実践による課題解決力の養成や知識更新のための生涯教育がSDGs達成の一助となる
【東洋大学 SDGs News Letter Vol.17】東洋大学は“知の拠点”として地球社会の未来へ貢献します
2023.1.31発行
東洋大学
東洋大学 SDGs News Letter Vol.17
東洋大学は“知の拠点”として地球社会の未来へ貢献します
実践による課題解決力の養成や
知識更新のための生涯教育が
SDGs達成の一助となる
新学習指導要領にはじめて前文が設けられ、「持続可能な社会の創り手」「社会に開かれた教育課程」など、SDGsやESD(持続可能な開発のための教育)に関する内容が記述されました。SDGs達成の担い手育成に向けた、教育現場に対する期待の表れと言えます。今回は、情報連携学部情報連携学科にて「持続可能社会と情報マネジメント」を担当する平松あい准教授がESDの成り立ちや現状についてお話しします。
Summary
・ESDは開発教育・環境(公害)教育を発端に、「環境」「経済」「社会」へと領域を拡大し統合化
・子どもの発達段階に応じた教育的アプローチで、実践しながら課題解決力を養成
・社会における常識や規範の変容に伴い、自らの知識を更新することが重要
環境・経済・社会の3分野から成るSDGsとESDとの親和性
ESD(持続可能な開発のための教育)の成り立ちについて教えてください。
日本の環境教育は公害対策に端を発します。1960年代、高度経済成長期にあった日本で工業化が進展した結果、引き起こされたのが大気汚染や水質汚濁などの公害です。当時、欧州でも同様の問題が生じ、島国の日本とは異なり越境汚染が拡大したため、世界的にも警鐘が鳴らされました。1972年には「国連人間環境会議」が開催され、環境の保全・向上を目指す機運が高まります。1980年代に入ると、日本は都市化の一途を辿り、大量生産・大量消費・大量廃棄の時代が到来しました。それまでの公害問題は企業の経済活動に起因し、産業が市民の生活を阻害するという構図でしたが、都市化に伴い、今度は排気ガスや生活排水、家庭ごみなど人々の日常的な営み自体が汚染源となり、今日の環境問題へとつながってきました。
現代の環境教育に通じる基本的な枠組みとなったのが、1975年に作成された「ベオグラード憲章」です。当時は、経済成長とその裏側で生じる環境問題の解決について、どちらを優先するのかで活発な議論が交わされました。そして、環境破壊が年々深刻化する中で出された結論が、双方は対立ではなく補完的で共存関係にあるとする「持続可能な開発」という考え方なのです。
SDGsは、人類の課題を「環境」「経済」「社会」という3つの側面から捉えています。環境教育と聞くと自然環境保全を連想しがちですが、実際は人権侵害や雇用平等などの社会問題にも深く関わっており、さらに大きな枠組みで人々の消費や生活のあり方を考えるという方向に領域を拡大させてきました。一連のプロセスを経て提唱されたのが「ESD」であり、その後に策定されたSDGsとは極めて親和性が高い概念と言えます。
実際の教育現場ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。
新学習指導要領に盛り込まれた「主体的で対話的な深い学び」に則り、アクティブラーニングの視点から授業が展開されるようになってきています。初等中等教育、特に私立の教育機関では、論理的思考力や課題解決力を養成するSTEAM教育※に注力している学校が多く存在します。「SDGs教育」と銘打って個別の授業を設けるよりも、そういった授業にSDGsの考え方を取り入れたプランを組むことを推奨します。あらゆるテーマを通して、実践しながら解決策を見出し、SDGsへの理解を深めることに意義があると考えます。
※STEAM教育…STEM(Science, Technology, Engineering, Mathematics)に加え、芸術や政治経済など幅広い分野でA (Art)を定義し、各教科等での学習を実社会での問題発見・解決に生かしていくための教科等横断的な学習 (出典:文部科学省)
年齢が幼いとSDGsの概念を唐突に教えても本質的な理解は得られません。低学年など地域との関わりを通してアクションプランを実践し、学年があがるにつれてSDGsが策定された歴史的背景や重要性を学ぶなど、発達段階に応じたアプローチが必要です。小さな子どもには、ソーラーのおもちゃを通じてエネルギーを感覚的に学ぶなど、子どもの心に残るやり方で始めてもよいでしょう。また、環境意識を高めるためには、「ものを大切にする」など、家庭全体での日常的な取り組みが重要になります。
ソーラーおもちゃを使った授業の様子
常識や規範が変容する中で、生涯学び続けることの大切さ
ESDの推進、ひいてはSDGs達成に向けて今後何が求められるのでしょうか。
環境問題をはじめとした規模が大きく、公共性の高いテーマで社会的合意を得るには、「話し合い」が不可欠です。特定の意見のみを抽出、多数決で採択といった方法では根源的な解決は望めません。多様な人々がお互いの立場を認めて理解し合うとともに、解決策を見出すために創造的な議論を重ねることが、社会的合意形成の理想的なプロセスと言えます。近年では、AIを使った合意形成プラットフォームも開発されるなど、AIが分析、分類することで多くの意見を整理することが容易になってきています。日本はサイレントマジョリティーが多いと言われますが、より手軽に意見を出せるようになれば、新たな解決策が見つかる可能性もあります。
また、ESDでは体験すること、参加することが重要です。VRやメタバースを活用できれば、地球上のどこかで起きた問題も、当事者として現場を見るように理解することが可能になるかもしれません。そうなれば、より他者や地球とのかかわりを自分事として実感できるでしょう。
そして、注意しなければならないのは、「常識や規範は変容する」という事実です。特に環境分野に関しては認識の変遷が顕著です。例えばフロンガスは、1930年代には「夢の化学物質」と呼ばれていましたが、後にオゾン層破壊の原因になると判明し、規制されました。世界的に普及した殺虫剤、農薬のDDTも然りで、開発者は当時ノーベル生理学・医学賞を受賞しましたが、その有害性から現在は使用できません。私たちが学んできたことはもちろん、子どもたちが今まさに学んでいることさえ、未来永劫に正しいとは限らないのです。
重要なのは、自らの知識を更新していくための「生涯教育」です。SDG4「すべての人々に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する」は、開発途上国における就学率や識字率の向上だけを指しているのではなく、先進国を含む私たちすべての人間を対象としています。私が所属する情報連携学科でも社会人に向けたリカレント教育を推進しており、学びの場を広く提供しています。定着した固定観念や先入観を、時代に合わせて新たな知識を学び続ける中で適宜更新していく。寿命が延び、健康で長く活躍できるアクティブシニアも今後増えていくと思われますし、生涯教育のさらなる普及は、SDGs達成にも大きく寄与することでしょう。
平松 あい(ひらまつ あい)
東洋大学情報連携学部情報連携学科准教授/博士(工学)
専門分野:環境システム
研究キーワード:環境教育、持続可能性(Sustainability)
クオリティ・オブ・ライフ(QOL)
著書・論文等:家庭科へのLCA的思考法導入に向けた教科書のテキスト分析 (共著)
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