DPP-4阻害薬が関連する水疱性類天疱瘡は通常の水疱性類天疱瘡と異なる特徴を有する
~病態解明への貢献を期待~
2024/11/26
北海道大学
岐阜大学
DPP-4阻害薬が関連する水疱性類天疱瘡は 通常の水疱性類天疱瘡と異なる特徴を有する ~病態解明への貢献を期待~
ポイント
・DPP-4阻害薬が関連する水疱性類天疱瘡は、通常の水疱性類天疱瘡とは異なる特徴を有する。
・HLA-DQB1*03:01を有する群では、この特徴はより顕著に。
・病態の解明及び適切な治療選択への貢献に期待。
概要
北海道大学大学院医学研究院の氏家韻欣客員研究員、氏家英之教授らと岐阜大学大学院医学系研究科の岩田浩明教授の研究グループは、DPP-4阻害薬*1に関連する水疱性類天疱瘡*2が、通常の(DPP-4阻害薬が関連しない)水疱性類天疱瘡とは異なる特徴を有し、HLA*3-DQB1*03:01を有する群において、その特徴はより顕著となることを明らかにしました。 水疱性類天疱瘡は高齢者に発症しやすい自己免疫性水疱症の一つです。原因は不明ですが、薬剤との関連も報告されており、近年では2型糖尿病治療薬であるDPP-4阻害薬を服用中の方で水疱性類天疱瘡の発症頻度が高いことが分かっています。しかし、DPP-4阻害薬に関連した水疱性類天疱瘡が、通常の水疱性類天疱瘡と異なるかどうかについては、未だ意見が分かれています。 本研究グループは、DPP-4阻害薬が関連する水疱性類天疱瘡では、紅斑の少ない非炎症型を示す例が多く、血中の自己抗体*4(抗BP180NC16a抗体)や好酸球数が少ないことを明らかにしました。また、標準的な治療法であるステロイド内服を必要とする例が少なく、これらの特徴は、HLA-DQB1*03:01を有する群でより顕著となることを明らかにしました。 今回の研究結果は、DPP-4阻害薬が関連する水疱性類天疱瘡と通常の水疱性類天疱瘡は、発症機序や病態が異なる可能性があることを示しており、今後の病態の解明やより負担の少ない適切な治療選択につながる一助となることを期待しています。 なお、本研究成果は、2024年11月22日(金)公開のJournal of the American Academy of Dermatology誌にオンライン掲載されました。 |
背景
水疱性類天疱瘡は最も多い自己免疫性水疱症の一つです。高齢者に好発し、皮膚や粘膜の水疱(水ぶくれ)やびらん、痒みを伴う浮腫性紅斑(膨隆した赤い発疹)を生じることが特徴です。高齢化が進むにつれ、患者数は増加傾向にあると考えられています。表皮と真皮の境界部にある基底膜に存在する接着因子の構成タンパクであるBP180やBP230に対する自己抗体が産生されることにより生じますが、なぜ自己抗体ができるかについてはまだ分かっていません。薬剤との関連も報告されており、2型糖尿病治療薬であるDPP-4阻害薬を内服中の方は水疱性類天疱瘡の発症頻度が高いことが分かっています。
研究グループは以前、日本人において、紅斑の少ない非炎症型を呈するDPP-4阻害薬が関連する水疱性類天疱瘡ではHLA-DQB1*03:01を有する率が高く、遺伝学的背景がDPP-4阻害薬内服による水疱性類天疱瘡の発症に関与する可能性を示しました(後述する「関連するプレスリリース」を参照)。
しかし、DPP-4阻害薬が関連する水疱性類天疱瘡と通常の水疱性類天疱瘡が臨床的、病態的に異なるかどうかは未だ意見が分かれています。
研究手法
本研究は、北海道大学病院皮膚科水疱症外来の患者様のうち、水疱性類天疱瘡と診断された205名を対象としました。水疱性類天疱瘡の診断時にDPP-4阻害薬を服用していた方を「DPP-4阻害薬が関連する水疱性類天疱瘡」とし、DPP-4阻害薬を服用していない方と臨床的特徴、検査結果、治療経過について比較検討しました。
研究成果
DPP-4阻害薬が関連する水疱性類天疱瘡では通常の水疱性類天疱瘡と比較し、BPDAI*5における膨疹/紅斑が少なく(図1)、血中において、水疱性類天疱瘡の主要な自己抗体とされる抗BP180NC16a抗体(図2)や好酸球数が少ないことが分かりました。一方、非炎症型の水疱性類天疱瘡で陽性率の高い抗全長BP180抗体はDPP-4阻害薬が関連する水疱性類天疱瘡の方が陽性率、抗体価ともに高いことが分かりました(図2)。DPP-4阻害薬が関連する水疱性類天疱瘡では、標準的な治療法の一つであるステロイド内服を必要とする例が少なく、ステロイド内服を要する例でも、通常の水疱性類天疱瘡と比較し、より早期に漸減することが可能でした。これらの特徴のうち、好酸球数やステロイド内服を必要とする割合の違いは、HLA-DQB1*03:01を有する群で、より顕著となりました。
さらに、通常の水疱性類天疱瘡では、血中の好酸球数が皮膚の水疱/びらんや紅斑の重症度と正の相関関係を示す一方で、DPP-4阻害薬が関連する水疱性類天疱瘡では、血中の好酸球数と皮膚の紅斑の重症度のみ正の相関を示し、水疱/びらんとは相関関係を示しませんでした(図3左)。また、興味深いことにDPP-4阻害薬が関連する水疱性類天疱瘡でのみ、抗全長BP180抗体とびらん/水疱の重症度が正の相関関係を示しました(図3右)。
以上のことから、DPP-4阻害薬が関連する水疱性類天疱瘡は、通常の水疱性類天疱瘡とは異なる特徴を有し、より副作用の少ない治療法での対処が可能な例が多いことが分かりました。また、抗BP180NC16a抗体以外の抗体が病態に関与し、水疱/びらんの形成に好酸球の寄与が少ない可能性があることが示唆されました。
今後への期待
DPP-4阻害薬が関連する水疱性類天疱瘡は、通常の水疱性類天疱瘡と発症機序や病態が異なる可能性が示唆されました。これにより、発症機序が解明される糸口となり、より病態に適した治療選択が可能となることが期待されます。
謝辞
本研究の実施にあたり、HLA解析にご協力いただいた理化学研究所 生命医科学研究所の大関健志博士と莚田泰誠博士に深謝いたします。本研究はJSPS科研費JP21H02938、日本医療研究開発機構(AMED)JP20ek0109430、厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)、上原記念生命科学財団、北海道大学(新たな学際領域を生み出す異分野融合研究拠点をコアにした若手研究者育成)の助成を受けたものです。
関連するプレスリリース
北海道大学プレスリリース「糖尿病の薬で皮膚の難病を発症するリスク因子を発見」
発表日:2017年12月7日
URL:https://www.hokudai.ac.jp/news/171207_pr.pdf
論文情報
論文名 Clinical characteristics and outcomes of dipeptidyl peptidase-4 inhibitor-associated bullous pemphigoid patients: A retrospective study(DPP4阻害薬が関連する水疱性類天疱 瘡の臨床的特徴と経過) 著者名 氏家韻欣1、片山 奨1、眞井洋輔1、眞井翔子1、葭本倫大1、村松 憲1、岩田浩明2、泉健太郎1、氏家英之1(1北海道大学大学院医学研究院皮膚科学教室、2岐阜大学大学院医学系研究科感覚運動医学講座皮膚科学分野) 雑誌名 Journal of the American Academy of Dermatology(皮膚科学の専門誌) DOI 10.1016/j.jaad.2024.09.067 公表日 2024年11月22日(金)(オンライン公開) |
参考図
図1. DPP4阻害薬が関連する水疱性類天疱瘡では紅斑の少ない症例が多かった。
(図中の「DPP4i」は「DPP-4阻害薬」の略。以下の図も同じ。)
図 2. DPP-4阻害薬が関連する水疱性類天疱瘡では、抗BP180NC16a抗体の値が低く、抗全長BP180抗体の値が高かった。
20241126-4
図3. DPP-4阻害薬が関連する水疱性類天疱瘡では、好酸球数は紅斑とのみ正の相関を示し、抗全長BP180抗体はびらん/水疱と正の相関を示した。
【用語解説】
*1 DPP-4阻害薬 … 糖尿病治療薬の一つ。低血糖を起こしにくく、広く用いられている。
*2 水疱性類天疱瘡 … 自己免疫性水疱症の一つ。高齢者に発症しやすく、皮膚や粘膜のびらん/水疱、かゆみを伴う紅斑が特徴的である。
*3 HLA … Human Leucocyte Antigenの略。ヒトの主要組織適合遺伝子複合体と呼ばれる遺伝子群のこと。HLAは免疫に関わる重要な因子であり、移植や自己免疫疾患などに関係する。
*4 自己抗体 … 自己の細胞など自分のからだの成分に対する抗体のこと。自己免疫疾患の原因となることがある。
*5 BPDAI … Bullous Pemphigoid Disease Area Indexの略。水疱性類天疱瘡の重症度を判定する国際基準として用いられている。
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このプレスリリースを配信した企業・団体
- 名称 国立大学法人東海国立大学機構岐阜大学
- 所在地 岐阜県
- 業種 大学
- URL https://www.gifu-u.ac.jp/
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