気候変動の臨界点までに何ができるか衛星観測データから考える地球の未来【東洋大学SDGsNewsLetterVol.02】

2月1日からの「省エネルギー月間」に向けてSDGs NewsLetter Vol.02を発信します。

東洋大学

2022年1月21日発行

東洋大学

東洋大学 SDGs NewsLetter Vol.02

東洋大学は“知の拠点”として地球社会の未来へ貢献します

 

気候変動の臨界点までに何ができるか

衛星観測データから考える地球の未来

 

 

 本ニュースレターでは、東洋大学が未来を見据えて、社会に貢献するべく取り組んでいる研究や活動についてお伝えします。

 今回は、情報連携学部情報連携学科の横田達也教授に、衛星観測からの地球温暖化に関する地理情報を私たちの社会や生活にどのように活用できるかを伺いました。

 

 

情報連携学部 情報連携学科 

教授 横田達也

 

 

Point

1.衛星観測情報に見る温室効果ガスの現状

2.年齢や経済事情に起因する情報格差への懸念

3.気候変動を正しく考えるために

 

 

衛星観測情報に見る温室効果ガスの現状

2年ぶりに国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が開催され、温室効果ガス(GHG)である二酸化炭素(CO₂)やメタン(CH₄)の排出抑制について議論が交わされました。SDGsにおいても気候変動は大きなテーマになっています。

 

 気候変動の影響はずっと先のことだと思われてきましたが、現在は、小さな変化から不可逆的な大きな変化に変わるティッピングポイントが2030年にも来るとされています。つまり、それまでにどのように対策し、どの程度の気温変化に抑えられるかで、その後の世界が変わるということ。こうした背景もあって、昨今は気候変動どころか「気候危機」と呼ばれ、SDGsではゴール13で「具体的な対策」を求めているのです。

 国立環境研究所、環境省、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の合同によるGHG観測技術衛星プロジェクト「いぶき(GOSAT)」では2009年に人工衛星を打ち上げ、大気中のCO₂濃度などを観測しています。科学に基づく情報はSDGsを含む国際政策の根拠になるもの。私は前職が国立環境研究所の専任で、立ち上げ期からGOSATに携わってきました。

 

GOSATではどのようにデータを収集、解析しているのでしょうか。

 

 特定の波長の光を吸収する気体の性質を利用し、太陽光と地球から跳ね返ってきた光の波長を比較すると、どの気体がどの程度存在するのかがわかります。GOSATは世界で唯一、10年以上にわたってCO₂とCH₄と水蒸気のデータをとり続けています。2018年打ち上げの後継機GOSAT-2では加えて一酸化炭素(CO)も計測し、2023年度打ち上げ予定のGOSAT-GWではCOの替わりに二酸化窒素(NO₂)も計測予定です。COやNO₂のデータが組み合わさることで、その地域で排出されたCO₂が人為起源か自然起源かを高い精度で分離できると期待されます。

 私は情報処理やリモートセンシングが専門で、衛星観測情報から成分や濃度の解析を担ってきました。現在、各国のCO₂排出量はインベントリと言う積み上げ方式で算出していますが、観測データと比較すると地域によっては少なく、適切に評価できていない可能性があります。今後、各地域のCO₂をデータで比較・検証できるようになれば、より具体的な対策を講ずることも可能だと考えます。

 

 

▲ 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき(GOSAT)」イメージCG  (C)JAXA 

 

 

年齢や経済事情に起因する情報格差への懸念

長年このテーマを研究してきた横田先生から見て、気候変動に対する人々の意識や取組状況に変化はあったでしょうか。

 

 温室効果ガスは肉眼で見ることができませんが、GOSATの全球観測データを世界地図にプロットすることで地域差や季節・経年の変化などが可視化されました。専門家でなくても一目瞭然で現状把握できる形で情報を出すことで、多く人が関心を持つきっかけになっているでしょう。実際、気候変動への意識は高まっていると感じます。日本でも異常気象や豪雨災害などが相次ぎ、関連報道が増えたことも影響していると思います。ただ、自分自身がすぐに行動しなければならないという危機意識を持つ人は少ないのではないでしょうか。年齢やジェンダー、経済事情などに起因して、気候変動に関する情報の格差が広がっていることも懸念されるところです。気候変動は若い人にこそ関心を持ってもらいたいテーマですから、私はこれまでの経験を生かし、教育という形で対策に取り組んでいきたいと思っています。

 

 

▲GOSAT観測 XCO₂  Level3月別全球マップ(観測の全期間)

 

 

気候変動を正しく考えるために

若い世代にはどういったことを伝えていきたいですか。

 

 科学はデータです。都合の悪いデータが出てきても勝手に外してはいけないし、都合よく改ざんしてもいけません。一方で、データには誤差があり、真値は測れず、バイアスが存在します。絶対的に正しいデータは存在せず、現状考え得るなかで何が最も合理的なのかを判断しているに過ぎません。若い人たちにはそのことを知った上で、情報と向き合ってほしいと伝えています。特に気候変動のような大きなテーマは遠い世界の物語のように思えるもの。地球温暖化に懐疑論を持っても良いのですが、フェイクニュースや同調圧力に振り回される可能性もあれば、エコーチャンバー効果で偏った情報を妄信するリスクもありますから、そういった課題を克服しながら、自分の頭で考えて行動してほしいと思っています。

 また、GOSATや関連するプロジェクトでの経験も伝えていきたいですね。GOSATを立ち上げた当初はアメリカでも衛星観測を予定し、日米でデータを比較する計画がありましたが、アメリカは衛星の打ち上げに失敗しました。通常は日米で競争しながら解析手法を改善するはずが、世界の科学者がGOSATに注目したことで、一気に改良が進んだのです。ほかにも現場にいたからこそ知っていること、いまだから話せるエピソードも多々ありますから、それを若い世代に伝えることで気候危機対策・適応に貢献していく人材を育成できればと思っています。

 

 

横田 達也(よこた たつや)

東洋大学 情報連携学部情報連携学科 教授

 

専門分野:衛星リモートセンシング、地球温暖化研究

研究キーワード:温室効果ガスの衛星観測、地球環境計測と情報処理、

都市等のクオリティ・オブ・ライフ、地理情報システム(GIS)の応用

 

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