「見えない放射線」を見える化:ARで看護学生の理解が飛躍
ーDXを活用した実習で実践力とリスク認知が同時に向上ー
配信先:文部科学記者会、科学記者会、共同通信PRワイヤー 2026年3月19日
1.概要
医療には放射線が欠かせませんが、正しく安全に使うには知識と防護の理解が必要です。ところが座学だけでは理解が進みにくいという課題がありました。そこで本研究では、90分の講義と、タブレット端末で実際の部屋に散乱線(注1)の広がりを色で重ねて見せる拡張現実(AR)実習(注2)(90分)を組み合わせた学習プログラムを作り、看護学生80名で効果を検証しました。
その結果、50項目の知識テストの平均点は、受講前や比較用の別グループ(参照群)より有意に高くなりました(p<0.05)。また、リスクの感じ方(リスク認知(注3))については、7段階評価で「原子力」と「X線」の“危険だと思う度合い”が1段階下がり、よりバランスのよい受け止めに近づきました。
AR実習では、患者や装置の3Dモデルと散乱線の量を表示し「時間・距離・遮へい」という放射線防護の基本を体験しながら学べるようにしました。講義とAR実習を組み合わせることで、「目に見えない放射線が実空間でどう変わるか」の理解と、「過度に怖がりすぎない適切なリスク認知」の両方が進む可能性が示されました。
この取り組みは東京都の「『未来の東京』戦略、戦略12「稼ぐ東京・イノベーション戦略」【大学教育等のデジタライゼーション】」に基づき実施しました。
2.ポイント
・従前の座学中心の受動的な教育では、放射線防護の実践的な理解を育むことは難しいという課題があった。
・独自開発のARを用いた放射線防護の実践教育の実施により、放射線防護の実践的な理解が効果的に向上し、更にリスク認知の適正化にも寄与することを示した。
・タブレット端末で実施できるため、放射線防護教育の看護教育への導入が容易である。そのため、放射線防護教育の標準化にも資する可能性がある。
3.研究の背景
医療に放射線は欠かせませんが、看護学生が体系的に放射線防護を学ぶ機会は少なく、講義中心では理解と実践につながりにくい課題があります。ARは現実空間に情報を重ね、見えない放射線の広がりや「時間・距離・遮へい」を直感的に示せるため空間的な理解を促し、受け身の学習を体験型に変えることができますが、看護における放射線防護教育でARを利用した講義プログラムの効果を定量的に検証した研究は十分ではありませんでした。さらに、放射線リスクの受け止めは専門家と一般で差が出やすく、一般の者については原子力や医療のX線は危険度が高めに見積もられる傾向があります。
本研究では、講義とAR実習を組み合わせ、看護学生の知識向上とリスク認知のバランス調整に有効かを検証しました。
4.研究の詳細
本研究は、東京都立大学健康福祉学部看護学科2年生80名を対象に、同一施設で講義の事前・事後の知識向上とリスク認知を比べる方法で実施しました。参加者は初めて体系的な放射線防護教育を受ける学生で、90分の講義とタブレット端末を利用した独自開発のARアプリによる90分の実習を受けました。
講義ではX線やCTなどの基礎、被ばくの考え方、職業被ばく限度、「時間・距離・遮へい」の三原則を扱いました。AR実習では、ポータブルX線の場面を再現し、患者・装置・術者の3Dモデル、散乱線の量を色で示したボックスとタブレット端末の位置での線量を表示したパネルを実空間に重ねて表示し、“距離を変えたときや遮へい物の有無で被ばく線量がどう変わるか”、“講義で学んだ被ばくによるリスクと臨床での被ばく線量の関係”を体験的に学びました。

効果の評価は、(1)放射線の基礎知識50項目の自己評価(4段階)と、(2)原子力やX線を含む30項目のリスク認知(危険だと感じる度合い)の順位づけ(1=最も危険〜7=最も安全)で、講義と実習の前後に行いました。加えて、他大学で講義中心の教育を受けた参照群とも比較しました。統計的な検定の結果、事後の知識スコアは事前と参照群より有意に高く(p<0.05)、項目別でも50項目中45項目で有意に向上しました。とくにSv・Gy、100 mSv、距離・時間・遮へい、職業被ばく限度など、空間的なイメージが必要な内容で向上が顕著でした。さらにリスク認知では、「原子力」と「X線」の評価が1段階分“安全寄り”に変化し、バランスのよい受け止めに近づきました。これらの結果は、被ばくによる健康リスクに関する説明に加えてARで散乱線量を“見える化”して体験させたことが、理解の深まりと認知の調整に役立ったことを示唆します。
5.研究の意義と波及効果
本プログラムは、不可視の散乱線量の分布を“その場で可視化”して体験学習に結びつけることで、知識を広く底上げし(50項目中45項目で改善)、過大評価されがちな原子力やX線のリスク認知を適正化できることを示しました。座学中心カリキュラムの弱点(実際の距離感や位置関係の理解不足)を補い、臨床での立ち位置や遮へいの活用など実践行動の質向上に資すると考えます。
波及効果として、①看護教育に対する放射線防護教育の標準化、②学生、社会人を問わず、救急・在宅・災害で利用されるポータブルX線の放射線防護研修への展開、③リスク認知の適正化による放射線被ばくに関するリスクコミュニケーションの改善が期待できます。今後は、知識保持の縦断追跡、行動指標(立ち位置・遮へい)の客観評価、線量シミュレーション機能の拡張を通じて、教育から現場行動への移行(transfer of training)を検証します。
【用語解説】
(注1)散乱線:X線が物質に当たって進行方向やエネルギーを変えて広がる二次放射線。本研究のARでは散乱線量の空間分布を色分け表示とタブレット端末の位置での線量を表示し、立ち位置の安全性を学習した。
(注2)拡張現実(AR):現実空間の映像に3Dモデルや数値情報を重ねて表示し、不可視の散乱線量分布などをその場で可視化できる技術。今回の教育ではタブレットを用いて患者・装置・術者モデル上に線量情報を重畳表示した。
(注3)リスク認知:人が活動・技術の危険性をどう受け止めるかという主観的評価。本研究では原子力やX線を含む項目の順位づけで事前・事後の変化を測定した。
【論文情報】
タイトル:Integrated Evaluation of an Augmented Reality-Based Radiation Protection Education Program for Nursing Students
著者:Shinnosuke Matsumoto, Kiyomitsu Shinsho, Saori Miura, Yuko Murakami, Yuko Ito, and Yumi Nishimura
掲載誌:Journal of Radiation Protection and Research
DOI:2025.00101.
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