日本経済への堅調な見通しと成長意欲が地政学上のリスクに関係なくM&A増加に拍車をかける
2017年5月26日
EYトランザクション・アドバイザリー・サービス株式会社
日本経済への堅調な見通しと成長意欲が
地政学上のリスクに関係なくM&A増加に拍車をかける
◆ 記録的な割合(56%)のグローバル企業(日本企業を含む)が今後12か月間に買収を検討
◆ 好調な景況感と成長への意欲が、増加傾向にある地政学上の懸念を払拭
◆ 日本はグローバルにおける魅力的な投資国としてトップ10入りを維持
2017年5月にEYが発表した「第16回EYグローバル・キャピタル・コンフィデンス調査」によると、2017年第1四半期(2017 年1月~3月)におけるグローバルベースでのM&A活動は、堅調に増加しています。近年の様々な地政学上の懸念は、経営層の取引への意欲にマイナスの影響を殆ど及ぼしていないと考えられます。
日本を含む42か国、2,300人の経営層を対象とした本調査では、37%の日本企業が今後12か月以内に積極的にM&Aに取り組むと回答しており、この割合は1年前の調査時より2パーセント増加しています。
すでにM&A案件数は増加傾向にあり、58%の企業が今後1年間で候補案件は、さらに増加すると予想しています。これは半年前の調査時より23%も増加しており、98%の経営層が今後1年間でM&A市場は、現在と同程度かあるいはさらに拡大すると見込んでいます。
69%の企業が、地政学上あるいは高まりつつある政策面での不安が、経済成長にとって大きなリスク要因になりつつあると考えられますが、M&A案件への取り組み意欲は、これらの影響を受けず非常に強い状態です。本調査によると、経営層はむしろ新しいテクノロジーが自分達のビジネスに与える影響に対してより危機感を持っています。
EYトランザクション・アドバイザリー・サービス株式会社 代表取締役会長のヴィンセント・スミスは以下のように述べています。「地政学上あるいは政策上の不確実性は、経営層を継続的に悩ませることがあると思います。しかし、実際にはデジタル・ディスラプション(技術革新に起因する破壊的とも言える変化)を乗り越えることの方が、多くの企業にとって迅速な対応が求められる重要な課題であり、これが経営層をM&A案件に強い興味を示す要因となっています。また、急速に変化している顧客の志向やビジネス環境に対応するために自ら継続的に革新し、これに必要な資産を取得していくことが、更なる成長に向けて自社のビジネスモデルを変革する最も有力な方法です。」
経済見通しに対する信頼感やM&Aによるリターンは、その潜在的なリスクより上回っている
政策の不透明さおよび新たな規制導入等を通じた政府の民間企業への介入の増加は、経営層が危惧するところですが、ポジティブな企業成績や経済見通しに対する信頼度の向上が、M&A案件への取り組み意欲を支えています。日本の企業の回答では、67%の経営層(2016年10月度調査では43%)は、グローバルの経済活動は活発化しつつあり、日本経済についても69%(2016年10月度調査では25%)の経営層が拡大傾向にあると見ています。
この点についてスミスは、「グローバル規模で経済状況のさらなる改善の兆しが見えていることが、成長への期待をさらに膨らませ、国内の景気拡大への信頼感向上はM&A案件への取り組み意欲を後押ししています。一方で、このような見方と同調して企業を買収する側の期待値も上昇しつつあり、案件の動きをただ見守っているだけでは将来の成長へ向けた有望な投資機会を失うことにつながるかもしれません。」と述べています。
自国へ投資する傾向の中、あえてグローバルへ投資
日本では、2016年から世界的に高まりつつある保護貿易主義的な思想や、その結果生じ得る国際貿易に悪影響をおよぼす政策発動への懸念が依然として存在しています。ただ、こういった貿易障壁への懸念にもかかわらず、2017年にでは米国や西ヨーロッパ所在企業を対象とした案件を中心にクロスボーダーM&A取引は顕著な伸びを見せています。また日本の経営層は欧米色の経営層に比べて米国や英国の政治的な情勢に関して前向きな見方をしていますが、これは欧米の情勢変化はむしろM&A案件が増加することにつながると考えているためです。
成長ドライバーとしてのM&Aは、引き続きクロスボーダー案件が中心ですが、買収を検討している日本企業が、今後1年間に国内案件がさらに増加すると考えているという点も重要です。本調査によると、企業成長のためのM&Aという観点からは、ボリュームが大きい海外の成熟した市場における案件に重きを置かざるを得ませんが、一方で、こういった企業は、将来の成長の糧を探すために日本国内を含む様々な市場で投資機会をうかがっていることが明らかになっています。
グローバル企業を対象とした本調査では、英米や欧州において政治的状況を背景に案件の増加が見込まれることを反映し、今後期待される投資先として日本は、前年度調査の4位から10位へと順位が下がりました。1位は米国で、以下、中国、英国、ドイツ、カナダと続きます。ただし、日本企業のみの回答では、日本は1位で、以下中国、アメリカ、インド、イタリアと続いています。
本調査におけるその他の結果をみても地政学的な懸念は、経済成長に影響を及ぼしていません。約70%の日本企業の経営層は、英国のEU離脱は、英国でのM&A案件の取り組みに影響を及ぼさない、あるいはむしろ取り組む可能性を増加させたと回答しています。米国についても、68%の回答者が新政権の誕生によりM&Aの潜在的案件が増加し、新たな政策が発動されてもM&Aの動向に影響を与えないか、またはポジティブな影響を与えると回答しています。
「多くの企業にとって、クロスボーダーM&Aは成長に不可欠で、成功する企業は、高まりつつあるナショナリズムといった諸問題に対処する方法を何とか見つけようとしており、企業の経営層は様々な市場や顧客層にアクセスするために世界の多様な地域でのM&A案件を検討しています。」とスミスは述べています。
急速に変化する市場においてポートフォリオの最適化が最重要
経営環境が急速に変化している中、企業はその戦略をより迅速かつ敏感に対応させようとしており、本調査でも回答者の69%が自社の業界に生じている革新的な動きに対応し、これに上手く乗っていくためには資産や投資ポートフォリオの見直しが重要だと回答しています。技術革新による業界や企業自体の変容に加え顧客自体も進化しつつあり、これらに対応するため経営層は常に自社ビジネスの見直しと新たな投資を実施することを求められています。
スミスは、「経営層は貿易協定の変更などに素早く対応し、その国や地域に最適な戦略の見直しや組織の再構築を積極的に行う必要があり、昨今の政治状況の変化を踏まえて常に様々な選択肢を検討し、グローバルベースのオペレーションやサプライチェーンを維持するために、地域をまたいでこれらをシフトできるよう備えておくことが大切でしょう。」と強調しています。
これは日本の全ての産業にも言えることです。日本で最も買収が活発に行われているセクターは、テレコミュニケーション、メディア・エンターテイメント、自動車、製造業、ライフサイエンスおよびテクノロジーの各セクターです。
「ディスラプション」がM&Aの原動力
本調査では、イノベーションを手に入れることがM&Aの本質的な動機であることを示しています。革新的な技術を持つスタートアップ企業が、既存のビジネスモデルの在り方を変えつつあり、さらに多くの成熟企業がこれらスタートアップ企業を買収することで成長を加速させようとし、その買収手法も、資産買収や自社でベンチャー投資を行う関係会社を通じた投資といったように、多様化していくと思われます。
「多くの経営層にとって、唯一の制約は己が定めたルールのみであり、思い描いた未来を実現させるために、企業買収・売却戦略を活用しています。企業は各自の方法で、迅速に好機を逃さないように定期的かつ綿密に事業ポートフォリオの見直しを行っています。経営層は、例えば現在の自社の事業基盤をわずか2ヶ月で破壊するかもしれないような革新的な技術を持ったスタートアップ企業の動向を注視すべき時に、2年以内に影響が生じるかどうか分からない政策の影響について悩んではいられないのです。M&Aはこういった“ディスラプション”から自社を防御し、同時に現在のライバル会社との競合状態を根本的に打破する機会をもたらす手段でもあります。」とスミスは述べています。
※本リリースの原文は英語であり、その内容および解釈については英語が優先します。英語版リリースは、PDFをご覧ください。
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EY Japan https://www.eyjapan.jp/newsroom/2017/2017-05-26.html
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