損傷リソソームをオートファジーが除去する仕組みの解明 ~糖鎖の露出がリソソーム損傷の目印となる~

都医学研

損傷リソソームをオートファジーが除去する仕組みの解明

~糖鎖の露出がリソソーム損傷の目印となる~

 (公財)東京都医学総合研究所・ユビキチンプロジェクトの吉田雪子主席研究員・松田憲之副参事研究員と田中啓二所長らの研究チームは大阪大学医学系研究科吉森保教授らとの共同研究により、リソソームの損傷を細胞が認識するメカニズムを明らかにしました。オートファジーは細胞質の内容物をリソソームに運んで分解する機構ですが、損傷を受けたリソソーム自体もオートファジーにより除去されます。しかし、リソソームの損傷が認識されてオートファジーがおこる仕組みについては不明でした。研究チームは、損傷を受けたリソソームから細胞質へ漏れ出した糖蛋白質が感知され、ユビキチン化されることがオートファジーの引き金となることを明らかとしました。研究成果は、2017年7月24日午後3時(米国東部時間)に米国科学誌『Proceedings of the National Academy of Science of the United States of America (PNAS)』にオンライン掲載されました。

<論文タイトル>

Ubiquitination of exposed glycoproteins by SCFFBXO27 directs damaged lysosomes for autophagy

1.研究の背景

 オートファジー(*1)は、細胞内の成分をリソソーム(*2)に運んで分解する現象です。当初、オートファジーは栄養が不足したときにエネルギーを確保する「非選択な分解系」として知られてきました。その後、損傷を受けたミトコンドリアなどの細胞内小器官(オルガネラ)や細胞内に侵入した病原体や凝集した異常蛋白質などもオートファジーによって「選択的に分解」を受けることもわかってきました。

 リソソームは様々な加水分解酵素が生体膜で包まれた酸性オルガネラであり、細胞外から取り込まれた分子やオートファジーで運ばれた分子が分解される場(焼却炉)として機能します。最近、リソソーム自身も損傷を受けた場合には、オートファジーによって除去されることが示されていました。しかし、どのように細胞がリソソームの異常を察知するのか、その仕組みについてはよくわかっていませんでした。

2.研究の概要

 糖蛋白質は細胞の外側や生体膜で囲まれたオルガネラの中に存在し、細胞質には存在しません。しかし、私たちは細胞質には糖鎖(*3)を認識してユビキチン鎖(*4)を付加するユビキチンリガーゼが存在することを明らかにしてきました。ユビキチン鎖は特異的なオートファジー受容体と結合し「選択的オートファジー」を誘導することが知られています。私たちはリソソーム膜が損傷を受けることで、糖鎖が細胞質に漏れ出てくることがオートファジーの誘導を引き起こすのではないかという仮説の検証を行いました。

 糖鎖を認識するユビキチンリガーゼFBXO27はリソソームに損傷を与えると迅速にリソソームに集積するとともに、糖蛋白質をユビキチン化する現象を見出しました。質量分析装置を用いた解析により、リソソームの損傷時にユビキチン化を受ける糖蛋白質LAMP2が特定されました。FBXO27やLAMP2の細胞内の蛋白量を実験的に低下させると、損傷リソソームの除去が遅れることやオートファジーの誘導が遅れることも確認されました。以上の結果より、リソソーム損傷により細胞質へ露出したLAMP2などの糖蛋白質糖鎖がFBXO27によってユビキチン化を受けることが、損傷リソソームのオートファジーによる除去の引き金になることが示されました(図参照)。

 

3.今後の展望

 リソソームの損傷は尿酸などの結晶やアミロイド線維により引き起こされます。

 アルツハイマーやプリオンなどの神経変性疾患がアミロイド線維によるものであることを併せ考えると、これらの疾患がリソソームへの損傷を引き起こす可能性も考えられます。FBXO27は脳に多く存在する蛋白質ですが、これらの疾患の防御や発症にどのように関わるのかについて研究を進展させていきたいと考えております。

用語説明

*1:オートファジー

 細胞が持っている細胞内の蛋白質を分解する仕組みのひとつで自食(じしょく)作用と訳される。細胞内の成分を取り囲みで生じた隔離膜(小胞:オートファゴソーム)がリソソームと融合して内容物を分解する現象で、2016年の大隅良典東工大栄誉教授のノーベル医学生理学賞受賞により大きく注目されている。もともとは非選択的バルクな分解系と認知されていたが、最近では選択的オートファジーも数々報告されている。

*2:リソソーム

 細胞内の分解・消化の場としての機能を担う酸性の細胞内小器官である。蛋白質や脂質・糖質などの分解に関わる多くの加水分解酵素を含んでいる。

*3:糖鎖

 各種の糖が鎖状に連なったもので蛋白質や脂質に結合する。蛋白質の糖鎖修飾は小胞体とゴルジ体のオルガネラ内腔で行われ、細胞膜内包や細胞の外へ送り出されるため、通常細胞質内には存在しない。

*4:ユビキチン鎖

 ユビキチンは76アミノ酸からなる小さな蛋白質で、酵母から人まで非常に保存されている。通常鎖状に連なったユビキチン鎖として様々な機能を担うが、最もよく知られているものは「プロテアソームによる選択的分解のタグ」としての機能である。最近ではもう一つの分解系オートファジーのアダプター蛋白質に認識されることで「選択的オートファジーの分解のタグ」としての機能も注目されている。

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