業界初、ポリプロピレン繊維の染料開発に成功

金沢工業大学

2020年8月20日

有本化学工業株式会社

学校法人金沢工業大学

国立大学法人 福井大学

 

業界初、ポリプロピレン繊維の染料開発に成功
大量の水を使わない技法で、ファッション性豊かな染色が可能
環境意識の高い市場での新規需要にも期待

 

有本化学工業株式会社※1(本社:大阪府八尾市/代表取締役社長:有本武文)、金沢工業大学、福井大学は、共同でポリプロピレン繊維の染色に世界で先駆けて成功※2(特許第6671729号、特許第6721172号)しました。従来の染色のように大量の水を使わない染色技法でポリプロピレン繊維をファッション性豊かに染めることができます。環境意識の高い市場での新規需要が期待されています。

 

ポリプロピレン繊維※3は、軽量で速乾性があり、主原料も廉価なことから、スポーツ衣料業界でも注目されている素材です。しかし、通常の「水系染色技法」では染色できず、また、色素を樹脂に練り込んで紡糸する着色も行われていますが、この方法では細い繊維が紡糸できないため、ポリプロピレン繊維は、衣料用等の分野には向いていないとされてきました。ポリプロピレン繊維そのものの素材の特性を活かした「夢の繊維」に長年することができませんでした。

 

我々の研究グループでは、染料メーカーである有本化学工業と金沢工業大学と福井大学が協力し、「超臨界二酸化炭素染色※4(以下;超臨界染色)」と呼ばれる技法を用いて、ポリプロピレン繊維の染色を可能にする染料の開発を行いました。超臨界染色は染色に必要な大量の水を使用せず、環境に優しいながら、色落ちしにくい染色技法です。今回の新規染料※5は赤、青の2色で、既存の黄色と合わせて三原色(赤・青・黄)が揃いました。

 

バリエーション豊富な色彩を揃え、ポリプロピレンの機能を存分に生かした保温機能肌着やスポーツウェアなどファッション性の高いニーズに応えていきます。

 

 

ポリプロピレン用染料(赤、黄、青)

 

超臨界染色で染色したポリプロピレン繊維 

 

今回の成果は、有本化学工業と金沢工業大学、福井大学との間で共同研究を行い、共同で特許権を取得済みです。本研究開発には、有本化学工業から古賀孝一、金沢工業大学から准教授宮崎慶輔、福井大学から客員教授 堀 照夫、准教授 廣垣和正、技術長の田畑功らが参画しています。

 

この特許をベースに有本化学工業からポリプロピレン繊維の超臨界染色向けの染料として、赤、青、黄の三原色、さらには赤と青および青と黄の中間に位置する色である紫および緑の合計5色の7種の染料を販売展開する予定です。アパレル衣料向けとして計画しておりますが、ポリプロピレン繊維が染色できるようになったことで、ポリプロピレンの資材適正範囲がさらに広がり、衣料用途だけではなく、新たな分野への可能性が産み出されることも期待されます。

 

※1有本化学工業株式会社 

1947年設立 オイルカラーに分類される有機染料などを開発・製造する染料メーカー。

主に、樹脂着色用(プラスチック)、機能性色材(電子材料)、有機顔料を製造・販売をしている。樹脂着色用染料では、自動車・家電・日用雑貨など耐熱性・耐光性に優れた高級縮合染料や、ガソリン・ワックス用途の染料も取り扱う。近年では一般染料以外にも新規のお問合せに対する研究開発を進めている。

 

※2特許第6671729号(登録日:2020年3月6日)、特許第6721172号(登録日:2020年6月22日)

 

※3ポリプロピレン(PP)とは

ポリプロピレンはノーベル化学賞を受賞したチーグラーとナッタが発明した立体規則性を制御する新規触媒を用いて合成可能となった高分子として1957年に登場しました。ポリプロピレンは耐熱性、強度、耐薬品(酸、アルカリを含む)性に優れ、比重が0.92と非常に小さく、水に浮かぶ上に、吸湿性が無いといった特長を有します。ポリプロピレン樹脂は石油精製時の排ガスを主原料としているため非常に廉価です。この樹脂を使用したポリプロピレン繊維は軽量で速乾性があり、耐薬品性、耐擦過性、耐屈曲性、帯電防止性など優れた特性を持つ繊維で、出現当時は「夢の繊維」と呼ばれていました。

実用化に当たっては耐酸化性と耐光性を付与するために、酸化防止剤および光安定剤などが混合されます。

繊維を作る際に有色顔料を樹脂に練り込むなどしてあらかじめ色付けすることは可能でしたが、色を決めるタイミングと色数、糸の太さに制約があるため、有色のポリプロピレン繊維の活用例は非常に少ないのが現状です。

 

 

 

※4超臨界二酸化炭素染色とは

糸や布などの繊維製品を染色する際、大量の水を使う方法が取られていますが、水資源の有効活用の観点から、環境問題に敏感なアパレル企業やスポーツウェアブランドなどからは環境に配慮した染色方法の一つとして超臨界染色技術に注目が集まっています。

圧力釜のなかで、二酸化炭素を高温、高圧にして、気体でも液体でもない超臨界流体と呼ばれる状態にします。これを水の代わりに使うと、廃水が出ないので、水資源を保護でき、染色・加工工程の合理化と環境負荷の低減の両面に貢献します。加工技術では、約250 kgの繊維を染色することができます。

超臨界染色は、現在はポリエステルがメインですが、今回紹介したポリプロピレンだけでなく、今後、ナイロン、綿も染色が可能になると考えられます。

 

 

※5新規染料の構造と特徴

ポリプロピレンは炭素と水素原子のみからなる高分子で、染料が結合できる場所(官能基)がなく、既存の染料では多少染色されても洗濯や摩擦、熱などで容易に脱落してしまいます。そのため、ポリプロピレン高分子の構造に対する親和性を効果的に高める置換基をキノン系の染料分子へ導入しました。実用化染料の開発に当たってはポリプロピレン繊維に対し高い染色堅ろう度が得られるものを選択しました。

 

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