【国際観光学部News Letter 2022 Vol.4】新しい観光のパラダイム「持続可能な地域づくりと観光」

東洋大学

2022.10.31

東洋大学

 

国際観光学部News Letter 2022 Vol.4

新しい観光のパラダイム

「持続可能な地域づくりと観光」

 

2022年10月11日から入国制限が緩和され、入国者総数の上限も撤廃され、双方向の国際交流が大きく動き出します。また、国内では県民割の全国受入開始も始まり、秋の旅行需要を勢いづける効果が期待されます。

東洋大学国際観光学部では、再スタートともいうべきこの時期をとらえ、「新しい観光のパラダイム」と題し、ツーリズム産業を前に進めるための手掛かりを示すコンテンツを連載で公開しています。テーマは「アドベンチャーツーリズム」「フランスにおける再生型観光戦略」「海外DMOのブランディングに学ぶ」「持続可能な地域づくりと観光」の4つです。東洋大学ではこれからも、変化に対応し、時代を切り拓ける人材を育成していきます。

 

地域づくりにおける観光の役割

 「限界集落」、「消滅自治体」といった言葉を聞いたことがあるでしょうか。いずれも、21世紀に入ってから登場した言葉です。こうした言葉は、近年のわが国の地域をめぐる厳しい環境を象徴しています。1970年代から「過疎」という言葉が登場しましたが、その後過疎化は容赦なく進行し、ついに地域は限界を迎えたり、消滅してしまうのです。言うまでもなく、地域を支えているのは人であり、その人がいなくなってしまえば、地域は成り立ちません。これは首都である東京も例外ではありません。わが国はすでに人口減少時代に突入し、地域を支える人が減っていくのは全国的な傾向です。第2次世界大戦以降はじめて私たちは人口減少時代を迎えているのであり、日本にとって大きな岐路に立っていると言えます。これまで私たちは、お互いに支え合うことで豊かな生活を送ってきましたが、その基盤になるのは地域であり、それはこれからも変わらないでしょう。しかし人口が減る中で、どのように地域を成り立たせるのか。考えられる一つの処方箋が、人口減少を補うために交流人口(≒観光客)を増やすことだと言われています。日本政府も、地域を支える経済基盤としての観光産業に期待し、観光立国政策を進めています。果たして、観光は地域を救えるのでしょうか。

 

魚津市銀座商店街(2018年2月27日撮影)           コロナ禍の輪島朝市(2022年3月3日撮影)

 

観光が抱えるリスク

 現在、多くの地域が観光政策に取り組んでいます。その結果、インバウンド客を含めて日本国内の観光客は確実に増加しています。しかしながら、観光客を誘致するのは簡単ではありません。その地域に観光客が魅力的だと感じるような観光資源がなければ、相当な努力と工夫が必要でしょう。観光客を誘致するために、政策としてどこまでコストを負担するべきか、冷静な判断が必要です。

 

 また、今回のコロナ禍で、観光は一気に冷え込みました。インバウンド(訪日観光客)は壊滅的で、国内観光も大きなダメージを受けています。それまで観光客が訪れていた地域から、突然観光客がいなくなり、観光客によって支えられていた地域経済が苦境に立たされています。観光は、感染症の流行や、戦争などの治安悪化、自然災害などの不測の事態によって大きな影響を受けてしまいます。

 

 加えて、コロナ禍前の京都や鎌倉などは、観光客の急増にともない、市民生活への悪影響が指摘されていました。オーバーツーリズムという問題です。観光客が増え過ぎるのも問題なのです。このように、観光政策は決して地域にとっての万能薬ではなく、副作用もあって、その処方には慎重さが求められます。

 

観光の可能性を拓く観光政策へ

 他方、コロナ禍で新たに登場した旅行スタイルとして、マイクロツーリズムというものがあります。自宅の周辺を観光することで、移動に伴う感染リスクを最小限に食い止めようというものです。自治体のキャンペーンも手伝って、ウィズコロナ時代の旅行スタイルとして普及しました。このような観光は、インバウンド客のような消費額は期待できませんが、突然来なくなるリスクは低いと言えます。

 

 また、地域にとっての観光客は、単にお金を使うという役割だけではなく、観光を通してその地域に愛着を感じ、地域を支える立場に変質する可能性もあります。いわゆる関係人口です。ある調査では、日本の観光客の多くが、自然環境や地域コミュニティへ配慮したような旅行を望んでおり(図1)、このような観光客は関係人口になることが期待されます。

 

 このように、観光政策には様々な効能があります。持続可能な地域づくりのためには、観光政策の効能をよく理解した上で、地域の課題や特性に応じた観光政策が求められます。

 

 東洋大学では、そのような観光政策を立案できる人材を育成しています。

 

 

参考文献

1)ブッキング・ドットコム・ジャパンホームページ

https://news.booking.com/ja/sustainable-travel-report-2021/), 2022年8月31日閲覧

 

 

佐野 浩祥

東洋大学国際観光学部 教授

専門分野:国土・地域計画、都市計画史、観光まちづくり

研究キーワード:

戦後の都市計画/持続可能な観光地づくり/クリエイティブ・ツーリズム

 

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