バイオイメージング技術によって筋肉の男女差を説明するミトコンドリアの特徴を解明.
日米の共同研究グループが骨格筋の男女差がミトコンドリアの形態や機能の違いによることを解明しました
2020/3/5
国立大学法人 電気通信大学 脳・医工学研究センター
バイオイメージング技術によって筋肉の男女差を説明するミトコンドリアの特徴を解明.
国立大学法人電気通信大学 脳・医工学研究センターの狩野豊センター長らは,広島大学,東京医科歯科大学,米国カンザス州立大学との共同研究において,骨格筋の男女差がミトコンドリアの形態や機能の違いによることを解明しました.
発表本誌リンク:https://journals.physiology.org/doi/abs/10.1152/japplphysiol.00230.2019
狩野研究室: http://www.ecc.es.uec.ac.jp/index.html
国立大学法人電気通信大学脳・医工学研究センター:http://www.es.uec.ac.jp/
骨格筋は男女によって形態や機能が異なっていることが知られています.男性は女性よりも筋力トレーニングの効果が大きい一方,筋肉痛が発生しやすい特徴があります.また,女性は,男性よりも筋肥大が起こりにくいことや持久的な運動能力にすぐれている特徴があります.このような男女差は性ホルモンの関与が考えられてきましたが,そのメカニズムについては不明な点が多く残されてきました.
そこで,狩野豊教授らの研究グループは,独自に開発した生体内分子を可視化するバイオイメージング技術を用いて,生きた動物(マウス)の筋細胞内に存在するカルシウムイオンを調べました.その理由は,カルシウムイオンが細胞内に多く蓄積すると筋損傷を誘導したり,筋肥大のスイッチを入れたりする役割があるためです.ミトコンドリアはカルシウムイオンを取り込む能力を持っていますが,メスのマウスはミトコンドリアがオスよりも多く存在し,カルシウムイオンを取り込む能力がオスよりも優れていることが明らかになりました.
このようなミトコンドリアの性差は,ヒトの骨格筋の男女差をもたらす要因であると考えられます.この研究成果は,男女の運動トレーニング方法やリハビリテーションなどにおいて,性別を考慮したトレーニング法の開発が重要であることを意味しています.また,開発されたバイオイメージング技術は,様々な生命現象の解明に応用されることが期待されます.
本研究成果は,米国生理学会が発行する学術誌“Journalof Applied Physiology”に2020年2月1日に掲載されました.
タイトル: Sex differences inmitochondrial Ca2+ handlingin mouse fast-twitch skeletal muscle invivo.
著者: DaikiWatanabe, Koji Hatakeyama, Ryo Ikegami, Hiroaki Eshima, KazuyoshiYagishita, David C. Poole, and Yutaka Kano.
掲載誌: Journal of Applied Physiology
公開日: 2020年2月1日
研究の背景と概要
骨格筋の男女の違いは?
骨格筋は男女によって形態や機能が異なっていることが知られています.男性は筋力トレーニングの効果が大きく,筋肉痛が発生しやすいなどの特徴があります.女性は,男性よりも筋肥大が起こりにくいことや持久的な運動能力にすぐれている特徴があります.このような男女差は性ホルモンの関与が考えられてきましたが,そのメカニズムについては不明な点が多く残されてきました.
カルシウムイオンに着目する理由
カルシウムイオンは,筋細胞内において,筋収縮を制御する役割を持っています.それと同時に,筋肉痛の原因となるダメージを誘発する物質の一つです.さらに,カルシウムイオンは,筋肥大のスイッチを入れる役割を担っています.通常は,筋細胞の中でカルシウムイオンは非常に低く保たれていますが,運動後は細胞内に蓄積します.この蓄積したカルシウムイオンの量は筋細胞のダメージや肥大に関係すると考えられています.
ミトコンドリアと性差
ミトコンドリアは,細胞内でエネルギーを産生する器官です.それに加えて,細胞内のカルシウムイオンを取り込む能力を持っています.本研究のマウスを用いた実験では,メスのマウスはミトコンドリアの容積が大きく(図1),カルシウムイオンを取り込む能力がオスよりも優れていることが明らかになりました(図2).運動後にもカルシウムイオンが蓄積しないメスの特徴は,筋肉痛が少ないことや筋力トレーニングの効果が現れにくいという女性の特徴がミトコンドリアの違いによって説明できることを意味しています.
図1 マウス骨格筋細胞の電子顕微鏡写真.筋原線維間のミトコンドリア体積や数がオスよりもメスのマウスで多いことを示す.
図2 マウス骨格線維内のカルシウムイオン濃度.細胞内のカルシウムイオンを貯蔵する小胞体を薬理的に破壊したところ,オスでは細胞質内にカルシウムイオンが蓄積するが,メスではミトコンドリアに取り込まれるために細胞質内には蓄積しないことが観察された.
今後の研究課題
骨格筋の男女差にミトコンドリアが関与しているという本研究の結果は,ヒトの骨格筋のトレーニング方法を考える点で非常に重要です.男女のそれぞれに効果的なプログラムを考案する必要性を再認識する研究成果であるといえます.
本プレスリリースは発表元が入力した原稿をそのまま掲載しております。また、プレスリリースへのお問い合わせは発表元に直接お願いいたします。
このプレスリリースには、報道機関向けの情報があります。
プレス会員登録を行うと、広報担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など、報道機関だけに公開する情報が閲覧できるようになります。
このプレスリリースを配信した企業・団体
- 名称 国立大学法人電気通信大学
- 所在地 東京都
- 業種 大学
- URL https://www.uec.ac.jp/
過去に配信したプレスリリース
見えないものを見る―:生体組織越しの細胞観察に期待
2020/2/5
「磁石を金属に近づけるとどうなる?」に答える初めての厳密な量子理論
2019/10/14