発酵ガスから化学原料へ

~ほしいときにほしいだけ低温で~

早稲田大学

7月21日

早稲田大学

クラサスケミカル株式会社

発酵ガスから化学原料へ

~ほしいときにほしいだけ低温で~

 

詳しくは、早稲田大学ウェブサイトをご確認ください。

 

発表のポイント

●食品廃棄物等の資源を発酵して得られる発酵ガス(バイオガス)はメタンと二酸化炭素の混合ガスであり、温暖化を引き起こす二大要因のガスである。

●この2つから化学原料を作るうえで、従来の方法では炭素析出※1が多く、実用化が困難であったが、今回、世界で初めてメタンと二酸化炭素から化学原料(合成ガス)をほしいときにほしいだけ低温で産み出すことに成功した。

●従来の方法では、800℃程度の熱が必要だったが、今回開発した技術により、200℃以下で同等の性能を炭素析出なく得ることができた。

 

図 左が今回発見したスムーズに進む方法、右が炭素(coke)で汚れやすい従来の方法

 

食品廃棄物やバイオマス系の資源を発酵して得られる発酵ガス(バイオガス)は、メタンと二酸化炭素が半分ずつ含まれています。メタンと二酸化炭素は、温暖化を引き起こす二大要因のガスでもあり、この2つから化学原料を作る方法は従来から知られていましたが、非常に高温を必要とし、かつ炭素の析出が多く、実用化が困難な方法でした。

早稲田大学理工学術院関根 泰(せきね やすし)教授とクラサスケミカル株式会社の研究グループは、世界で初めてメタンと二酸化炭素から化学原料(合成ガスと呼ばれ、大規模かつ工業的に製造・使用されており、燃料や化学品の源となる)を、ほしいときにほしいだけ低温で産み出すことに成功しました。従来の方法だと800℃程度の熱が必要でしたが、今回開発された技術だと200℃以下で同等の性能を得ることに成功しました。低温プロセスは加温の時間が短縮でき、かつ使用エネルギーも大幅に節約することができます。これまで課題であった炭素析出もほとんど起こらず、安定にエネルギー効率よく発酵ガス(バイオガス)から化学原料をオンデマンドで作ることのできる技術を誕生させることができました。

本研究成果は、2025年7月18日(金)に『ACS Catalysis』のオンライン版で公開されました。

 

1)これまでの研究で分かっていたこと

これまでメタンと二酸化炭素の反応(ドライリフォーミング)は800℃で進むことは知られていましたが、工業的要請によって反応器※2を小さくするために高圧にすると炭素が大量に発生してしまい、反応が継続できなくなります。二大温暖化ガスであるメタンと二酸化炭素を直接反応させて化学原料とすることは、夢の技術でしたが実用化は困難だと思われていました。

 

2)今回の新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、そのために新しく開発した手法

今回、独自に開発した触媒(1wt%Ru/La₂Ce₂O₇担持触媒)を用いて、表面イオニクス※3(プロトンホッピング※4)を活かした高圧でのドライリフォーミングを検討しました。その結果、熱による触媒反応の平衡転化率の限界を大きく超え、非常に低い温度(従来は800℃、今回は200℃)において、高いCH₄/CO₂転化率※5、優れたH₂/CO比※6、低い炭素析出と高い安定性を同時に実現することができました。この際に、表面イオニクスを介した低温での表面反応性種の被覆率の増加により、効果的かつ相乗的に性能を向上することが各種分光技術や計算化学などによって証明されました。

 

3)研究の波及効果や社会的影響

バイオマス系や食品系の廃棄物の嫌気発酵(メタン発酵)によって得られるバイオガスは、これからのカーボンニュートラル時代に地産地消で得ることができる貴重な資源です。バイオガスを化学原料へほしいときにほしいだけ低温かつ安定的に転換できる技術は、今後、多様な用途、複数の地域での活用が期待できます。

 

(4)今後の課題、展望

今後も協働パートナーであるクラサスケミカル株式会社と、さらなる大型化・効率向上に向けて研究を重ね、実用化に向けて活動してまいります。

 

(5)研究者のコメント

加圧で低温の環境において、炭素を作ることなく安定に発酵ガス(バイオガス)から化学原料(合成ガス)を産み出すことは、これまで絶対に不可能だと思われていましたが、それを覆すことができたのは大きな喜びです。これを活かして新たな化学反応の体系を協働先とともに築いていきたいと思います。

 

(6)用語解説

※1 炭素析出 

固体の触媒材料の上に「すす」のような炭素が積もってしまうこと。これが起こると、汚れとして触媒を劣化させ、反応を継続できなくなる。

※2 反応器

中に固体の触媒材料を詰め、ガスを流して反応させるための管。今回の場合、その触媒の周囲に電極が接触して電位をかけている。

※3 表面イオニクス

固体触媒の表面でイオンが動くこと。

※4 プロトンホッピング

水素イオン(プロトン:H⁺)が固体触媒表面で動くこと。

※5 CH₄/CO₂転化率

メタンならびに二酸化炭素がどれくらい反応したかを示す割合。

※6 H₂/CO比

生成してくる合成ガス(水素と一酸化炭素の混合ガス)の中の水素と一酸化炭素の比率。この値は、次に合成ガスを用いる上で適度な値が望まれる。

 

(7)論文情報

雑誌名:ACS Catalysis

論文名:Electrically assisted low-temperature dry reforming of methane suppressing carbon deposition under high-pressure conditions

執筆者名:Clarence Sampson1 Takumi Masuda1, Taisuke Horiguchi1, Saori Ichiguchi1, Hiroshi Sampei1, Hitoshi Matsubara2, Shintaro Itagaki2, Gen Inoue2, Yasushi Sekine1*

*責任著者

1 Department of Applied Chemistry, Waseda University, 3-4-1, Okubo, Shinjuku,

Tokyo 169-8555, Japan

2 Technology Development Department, Oita Complex, Crasus Chemical Inc., 2, Nakanosu,

Oita-city 870-0189 Japan

掲載日時:2025年7月18日(金)

DOI: 10.1021/acscatal.5c03126

掲載URL: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acscatal.5c03126

 

(8)研究助成

この研究の一部は文部科学省科研費(24KJ2090ならびに23K20034)ならびに環境省のプロジェクトの支援によって行われました。

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