宇宙線の鉄・ニッケル成分の最高エネルギー領域に至るスペクトルを測定
本発表の詳細は、早稲田大学のホームページをご覧ください。
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【発表のポイント】
●国際宇宙ステーション(ISS)搭載の宇宙線電子望遠鏡(CALET)が、世界で最も高いエネルギー領域での宇宙線の鉄とニッケル成分の高精度な観測に成功した
●これまで測定された宇宙線スペクトルの形状はスペクトル全体の総合的理解が困難な状況であったが、CALETの測定結果は、首尾一貫した実験的描像を描くことを可能にした
●CALETで得られた信頼性の高い宇宙線原子核スペクトルは、天文学の他分野でも使用される重要な基礎データとなり得る
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【概要】
早稲田大学理工学術院主任研究員(研究院准教授)赤池陽水(あかいけようすい)、シエナ大学研究員Caterina Checchia、Francesco Stolziと、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)及び国内他研究機関、イタリア、米国の共同研究グループは、早稲田大学理工学術院名誉教授 鳥居祥二(とりいしょうじ)が代表研究者を務める国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟の船外実験プラットフォームに搭載された宇宙線電子望遠鏡(CALET: 高エネルギー電子・ガンマ線観測装置)を用いて、銀河宇宙線中の鉄とニッケルの世界最高エネルギー領域に至る高精度なスペクトルの観測を成功しました。
ISSで5年間以上の定常観測を継続しているカロリメータ型検出器CALETは、核子あたり10ギガ電子ボルトから2.0テラ電子ボルトの広いエネルギー領域で、宇宙線中の鉄成分のスペクトルの高精度直接観測を行い、テラ電子ボルト領域に至るまでスペクトルの冪(べき)は-2.60で一定であることを測定しました。さらに、宇宙線中のニッケル成分についても、核子あたり8.8ギガ電子ボルトから240ギガ電子ボルトの領域で観測を行い、鉄成分と同様にスペクトルの冪(べき)は-2.51で一定であることがわかりました。今回の結果は、より軽い原子核のスペクトルに一般的に見られているスペクトルの硬化が存在しないことを示しており、今まさに活発に議論されている銀河宇宙線の加速・伝播機構のモデル検証のために重要な情報を提供するものです。これまでの観測結果との比較を含めて、研究コミュニティへ速報する意義があると判断され、鉄成分の結果は2021年6月14日に、ニッケル成分は2022年4月1日に、それぞれ国際学術雑誌『Physical Review Letters』誌に掲載されました。
宇宙線は約100年前に発見されて以来、素粒子や宇宙の謎を解明する重要な情報をもたらしてきました。しかし、高エネルギーの宇宙線がどこでどのように加速されるのかは、まだ未解明な部分が多く残されています。これまでの多岐にわたる観測から、我々が住む銀河系内を起源とする宇宙線(銀河宇宙線)は「超新星爆発に伴う衝撃波で加速され、銀河系内を星間磁場により拡散的に伝播して地球に飛来する」という“標準モデル”による理解が一般的です。
このモデルでは、地球で観測される宇宙線スペクトルの形状は単調な冪型(べきがた)のスペクトル(指数関数形状のスペクトル)が予測されます。しかし、近年の気球や人工衛星、ISSによる直接観測で、陽子やヘリウム、さらに炭素や酸素などの原子番号(電荷:Z)が6程度以下の軽い原子核では、単純な冪形状からのズレ「スペクトル硬化」が報告されています。これは“標準モデル”では理解できない結果であり、宇宙線の加速・伝播機構モデルについてパラダイムシフトの必要性を示唆しており、その解釈をめぐって現在活発な研究が繰り広げられています。その解明の重要な鍵となるのが、星の核融合反応による元素合成の最終段階で生成される鉄(Z=26)とニッケル(Z=28)です。これより重い原子核は、星が超新星爆発を起こす直前にはほとんど存在しないため、この鉄とニッケルが星の進化の最終段階や加速機構の直接的な情報をもたらす重要な宇宙線成分となっています。
鉄成分のエネルギー領域は、これまで磁気スペクトロメータ (PAMELA, AMS-02) とカロリメータ(ATIC, CREAM, NUCLEONなど)の2種類の検出器によって別々に観測されていましたが、全領域を単独の検出器で高精度に観測できたのは今回のCALETの観測が初めてです。また、ニッケル成分の観測はその存在量の少なさゆえに、高エネルギー領域での高精度な観測はこれまでほとんど行われていませんでしたが、今回観測に成功しました。
これらの観測結果から得られた重要な成果として、鉄とニッケルのエネルギースペクトルは誤差の範囲内で単一冪の形をしており、軽い原子核で観測されていたスペクトルの硬化について否定的な結果です。最終的な結論は、今後のさらに高統計かつ高エネルギー領域での観測の結果で確認する必要がありますが、今回のCALETの測定結果は、宇宙線の加速・伝播機構モデルにおける積年の懸案事項を解決し、首尾一貫した実験的描像を描くために重要な示唆を与えることが期待されます。さらに、信頼性の高い宇宙線原子核スペクトルは、天文学の他分野でも使用される重要な基礎データになりえます。
【論文情報】
雑誌名:Physical Review Letters 126, 241101, 2021
著者名:O. Adriani et al. (CALET Collaboration), corresponding Authors: Yosui Akaike, Caterina Checchia and Francesco Stolzi
DOI: 10.1103/PhysRevLett.126.241101
紙面掲載:Volume 126, Issue 24, 14 June 2021
雑誌名:Physical Review Letters 128, 131103, 2022
著者名:O. Adriani et al. (CALET Collaboration), corresponding Authors: Yosui Akaike, Gabriele Bigongiari, Caterina Checchia and Francesco Stolzi
DOI: 10.1103/PhysRevLett.128.131103
紙面掲載:Volume 128, Issue 13, 1 April 2022
【ウェブ掲載】
宇宙航空研究開発機構 JAXA https://humans-in-space.jaxa.jp/kibouser/pickout/73228.html
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