新規抗ウイルス抗体の創出に成功

―変異型を含む広域コロナ属ウイルスの治療薬として期待―

2022年2月9日

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所

分野:生命科学・医学系

キーワード:新型コロナウイルス、変異株、広域型抗ウイルス抗体医薬、 ADCC 活性

 

新規抗ウイルス抗体の創出に成功 変異型を含む広域コロナ属ウイルスの治療薬として期待―

 

 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(大阪府茨木市 理事長 米田 悦啓)(以下、NIBIOHNと略す)は、塩野義製薬株式会社(大阪市中央区 代表取締役社長 手代木 功)と共同で、新型コロナウイルスを含む近縁コロナウイルスに関する新規抗ウイルス抗体の同定に成功しました。

 この抗体は、ウイルス粒子そのものではなく、ウイルスの供給元となる感染後の細胞を標的とし、感染者の免疫応答をサポートして、新型コロナウイルスに感染した細胞のみを特異的に排除します。また、他の多くの抗体医薬とは異なり、変異が入りにくい部位を標的とし、オミクロン株を含む種々の変異株に反応します。変異が少ない部位は多くの類縁コロナウイルスにも共通の構造を有することから、得られた新規抗ウイルス抗体は、変異型を含む広域コロナ属ウイルスに広く薬効を示すことが期待されます。

 現在臨床応用されている抗体カクテルなどの中和抗体や、経口用として開発中の低分子化合物は、いずれも軽症からの感染者を対象としています。一方、今回同定された抗体は、中等度以上の重症化リスクの高い患者に投与する抗ウイルス抗体医薬としての開発や、今後起こるかもしれない類縁コロナウイルスのパンデミックの発生時にも広く緊急対応できる「広域型抗ウイルス抗体医薬」としての開発が期待されます。今後、製薬会社の皆様とも連携の上、更なる研究を進めてまいります。

 

当研究の概要について

 NIBIOHNと塩野義製薬株式会社は、新型コロナウイルスを含む近縁コロナウイルスに広く交差反応性を示し、これまでの中和抗体※1とは異なるメカニズムで働く有効な治療抗体医薬の創製を目指して共同研究を行ってまいりました。

 その結果、NIBIOHNの有する「エピトープ均質化抗体パネル※2、3」技術を用い、感染細胞に存在するウイルススパイク(S)タンパク質の中で、アミノ酸変異が頻繁に生じる受容体結合ドメイン(RBD)とは異なる部位(エピトープ)を認識し、ADCC活性※4を重視した抗体の同定に成功しました。

 

 

用語説明

※1 中和抗体

 ウイルスが標的細胞に感染する時に利用する領域(RBD)に特異的に結合することで、ウイルスを中和し、感染性を失わせる抗体。

 

※2 エピトープ

 抗体が結合する標的部分。一般にエピトープはターゲット分子の小さい一部であり、異なる抗体は、それぞれのエピトープに結合し異なる機能を示す。

 

※3 エピトープ均質化抗体パネル(NIBIOHN 特許技術)

 標的上のすべての機能エピトープ領域を網羅した、最小個数の抗体群を表す。これにより抗体機能を最小限の抗体数で探索し同定することが可能となる。

 ウェブサイト:https://www.nibiohn.go.jp/cddr/research/project02.html

 

※4 抗体依存性細胞障害(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity; ADCC活性)

 ウイルスが標的細胞に感染すると細胞表面にウイルス抗原が出現する。この抗原を認識して結合した抗体の定常領域(Fc)によりリンパ球等の宿主エフェクター細胞が誘導、活性化され、感染細胞を破壊する仕組みをADCC活性という。Fc受容体を有するリンパ球には、NK細胞、マクロファージや好中球などがある。

 

医薬基盤・健康・栄養研究所について

 2015 年 4 月 1 日に医薬基盤研究所と国立健康・栄養研究所が統合し、設立されました。本研究所は、メディカルからヘルスサイエンスまでの幅広い研究を特⾧としており、我が国における科学技術の水準の向上を通じた国民経済の健全な発展その他の公益に資するため、研究開発の最大限の成果を確保することを目的とした国立研究開発法人として位置づけられています。

 ウェブサイト:https://www.nibiohn.go.jp/

 

担当研究者の略歴

永田 諭志:1992年東京理科大学大学院薬学研究科修了、博士(薬学)。東京理科大学助手、東京大学大学院農学生命科学研究科講師を経て、1999年より米国NIH、Research Fellow、2007年米国Sanford Research、Associate Scientist、その後、2015秋に帰日し現職(医薬基盤研究所創薬デザイン研究センター、抗体デザインプロジェクト プロジェクトリーダー)。

 

鎌田 春彦:1998年日本学術振興会特別研究員、2000年大阪大学大学院薬学研究科修了、博士(薬学)。2000年三重大学医学部助手、2007年スイス連邦工科大学チューリッヒ校客員研究員、2014年大阪大学招へい教授、2020年京都大学大学院薬学研究科連携教授。医薬基盤研究所が2005年に設立された当初から所属し、現在、バイオ創薬プロジェクト プロジェクトリーダー。

 

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  • 所在地 大阪府
  • 業種 各種団体
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