夏場の原因不明の体調不良…実は“かくれ脱水”? 医師が解説。脱水で同時に異常を起こす3つの臓器

評言社

株式会社評言社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:安田喜根)は、脱水症の権威である谷口英喜先生の新著『いのちを守る水分補給 ~熱中症・脱水症はこうして防ぐ』を2023年6月に発行しました。

 

年々進む温暖化の影響もあり、今年も酷暑が続きそうです。夏場、極端に体調を崩しているほどでないけれども、なんとなくだるい、疲れる、胃腸の調子が悪い、気分が悪い…そんな経験をしたことがある方も多いのではないでしょうか? 実はこの不定愁訴(なんとなく具合が悪い症状)の根源に、大量の発汗や水分摂取不足から起こる脱水が潜んでいることもあるそうです。まさに“かくれ脱水”。

脱水のメカニズムと谷口先生が“飲水学”と名付ける「脱水にならないための正しい知識」を、新著より紹介します。

 

【著者】

済生会横浜市東部病院 患者支援センター長/周術期支援センター長/栄養部部長

医師 谷口英喜先生

 

専門は麻酔・集中治療、経口補水療法、体液管理、臨床栄養、周術期体液・栄養管理など。日本麻酔学会指導医、日本集中治療医学会専門医、日本救急医学会専門医、日本外科代謝栄養学会指導医、TNT-Dメディカルアドバイザー。1991年、福島県立医科大学医学部卒業。学位論文は「経口補水療法を応用した術前体液管理に関する研究」。著書『いのちを守る水分補給~熱中症・脱水症はこうして防ぐ』(評言社)ほか多数。

 

脱水症の影響を受けやすい3つの臓器

従来は、喉が異常に渇く、尿の色が濃くなる、尿量が減るなどが脱水症状として、まことしやかに言われていました。しかし、高齢化やサプリメントなどの服用者が増えた影響で、それらのサインはあてにならなくなりました。それでは、どんな症状が脱水症状なのでしょうか。

 

成人のからだは、体重の6割が水分で占められています。その中でも、脳・消化器(胃・腸)・筋肉の3つの臓器は水分含有量が9割近くになり、脱水症の症状は水をたくさん必要とするこれらの3つの臓器に出現しやすいといえます。

また、1つの臓器症状ではなく、3つの臓器の異常が同時に出現することで、他の疾患の症状と脱水を見分けられることもあります。

 

たとえば、手足の麻痺、ろれつが回らないなどの症状が出たら脳梗塞を疑いますが、手足の脱力に意識レベル低下や食欲不振を併発(複合症状)していたら脱水症の可能性が高まります。

胃腸の場合、嘔吐、下痢、腹痛という消化器症状が中心ならば感染性胃腸炎、下痢、嘔吐に頭痛や筋肉痛をともなう複合症状であれば脱水症の疑いあり、といえます。

 

脱水症を疑う、3つの臓器の症状

脳に脱水症が起きたときは、脳血流が減少したり、脳実質の含有水分量が減少し、次のような症状が出ます。

 

意識レベル・集中力の低下、認知機能の低下 ◦頭痛・悪心 ◦けいれん・昏睡 

高齢者の場合はせん妄、記憶力や認知機能の低下

 

消化器官に脱水症が起きたとき、つまり胃や腸の血流が減少したり、消化器官自体の含有水分量が減少したりする時には、次のような症状が出現します。

食欲低下 ◦悪心・嘔吐 ◦下痢 ◦便秘 ◦腹痛 

 

筋肉に脱水症が起きると、筋肉に行く血流が減少したり、筋肉自体の含有水分量が減少すると、次のような症状が出現します。

筋力低下 ◦筋けいれん・こむら返り ◦筋肉痛 ◦麻痺

 

特に、小児や高齢者では、脱水症の症状に気がつきにくいので、これら3つの臓器の症状がないかをよく見るようにします。各臓器症状が重なって出現したら(複合症状)、大きな病気を疑う前に脱水症を疑うようにしてみてください。

 

 

すぐにできる脱水症の見つけ方

脱水症は3つの臓器異常症状の同時出現が発見の目安。疲れや痛みも脱水症のサイン

 

 

こんな不調もあんな不調も…実は脱水症が潜んでいる?

 

集中力・記憶力・認知機能の低下

脳に脱水症が起こると、中枢神経の異常が生じます。若い人では集中力の低下、高齢者だとせん妄症状や記憶力や認知機能が低下します。

万が一車を運転中に脱水症を生じると、集中力が低下して、交通事故につながる恐れも。

 

膀胱炎、腎盂腎炎を繰り返す 

介護者のおむつ交換の負担を軽減するために、水分投与を控えたら、結果として尿路感染症を繰り返し発症するようになってしまった。このケースでも、脱水症を起こしている可能性があります。

 

運動時のパフォーマンス低下 

脱水症により脳の血流が減少して集中力が低下したり、筋肉の血流が減少して、筋力の低下や動きが緩慢になったりします。パフォーマンスの低下は運動時のケガの原因にもなります。炎天下で野球の練習中に水分の補給を制限してしまうことで、結果としてパフォーマンスが低下し、実力を十分に発揮できない、などということがないように。

 

原因不明の微熱や痛み

脱水症は痛みを出現させたり、憎悪させたりもします。脱水症を治療すれば、鎮痛剤を使用することなく、水分補給によって痛みの治療ができる可能性もあります。

 

 

経口補水液を飲んでみる、 “診断的治療”

脱水症なのか、他の原因で体調が悪いのかが不明なときは、試しに経口補水液を飲んでみるという方法もあります。

経口補水液は小腸からもっとも水分が吸収されやすい割合で水・塩分・糖分が配合されている飲料で、摂った水・塩分が素早く身体に吸収され、脱水症を改善してくれます。経口補水液を試してみてほどなくして症状が改善したら、脱水症による体調不良であった可能性が非常に高いといえます。

このように、「病気の診断の検討をし、それに対する治療をしながら経過を観察し、その治療で効果がみられたら、その診断が適切であったとする診断・治療の方法」の診断的治療と言います。

気温が上がり脱水しがちな盛夏は、熱中症対策としても有効な経口補水液を自宅に備えておくのが良いでしょう。

一方、経口補水液を飲んでも体調不良が緩和されないときは、他の原因である可能性もあります。その場合は病院に行くようにしましょう。

 

 

脱水を効率的に緩和するには経口補水液

食事をきちんと摂っている場合は、お水だけでもいいですが、食欲がなくきちんと食事を摂れていないときは水と一緒に塩分も補給できる経口補水液を飲みましょう。

経口補水液は、「感染性腸炎、感冒による下痢・嘔吐・発熱を原因とした脱水症、高齢者の経口摂取不足を原因とした脱水症、過度の発汗を原因とした脱水症等のための食事療法(経口補水療法)に用いる」飲料とされています。

 

適量の塩分を摂らずに水だけを補給しても、かくれ脱水を解消することができません。脱水状態は水だけが不足しているのではなく、塩分も同時に失われた状態で、脱水時に水だけを飲むと一時的に血液が薄まります。体は水と塩分のバランスを調整しようとして水分の排泄が進み、かえって脱水状態を進行させることにもなりかねません。「脱水症」は、水+塩分も不足しているリスクがあることを意識しましょう。

 

 

かくれ脱水の予防は、熱中症の予防にもつながります。

脱水症の正しい対策を、わかりやすい専門書を通して理解しておけば、夏場の体調不良時にも役立つかもしれません。

 

 

書籍紹介

「いのちを守る水分補給 ~熱中症・脱水症はこうして防ぐ」

著者/谷口 英喜 定価: 1,400円(税別) 発行/2023年6月

 

一般飲料水から経口補水液まで、また 日常生活から脱水症まで。

経口補水療法の名医が教える、すぐに役立つ健康水の飲み方。

夏期の脱水症・熱中症を前に、麻酔医であり経口補水液療法の第一人者が、 「正しい水分補給」についてわかりやすく解説した、命と健康を守る人すべてに備えてほしい一冊です。「水」そのものに関する健康書はたくさんありますが、 病気のリスクを軽減する水分補給についての健康書は初でもあります。

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