日本の住環境における菌の実態調査

花王

2019年10月3日

花王株式会社 広報部

日本の住環境における菌の実態調査

~掃除用キッチンスポンジや冷蔵庫野菜室に菌叢の種多様性を確認~

花王株式会社(社長・澤田道隆)安全性科学研究所は、日本の住環境における微生物分布の実態を、一般家庭を対象にして調査しました。その結果、菌数としてはシンク排水口やキッチンスポンジ(掃除用)、蛇口付け根に多いことがわかりました。また、菌叢(菌の集団)の種多様性は、キッチンスポンジ(掃除用)と冷蔵庫野菜室で顕著に高いこと、特に冷蔵庫野菜室は病原菌を多く含む腸内細菌科が多く、それらは野菜に付着した土由来である可能性が示唆されました。

研究背景

家庭内のどこにどのような種の菌がどのくらいの数いるかといった微生物分布の実態を正しく知ることは、衛生状態の確認や衛生製品開発において大変重要なことといえます。衛生状態の確認を目的として微生物分布の実態を知る方法はまちまちですが、比較的信頼性が高いと思われる評価指標としては、1)菌数、2)菌叢の種多様性、3)病原菌存在比率が挙げられます(図1)。1)は単純に生菌の数について、2)は菌の種類の多様さ、3)は菌の中でも特に病原性が知られる種を含む菌の割合について測定するというものです。これらを総合して評価することにより、一般家庭における菌の存在状況と、清掃習慣、住居構造、家族構成等との関係性の見極めを行なうことができるものと考えました。

図1 菌の実態の評価指標(菌の存在様式のイメージ図)

  図1 菌の実態の評価指標(菌の存在様式のイメージ図)

研究内容および結果

花王は、一般家庭を対象に大規模な実態調査を実施し(90の家庭を対象に、合計1630カ所の菌を調査 2018年8~10月実施)、菌による汚染実態と、生活習慣等との関係性に関して、網羅的な解析を行ないました。さまざまな家庭を対象に、各家庭に調査員が訪問し、調査対象として最大24カ所(調理台、キッチン蛇口付け根、キッチン蛇口取っ手、シンク排水口、冷蔵庫(取っ手、生ものエリア、野菜室)、キッチンカウンター、皿、キッチンスポンジ(キッチン周りお掃除用と食器洗い用を分けている場合はその両方のスポンジを回収)、テーブル用台ふきん、生ごみ用のごみ箱、ダイニングテーブル、ダイニング床、ソファ、PCキーボード、スマートフォン、ダイニングチェア、ベビーチェア、子どものおもちゃ、プレイマット、トイレ床)について、菌の採取を行ない、解析しました。

1)菌数について

各家庭の菌数を比べると、特にキッチンではキッチンスポンジやシンク排水口、蛇口付け根といった場所においてほとんどの家庭で菌数が多いことがわかりました。また、テーブル用台ふきんでは、ダイニングテーブルで見られなかったような極めて多い菌数(106<CFU*1/ 10 ml)が90家庭中の9家庭で検出されました。さらに、キッチンやダイニングの菌数はトイレ床の菌数と同等以上であることがわかりました。

*1 CFU;Colony Forming Unitの略.菌がコロニーを形成する能力のある単位数

図2 家庭内の菌数の分布

  図2 家庭内の菌数の分布

2)菌叢の種多様性について

網羅解析(メタ16S解析*2)の結果から考察しました。菌の種多様性が高いほど値が大きくなる指標値を用いて家庭内の場所ごとの種多様性を比較したところ、キッチンスポンジ(掃除用)と冷蔵庫野菜室で種多様性が高かったことから、これらの場所が多様な菌が増え易い、すなわち衛生管理上注意を要する場所であることが示唆されました(図3)。

*2 メタ16S解析;菌の網羅解析手法の1つで、菌叢に含まれる菌の種類や、菌叢同士の類似性、他の菌叢に比べて多い菌・少ない菌、菌同士の関わり合い等がわかります。

     図3 メタ16S解析による菌叢の種多様性の比較(横軸は種の多様性を示します。)

  図3 メタ16S解析による菌叢の種多様性の比較

(横軸は種の多様性を示し、値が大きいほど多様な菌種がその環境にいることを示します。)

3)病原菌存在比率について

病原菌を多く含む腸内細菌科の家庭内分布を調べました。その結果、冷蔵庫野菜室とシンク排水口で、腸内細菌科の存在比率が高いことがわかりました(図4)。これより、家庭内の衛生管理には、冷蔵庫野菜室とシンク排水口が重要であることが示唆されました。野菜室の腸内細菌科の割合が高い理由は、野菜に付着した土に由来する可能性が考えられます。

図4 メタ16S解析から推定された腸内細菌科の存在比率と家庭内分布

  図4 メタ16S解析から推定された腸内細菌科の存在比率と家庭内分布

【総括】 

家庭内のどこにどのような種の菌がどのくらいの数いるか調べるため、一般家庭を対象に大規模な菌の実態調査を行ないました。その結果、菌数は、シンク排水口やキッチンスポンジ(掃除用)、蛇口付け根でほとんどの家庭で多いこと等がわかりました。また、菌叢の種多様性については、キッチンスポンジ(掃除用)とともに、冷蔵庫野菜室が高く、これらの場所が衛生管理上注意を要することがわかりました。また冷蔵庫の野菜室は、腸内細菌科の比率が高く、それらは野菜に付着した土等に由来する可能性が考えられます。

このたびお知らせした内容は、第46回日本防菌防黴学会(2019年9月26日・豊中市)で発表しました。

本プレスリリースは発表元が入力した原稿をそのまま掲載しております。また、プレスリリースへのお問い合わせは発表元に直接お願いいたします。

プレスリリース添付画像

図2 家庭内の菌数の分布

図3 メタ16S解析による菌叢の種多様性の比較(横軸は種の多様性を示します。)

図4 メタ16S解析から推定された腸内細菌科の存在比率と家庭内分布

図1 菌の実態の評価指標(菌の存在様式のイメージ図)

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