噴火の爆発力を蓄積する硬い“蓋”がなぜ短期間に修復されるのか?
火山の「繰り返し爆発」メカニズムを火口近傍の赤い岩石の成因から解明
ポイント
・ 繰り返し爆発が起こるタイプの噴火について、火口近傍の地質調査から、短時間に“蓋”が修復されるメカニズムを考慮した新しいモデルを構築
・ 噴火メカニズムに火口近傍の赤い噴出物の成因を織り込み、霧島山新燃岳の2018年噴火時に採取した赤い火山灰と照合
・ 離れた場所で採取される火山灰の解析から火口の状態を推定でき、噴火推移の予測につながると期待

概 要
国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「産総研」という)活断層・火山研究部門 松本 恵子 主任研究員と国立大学法人九州大学大学院理学研究院 下司 信夫 教授は、霧島山新燃岳の2018年噴火の終息後、火口近傍の岩塊と火口内壁について現地調査を行い、ブルカノ式噴火において特徴的な断続的に爆発が繰り返される物質科学的メカニズムを解明しました。
ブルカノ式噴火は、日本の火山でよくみられる噴火様式で、単発的な爆発が数時間や数日といった間隔をおいて繰り返されるという特徴があります。物理的には、火道の頂部に形成された溶岩の“蓋”が火山ガスを閉じ込め、その割れと修復の繰り返しが「繰り返し爆発」を引き起こすと解釈されています。しかし、短時間に“蓋”が形成されるメカニズムについては十分わかっていません。
本研究では、霧島山新燃岳において2018年の噴火が終息し、安全が確認された直後の2019年から複数回にわたって、山頂クレーターにたまった溶岩、その中央付近に形成された穴(火口)の内壁およびその周辺の調査を実施しました。そこで、火口の内壁にタフサイト脈が網目状に発達している様子や、火口近傍に大小さまざまなサイズで部分的に赤色に変化している岩塊が分布する様子を見いだしました。この特徴に基づき、爆発によって溶岩の“蓋”が破壊され、残った“蓋”とその内部に多数の割れ目を形成、その後タフサイトが割れ目に貫入し、“蓋”の深部において溶結することで割れ目がすばやく修復され、過剰圧が再蓄積されるという新しいモデルを構築しました。さらに、2018年の噴火の際に採取した赤色の火山灰の特徴と照合することで、この仮説の蓋然性の高さが検証されました。
この成果によって、噴火メカニズムとその時に飛散する火山灰の特徴とが関連づけられ、火口から離れた安全な場所で採取される火山灰の解析から噴火推移の予測につながることが期待できます。
なお、この研究成果の詳細は、2026年4月10日に「Geology」に掲載されました。
下線部は【用語解説】参照
研究の社会的背景
ひとたび火山が活動期に入ると、その活動がどのように推移し、いつ終息するのかについての見通しの精度を高めるためにさまざまな調査や観測が行われます。特に、火山灰は遠方にまで飛散するため、火口から離れた安全な場所で採取することができ、その量・化学組成・大きさ・形状といった情報が得られます。一方、これらの情報から火山活動の推移を予測するためには、火山の噴火メカニズムを知る必要があります。これまで、カメラ映像など火山灰と同時に観測された各種データに加えて、類似した過去の噴火や別の火山の火山灰組織との比較によってメカニズムを推測してきましたが、そもそも観測データと照合できる噴火の事例が少ないため、その精度は十分ではありませんでした。
火山の噴火には複数の様式があり、それぞれ異なるメカニズムがあります。そのうちの一つで日本の火山によくみられるブルカノ式噴火は、一つ一つの爆発の継続時間は短いものの、放出される火山弾が時に規制区域を超えて飛来し、空振が窓ガラスを破壊するなどその影響は広範囲に及びます。ブルカノ式噴火における爆発の繰り返しについて、物理観測に基づくモデルでは、火道の頂部に溶岩による“蓋”が形成され、その下方に火山ガスが蓄積し、圧力が高まって蓋を破壊すると説明されてきました。しかし、圧力を蓄積できる程度に硬い蓋を短時間に形成する物質科学的なメカニズムは明らかになっていませんでした。
研究の経緯
霧島山新燃岳では2011年に約300年ぶりに溶岩と軽石を噴出するマグマ噴火が発生しました。その後、2018年にもマグマ噴火が発生し、2025年には火山灰を放出するなど、断続的に活動しています。2018年の噴火が終息し、安全が確認された直後の2019年から複数回にわたって、関係機関の許認可を受けたうえで火口近傍調査を実施しました。
なお、本研究は、JSPS科研費JP19K14820(2019~2022年度)、JP22K14130(2022~2025年度)、JP19K04024(2019~2023年度)、JP22K03785(2022~2025年度)による支援を受けています。
研究の内容
ブルカノ式噴火は「高圧源の破裂」としてモデル化されています。火山ガスや地盤変動の観測に基づくモデルでは、火道の頂部に“蓋”が形成され、その直下に火山ガスを含んだ高圧源が存在すると考えられています。この蓋が瞬時に取り去られることで火道内の圧力が急速に減少し、火道内のマグマと火山ガスの体積が急激に膨張して噴出に至ると説明されてきました(図1)。火口から遠方で採取された火山灰や礫サイズの岩石の観察から、この“蓋”の正体は、結晶化が進み気泡をあまり含んでいない、緻密で硬い溶岩であると考えられています。しかし、このモデルで爆発の繰り返しを説明するには、硬い“蓋”が数時間や数日といった短時間で繰り返し形成される必要があります。噴火中の火口は危険で遠方からでも直接観察することが難しく、蓋がどのような物質でできていてどのような機構で開閉するのか、その実態はわかっていませんでした。

我々は、蓋の実態を理解するためには火口近傍の岩石を直接観察することが必要であると考え、2018年の噴火後に霧島山新燃岳の火口付近の地質調査を実施しました(図2)。霧島山新燃岳は2011年噴火より前には山頂のクレーターの底に湖がありましたが、2011年噴火の溶岩で埋没しました。今回研究対象とした2018年噴火は3月1日に開始し、3月6日にはクレーター内にある2011年噴火の溶岩の上に新たな溶岩が確認されました。溶岩流出は3月9日頃まで継続しましたが、それ以降は、溶岩流出口(火口)から爆発が数時間から数日おきに繰り返し発生するようになり、爆発間隔を開けながら6月27日まで続きました。この期間の爆発がブルカノ式噴火にあたります。調査では山頂クレーター周辺、溶岩の上、中央の火口内部の岩石を観察しました。

火口近傍には数メートルから数センチメートルまでさまざまなサイズのブロック状の溶岩片がありました(図2・3)。これらの溶岩片にはしばしば赤色化がみられ、タフサイト脈を含み、それがさまざまな溶結度合いをもつという特徴がありました。また、分布の範囲からすべてブルカノ式噴火によるものと推定しました。さらに、観察できた地表からおよそ20メートルまでの火口内壁にも、網目状に発達する赤色のタフサイト脈が確認されました(図4)。我々は火口近傍の岩石を赤色化の有無(2段階)と溶結の程度(3段階)で6種類に分類し、それぞれの岩石組織の成因から蓋の強度とガス浸透性についての情報を集め、ブルカノ式噴火のメカニズムを考察しました。


まず赤色化について、肉眼で赤色にみえる岩石はそのサイズ(数ミリメートル~数メートル)を問わず最表面のみが赤色化しており、顕微鏡による詳細な観察から、赤みは直方輝石のマイクロライトに生じた赤鉄鉱の微粒子に起因することがわかりました(図5)。先行研究の安山岩質マグマの高温酸化実験によると、このような赤鉄鉱は高温かつ酸化的な環境で直方輝石が酸化分解することにより数日間で生じます。すなわち、火口近傍岩石の観察結果からは、岩石がさまざまなサイズに粉砕されたあとに、少なくとも数日程度は高温かつ酸化的な環境に置かれていたことが推測されます。次に、溶結組織の顕微鏡観察を行ったところ、タフサイトを構成する火砕物(火山灰や礫)が非溶結の場合はブロック状で多くの空隙を含むのに対し、弱溶結、強溶結と溶結の程度が強くなるにつれて火砕物どうしが固着したり塑性変形して偏平になったりして、空隙がほとんど含まれなくなることがわかりました。これはタフサイト脈の溶結が強くなると、ガスをほとんど通さなくなることを意味します。さらにタフサイト脈の引張強度の測定から、非溶結ではゼロ、弱溶結ではタフサイト脈周囲の岩石と同程度である引張強度が、強溶結のタフサイト脈ではおよそ2倍となることを示しました。これはタフサイト脈の溶結により蓋の強度が回復することを示しています。

以上の結果からさまざまなレオロジー(塑性・脆性)やガス浸透性をもつ岩石が噴火に関与していたことが示唆されました。これらの観察事実を基に、我々は、噴火前の火道頂部の蓋が深部と浅部で異なる構造をもっていて、「高封圧・高温で塑性変形しやすくガス浸透性が低い深部」と「低封圧・低温で脆性的であり、ガス浸透性が高い浅部」という構造をもつと考えました(図6)。最初の爆発で蓋がさまざまなサイズに破砕され多量の亀裂とタフサイト脈が形成されますが、蓋の深部では岩石が塑性変形し、タフサイトが強く溶結することで癒着します。癒着により深部からの火山ガス流出が抑えられ、同時に蓋の強度が回復します。これによって火山ガスがふたたび蓄積し圧力が増加します。一方、蓋の浅部の岩石はほとんど溶結せず、火山ガスや大気が容易に循環でき、蓋の強度も比較的低い状態にとどまるという構造です。直接観察できた火口内壁(地表から20メートル)の岩石(図4)は非溶結から弱溶結で、蓋のもっとも浅い部分にあたります。また火口近傍の岩石は、そのほとんどが赤色で非溶結から弱溶結のタフサイトを含んだ岩石であり、赤色で強溶結の岩石は一つのみ、黒色で非溶結の岩石は調査中に確認されず、弱溶結の岩石はまれに、強溶結は少量のみ確認されました(図3)。すなわち、ブルカノ式噴火で噴出した岩石は、一部で「蓋の深部」の岩石を巻き込みながらも、その大部分は脆性的でガス浸透性が高い「蓋の浅部」に由来すると推定されます。
個々の岩石が表面のみ赤色酸化していた理由もこの蓋のモデルで説明できます。地表より地下のほうが圧力が高く、圧力勾配により火口からはつねに火山ガスが流出するので、通常、それをさかのぼって大気が侵入することはありません。しかし、火山ガス流出が停止すれば大気は浸透することができます。このことから、赤い岩石の存在は、蓋の深部でのタフサイトの溶結により一時的に火山ガス流路が閉塞されていたという考えを支持します。さらに、酸化が起こった場所と成因から、赤い火砕物が示す噴火のプロセスを推定できます。火口内壁、すなわち「吹き飛ばされず残された浅部の“蓋”」に赤色酸化したタフサイトが確認され(図4)、またその微細な組織から、岩石が割れたあとに酸化が起こったことがわかりました。噴火は非常に還元的なマグマと酸化的な大気が接触する現象ですが、「マグマが火道を上昇し、割れ、爆発的に地表にもたらされ、大気中を輸送され、広範囲に堆積する」といった、物理化学的条件が急激に変化する一連の噴火のプロセスのうち、どの段階で火砕物と大気が反応するのかほとんどわかっていませんでした。本研究により、ブルカノ式噴火において赤色火砕物は、マグマの上昇中でも地表での輸送・堆積中でもなく、繰り返し爆発を起こす火口の“蓋”の一部としてとどまっている間に数日かけて形成された火砕物だったと推定されました。
以上のように、浅部と深部で異なる物質的性質をもつ蓋を想定し、亀裂の形成と癒着という素過程を考えることで、爆発が繰り返し起こるメカニズムとそれに伴う噴出物組織の特徴を精緻に説明することができました。

これらの結果は、物理観測に基づく従来のブルカノ式噴火モデルを精緻化するだけでなく、これまで独立に解釈されていた火山ガス・火山灰といった観測項目についても統合的に説明できるモデルです。たとえば、ブルカノ式噴火の爆発前に火山ガス放出量の低下がしばしば観測されますが、これは蓋深部の閉塞により火山ガス流出が抑えられ、ガスの再蓄積が起こっていると解釈できます。また2018年噴火では、遠方で採取された火山灰のうちブルカノ式噴火に対応する試料に、特徴的に赤い火山灰が含まれることを報告しています*。この赤い火山灰は、火口近傍で観察された赤い噴出物の特徴と一致します。これにより、仮に火口が直接観測できない状況であっても、火口から遠方で採取された火山灰に赤色酸化がみられた場合、火口において蓋の形成、亀裂発生、閉塞というブルカノ式噴火が発生していたことが推測できます。本研究は、これまで暗黙に想定されていた蓋の実態を精緻化し、各観測の空白を埋める重要な物質科学的モデルを提示しました。
今後の予定
今後は霧島山新燃岳の2011年や2025年噴火時に採取された火山灰を観察し、噴火当時の各種観測データと照らしあわせることで、提案した噴火モデルの普遍性や新たな噴火メカニズムの考察を行います。
論文情報
掲載誌:Geology
タイトル:Repeated fracturing-healing behavior of lava plugs drives intermittent explosions during Vulcanian eruptions
著者名:Keiko Matsumoto and Nobuo Geshi
DOI:10.1130/G54286.1
参考文献
*Matsumoto K., Geshi, N. Shallow crystallization of eruptive magma inferred from volcanic ash microtextures: a case study of the 2018 eruption of Shinmoedake volcano, Japan. Bull Volcanol. 2021, vol. 83, 31.
DOI: 10.1007/s00445-021-01451-6.
用語解説
ブルカノ式噴火
安山岩質火山に典型的にみられる爆発的な噴火様式の一つ。短い継続時間の爆発とともに火山灰や火山岩塊、火山弾が放出される。数時間から数日おきに爆発が繰り返されることが多い。
火道
地下にたまっているマグマが噴火の際に通過する上昇経路。過去と同じ経路を利用する場合もあるが、岩盤を破壊しながら新しい通路が形成される場合もある。
タフサイト
火山性のばらばらな物質(火山砕屑岩、火砕岩)、特に火山灰や火山礫で構成される岩石。タフサイトが脈状に貫入したものはタフサイト脈と呼ばれる。
直方輝石
輝石のうち結晶系が直方晶系(斜方晶系)の鉱物。化学組成がMgSiO3とFeSiO3からなる固溶体をなす。和名では斜方輝石と表記されることもあるが、近年は直方輝石との表記が推奨されている。
マイクロライト
火山岩の石基を構成する数マイクロメートル~数百マイクロメートルの鉱物。安山岩質マグマでは、斜長石、輝石、鉄チタン酸化鉱物である場合が多い。マグマが火道を上昇する間の物理化学的変化による結晶化で生じたと考えられる。マイクロライトの種類、数密度、化学組成などの解析によりマグマの上昇プロセスが推定される。なお石基とは、火山岩の斑晶の間を埋める部分のこと。微細な鉱物やガラスからなる。火成岩のなかで火山岩を特徴づける岩石組織。
塑性変形
物質に力を加えると変形し、力を取り除いても元の形に戻らないこと。
レオロジー
物質の変形・流動の性質や機構、もしくはそれらを扱う学問分野。地球科学では主に岩石・鉱物・マグマなどの変形・流動・破壊現象を指してレオロジーと呼ぶ。
脆性
物質に力を加えると変形をほとんど伴わずに破壊される性質のこと。
プレスリリースURL
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2026/pr20260427/pr20260427.html
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このプレスリリースを配信した企業・団体
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- 所在地 茨城県
- 業種 政府・官公庁
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