加古隆と宮沢賢治 「ことば」と「音楽」が響き合う世界
加古隆と宮沢賢治 「ことば」と「音楽」が響き合う世界
2026年11月から12月にかけて、加古隆コンサート「銀河の旅びと~宮沢賢治と私」が大阪・神奈川・岩手で開催される。「賢治から聴こえる音楽」を軸に、宮沢賢治が残した詩や童話の「ことば」と、加古隆の「音楽」が出会い、新たな音楽の結晶として蘇る。日本を代表する二人の芸術家が生み出す創造とは。そして、「ことば」と「音」が響き合う旅の先に、どんな景色が広がるのか。コンサートを前に、音楽家・加古隆さんにお話を伺った。

宮沢賢治との出会い
――宮沢賢治の作品のどんなところが加古さんの心を捉えたのでしょうか。
宮沢賢治の作品は子どもの頃から読んでいましたが、特にファンというわけではなかったんですね。強く覚えているのは、ヨーロッパに住んでいた頃のことです。ある寒い冬の雨の日、部屋に閉じ込められて何日か過ごしていた僕は、ちょうど手元にあった賢治の短編集を読んだんです。その時、東北の自然の中へ自分が瞬時に移動したような、非常に爽やかで、それでいてみずみずしい感覚を得たんです。野原の自然描写だったのですが、自分の気持ちが救われて。それから賢治という人が、心の中に強く印象づけられていました。
――賢治の作品に描かれる「自然」に惹きつけられたのですね。
まず、彼が農民であることを非常に大切に捉えている中で、東北の「自然」の描写は、とても魅力的ですね。そして、「銀河鉄道」に出てくるような「宇宙」への強い憧れや夢を持っていたと思うのですが、僕も子どもの頃からそうだったので、共感するところがたくさんあります。
――東京藝術大学大学院卒業後、パリ国立高等音楽院で作曲を学ばれ、20代の大半をパリで過ごされたそうですが、そこでの学びは、現在の音楽にもつながっていますか。
20代をパリで過ごしたことは、僕の生涯に大きな影響を与え、今の僕を作ったと思っています。世界中の人と出会い、日本を離れたことによって日本を客観視するという体験を得ました。そして、僕が師事したオリヴィエ・メシアン先生に教わった一番大切なことは、「あなたは日本人、それはあなたにとってとても大きな宝物です」と言われたことですね。僕は音楽で表現するとき、日本人の自然、あるいは四季に対する感性の影響を受けずには音を出せないんです。日本人であることの特別な感性を持っているのだと感じました。
――その感性は、宮沢賢治の世界とも通じるものがありそうですね。
やはり、みずみずしい言葉の表現には、日本的な世界観が確実にあると思います。彼の言葉の響きや詩情あふれる世界と、僕の音楽が持っている世界には、非常に共通するものがある。一方は言葉で、一方は音楽で、違うジャンルでありながら、お互いに響き合うことができるんです。音楽だけを聴くより、そこに賢治が選んだ美しい言葉が加わることで、さらにイメージが広がる。言葉が音楽の響きを持って人の心に迫ってくる。今回の作品を上演するにあたり、これが一番、僕が望んでいることですね。

「言葉」と「音楽」、二つの世界が響き合う
――宮沢賢治をテーマとしたコンサートを上演するきっかけは何だったのでしょうか。
もともとは、1988年に発表した「Kenji」という作品がベースになっています。その後しばらくレパートリーから外れていましたが、僕の心の中ではとても大切にしていた作品でした。2023年にデビュー50周年の節目を迎え一区切りついたので、2024年のツアーのテーマとして、「Kenji」のリバイバル版として、再び宮沢賢治をテーマとした作品を上演したいと思いました。当時はチェロが中心だったところを、加古隆カルテットのために編曲や部分的な改作をするなどして挑みました。自分にとって古い作品だったので、ちゃんとできるかどうか不安もありましたが、実際に演奏してみると、当初感じた音楽の美しさは健在でした。他に比べるものがない独特なステージと音楽作品なので、やって良かったなと思いました。音楽というのは、年を取らないんだなって実感しましたね。
――賢治の「言葉」を「音楽」で表現してみて、感じられたことはありますか。
「言葉」と「音楽」の、こういう出会い方って素晴らしいなと感じました。例えば、言葉が主役であったとすると、音楽は脇役で、あるいはその逆の場合が多いと思います。でも、このコンサートではどちらも主役なんです。宮沢賢治の言葉、そこから想像できるさまざまな風景や情景を含め、彼が生み出す世界観と、僕の音楽が持っている響きの中から見えてくる世界が、互いに響き合っているんですね。それが、この作品を好きだなと思える理由です。

――賢治の「言葉」に、特にどんな魅力を感じていますか。
個人的な受け取り方になりますが、賢治の本を読むと、いくつかの言葉や短いフレーズが、僕自身にとても響くものがあります。それは、彼が純粋で透明な心で憧れていった時に出てくるような、賢治独特の言葉遣いと感じます。僕自身が音を探す時も、やはりある強い思いを持って音を探すんですね。言い方を変えると、その音に憧れるんです。こういう色合い、光の加減、波動などを強く思い描いて探していると、ある音が浮かぶ時がある。思い浮かべて、それをどんどん集中して想像していくと、そこに音楽が生まれてくる。それは、憧れる力によって出てきていると思うんです。賢治の言葉にも共通するものを感じます。例えば、草原の草がキラキラと光っている、空が光りキインと鳴る、と表現する。彼の作品は、とても音楽的なんですよね。実際に賢治は音楽がとても好きだったことを知り、その強い感性が、僕にとって彼の魅力ですね。
心が震える感動を届けたい
――これまでの音楽家人生を振り返った時、賢治との出会いは、ご自身の創作にどんな影響を与えたと思われますか。
言葉は、僕にとっては難しい相手だったんです。だから、賢治の言葉と出会ったことは、僕にとって大変素晴らしいことで、言葉の意味を踏まえて音楽を生み出すことができたと思っています。僕が自分の音楽の中で出会ったのは、パウル・クレーであったり、葛飾北斎であったり、もう少し視覚的なものだったのだけれど、言葉と音楽というのは、僕の作品の中で非常に少ないんですよ。僕はインストゥルメンタルな作曲家なんだろうと思っているのですが、その中で唯一と言っていいほど、言葉と深く結びついてできた作品です。そういう意味では、大変貴重な出会いだったと思っています。
――最後に、今回の「銀河の旅びと~宮沢賢治と私」の見どころと、コンサートを楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。
宮沢賢治の言葉と、僕の音楽の世界が、お互いに触発し合い、共鳴し、より豊かに響くことで、爽やかでありながら心が震えるような深い感動を届けたいと思っています。特にライブのコンサートでは、その時でしか生まれないものがある。その瞬間にしか生まれない強い印象を、その人の時間の中に残していけたらと思います。他にあまりない形ですから、ぜひライブで感じていただきたいです。また、第一部は、久しぶりに加古隆カルテットだけで全て演奏し、「パリは燃えているか」をはじめ、僕の代表曲も聴いていただこうと思っています。見どころは満載だと思いますので、ぜひ、足を運んでいただきたいですね。

加古隆コンサート「銀河の旅びと~宮沢賢治と私」
演奏予定曲目(演奏曲目は変更になる場合がございます。)
<第1部:加古隆クァルテット~パリは燃えているか~>
パリは燃えているか、白い巨塔、黄昏のワルツ、アヴェ・マリア、それぞれの海、ハ短調「幻影」、他
<第2部:賢治から聴こえる音楽>
「永訣の朝」「風の又三郎」「銀河鉄道の夜」他
公式ホームページ https://takashikako.com/concert/schedule/
大阪公演
日時:2026年11月7日(土) 開演14:00 (開場13:30)
会場:住友生命いずみホール
お問い合わせ:キョードーインフォメーション 0570-200-888
神奈川公演
日時:2026年11月14日(土) 開演14:00 (開場13:30)
会場:神奈川県立音楽堂
お問い合わせ:キョードー横浜 045-671-9911
岩手公演
日時:2026年11月28日(土) 開演14:00 (開場13:15)
会場:盛岡市民文化ホール 大ホール
お問い合わせ:キョードー東北 022-217-7788
大阪公演
日時:2026年12月12日(土) 開演14:00 (開場13:30)
会場:東大阪市文化創造館 小ホール
お問い合わせ:キョードーインフォメーション 0570-200-888
料金:¥7,700(全席指定/税込価格/未就学児童不可)
出演:ピアノ・ソロ 加古隆
加古隆クァルテット・・・加古隆 (Pf.)・相川麻里子 (Vn.)・南かおり (Va.)・植木昭雄 (Vc.)
Vc.:奥泉貴圭 大阪(11/7)、盛岡
朗読:加古臨王(第2部のみ)
※チェロ奏者は、以下の担当になります。
神奈川(11/14)・東大阪(12/12)植木昭雄/大阪(11/7)・岩手公演(11/28)奥泉貴圭
取材:夕月美奈、撮影:GEKKO、宣伝:キョードーメディアス
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