龍谷大学「溶液中で高効率蛍光を示す安定ラジカル」開発

英国王立化学会「Chemical Science」誌に掲載

龍谷大学

先端理工学部 内田欣吾教授・服部陽平助教の研究グループが「溶液中で高効率蛍光を示す安定ラジカル」を開発

英国王立化学会「Chemical Science」誌に掲載

 

本件のポイント

●龍谷大学 先端理工学部 応用化学課程の内田欣吾研究室は、シンプルな構造で溶液中で光発光量子収率最大69%の高効率蛍光を示す安定ラジカルを開発した。

●安定発光ラジカルは、これまでの蛍光物質とは異なるタイプの蛍光材料であり、次世代の高効率有機EL材料や、磁性光学あるいはスピン光学物性材料として注目されている。

●本研究の成果が、英国王立化学会の旗艦ジャーナルである「Chemical Science」に掲載(Webでは既に公開)

 

本件の概要

ほとんどの分子は偶数個の電子をもちますが、ラジカルは奇数個の電子をもつ分子です。通常電子が奇数個だと不安定になりますが、1個の電子を量子力学的に分子内で非局在化させたり、分子の構造で反応性の高い部位を周囲の反応性の分子から守ることで、安定ラジカルを作ることができます。服部助教と分子科学研究所の草本哲郎准教授は2013年頃から蛍光性を示す珍しい安定ラジカル「安定発光ラジカル」の研究に携わり、光照射に強い蛍光ラジカルや、世界初の「発光ラジカルが配位した発光金属錯体」、ヨウ化物溶媒中で使える蛍光金属センサーといった発明を発表してきました。

有機ELディスプレイの広範な実用化に伴い、有機ELの発光材料に適した発光有機分子はますます注目を集めています。通常の蛍光分子では、エレクトロルミネッセンス(EL)の発光効率は、最大でもフォトルミネッセンス(PL)の発光効率(光発光量子収率、PLQY)の4分の1程度になってしまうのが通例です。これは三重項励起状態が失活してしまい一重項励起状態の発光のみがみられるためです。三重項励起状態が失活しない有機ELの発光材料に適した発光材料として、これまでは燐光材料及び熱活性化遅延蛍光(TADF)材料が主に注目を浴びてきました。安定発光ラジカルは二重項励起状態から蛍光を示すため、有機ELの発光材料に適した発光材料の一つです。2018年に中国・長春とイギリス・ケンブリッジの研究グループから安定発光ラジカルを用いた高効率有機ELがNature誌上で報告されると、安定発光ラジカルはますます注目を集めるようになりました。

今回、内田研究室は、F2PyBTMという溶液中での光発光量子収率6%の分子の骨格に、イタリア・ミラノのグループが開発した鈴木・宮浦カップリング反応を応用した反応を用いて、メシチル基(トリメチルベンゼン)を2つ付加することで、光発光量子収率69%の高効率蛍光(クロロホルム中)を示す安定発光ラジカルMes2F2PyBTMの合成に成功しました。この分子は市販の試薬から僅か3ステップで合成することができます。また、透明なアクリル樹脂中でも光発光量子収率62%の高効率蛍光を示すため、固体デバイスに応用することもできます。

京都大学福井謙一記念研究センターと株式会社MOLFEXにおける量子化学計算は、メシチル基がラジカル部位に対する電子ドナーとして働き、分子の発光を促進し、分子振動による熱失活を抑える仕組みを明らかにしました。ベンゼンと3つのメチル基で構成されるメシチル基は、これまでラジカルに対する明確な電子ドナーとして用いられた置換基としては最も小さく、Mes2F2PyBTM分子の特筆すべき特徴の一つとなっています。僅か5つの六員環(ピリジン1つ、ベンゼン4つ)で高効率蛍光を示す安定ラジカルを実現したことで、今後さらに高効率安定発光ラジカルの開発が加速することや、有機ELディスプレイなどへの応用が期待されます。

 

 

(a) 溶液中で高効率蛍光を示す安定ラジカルMes2F2PyBTMの分子構造

 

 

(b) 溶液中でローダミンBと同程度の強い蛍光(橙色~赤色)を示す。

 

発表論文について

英文タイトル: The simplest structure of a stable radical showing high fluorescence efficiency in solution: benzene donors with triarylmethyl radicals

タイトル和訳: 溶液中で高効率蛍光を示す最もシンプルな構造の安定ラジカル:トリアリールメチルラジカルとベンゼンドナー

掲載誌:Chemical Science

URL: https://doi.org/10.1039/D2SC05079J

 

論文著者:服部陽平、北島稜大、大田 航、松岡亮太、草本哲郎、佐藤 徹、内田欣吾

 

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