人工知能の文字認識学習実験
三次元化した半導体チップを用い、実験に成功
三次元化した半導体チップを用い
人工知能の文字認識に関する学習実験に成功
龍谷大学大学院理工学研究科・院生を筆頭著者とする論文が国際ジャーナルに掲載
多大な集積回路と同等の機能を1チップ化する事が可能となる手法を発見し、人工知能・ニューロモルフィックシステムへの実装までを論証
本件のポイント
独自に三次元化した半導体チップを、自律的に学習するニューロモルフィックシステムに実装し、高度な連想記憶機能の可能性を確認
人間の脳の構造を模倣した高度で複雑な計算システムを構築し、高速かつ低消費電力で脳の機能を再現するニューロモルフィックシステムへの実用可能性に期待
木村睦研究室で継承されてきた、酸化物半導体を用いたニューラルネットワーク①)の研究開発を促進する契機に
本件の概要
龍谷大学 革新的材料・プロセス研究センター②)の木村睦 研究員(先端理工学部教授)および木村睦研究員のグループに所属する岩城江津子さん(理工学研究科修士2年)らの研究グループは、「アモルファス金属酸化物半導体薄膜のニューロモルフィックシステムへの実装」に関する研究論文を発表し、世界最大の技術専門組織『IEEE』*の国際ジャーナルに掲載されました。
ニューロモルフィックシステムは、現在大型コンピュータ(サーバー)の人工知能全般の用途として「文字の読み取り、音声聞き取り、画像認識、文章作成、会話」等に使用され始めています。今回の実験を行い、論文の筆頭著者である岩城さんは、大型コンピュータが必要とする多大な集積回路(LSI)と同等の機能を、独自に三次元化した半導体により1チップ化する事が可能となる手法を発見し、これが認められ、論文掲載となりました。
本研究によって、私たちの周りにあるモバイルデバイス(PC、スマホ、機能付きの時計、眼鏡等)に人工知能を搭載し、なおかつ個人がカスタマイズされた専用の人工知能を持つことができる、独立性とカスタマイズという2つの可能性を将来的に拡充する基盤情報を得たといえます。
本研究の成果は、オンラインジャーナル「IEEE Journal of the Electron Devices Society」において2022年8月31日に公開されました。
1. 発表論文
タイトル: Multilayer Crossbar Array of Amorphous Metal-Oxide Semiconductor Thin Films for Neuromorphic Systems
和訳:アモルファス金属酸化物半導体薄膜のニューロモルフィックシステムへの実装
掲載先:IEEE Journal of the Electron Devices Society (IEEE)
URL:https://doi.org/10.1109/JEDS.2022.3203364
著者:岩城 江津子、津野 拓海、今井 崇人、中島 康彦、木村 睦(龍谷大学)
2. 本研究内容に関する問い合わせ先
龍谷大学先端理工学部 木村 睦(きむら むつみ)教授
〒520-2194 滋賀県大津市瀬田大江町横谷1−5
電話番号:077-543-7407(直通) / 5111(代表)
E-mail: mutsu@rins.ryukoku.ac.jp 研究室HP:http://mutsu21.elec.ryukoku.ac.jp/
3. 研究の概要
【要旨】 本研究では、アモルファス金属酸化物半導体(AOS)薄膜を用いた多層クロスバーアレイを開発し、ニューロモルフィックシステムへの実装を実現しました。AOS薄膜は熱処理を伴わない簡便なスパッタリング法(真空中でプラズマを用いて成膜する技術)で成膜できるため、下層構造にダメージを与えることなく、多層構造を実現可能です。まず、電極としてAu薄膜を蒸着し、導電性変化層としてアモルファスIn-Ga-Zn-O(α-IGZO)薄膜をスパッタリング法で蒸着し、これらを繰り返し、3つの導電性変化層それぞれが電極に挟まれた多層クロスバーアレイが完成します。次に、この多層クロスバーアレイを、制御回路なしで自律的に学習できる修正ヘッブ型学習によるニューロモルフィックシステムに実装しました。学習段階でアルファベット文字を学習し、推論段階でそれを再現できたことから、連想記憶機能を確認しました。これらの成果は、将来的にニューロモルフィックシステムにおけるシナプス素子の天文学的な大規模集積化(LSI化)につながるものです。
【ニューロモルフィックシステムへの実装】 AOS薄膜の多層クロスバーアレイのニューロモルフィックシステムへの実装は下記の通り。写真(a)では、ニューロン素子をFPGAボードに外付け形成し、シナプス素子としてAOS薄膜の多層クロスバーアレイに接続し、PCで制御しています。図(b)は学習段階で、青色の矢印は信号の方向、青色の明暗の四角は入力信号のオンとオフ、青色の明暗の菱形は入力電圧の正負を示しています。図(c)は推論段階で、緑の矢印は信号の方向、緑の明暗の四角は入力信号のオンとオフ、緑の明暗の菱形は入力電圧の正負、赤の明暗の菱形は出力電圧の正負、赤の明暗の四角は出力信号のオンとオフを示しています。
【連想記憶機能】 連想記憶機能にかかる実験は下図の通り。図 (a)はアルゴリズムを示し、学習段階では、"T "と "L "のアルファベット文字を学習させました。まず、"T "の3×3画素の2次元画素パターンを9成分の1次元信号パターンに変換し、その信号パターンをニューロンモルフィックシステムに入力。同様に"L "の信号パターンを順次入力。つづく推論段階では、"T "と "L "のアルファベット文字の再生にあたり、18個の対応電圧と反転電圧を水平電極に1秒間印加し、画素パターンを1×3画素の1画素反転パターンに変換。文字の少し歪んだ信号パターンを入力し、出力した画素パターンと比較する手順を何度も繰り返しました。 図(b)は実験結果。AOS薄膜の多層クロスバーアレイの偏差に起因すると思われる1つの失敗例を除き、アルファベット文字が正常に学習、再現されることが確認されました。
4. 用語解説
①)酸化物半導体を用いたニューラルネットワーク
人間の脳には1000億以上ともいわれる神経細胞が存在し、これらの神経細胞が電気信号を発することで、高度な情報処理が行われています。この人間が行っている情報処理と等しい機能を持つロボットを実現させるためには人間の脳を再現したデバイスが必要であり、人間の脳に近い集積度かつ小さく、低消費電力な回路が求めらます。木村睦研究室では、プロセス温度が低く、高集積化が容易である酸化物半導体を用いることにより、大規模なニューラルネットワークを構築することを目標としてます。
今回の実験で用いたアモルファス金属酸化物半導体(AOS)薄膜デバイスは、材料・構造・製造等をカスタマイズすることによって個々の要求に対して優れた性能を発揮することができるため、現在も広く利用されており、今後もさまざまな用途にも有望と考えられています。
②)龍谷大学 革新的材料・プロセス研究センター
2006年度開設の革新的材料・プロセス研究センターでは、「つかう」という視点にたった「ものづくり」に取り組み、私たちのこれからの未来に、省エネルギー・省資源という観点から材料を創出する革新的な設計と製造プロセスを構築する研究を行うと同時に、持続可能な循環型社会に「もどす」という視点にたったリユースプロセスの研究にも力を入れています。
5. 関連情報(本研究の紹介記事)
本学ニュースセンター(2022.11.25更新記事)
理工学研究科・院生を筆頭著者とする論文が国際ジャーナルに掲載!快挙の裏側に迫る
https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-11657.html
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このプレスリリースを配信した企業・団体
- 名称 龍谷大学
- 所在地 京都府
- 業種 大学
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