強磁性窒化鉄系磁石及び次世代車載電装モータの開発
三恵技研工業株式会社
株式会社ミツバ
株式会社Future Materialz
2025.11.7
三恵技研工業株式会社(所在地:東京都北区、代表取締役社長:長谷川彰宏、以下「三恵技研」)、株式会社ミツバ(所在地:群馬県桐生市、代表取締役社長:日野貞実、以下「ミツバ」)、および株式会社Future Materialz(所在地:東京都杉並区、代表取締役社長:京藤倫久、以下「FMC」)は、強磁性窒化鉄系磁石を開発し、その磁石が車載電装モータとしての性能を有していることを確認しました。
この磁石は、「希土類(以下、レアアース)を全く含まない強磁性窒化鉄の活用」および「ネオジム採掘時の副産物であるサマリウムの有効活用」という特徴を有します。従来のネオジム磁石と同等の性能を維持しながら、継続的な生産が可能であり、資源リスクの低減と持続可能なサプライチェーンの構築に寄与します。
本成果は、The 70th Annual Conference on Magnetism and Magnetic Materials(2025年10月28日、会場:アメリカ合衆国パームビーチ、講演番号:BD-01)で発表、また35th FINETECH JAPAN(2025年11月12日~14日、会場:幕張メッセ、ブース番号:12-49)にて発表する予定です。
1.背景
次世代モータ研究開発では、特に、強力な永久磁石をモータに組み入れることによる高効率化と小型化が重要なテーマです。省エネ家電や電動車両のモータにはネオジム磁石が多数搭載されていますが、この磁石に含まれるレアアース元素は特定の産出国への依存が高いことによるさまざまな問題が近年可視化されてきています。将来にわたり安定的に供給が可能な高効率・強力な小型モータの開発には、レアアース使用量の削減による安定供給・価格安定化の実現のみならず、ネオジム磁石を代替する強力な磁気特性をも併せ持つ新たな磁石が求められています。
2.強磁性窒化鉄系磁石について
強磁性窒化鉄系磁石は、強磁性窒化鉄(Fe16N2)とサマリウム鉄窒素(Sm2Fe17N3)で構成されたナノコンポジット磁石(*1)です。強磁性窒化鉄(*2)は、1972年に東北大学の高橋實教授がその存在を提唱し、近年、単相の強磁性窒化鉄(Fe16N2)粉末を大量に作製する(*3)ことが可能となり、磁石化の研究開発が進められています。一方、サマリウム鉄窒素磁石もネオジム磁石の代替、特に重希土類元素(*4)の代替材料として期待されます。強磁性窒化鉄系磁石では、サマリウム鉄窒素を強磁性窒化鉄で置き換えることにより、レアアース使用量の大幅な低減を実現しました。さらに、二つの磁石成分を含み磁気特性をシームレスに制御できることから、用途に応じた磁石を作製できることも強磁性窒化鉄系磁石の大きな特徴となっています。
3.成果
特徴:
圧粉・射出成形のいずれでも窒化鉄系磁石の作製が可能
車載電装モータ特性に適した強磁性窒化鉄系磁石を開発
省レアアース化と重希土類元素フリーで安定供給と価格変動に強い
強磁性窒化鉄系磁石(図1)は、無機磁性材料に強みを持つFMCが、磁気特性や分散特性、耐蝕性・耐酸化性に優れた高純度の強磁性窒化鉄粉末の大量合成に成功したことを受け、樹脂混練とその加工技術をコアコンピタンスに持つ三恵技研が磁石製造技術を開発した結果得られたものです。本磁石は、独自の複合化技術によって、圧粉・射出成形(*5)のどちらの製法でも磁石を作製することが可能になりました。目的用途に合わせて磁気特性や形状を自由に設計できることも大きな特徴となっています。

図1.窒化鉄系磁石の例。 左:窒化鉄系磁石の射出成形ペレット、右:圧粉成形磁石
さらに、ミツバが強磁性窒化鉄系磁石を車載電装モータ(*6)として設計・評価した結果、モータの特性において、試験片で得られた磁気特性を考慮した計算値と実測値がほぼ一致することを確認しました。
図2. 本磁石を搭載した車載電装モータの特性 (電流値と回転数・トルクの関係、実測値と計算値)
また近年のレアアース資源に関する情勢を鑑みれば、ほぼ鉄と窒素のみで構成されている本磁石は、価格と供給リスク面からネオジム磁石に対して優位性が高いことも特徴です。ネオジム磁石では保磁力と温度特性の向上のために、重希土類元素であるテルビウム(Tb)とジスプロシウム(Dy)の添加が必要です。しかし、これらの重希土類元素はネオジム(Nd)と同様に特定の産出国への依存性が高く、産出国からの輸出規制対象物質になることが多いため、ネオジム磁石のコストと供給リスクをより一層高くしています。本磁石はテルビウムとジスプロシウムを含んでいません。
今後、三恵技研、ミツバ、FMCは、磁性粉末と磁石の特性向上に向けた基礎的なレベルでの共同研究開発を継続するとともに、各種車載電装モータへの搭載についても、引き続き検討を進めてまいります。
図3. 本磁石を搭載した車載電装モータ(ワイパモータ)
(参考)用語解説・出典
*1. ナノコンポジット磁石
数十ナノメートル粒径のソフト磁性材料とハード磁性材料が交換相互作用によって複合化してできた磁石で、高い磁気特性が特徴。
*2. 強磁性窒化鉄
純鉄よりも高い飽和磁化と大きな磁気異方性を持っており、鉄とわずか11at.%の窒素のみから構成され、基本的にレアアース・レアメタルを含まない強磁性体窒化物。
*3. Tomoyuki Ogawa et al 2013 Appl. Phys. Express 6 073007
https://iopscience.iop.org/article/10.7567/APEX.6.073007/meta
*4. 重希土類元素
ランタノイド元素のうち、原子量が比較的大きなガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテニウム(Lu)の8元素を指す。モータ用の磁石の特性向上に必須元素だが、ネオジムやサマリウムよりも高価且つ産出国依存性がより高い。
*5. 圧粉成形/射出成形
圧粉成形は、粉末冶金の一手法で、金属やセラミックなどの粉末を金型で高圧圧縮して成形するプロセス。高精度で複雑な形状の部品を効率的に製造できるため、工業分野で広く使用されており、他の手法(例:ホットプレス、3Dプリントなど)と比較すると、量産性とコストのバランスが優れている。コンデンサ部品やベアリング、クラッチ部品などの製法として用いられている。
一方、射出成形は、プラスチック成形の技術を粉末冶金に応用したもので、金属やセラミックの粉末をバインダー(樹脂やワックス)と混合し、射出成形機を用いて複雑な形状の部品を製造するプロセス。圧粉成形と比較して、より複雑な形状や高い寸法精度が求められる場合に適している。センサー部品、自動車外装部品等の生産に使用されている。
*6. 車載電装モータ
車両に搭載される電気エネルギーを回転力に変換させる部品(モータ)。電動車両の駆動モータのほかに、ワイパ、電動ウインド、電動パワーステアリングなどの作動用に搭載されている。強磁性窒化鉄系磁石を用いたモータ種は、永久磁石同期モータ(PMSM)を指す。
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このプレスリリースを配信した企業・団体
- 名称 三恵技研工業株式会社
- 所在地 東京都
- 業種 金属製品
- URL https://www.sankei-gk.co.jp/





