界面活性剤の環境リスク評価を精緻化する1-オクタノール/水分配係数(Pow)測定ガイダンスを公開
~洗剤や塗料などに使われる界面活性剤の環境中での分布をより正確に評価可能に~
独立行政法人製品評価技術基盤機構[NITE(ナイト)、理事長:長谷川 史彦、本所:東京都渋谷区西原]は、界面活性剤(*1)の1-オクタノール/水分配係数(Pow)(*2)について、低速かくはん法(OECD TG 123)(*3)に基づき測定条件を最適化することで、これまで困難とされていた信頼性の高い測定を実現し、推奨測定手順を整備しました。その結果、アニオン、カチオン、両性、非イオンといった多様な界面活性剤に対し、信頼性および再現性の高いPow測定を可能とする手法を提案し、その成果を測定ガイダンス「低速かくはん法による界面活性剤の1-オクタノール/水分配係数」として公開しました。
界面活性剤は洗剤や化粧品、塗料やインクなど日常生活の幅広い製品に利用されていますが、その環境リスクを評価するためには、環境中での分布や生物への蓄積を適切に評価することが不可欠です。Powは、化学物質が環境や生物体内でどのように分布・蓄積されるか、また、生物に影響を及ぼす可能性があるか評価する上で、重要な指標の一つです。
一方で、界面活性剤は、水と油の両方になじみ、双方を混ざりやすくする性質があるため、水と油のどちらに溶けやすいかを示すPowの信頼性の高い測定は、通常の化学物質よりも難しいという課題がありました。
本測定ガイダンスでは、界面活性剤のPowを信頼性および再現性高く測定するための手順や留意点に加え、実測データや適用事例など、実際の測定現場で活用できる情報を体系的に整理しています。また、現場での実施をサポートする測定マニュアルも別添資料として公開しました。本測定ガイダンスにより、界面活性剤の環境リスク評価の精緻化が期待されます。また、その評価結果を活用することで、環境負荷のより低い界面活性剤の選定や開発につながることが期待されます。
【背景】
界面活性剤は、洗剤や化粧品、塗料やインクなど私たちの生活に広く利用されています。一方、その使用量が多いため、特に水環境への排出量も多く、適切な環境リスク評価が求められています。
化学物質のリスク評価では、「その物質が環境中でどこにどれだけ存在するか」や、「生物の体内にどの程度蓄積するか」を把握することが重要です。その代表的な指標の一つが「1-オクタノール/水分配係数(Pow)」です。Powは、ある化学物質が水と油のどちらに溶けやすいかの性質を数値で示し、化学物質の環境中での分布や生物蓄積性評価の基礎データとなります。
Powと環境中での分布や生物蓄積など主要パラメータとの関係
しかし、界面活性剤は「水にも油にもなじみ、双方を混ざりやすくする」という特殊な性質を持つため、従来のPow測定法(フラスコ振とう法(*4)、HPLC法(*5))では信頼性の高い測定が難しいという課題がありました。そのため、これまでは、界面活性剤の場合は溶解度比法(*6)や定量的構造物性相関モデル(QSPR)(*7)によるPow推計が行われてきましたが、信頼性を十分に評価できず、不確実性が大きいという課題が残されていました。また、現時点において、国際的な試験法ガイドライン(OECDテストガイドライン)(*8)には、界面活性剤のための標準化されたPow測定法は整備されていません。
【NITEの取り組み】
NITEでは、界面活性剤に適用可能なPow測定法が国際的に整備されていない現状を踏まえ、従来は「高疎水性物質のPow測定用」として開発され、先行研究において界面活性剤への適用可能性が示されていた、OECDテストガイドラインの低速かくはん法(OECD TG 123)に着目しました。本法をもとに測定条件の最適化を進めることで、アニオン、カチオン、両性、非イオンといった多様な種類の界面活性剤についても、信頼性および再現性の高いPow測定を可能とする手法を提案しました。
これらの成果をもとに、測定ガイダンス「低速かくはん法による界面活性剤の1-オクタノール/水分配係数」および実務者向けの測定マニュアルを策定しました。
測定ガイダンスは、測定手順に加え、開発背景や検討過程、具体的な適用事例、予測値との比較、再現性の評価、測定結果の妥当性判断に活用できる実例、他機関・他手法(HPLC法・溶解度比法)との比較・検証データなど、現場で役立つ情報を網羅しています。
また、別添の測定マニュアルは、実際の測定現場での運用を想定し、測定手順のみを8ページにまとめました。OECD TG 107、117、123および対応するJIS規格(JIS Z 7260-107、JIS Z 7260-117)を参考に、試験手順や評価方法に加えて、項目構成や記載内容も国際規格と整合性を持たせて作成しています。
本測定ガイダンスおよび測定マニュアルは、主に研究機関・試験機関・企業などでの活用を想定しています。測定ガイダンス作成にあたっては外部有識者によるレビューを受けて信頼性を確保し、検討の過程や成果は関連学術誌(*9)等を通じて広く公開しています。
【期待される効果】
今回の測定ガイダンスの公開により、これまで測定が難しかった界面活性剤についても信頼性の高いPowデータの取得が可能となり、化学物質のリスク評価の精緻化が期待されます。これにより、メーカー、研究機関、行政機関などでの科学的根拠に基づく意思決定の高度化に寄与します。さらに、今後測定手法が標準化されれば、信頼性の高いデータの活用が促進され、適正な化学物質管理の推進が期待されます。加えて、その評価結果の活用により、環境負荷のより低い界面活性剤の選定や開発につながることが期待されます。
【用語説明】
(*1) 界面活性剤
水になじみやすい親水基と油になじみやすい親油基を持ち、水と油のように本来は混ざりにくいものも、なじませて混ざりやすくする性質を持つ化学物質。汚れを落とす働きや液体を均一にしてその状態を保つ働きがあるため、洗剤や化粧品など身の回りのさまざまな製品に使用されている。
(*2) Pow
1-オクタノール/水分配係数。化学物質が「1-オクタノール(油)」と「水」のどちらに溶けやすいかを数値で示す指標。
(*3) 低速かくはん法
1-オクタノールと水をゆっくりとかき混ぜ、Powを測定する方法。経済協力開発機構(OECD)が定めるPow測定の標準的・国際的な試験法の一つ。一般に界面活性剤には適用が困難とされているが、先行研究では本手法の適用可能性が提案されている。
(*4) フラスコ振とう法
水と1-オクタノール(油)の入った容器に被験物質を入れて十分に振り混ぜ、その後、水相と油相(オクタノール相)に分離させる。それぞれの相にどれだけ被験物質が溶けているかを測定し、両相の濃度比からPowを求める方法。
(*5) HPLC法
HPLC(高速液体クロマトグラフ)を用い、被験物質がカラム内に保持される時間(本法の場合は水に溶けやすいほどカラムに短時間保持され、油に溶けやすいほどカラムに長時間保持される)を測定し、標準物質(カラムに保持される時間が既知の物質)と比較することによりPowを推定する方法。
(*6) 溶解度比法
被験物質の「1-オクタノール(油)」への溶解度と「水」への溶解度をそれぞれ調べ、その比をPowと仮定する方法。
(*7) 定量的構造物性相関モデル(QSPR)
化学物質の構造の情報と既知の物性情報との関係を統計的に解析して作成される、データのない化学物質の物性を構造から予測する数理モデル。
(*8) OECDテストガイドライン
経済協力開発機構(OECD)が定める化学物質評価のための国際的な標準試験法。
(*9) 関連学術誌
本研究で得られた測定条件や科学的根拠の詳細は、論文「低速撹拌法を用いる界面活性剤の1-オクタノール/水分配係数測定」として、日本分析化学会誌(74巻・10.11号・p.687-694・2025年)に掲載。
【関連情報】
https://www.nite.go.jp/chem/risk/surfactant_logpow_guidance.html
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このプレスリリースを配信した企業・団体
- 名称 独立行政法人製品評価技術基盤機構
- 所在地 東京都
- 業種 政府・官公庁
- URL https://www.nite.go.jp/
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