「上司のマネジメントスキル」「職場の雰囲気」が健康リスクに関連

ストレスチェックのビッグデータから関係性を数値化、学術集会長賞を受賞

2022年11月30日

株式会社ドクタートラスト

https://doctor-trust.co.jp/

 株式会社ドクタートラスト(本社:東京都渋谷区、代表取締役:高橋雅彦、以下「ドクタートラスト」)の笹井裕介(精神保健福祉士)が2022年11月26日、27日に産業医科大学で開催された、第19回日本ヘルスプロモーション学会・第11回日本産業看護学会 合同学術大会/集会で「新職業性ストレス簡易調査票(80設問)の各設問と健康リスクの関連について」を発表、日本産業看護学会学術集会長賞を受賞いたしました。

 本発表では、ドクタートラストのストレスチェックを2021年度に受検したうち、およそ16万人のビッグデータをもとに、ストレスチェックの各設問と「健康リスク」の相関を導出、「上司のマネジメントスキル」と「職場の雰囲気」が、健康リスクに深く関与していることを明らかにするとともに、職場環境改善へのアクションを提言しています。

 

受賞タイトル

 

「新職業性ストレス簡易調査票(80設問)の各設問と健康リスクの関連について」

発表者:笹井裕介(ドクタートラスト 精神保健福祉士・看護師・公認心理師)

共同研究者:山本ちえ美(ドクタートラスト 精神保健福祉士)

 

発表内容のポイント

 

・ ストレスチェックの設問のうち「上司のマネジメントスキル」「職場の雰囲気、対人関係の良好さ」に関する設問が、「健康リスク」に関連している

・ 「部下に対して、きちんとしたフィードバックが行える上司」「同僚同士の相互理解、職場の良好な雰囲気づくり」が、健康リスクを下げるための職場環境改善策と示唆された。

 

発表内容

 

1. 分析の背景

 ストレスチェック制度は、従業員のメンタル不調の予防やその気付きを促すこと、また、ストレスが高い人の状況把握やケアを通して職場環境改善に取り組むことを目的として制定され、2015年12月以降、従業員数50名以上の事業場で年1回の実施が義務づけられています。ストレスチェックの結果を部署や、事業場ごとに分析した集団分析では、集団の「健康リスク」が示されます。

 健康リスクは、集団において健康問題が起きる可能性を示した数値であり、職場環境改善の指標として有用なものです。具体的には、ストレスチェック設問のうち「仕事の量」「仕事のコントロール」「上司の支援」「同僚の支援」の4尺度に関する各3問から算出されます(表1)。

 

 

表1

 

 「健康リスク」を低減させるためには、その各尺度を良好な状態にする必要があります。しかし各設問は職場の端的な事象を表しているのみで、健康リスクを低減させるために、何に取り組めば良いのかが捉えづらいものです。

 また、ストレスチェックは制度開始から年月が経過し、当初一般に使用されていた設問数57項目版(職業性ストレス簡易調査票)より、80項目版(新職業性ストレス簡易調査票※)を採用する企業が増え、多角的な視点で分析が可能になりました。一方で、「健康リスク」を低減させるアクション、施策を検討するにあたって、新職業性ストレス簡易調査票の設問80項目のうち、どの項目に焦点を当て取り組めば効果的であるかの示唆はまだ得られていません。※全設問内容は本ペーパー最後に掲載

 

2. 分析の目的

 本研究は、ストレスチェックの80項目それぞれについて、「健康リスク」との関連性を検討することで、健康リスクとの相関が強いものが見つかれば、多角的な視点で職場環境改善に取り組める可能性があると考え、受検した各人の回答結果から算出される健康リスクと各尺度の相関分析を実施し、健康リスクに関連する強度を解明することにしました。

 また、健康リスクの高低によって各回答の結果を明らかにし、ストレスチェックのどの項目を改善すれば健康リスクの低減につながるかを考察しました。

 

3. 分析方法

 株式会社ドクタートラストで2021年4月1日~2022年3月31日に、「新職業性ストレス簡易調査票」を使用し、ストレスチェックを実施した159,583名(男性99,253名 女性60,330名)を対象者とし、各設問の回答結果と、健康リスクについて「相関係数の絶対値」を算出しました。

 

4. 分析結果

 各設問と健康リスクとの「相関係数の絶対値」は、表2のとおりです。

 

表2

 

 また、表3は、表2で算出された「相関係数の絶対値」を降順に並べた際の上位20項目です。

 

表3

 

 各設問と健康リスクとの「相関係数の絶対値」について、上位3位までは「上司の支援」、4位~6位までは「同僚の支援」、7位、10位、15位は「仕事のコントロール」に関する設問でした。

 一方「仕事の量」に関する設問は数値が小さく、上位20位にはランクインしませんでした。

 

5. 考察

 表3の「健康リスク」と相関が強いと考えられる上位20項目のうち、健康リスクを算出するための項目を除いた11項目をカテゴライズすると、カテゴリー①「上司のマネジメントスキル」、カテゴリー②「職場の雰囲気、対人関係の良好さ」、カテゴリー③「自身の仕事に対する気持ちや評価」に分類されました(表4)。

 

表4

 

 カテゴリー③「自身の仕事に対する気持ちや評価」は、企業で直接取り組むのが難しいものの、カテゴリー①「上司のマネジメントスキル」、カテゴリー②「職場の雰囲気、対人関係の良好さ」は企業で取り組むことが可能であり、これらへのアプローチが健康リスクを低減させるアクションにつながると示唆されました。

 

6. 参考:企業で取り組めるアクション例

<カテゴリー①「上司のマネジメントスキル」項目改善のために企業で取り組めるアクション>

・ 月に1~2回の時間を確保し、部下へのフィードバックの機会を持つ

・ フィードバックでは、部下が何を頑張っているかに着目し、労をねぎらい称賛する

・ できていない事項は、何を達成すれば解決が可能なのかを、ともに悩み考える

 

<カテゴリー②「職場の雰囲気、対人関係」項目改善のために企業で取り組めるアクション>

・ 職場の雑談環境(オンライン、対面)を構築し、タテヨコのつながりを確保

・ 業務内容を整理、分担し、同僚同士の協働のしやすさを確保

・ チームビルディング研修やアサーショントレーニングの実施

 

発表者

笹井裕介(株式会社ドクタートラスト 精神保健福祉士・看護師・公認心理師)

中京大学心理学部心理学科を卒業後、精神保健福祉に興味を持ち大阪医専精神保健福祉学科へ入学、精神保健福祉士資格を取得。精神科クリニックでケースワーカーとして、患者さんの受理面接や心理相談、生活相談を実施。自身のスキルアップのため、医療について学びたいと思い、京都第二赤十字看護専門学校へ入学、看護師資格を取得後、病院で勤務。

さらに予防医学に興味を持ち、株式会社ドクタートラストに入職。ストレスチェックを実施する部署に配属になり、多くの一般企業や官公庁の実施者、実施事務従事者を担当。現在は、相談窓口の相談員としてハラスメントやメンタル、健康に関する相談を引き受けているほか、各種セミナーの講師や人事担当者への提案、企業コンサルティングも実施している。

 

ドクタートラストについて

 

株式会社ドクタートラスト https://doctor-trust.co.jp/

株式会社ドクタートラスト(本社:東京都渋谷区、代表取締役:高橋雅彦)は企業ではたらく人の健康管理を専門に受託している会社です。産業医(国内第1位※)や保健師などの医療資格者が企業を訪問の上、健康診断結果に基づく健康指導、過重労働者面談を行います。また、122万人超のビッグデータに基づく職場環境改善コンサル「STELLA」や、 外部相談窓口サービス[アンリ]もご好評いただいております。その他 ストレスチェック、健康経営セミナー、 衛生委員会のアドバイスなど、さまざまな業務を実施します。※帝国データバンク調べ

 

外部相談窓口サービス[アンリ]  https://doctor-trust.co.jp/hokenshi/anri/

外部相談窓口サービス[アンリ]は、会員制の医療・健康相談窓口サービスです。保健師など国家資格を持つ相談員が、電話・メールにて従業員の相談に乗ります。通常の相談窓口サービスはカウンセリング・アドバイスにとどまりますが、[アンリ]は具体的な改善案の提出までサポート。スムーズな課題解決が可能な、外部相談窓口サービスです。

 

ドクタートラストの各種サービスに関するお問合せ

株式会社ドクタートラスト 健康経営推進本部

TEL:03-3464-4000(代表)

企業さま用お問合せフォーム:https://doctor-trust.co.jp/form/doctor/

 

※ストレスチェック全80項目一覧

設問番号 設問内容
1

非常にたくさんの仕事をしなければならない

2

時間内に仕事が処理しきれない

3

一生懸命働かなければならない

4

かなり注意を集中する必要がある

5

高度の知識や技術が必要なむずかしい仕事だ

6

勤務時間中はいつも仕事のことを考えていなければならない

7

からだを大変よく使う仕事だ

8

自分のペースで仕事ができる

9

自分で仕事の順番・やり方を決めることができる

10

職場の仕事の方針に自分の意見を反映できる

11

自分の技能や知識を仕事で使うことが少ない

12

私の部署内で意見のくい違いがある

13

私の部署と他の部署とはうまが合わない

14

私の職場の雰囲気は友好的である

15

私の職場の作業環境(騒音、照明、温度、換気など)はよくない

16

仕事の内容は自分にあっている

17

働きがいのある仕事だ

18

活気がわいてくる

19

元気がいっぱいだ

20

生き生きする

21

怒りを感じる

22

内心腹立たしい

23

イライラしている

24

ひどく疲れた

25

へとへとだ

26

だるい

27

気がはりつめている

28

不安だ

29

落着かない

30

ゆううつだ

31

何をするのも面倒だ

32

物事に集中できない

33

気分が晴れない

34

仕事が手につかない

35

悲しいと感じる

36

めまいがする

37

体のふしぶしが痛む

38

頭が重かったり頭痛がする

39

首筋や肩がこる

40

腰が痛い

41

目が疲れる

42

動悸や息切れがする

43

胃腸の具合が悪い

44

食欲がない

45

便秘や下痢をする

46

よく眠れない

47

どのくらい気軽に話ができますか?(上司)

48

どのくらい気軽に話ができますか?(職場の同僚)

49

どのくらい気軽に話ができますか?( 配偶者、家族、友人等)

50

あなたが困った時、どのくらい頼りになりますか?(上司)

51

あなたが困った時、どのくらい頼りになりますか?(職場の同僚)

52

あなたが困った時、どのくらい頼りになりますか?(配偶者、家族、友人等)

53

あなたの個人的な問題を相談したら、どのくらいきいてくれますか?(上司)

54

あなたの個人的な問題を相談したら、どのくらいきいてくれますか?(職場の同僚)

55

あなたの個人的な問題を相談したら、どのくらいきいてくれますか?(配偶者、家族、友人等)

56

仕事に満足だ

57

家庭生活に満足だ

58

感情面で負担になる仕事だ

59

複数の人からお互いに矛盾したことを要求される

60

自分の職務や責任が何であるか分かっている

61

仕事で自分の長所をのばす機会がある

62

自分の仕事に見合う給料やボーナスをもらっている

63

私は上司からふさわしい評価を受けている

64

職を失う恐れがある

65

上司は、部下が能力を伸ばす機会を持てるように、取り計らってくれる

66

上司は誠実な態度で対応してくれる

67

努力して仕事をすれば、ほめてもらえる

68

失敗しても挽回(ばんかい)するチャンスがある職場だ

69

経営層からの情報は信頼できる

70

職場や仕事で変化があるときには、従業員の意見が聞かれている

71

一人ひとりの価値観を大事にしてくれる職場だ

72

人事評価の結果について十分な説明がなされている

73

職場では、(正規、非正規、アルバイトなど)色々な立場の人が職場の一員として尊重されている

74

意欲を引き出したり、キャリアに役立つ教育が行われてい

75

仕事のことを考えているため自分の生活を充実させられない

76

仕事でエネルギーをもらうことで、自分の生活がさらに充実している

77

職場で自分がいじめにあっている (セクハラ、パワハラを含む)

78

私たちの職場では、お互いに理解し認め合っている

79

仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる

80

自分の仕事に誇りを感じる

 

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表1

表2

表3

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