【首都大×山梨大】新しいビスマス系層状超伝導体を発見 〜層状機能性材料の新しい物質設計指針〜
2019年9月20日
公立大学法人首都大学東京
【首都大×山梨大】新しいビスマス系層状超伝導体を発見 〜層状機能性材料の新しい物質設計指針〜
2次元的な層状構造を有する化合物は、高温超伝導(1)や熱電変換(2)など様々な機能性を示すことが知られています。機能性のみならず、2次元的な電子状態に起因する特異な物理現象が発現しうることも2次元的な層状構造を有する化合物の特徴であり、これまでにない特性を持つ新しい層状化合物の発見が望まれてきました。
首都大学東京大学院 理学研究科の水口佳一 准教授とRajveer Jha 特任研究員、山梨大学 クリスタル科学研究センターの長尾雅則 助教らは、ビスマス、銀、スズ、硫黄、セレンからなる伝導層を有する新しい層状超伝導体La2O2Bi3Ag0.6Sn0.4S5.7Se0.3(転移温度Tc = 3ケルビン)を発見しました。今回発見した超伝導体は、2012年に水口准教授らが発見したBiS2系層状超伝導体と結晶構造が類似しているが、その伝導層を多層化した新しい層状超伝導体です。多層型の伝導層を持つLa2O2Bi3Ag0.6Sn0.4S5.7Se0.3においても超伝導が観測されたことから、超伝導体および熱電変換材料として研究が進められているBiS2系層状化合物同様に、本研究を出発点として新超伝導体や新熱電変換材料などの多種多様な層状機能性材料が開発されることが期待されます。
ポイント
(1)伝導層が多層化された、まったく新しいビスマス系層状超伝導体を発見しました。
(2)発見した新しい層状超伝導体(La2O2Bi3Ag0.6Sn0.4S5.7Se0.3)において、超伝導転移温度Tc = 3ケルビンを観測しました。
(3)層状化合物に元素置換による化学的な圧力を加えることで超伝導発現に成功しました。
(4)今後、超伝導体や熱電変換材料などの機能性材料としての新物質開発が期待されます。
■本研究成果は、9月19日付け(英国時間)で、Nature Publishing Groupが発行する英文誌Scientific Reportsに発表されました。本研究の一部は、東京都都市人材外交高度研究およびJSPS科研費15H05886、15H05884、16H04493、17K19058、16K05454、15H03693の助成を受けたものです。
研究の背景
2次元的な層状構造を有する化合物は、高温超伝導(銅酸化物系超伝導体(3)や鉄ヒ素系超伝導体(4))や高効率熱電変換(例えばBiOCuSe)などの機能性を示すことから、研究がさかんに進められてきました。層状化合物の中でも、特に、電気伝導に寄与する「伝導層」と電気的に絶縁性の高い「ブロック層」が交互積層した層状化合物はさかんに研究がされてきました。そのような層状化合物は、伝導層とブロック層を構成する元素の組み合わせをそれぞれ変化させることができるため、電子状態や結晶構造の精密なチューニングが行える利点を有しています。また、積層構造を変化させることで、全く異なる層状機能性材料が設計できる利点もあります。これらの元素置換や積層構造制御により多種多様な機能性材料が開発されてきました。層状化合物は機能性材料としての魅力だけでなく、特異な物理現象が発現する舞台としての魅力も有しており、新たな層状機能性材料の発見が望まれていました。
2012年に水口准教授らの研究チームは、ビスマスと硫黄からなる伝導層を有するBiS2系層状超伝導体を発見し、研究を進めてきました。これまでの研究で、BiS2層を有する多様な超伝導体が発見され、非従来型超伝導機構(5)が示唆されるなど、現在も注目を集めています。また、熱電変換材料としての高性能も確認され、多機能性物質としての物質開発および物性研究が進められています。
伝導層の結晶構造に注目したとき、BiS2層は2枚のBi-Sシートを有しています。銅酸化物系高温超伝導体においては、伝導層の枚数が多層化されることでTcが上昇した経緯があります。そのため、BiS2系関連化合物においても「多層化」を試みることがさらなる機能性開拓のために求められていました。
研究の詳細
水口准教授らの研究チームは、2017年にLa2O2Bi3AgS6という新規層状化合物を合成し、2018年に低温(Tc = 0.5ケルビン)で超伝導転移を観測しました。La2O2Bi3AgS6は4枚の(Bi, Ag)-S面を有し、図中のBiS2系層状化合物LaOBiS2を2層型とすると、4層型と呼べる新規層状超伝導体です(図1)。しかし、当時は転移温度が0.5ケルビンと低く、測定できる物理量が限られるため超伝導転移の詳細を議論することができませんでした。そこで、本研究チームはLa2O2Bi3AgS6系の転移温度(=Tc)を上昇させるための元素置換効果を検証しました。その結果、La2O2Bi3AgS6のAgサイトをSnで一部置換することで、Tcが2ケルビン(物性測定の幅が広がる温度域)を超えることを見出しました(図2)。あわせて、超伝導転移温度上昇に伴い電気抵抗の温度依存性で確認された異常が低温側にシフトする興味深い現象が観測されました。その現象の解明には至っていませんが、Sn置換によりLa2O2Bi3AgS6系の電子状態や局所的な結晶構造が変化し、超伝導転移温度上昇につながったのではないかと考えられます。一方、図3に示す通り、磁化率の温度依存性から見積もられる超伝導体積分率は20%と低く、試料が完全な(バルクな)超伝導体に転移するには至っていないことがわかりました。
2層型のBiS2系超伝導体においては、イオン半径の異なる元素を用いて元素置換を行い、化学的な圧力を加えることで、超伝導特性が向上しました。そこで、Sn置換によりTcが最大となったx = 0.4の組成に対し、SサイトのSe部分置換を試みました。SeはSと同じ―2価状態をとりますが、大きなイオン半径を持つため化学的な圧力を加えることに効果的です。5%のSeをSで置換すると、図4に示すようなバルク超伝導転移が約3ケルビン以下で観測されました。
図1.2層型(BiS2系)層状化合物の結晶構造と、4層型層状超伝導体La2O2Bi3AgS6の結晶構造の比較。
図2.La2O2Bi3AgS6におけるSn置換効果を示す超伝導相図
図3.磁化率(x = 0.4)の磁化率の温度依存性(磁場中冷却FCとゼロ磁場中冷却ZFCの2モードで測定)
図4.La2O2Bi3Ag0.6Sn0.4S5.7Se0.3の磁化率の超伝導転移。磁化率測定においてバルク超伝導として十分に大きいシグナルが観測された(磁場中冷却FCとゼロ磁場中冷却ZFCの2モードで測定)。
研究の意義と波及効果
2層型のBiS2系においては多くの超伝導体が発見され、非従来型機構などの興味深い現象が観測されています。また、熱電変換材料としての高い性能が観測されています。4層型化合物の結晶構造や電子状態がBiS2系と比較的似ていることから、同様の機能性材料としての物質開発が期待できます。今回の結果は、4層型のビスマス系層状化合物がバルク超伝導を示す初めての発見です。これを発端として、4層型伝導層を持つビスマス系層状化合物における機能性材料開発が加速することが期待されます。
【用語解説】
(注1) 超伝導・高温超伝導
特定の金属を低温に冷却するとある温度(超伝導転移温度)以下で電気抵抗が消失します。これを超伝導転移と呼び、超伝導転移を示す物質を超伝導体と呼びます。超伝導は低温で発現する現象であり、他の物質と比べて比較的高い温度で発現する超伝導を高温超伝導と呼びます。一般的に40ケルビン程度以上で発現する超伝導は高温超伝導とみなされます。
(注2) 熱電変換・熱電変換材料
温度差を電力に変換できる技術を熱電変換と呼び、高い変換性能を示す材料を熱電変換材料と呼びます。超伝導体と同様に、層状化合物において高い性能が見出されています。
(注3) 銅酸化物系超伝導体
1986年に発見された層状超伝導体であり、常圧下において現在最高の超伝導転移温度を示す物質系です。銅と酸素からなるCuO2面が伝導面(伝導層)です。
(注4) 鉄系超伝導体
2008年に日本で発見された層状超伝導体であり、銅酸化物系に次ぐ高い転移温度を示す物質系です。典型的な高温超伝導体は鉄とヒ素からなるFeAs伝導層を有します。
(注5) 非従来型超伝導機構
数多くの超伝導体では、格子振動を媒介として電子が対を形成することで超伝導状態が発現します。格子振動を媒介とした機構を従来型機構と呼び、磁気揺らぎや電子相関などを媒介として電子対を形成する場合の機構を非従来型機構と呼びます。
【発表内容】
“Bulk superconductivity in a four-layer-type Bi-based compound La2O2Bi3Ag0.6Sn0.4S5.7Se0.3”
Rajveer Jha, Yosuke Goto, Tatsuma D. Matsuda, Yuji Aoki, Masanori Nagao, Isao Tanaka, and Yoshikazu Mizuguchi
Scientific Reports 9, 13346 (2019) DOI: 10.1038/s41598-019-49934-z
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