世界初・生体素材とイオンでつながるバイオトランスデューサを開発

早稲田大学

2018/7/13 10:38

早稲田大学の三宅丈雄准教授と東京農工大学の太田善浩准教授の研究グループは、電流のオン/オフによって溶液中プロトンの脱吸着を制御できるプロトニック有機電極を開発し、ミトコンドリアと組み合わせることでエネルギー分子の合成を制御することに世界で初めて成功しました。

2018-07-13

早稲田大学

世界初・生体素材とイオンでつながるバイオトランスデューサを開発
体内エネルギー源「ATP」の合成をプロトニック有機電極で制御

【発表のポイント】
●溶液中プロトン濃度を電気制御するプロトニック有機電極“バイオトランスデューサ”を開発
●単離ミトコンドリアへ外からプロトン注入あるいは抽出することで、ATP合成の制御に成功
●細胞の生死に関わるミトコンドリア機能やプロトン駆動型生体素材(膜タンパク質やトランスポーターなど)をプロトンで制御できる刺激電極開発が期待

【概要】
早稲田大学大学院情報生産システム研究科の三宅丈雄准教授と東京農工大学大学院工学研究院生命機能科学部門の太田善浩准教授の研究グループは、電流のオン/オフによって溶液中プロトン(H+, 水素イオン)の脱吸着を制御できるプロトニック有機電極(バイオトランスデューサ)*1を開発し、ミトコンドリアと組み合わせることでエネルギー分子(ATP)の合成*2を制御することに世界で初めて成功しました。本デバイスは、細胞の生死に関わるミトコンドリアの機能制御に加え、プロトン駆動型生体素材(膜タンパク質やトランスポーターなど)へのプロトン濃度(pH)計測および刺激電極としての利用が期待されます。本研究は、2018年7月12日(木)午前10:00(イギリス時間)にNature Publishing Groupの電子版科学誌「Scientific Reports」にオンライン版で公開されました。

【背景】
ヒトを始めとする生体素材は柔らかく、かつイオン制御によって、高度な機能を実現しているのに対し、ヒトが作るデバイス素子は固く、そして電子制御により優れた機能を実現しています。この相反する素材を有機的に統合する技術開発は、今後バイオ素材と触れ合うデバイスを開発する上で本質的な課題とされています。バイオエレクトロニクスは、こうした生体/デバイス界面での利用が期待されており、これまでに血糖値センサを始めとする数多くの生体計測デバイスが開発されてきました。ただし、その多くは生体からデバイスへの一方向の情報伝達であり、かつ、その計測手法は界面電荷(静電容量)を用いた電子制御が主であるため、細胞や組織など多くのイオン種を同時に放出する生体素材には適応できませんでした。このような課題に対し、本研究グループは溶液中のプロトンを直接計測できるProtode電極を用いることで、イオン種の計測あるいは、イオンを用いた生体への刺激を実現し、生体素材とデバイス素子が双方向に情報伝達できる革新的なバイオトランスデューサの創出に取り組んでいます。

【研究の成果】
●導電性高分子電極を用いた電気化学式pH制御システムの構築
これまでバイオプロトニクス分野において、溶液中のプロトン(H+)と親和性の高いProtode電極として、パラジウム(Pd)金属が使われていました。しかし、パラジウムは希少金属であり、また還元反応(Pd + e- + H+ → PdH)に高い電圧(-0.9V vs. Ag/AgCl程度(pH7))が必要なため、生体内での利用に適しません。そこで、生体適合性が高く、かつプロトンと優れた親和性を持つ導電性高分子であるスルホン化ポリアニリンを新たに開発しました。ポリアニリン導電体は、古くから知られた素材であり、燃料電池を始めとする電気化学分野で広く利用されています。我々は、これら素材にスルホン基を修飾することでプロトン親和性を向上させ、脆弱なバイオ素材との界面で利用する応用研究に取り組みました。プロトン反応を引き起こす酸化還元電位は、±0.5V以下と低く、かつ、Pdなど金属電極と比べ副反応が圧倒的に少ないことが分かりました。本有機電極を用いることで、溶液中のpHを計測することに加え、積極的に溶液pHを制御することにも成功しました(図2)。本研究では、ミトコンドリア研究で利用されている10 mM Tris-HCl緩衝液を用いて、溶液pHを6.0から7.5の範囲で自在に制御することを実現しました。

●電気化学pH制御によるミトコンドリア内ATP合成制御
ミトコンドリアは、体内の化学反応で利用されるエネルギー源”ATP”を作る細胞内小器官です。そのため、体を動かしたり、神経を働かせたりするのに必要不可欠な器官です。また、ダメージを受けるとエイジングと関連の深い活性酸素を多く放出する場所でもあり、健康や美容においても重要な働きをします。ATP合成や活性酸素の発生は、プロトンと密接な関係にあり、ミトコンドリア周囲のプロトンによって制御されています。本研究では、豚の心臓からミトコンドリアを単離精製し、これらを有機電極と組み合わせることでミトコンドリア機能(ATP合成)の制御を試みました。1987年、Rouslinグループが行った溶液中のpHを液滴によって制御しATP合成を評価した結果では、pHが7.3から6.3と約10倍のプロトン濃度変化によってミトコンドリアにおけるATP合成が約2倍増加した報告されていましたが、今回の実験でも同様にpHが8.3から7.4に変化することによって、ATP合成速度が2倍ほど大きくなる結果を得ました。電気化学的に溶液pHを変化させることで、ミトコンドリアの活性を繰り返し制御することに世界で初めて成功しました(図3)。

【今後の展望】
今後は、ミトコンドリア内部のATP合成酵素の活性評価や単離したミトコンドリアのみならず、細胞内に存在するミトコンドリアに対し有機電極を用いて機能評価や解析に取り組む予定です。また、本有機電極はpH計測と制御を同時に行うことが出来るため、皮膚や臓器などpHに応答する生体ウェアラブルデバイスなどの応用に取り組む予定です。

【用語説明】
*1:プロトニック有機電極(バイオトランスデユーサ)
バイオトランスデューサは、生体シグナルを検出し、電気や光など外部出力に変換する素子です。本研究では、シグナルとして溶液中プロトンを用いており、濃度に応じた電気信号に変換されます。プロトンと親和性を持たせるために導電性高分子(スルホン化ポリアニリン)を用いた有機電極を開発しました。

*2:ミトコンドリア内ATP合成
ミトコンドリア内膜では、下図のようにNADHの酸化エネルギーを利用してプロトンの汲み出し(内から外)がなされ、プロトン濃度勾配(外が濃く、内が薄い)が発生します。この汲み出されたプロトンを再度内に汲み入れるのがATP合成酵素であり、この汲み入れる駆動力を使ってATPが合成されます。

【論文情報】
雑誌:Scientific Reports
題目:A protonic biotransducer controlling mitochondrial ATP synthesis
著者:Z. Zhang, H. Kashiwagi, S. Kimura, S. Kong, Y. Ohta, T. Miyake
DOI:10.1038/s41598-018-28435-5

【研究支援】
文部科学省科学研究費補助金の挑戦研究(萌芽)17K19041

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プレスリリース添付画像

図1 プロトニック有機電極を用いてミトコンドリア内ATP合成を制御

図2 プロトニック有機電極の電気化学性能評価 溶液中pH計測およびTris-HCl緩衝溶液のpH制御

図3 プロトニック有機電極を用いてミトコンドリア内ATP合成速度を制御

図4.ミトコンドリア内ATP合成の概略図

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