犬および視覚障害に関する意識調査
・目的:盲導犬や視覚障害、また盲導犬の受け入れ等に対する認識の把握
・回収日:2023年7月21日
・対象: 20歳~79歳の男女1,098人
・地域: 47都道府県
・方法:インターネット調査
・質問内容:アンケート47項目
①盲導犬について ②視覚障害について ③盲導犬の受け入れについて
・調査実施機関:株式会社Quest
※経年変化を調査するため、今後も定期的なアンケートの実施を計画しています
1.補助犬法は「知らない」、マスメディアによる発信が効果的か
2002年5月に成立した身体障害者補助犬法(以下、補助犬法)により、視覚障害者が施設などを利用する際に盲導犬を同伴することが認められています。しかし盲導犬ユーザーからは、受け入れ拒否に関する相談が多数寄せられています。改めて補助犬法の認知と理解について聞きました。
「身体障害者補助犬法を知っているか」に対して、「知らない」と回答した人が74.4%、「存在は知っているが内容は知らない」が21.5%、「法律の内容をほぼ理解している」という人は4.1%でした。
【図1】Q33.補助犬法を知っているか
法律が広く認識されるための方法を探るために、「補助犬法をどのようなところで見聞きすると意識されると思うか」(複数回答)と聞いたところ、「テレビ番組で見る」が最多で37.2%、「ニュース報道で見聞きする」が36.1%となりました。一方で、「意識する場面はない」とする回答も36.8%で上位となりました。
【図2】Q34.補助犬法をどこで見聞きすると意識されると思うか(複数回答)
障害者の自立と社会参加を促進するために、補助犬法では施設等での盲導犬同伴による受け入れが義務付けられています。これについて賛否を聞いたところ、賛成が77.8%、反対は2.7%でした。
また、「自分の利用する店に盲導犬を受け入れて欲しいか」に対して、「受け入れて欲しい」が91.7%でした。
【図3】Q43.補助犬法が定める店や病院での盲導犬の受け入れ義務について賛成か反対か
【図4】Q46.自分の利用する店に盲導犬を受け入れて欲しいか
一方で、受け入れ拒否につながる潜在的な不安を探るため、補助犬法への懸念について聞きました。「受け入れる店側への配慮が足りないと思う」に対して「とてもそう思う」「そう思う」が40.4%、「アレルギーのある人への配慮が足りないと思う」が38.9%、「犬嫌いの人への配慮が足りないと思う」が29.2%でした。
【図5】Q45.補助犬法についてどのように感じるか
<考察>
以上の結果から、補助犬法成立から20年以上が経ってもなお、法律の認知や理解促進には余地があることが分かりました。しかし、法律の認知度が高くない状況にもかかわらず、施設等での盲導犬の受け入れ義務には回答者の多くが賛同しており、盲導犬同伴での施設利用については、一定の理解が得られているようでした。
一方で、2016年から協会が実施してきた『盲導犬ユーザー受け入れ拒否の実態報告』によると、過去1年間で「受け入れ拒否にあった」と回答する人が、平均値で50.5%に達しています。盲導犬同伴受け入れを義務付ける補助犬法に対して、店の利用者や経営者への配慮を懸念する人もいて、誰もが安心して対応できるような理解には至っていないようです。
法律の趣旨を浸透させるためには、マスメディアによる発信等、人々の意識が高まりやすい方法を用いて、さらなる情報発信をしていく必要があると考えます。
2.ユーザーによる盲導犬の管理について 「知らない」ことが懸念の要因に
これらの懸念がなぜ生まれるのか、盲導犬に対するイメージや、受け入れ拒否につながる要因について、具体的に聞いてみました。
盲導犬へのイメージを聞くと「頭が良い、利口だ」が76.8%(複数回答)で最上位でした。次に、建物や電車などに盲導犬が入ることへのイメージや懸念について聞きました。各項目で50%以上が「全くそう思わない」と答えた一方で、「場所が汚れる」8.1%、「畳や床を傷つける」8.1%、「不衛生」8.1%、「邪魔だ」7.1%など、何かしらの良くない影響があると考える人が少数ながらいました。
【図6】Q17.盲導犬と聞いてイメージすること(複数回答)
【図7】Q31.建物や電車に盲導犬が入ることへのイメージ
日本盲導犬協会が注目したのは、盲導犬の衛生面や行動面の管理に関する人々の認識です。ユーザーには、盲導犬の衛生・行動管理をする法的な義務があるため、訓練でスキルを習得した上で、日々のブラッシングなどの衛生管理や排泄を含む行動管理を自身で行っています。しかし、アンケートによると、ユーザーに盲導犬を管理する義務があることを知らない人は全体の84.0%にのぼりました。
【図8】Q39.ユーザーに犬の管理をする法的義務があることを知っているか
また、ユーザーが盲導犬を世話することについて、「シャンプーやブラッシングなど衛生管理が行き届かないのではないか」と感じる人が17.4%、「排泄物の管理が行き届かないのではないか」と感じる人が16.3%いました。実際、ユーザーは、盲導犬の排泄のリズムを把握し、適切な場所で指示によって排泄をさせています。「盲導犬は排泄物で施設を汚すことがない」、ということを知っているかを聞いたところ、「知らない」が68.1%という結果でした。
【図9】Q30.ユーザーが盲導犬を世話することついて、どう感じるか
【図10】 Q14.盲導犬は、排泄物で施設を汚すことがないことを知っているか
<考察>
今回の結果からは、盲導犬同伴を受け入れることが施設側に悪影響を及ぼすとイメージする人は少数に留まりました。しかし、実際に盲導犬が自分の隣にいたらどう思うかの自由回答においても、「飲食店だと少し不衛生で嫌」「かまれたりしないか不安」「大きくて邪魔」という回答があり、個人が抱く様々なイメージが懸念へと繋がっている可能性が伺えます。
こうしたことから、ユーザーが自身で盲導犬を管理できるスキルを身に着けていること、盲導犬は衛生面、行動面共に十分に管理されていることなど、あまり知られていない情報を社会に広く伝えていくことで、「場所が汚れる」「不衛生」などのイメージを払拭して、受け入れ拒否を防ぐことができるのではないかと考えます。
3.SDGsが目指す「誰一人取り残さない」社会へ向け、
視覚障害理解が重要なカギに
盲導犬同伴の視覚障害者を拒否してしまう背景には、様々な「懸念」があり、いずれも情報の不足が要因のひとつであることがわかってきました。
2024年4月から、障害者差別解消法における合理的配慮の提供が、民間企業においても義務となります。視覚障害者が活動する際に障壁となる「社会に存在する障害」をなくしていくために、様々な場面で合理的配慮が求められます。盲導犬同伴での受け入れも、そのひとつです。その他、どのような配慮が必要なのか検討するにあたって、視覚障害者をどのようにとらえているのかについても聞いてみました。
「視覚障害者の見えにくさが人により異なることを知っているか」に対して、60.3%が「知っている」と答えました。どのような見え方を知っているか聞いたところ、全く見えない「盲」の状態は94.3%と、ほとんどの人が知っているのに対して、視野がせまい「視野狭窄」は72.5%、見えにくい「ロービジョン」は63.9%と認知度が下がります。
【図11】Q22.視覚障害者の見えにくさが人により異なることを知っているか
【図12】Q23.視覚障害についてどのような見え方を知っているか
その他、視覚障害者に対して抱いているイメージを把握するために、情報獲得方法について聞きました。「視覚障害者全員が点字を読めるわけではない、ということを知っているか」という問に対して「知っている」と答えたのは48.4%でした。
【図13】Q25.視覚障害者全員が点字を読めるわけではないことを知っているか
視覚障害者へのサポートについて聞いたところ、「声をかけたことがあるか」に対して「ある」と答えた人は14.5%にとどまりました。「視覚障害者に声をかけることに抵抗があるか」に対して、54.1%が「ある」と答え、「声をかけると驚かせてしまいそう」「声のかけ方がわからない」「話しかけていいのか不安」といった意見がありました。
一方で、「困っている視覚障害者に出会ったらサポートしたいか」聞いたところ、「とてもそう思う」「まあまあそう思う」と回答した人が80.6%に及びました。サポートの意思はあるものの、半数を超える人が視覚障害者への接し方について不安を感じていました。
【図14】Q26.視覚障害者へサポートのために声をかけたことがあるか
【図15】 Q27. 視覚障害者に声をかけることに抵抗があるか
【図16】Q29.視覚障害者に出会ったらサポートしたいと思うか
「目の見え方や体の状態に関わらず全ての人が等しくお店を利用したり、サービスを受けるべきだと思うか」聞いてみました。「とてもそう思う」「ややそう思う」と答えた人が全体の87.4%に達していました。
【図17】Q42.見え方や体の状態に関わらず等しくお店やサービスを利用できるべきだと思うか
<考察>
視覚障害者に対しては、「盲」の状態で、点字を読んでいる、などの一定の固定的なイメージを抱いていることがわかります。視覚障害に関する情報も十分に行き渡っていないことが推測されます。
SDGsで謳われている「誰一人取り残さない社会」の基となる考え方には、多くの人が賛同していました。障害の有無によって社会活動に差が生じることに対して、大多数の人がそうあってはならないと考え、そのためのサポートにも意欲的でした。実際のアクションへと結びつけていくためには、サポートする側の不安を取り除き、視覚障害者、サポートする人が互いに「相手を知り、理解すること」が重要であると言えます。まずは、視覚障害者に声をかけ、コミュニケーションの中で理解を深めていく必要があると考えます。
<まとめ>
今回のアンケート結果から、盲導犬同伴での受け入れ拒否の背景にある様々な要因を分析しました。盲導犬や視覚障害者に関する情報が十分ではなく、「知らない」ことから様々な不安が生まれ、これによって拒否が発生している、という現状が浮き彫りになってきました。
さらに視覚障害理解についても聞き、合理的配慮について考える際、何が障害になっているのか、考察してみました。誰一人取り残さない社会を実現するためには、相手を知り、理解すること、相互のコミュニケーションがカギになることが、本調査からも見えてきました。
広く社会に、視覚障害や盲導犬に関する情報を届けていくために、広報活動は極めて重要です。日本盲導犬協会では、今後も様々なメディアを活用して、視覚障害および盲導犬に関する情報を発信していきます。
<日本盲導犬協会公式YouTubeチャンネル>
動画『【入門】盲導犬ユーザーが施設に来たらどうする?~セミナー事前学習動画~』を公開
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