第32回「中堅企業経営者『景況感』意識調査」~世界32カ国同時調査~

太陽グラントソントンは、2018年5~6月に実施した非上場企業を中心とする中堅企業経営者の意識調査の結果を公表した(従業員数100人~750人)。この調査は、グラントソントン加盟主要32カ国が実施する世界同時調査の一環である。

9月10日

太陽グラントソントン

第32回「中堅企業経営者『景況感』意識調査」~世界32カ国同時調査~

・日本の景況感はDI -18と大幅に悪化、人材不足や少子高齢化の影響が深刻に

・中国、米国は前回に引き続き高い景況感を維持

・世界32カ国の平均の景況感はDI 54とほぼ横ばいで全体として変動の少ない傾向

太陽グラントソントンは、2018年5~6月に実施した非上場企業を中心とする中堅企業経営者の意識調査の結果を公表した(従業員数100人~750人)。この調査は、グラントソントン加盟主要32カ国が実施する世界同時調査の一環である。

■日本の景況感に大幅に悪化

世界32カ国の中堅企業経営者に対して行った、自国経済の今後一年の見通しに関する2018年第2四半期(調査実施期間2018年5~6月、以下今回)の調査において、日本の景況感DI*1が前回調査から大幅に悪化していることが明らかになった。日本の景況感は、2016年第2四半期のDI -51を底に回復傾向にあり、前回2017年第4四半期はDI 3と2015年第2四半期以来のプラスを記録していたが、再び、マイナスに転じ、2017年第2四半期と同水準に逆戻りする結果となった。

■米国、中国が高い景況感を維持し、英国はわずかに上昇 

世界32カ国の平均の景況感DIは、前期比4ポイント減のDI 54でほぼ横ばいであった。

主要国の景況感を見ると、米国・中国はいずれも高い水準を維持したものの前期比はそれぞれ1ポイント減、1ポイント増でほぼ横ばいであった。英国は5ポイント増とわずかに上向いた程度であった。先進国を中心に景況感の変動が乏しい傾向にある今期において、日本の悪化が目立つ結果となった。

日本、中国、米国、英国における景況感DI推移の比較

■中国、米国は高い景況感を維持

ー全体に変動の少ないなか、日本は大きく悪化し、再びマイナスに

今回の調査で、調査対象国32カ国(左表)のうち景況感DIが高かったのは、インドネシア 98、オランダ 96、オーストリア 92、フィリピン 82などであった。

一方、景況感DIがマイナスを示した国は日本の -18、トルコ -28、ギリシャ -28の3カ国であった。いずれも前回も低水準であったが、日本21ポイント減、トルコ18ポイント減、ギリシャ18ポイント減と二桁減の大幅な悪化となっている。

主要先進国では、中国が前期比1ポイント増のDI 79、米国が前期比1ポイント減のDI 78、ドイツが前期比2ポイント増のDI 74と高い景況感を維持した一方で、英国は前期比5ポイント増のDI 17と低い水準を継続した。半年前に行われた前回調査と大きな変動がなく、一桁の増減にとどまる国が多い傾向にあった。

そんななか日本の景況感は、前期比21ポイント減と他の主要国に比べて変動が大きく、DI -18と再びマイナスに転じた。ほかに変動幅が比較的大きかった先進国には、フランスの-14ポイント減、イタリアの-10ポイント減などがある。

その他、景況感が大きく改善した国は、前期比86ポイント増でDI 68の南アフリカ、78ポイント増でDI 78のアルメニア、前期比46ポイント増でDI 52のマレーシアなどであった。

他方、景況感が大幅に悪化した国は、前期比40ポイント減でDI 8のアルゼンチン、前期比38ポイント減でDI 42のアイルランドで、前期比21ポイント減でDI -18の日本が続いた。

世界32カ国の景況感DIの平均は前期比で4ポイント減のDI 54、アジア太平洋地域平均は前期比3ポイント減のDI 55、EU加盟国のうち対象国(11カ国)平均で前期比2ポイント減のDI 46となるなど、全体として前期からの変動幅は小さくとどまった。

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<調査実施期間>(インターナショナル)

2018年第2四半期:2018年5~6月(32カ国)

2017年第4四半期:2017年11月(35カ国)

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今後一年の自国経済の見通し 32か国ランキング

■今後一年間の自社の見通し:

ー日本は8項目中の「雇用」「売上高」の2項目で大幅に悪化

ー「新築建築」は前回に引き続き、全調査国平均より高ポイントを維持

来期の自社の見通しについて8つの項目で、上昇、下降、変化なしのいずれかを質問したところ、日本の中堅企業の今後1 年の自社の見通しについては、 前期より顕著に改善したのは「販売価格」(9→24ポイント)のみであった。一方で「売上高」(54→39ポイント)、「雇用」(48→26ポイント)の2項目は大幅に悪化した。残りの項目は小幅な変動にとどまったが、そのうちの「新築建築」は8項目中唯一、全調査国平均を前回に引き続き上回る高い水準を維持した。

米国は「売上高」(54→76ポイント)、「新築建築」(26→33ポイント)、「設備投資」(39→50ポイント)の3項目で改善したが、ほかの項目は小幅な変動にとどまった。

自社の見通し「売上高」「販売価格」「輸出」「雇用」

自社の見通し「収益性」「新築建築」「設備投資」「研究開発」

■日本における動向:

日本経済の見通しについては、景況感DIが前回調査(2017年第4四半期)まで継続的に改善傾向にあったが、今期21ポイント減と大幅に悪化した。

悲観視の理由として「人材不足」を挙げた回答者がもっとも多く9割近くに上り、さらに6割強の「少子高齢化」が続くなど、労働力不足の問題が中堅企業の景況感に一層深刻な影響をあたえていることが示された。

一方で、楽観視の理由としては「オリンピック開催による経済活性化」という回答が大きく増加し、経済への好影響に対する期待の高まりが表れた。

【今後一年間の日本経済の見通し】

日本の調査対象者に、今後一年間の日本経済の見通しについて尋ねたところ、 「たいへん楽観的だ」は前回調査と同じ1.3%であったが、 「少し楽観的だ」と回答した人は16.0%と前回から9.3ポイント減少した。

一方、 「少し悲観的だ」は13.3ポイント増加し、32.0%となった。

「たいへん楽観的だ」「少し楽観的だ」と回答した人に「楽観的だ」と考える理由(複数回答)を尋ねたところ、「オリンピック開催による経済活性化」を挙げた人が66.7%ともっとも高く、「現政権の政策」「米国の景気堅調」がそれぞれ50.0%で続いた。前回調査で比較的多かった「株価の上昇」「設備投資の回復」は、それぞれ25.0%に低下した。 

日本経済の見通し

同様に「たいへん悲観的だ」「少し悲観的だ」と回答した人に、その理由(複数回答)を尋ねたところ、「人材不足」(88.5%)を挙げた人がもっとも多く、2016年に回答の選択肢に加わって以来、もっとも多くなった。

続いて 「少子高齢化」(65.4%) 「内需縮小」(42.3%)が続いている。

一方で「販売価格の下落」(19.2%)「為替の変動」(7.7%)を挙げた人は前回調査から半減した。

日本経済の見通し「悲観的だ」と考える理由

【経営課題】

自社の事業で過去一年間において達成された事項(複数回答)について尋ねたところ、もっとも多く挙げられたのは、前回調査と同様、 「5%以上の増収」(58.8%)だった。次に「市場における新製品・新サービスの開発」(27.5%)が続いた。

「海外での新規市場参入」(9.8%)や「5%以上の輸出量増」(3.9%)といった海外進出に関する選択肢は、前回、前々回に引き続き一桁台と低くとどまっている。

今後一年間の主な経営課題について尋ねたところ、「5%以上の増収」を挙げた人が53.6%と過半数に上った。次いで「市場における新製品・新サービスの開発」(33.3%)、「職員(人員)水準を5%以上増やす」(29.0%)が続き、前回、前々回の傾向が継続した。

理想の為替相場水準に関する質問では、 「1ドル105円以上110円未満」(32.4%)という回答がもっとも多く、「1ドル=110円以上115円未満」(21.6%)が続いた。前回調査では、回答が比較的広範にばらつく傾向にあったが、今回は105円から115円未満に過半数の回答が集中した。また加重平均では1ドル107.8円となり、前期比で3.1円の円高方向に推移した。

日本の経営課題

政府に実施してもらいたい経済活性化の推進施策について質問したところ、上位2つの回答は「法人税の引き下げ」(67.6%)、「設備投資減税」(50.0%)で前回、前々回からそれほど大きな変動はなかったが、3番目に多かった「少子高齢化対策」(44.6%)を挙げた人が2倍近くに増加している。その一方で、「財政の健全化」(10.8%)「新産業の育成」(8.1%)を挙げた回答者は半減した。

政府に実施してもらいたい経済活性化の推進施策

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第32回「中堅企業経営者の意識調査」コメント

太陽グラントソントン広報担当パートナー 美谷 昇一郎

今回の2018年第2半期調査(2018年5月~6月)では、対象32カ国の中堅企業経営者における今後1年の景況感見通しが前回(2017年第4四半期)から4ポイント下落してDI54となった。

また、日本の景況感DI はDI-18で、前年同期比では5ポイント増となったものの、前回と比べると21ポイントの大幅な悪化となり、前年同期と同水準のマイナスに逆戻りする結果となった。

 日本経済の見通しについては前回から大幅に悪化したが、その理由として人材不足を挙げた回答が最も多く、全体の9割弱に上った。人材不足が一段と深刻になっている状況は、日銀が7月3日に発表した全国企業短期経済調査(短観)の業種別係数によると、2018年9月までの雇用人員判断指数(DI)における全業種平均予想値で-36となっており、過去最悪を更新しているところからも分かる。

 特に、インバウンド需要などが堅調な宿泊・飲食サービスで-67、インターネット通販などの拡大により運送需要が増加している運輸・郵便で-53と非製造業を中心により人材不足が深刻になっている。

 一部の大手物流企業では宅配便等の運送基本料金の引き上げにより、人手不足の深刻な運転手の待遇改善に繋げようとしていることが話題になっている。こうした人材不足で価格転嫁や賃上げが浸透していけば経済の好循環に繋がる可能性があるが、中堅企業では恒常的な人手不足もあってどちらも道半ばといった状況にあり、当面は企業収益の圧迫要因になっている。

 

 人材不足問題の改善のために政府に期待する施策は、という設問の回答として、少子高齢化対策が急増している。しかし、少子高齢化対策が人材不足を解消することに繋がるのだろうか。また、少子高齢化対策と言っても、具体的にある程度即効性のある施策が果たしてあるだろうか。

 たとえば、人材不足が良く言われる業種の一つに情報サービス業界がある。この業界の市場規模は近年、急激に拡大しているが、その背景には、あらゆる企業で情報化が求められているなかで、データベースなどをクラウド経由で配信するクラウドコンピューティングサービスや、動画などのウェブコンテンツ配信の展開が予想されているにも拘らず、こうした高度なコンピューティングサービスを行う能力を持つ人材が恒常的に不足している。こうした人材不足は、日本全体のマクロ人口が少子高齢化により減少していることばかりが理由ではなく、これまで高度IT人材の教育育成に十分な投資を行って来なかったことが背景にあるだろう。

 人材不足を解消する施策として注目を集めているのが、業務のAI化による人材リソースの有効活用である。たとえば、大手銀行では、業務効率化とそれに伴う大幅な人員削減を発表しているおり、大規模なシステム投資を行うことでAI化を進め、定型業務はAIが人間の代わりに担っていくだろう。しかし、大規模なシステム投資を中堅企業が進めることは資金的に難しい。まさに生産性に対する考え方の抜本的な見直しが必要とされる点である。

 しかし、限られた人材でより生産性を上げるということは、どうしても多くの従業員にとっては肉体的、精神的に負荷をかけることになりがちである。この結果、かえって商品やサービスの質の低下や売上減少につながる可能性もある。

 人材不足の影響を間接的に緩和させる施策として、現在の従業員の待遇、仕事環境の改善、ワークライフバランス、成長機会の提供、企業理念の共有などに目を向けて、多少の肉体的、精神的な負荷を受け止めて、企業経営を一緒に乗り切ってもらえるような人材マネジメントも必要ではないだろうか。

 人材不足が中堅企業の経営にとって大きな影響を与える情況が長期化する見通しで、中堅企業にとっても、労働生産性を上げるための商品サービスの高付加価値化と、現在の従業員をこれまで以上に大切にし、経営者目線で業務を行ってもらえるような人材マネジメントが欠かせない。

以上

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日本、中国、米国、英国における景況感DI推移の比較

今後一年の自国経済の見通し 32か国ランキング

自社の見通し「売上高」「販売価格」「輸出」「雇用」

自社の見通し「収益性」「新築建築」「設備投資」「研究開発」

日本経済の見通し

日本経済の見通し「悲観的だ」と考える理由

日本の経営課題

政府に実施してもらいたい経済活性化の推進施策

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