【全国の保護者に調査】マスク着用・飲料摂取…学校・担任によりバラつき。正解は?熱中症対策に医師が警鐘

飲水の制限・マスク常時着用など、危険な指導。“3トル”指導の徹底を

2020年7月9日

熱中症予防の啓発団体「教えて!『かくれ脱水』委員会」は、PTA適正化おしゃべり会の協力のもと、

小学生から高校生までの子どもを持つ全国の保護者106名を対象に、「学校におけるマスク着用指導や熱中症予防・対処に関する調査」を実施いたしました。

 

調査を通して、子どもの通う学校における熱中症に関する指導状況予防意識実際に熱中症が発生した際の応急処置のための備えなどの現状を聞きましたが、学校や担任教師により、意識レベル、対策レベルにばらつきがあり、かつ、保護者が不安を覚える対策レベルの学校もあるようです。

また、本年は特に新型コロナ感染症予防対策に対しては意識が行き届くも、毎年多数の搬送者の出る熱中症に対する学校側の意識が希薄なのでは、と危惧する声もあがっていました。

 

教育現場における熱中症対策の改善点に関して、熱中症に詳しい医師の谷口英喜先生に伺います。

 

 

【監修】済生会横浜市東部病院 患者支援センター長/周術期支援センター長/栄養部部長

 「教えて!『かくれ脱水』委員会」副委員長 医師 谷口英喜

専門は麻酔・集中治療、経口補水療法、体液管理、臨床栄養、周術期体液・栄養管理など。日本麻酔学会指導医、日本集中治療医学会専門医、日本救急医学会専門医、TNT-Dメディカルアドバイザー。1991年、福島県立医科大学医学部卒業。学位論文は「経口補水療法を応用した術前体液管理に関する研究」。著書「熱中症・脱水症に役立つ 経口補水療法ハンドブック 改訂版」/『イラストでやさしく解説!「脱水症」と「経口補水液」のすべてがわかる本』

 

調査協力:PTAおしゃべり会 調査期間:2020年6月26日~30日 調査対象:全国の小学生から高校生の子を持つ親 106名

調査データ提供:一般社団法人Save Our Kids 調査対象:2020年6月に実施した教職員対象の熱中症予防セミナーへ参加した教諭など1,741名

 

PTA適正化おしゃべり会とは…現在特に一般的な組織としての形を取らないティール型組織として活動。PTA に興味のある方が特定の議題で体験談の共有や意見の共有をするオンライン討論会で実施しており、一般の保護者の方も閲覧が可能。

過去の開催アーカイブ https://www.youtube.com/channel/UCOQVNQM01SyFn1gxY7Y2dug/playlists

 

一般社団法人Save Our Kidsとは…有識者による正しい熱中症予防に関するセミナー等を教職員を対象に実施。教育現場から安全な熱中症予防の知識を浸透させ、子どもの安全を守る啓発活動を行っている。 

Save Our Kids ホームページ http://saveourkids.jp/

 

 

学校のマスク着用・熱中症予防の指導の現状 

学校で行われているマスク着用・熱中症予防指導に関してきくと、下記のような結果となりました。

「授業中のマスク常時着用指示」(全体の81%)が最多、次いで、「学校の登下校時のマスク着用義務」(57%)、そして「授業中の水分補給の制限」、「水筒の内容物の制限(スポーツドリンク禁止等)」がともに40となっています。

 

対し、「体育の授業中のマスク着用指示」は9%にとどまっていることから体育の授業中のマスク着用がのぞましくないという認識は浸透してはきているようですが、いまだ約1割の学校においては体育中にマスク着用を指示するというリスクの高い指導がなされてしまっているともいえます。

 

 

マスク着用の指示についてのみをみると、「マスクは常に着用だが、飲食時以外にも、息苦しい、暑いときは外してもいい」という正しい指導が最多で63ですが、次点が「マスクは常に着用し、飲食時以外常に外してはいけない」(29%)と、苦しいとき、暑いときにもマスクを我慢して着用してしまいかねない指示がなされているという回答が3割弱もありました。

その他、「喋らなければ外してよい」「室外ではマスクはしない」という指導がされている場合もあるようです。また、「決められた時間(中休み・昼休み、等)しか飲んではいけない、先生によっては授業中もOK」(中学2年生の保護者)と、同じ学校内でもクラスによって異なるという場合も。

また、教壇に立つ先生がマスクを付けており、飲み物も飲まないので飲みにくい、と考える子どももいるといいます。


マスク着用に関する学校での指導に対し、ほかにも下記のような意見がありました。

「剣道部で、素振りや足さばきなど練習中にマスク着用の指導があり。さらに対人稽古では面とマスクとフェイスシールド着用指導あり。酸欠状態での過酷な練習で熱中症が心配。」(中学3年生の保護者)

「元から集団登下校時はお喋り禁止なのにさらにマスク着用が義務。『熱中症になるから外していいよ、先生に何か言われたらおばさんのせいにしていいよ』、と言ってあげも、低学年の子たちは友達の親より先生の言うことを守るので外さない。高学年はアドバイスすると外す。集団登校でもないのに登下校時のマスク着用に関して、市のガイドラインに沿っているからと学校独自の見解は出せない等責任逃れの発言。市は文科省からのものだから…結局何も考えていないことが明らか。しかし保護者が意見すれば進路や成績含めて、子供が人質だというように感じてしまう…。」(中学2年生の保護者)

「登校時はマスクを外しても良いことになっているが、これから暑くなって夏休みもほぼなくなるので、日傘がOKになってくれるとソーシャルディスタンスにもなり嬉しいです。」(小学校2年生の保護者)

 

保護者や子どもが納得できる合理的で安全なマスク着用ルールを策定していく必要がありそうです。

 

 

「飲料は、飲みたい時にはいつでも飲ませる」が医学的には正しい飲水指導。しかし実情は…

学校での水分補給が許可されている状況をきくと、「喉が渇いたら【授業時間以外は】いつでも飲んでいい」が56人(全体の50.9%)で最多、「決められた時間(中休み・昼休み、等)しか飲んではいけない」が30人(全体の27.3%)となっています。その他、「体育のときはいつ飲んでもいい」、「授業中に飲みたい時には担任の許可を得られれば飲める」、「担任によっては授業中でも可」などの回答がありました。

 

熱中症予防の観点では、「喉が渇いたら【授業時間を含め】いつでも飲んでいい」という指導を行うべきですが、残念ながらこのような指導がなされていると回答した保護者は14名(全体の12.7%)にとどまり、9割の学校環境において熱中症予防としては理想的とはいえない飲水指導がなされているのが実状です。

授業中をはじめ、自由な飲水を禁じられているという文化が一般的とであるのが実状のようで、これは大変危険です。「水筒は集めて保管されているので、休み時間に校庭に持ち出すなどできない」(小学校4年生の保護者)や、「教室での授業中 エアコンをつけながら窓全開で汗だくで授業を受けていて、水分補給は許されず、頭痛、鼻血が出てしまった。(小学4年生の保護者)」などのコメントもありました。

 

また、暑い屋外での通学時の飲水制限も問題です。「通学路での飲水も禁止なので、通学に40分以上掛かるので帰宅すると熱中症の症状を毎日訴えている」(小学校2年生の保護者)というケースも。

 

飲水に関する誤った制限は、子どもたちを熱中症リスクにさらすことになります。

学校や先生個人の誤った判断での飲水ルールを策定することは非常に危険であり、熱中症を起こさないための正しい指導を全国的に浸透させる必要があります。

 

 

飲み物の種類に関する制限は正しい?

水分補給のための飲料を水筒に入れて持参することになっている学校が多いようですが、学校によって持参することが許されている飲み物の種類が制限されていることが多いようです。

3度の食事を健康的に摂れている場合は、こまめにお茶や麦茶、お水を飲むことで十分ですが、朝ごはんを抜いてしまった、食欲がなくあまり食事がすすまないなどといった日には塩分・ブドウ糖・カリウムの入った飲料を飲まないと熱中症になるリスクが高まります。

 

また、体育やクラブ活動などで大量に汗をかくことがわかっている日、非常に気温が高い日にはスポーツドリンクや経口補水液を持たせるなどの“使い分け”を意識するとよりよいでしょう。

また、熱中症は脱水と高体温によっておこるので、冷えた飲料を飲んで体温を下げることも予防策になるので、氷を魔法瓶に入れて持たせるのも有効でしょう。

 

教師や親が汗により塩分・糖分・カリウム・鉄などのミネラルが喪失してしまう仕組み、熱中症の仕組みをきちんと子どもに教え汗をたくさんかいてしまって熱中症リスクのあるときには塩分・糖分・カリウムを含んだ飲料が有効なのだという基本的な知識を身につけさせてあげましょう。

「水かお茶しか認めない」、「氷は禁止」などの指導がなされていることは大きな問題です。

 

 

実際に子どもが熱中症に! その時学校は正しく対処できるのか?

熱中症の初期症状を起こした時点で正しい応急処置ができるか否かが、重症化や、最悪の場合に起こる脳障害などの後遺症を防ぐことに直結します。

 

学校において熱中症と疑われる子どもに対して、どのような対処をしていたかを問うと下のグラフのような結果に。

熱中症の症状が出た際に、「すぐさま涼しい場所に移す」、「すぐに塩分・糖分の入った飲料を飲ませ

る」というのは正しい対処ですが、飲ませる飲料がお茶・お水であるケースもあるようで、もちろん、何も水分を摂らせないよりはまだいいですが、これは汗により塩分などのミネラルを喪失しているときに血中の塩分濃度をさらに下げてしまい、最悪の場合低ナトリウム血症にもつながりかねない危険な判断です。症状を訴えても活動を続けさせるのは問題です。

 

 

応急処置の時点で速やかに経口補水液を飲ませるかで重症化するかしないかの分かれ道。

 最悪の場合は意識障害や死亡のリスクに。

「おそらく小・中学校の7割ほどの保健室に経口補水液が常備されていると考えられますが、常備していない学校は万が一の応急処置としての効率のよい水分摂取をさせてあげられず、大変危険です。

また、せっかく経口補水液が常備されていても、養護教諭が正しく使用できていないために熱中症が重症化し、救急搬送されたり、後遺症が残ってしまう場合もあります。とにかく、熱中症とおぼしき症状が現れた初期段階で、経口補水液をすみやかに、飲みたいだけ飲ませることです」(谷口先生)

経口補水液が熱中症対策にどう有効かよく知っている養護教諭は全体の44.2%にとどまります。

命に関わる判断をすることもあり得る教員の理解度の低さに不安を覚える保護者の声も。

「炎天下の体育大会練習中でも、水分補給は休み時間のみ。痙攣し、経口補水できなくなった重症生徒が出たが、すぐ救急車を呼ばない。親に電話してきて、『どうしますか?救急車呼びますか?』と養護教諭。養護教諭がこうだと心配」(中学校3年生の保護者)

 

経口補水液に関する教員の意識データ

一般社団法人「Save Our Kids」が2020年6月に保育園・幼稚園/小学校/中学校/高等学校/その他の養護教諭を中心とした教諭を対象に行ったアンケート結果。

 

 

既に経口補水液をストックしている学校は72.1%。しかしまだ3割弱の学校では備えられていません。

経口補水液が熱中症対策にどう有効かを「よく知っている」は44.2%と半数を切り、「なんとなく知っている」が51.5%と、経口補水液の使い方・効果をきちんと把握していない教諭が半数以上を占めています。

 

 

ウィズコロナの学校生活、「3とる」を意識しましょう。

その1 距離を「とる」= Keep Distance

新型コロナウイルスの感染を防ぐために、人との距離を十分 にとる。

なるべく人ごみを避ける生活を。

感染予防のためには、できるだけ距離を少なくとも2mとる。

体育やクラブ活動などの運動中は呼吸が激しくなるために、2m以上の距離をとる。

 

 

その2 マスクを「とる」= 「TAKE off Mask

屋外で人との距離を2m以上とれている場合は、マスクをとる。

通学時などで人ごみを避けた場所を歩ける場合は、マスクは外す。

・マスクをした状態での運動は避け、マスク着用での作業や運動の場合は、人との距離を十分にとりつつ、適宜マスクを外して休息するように指導する。

 

その3 水分を「とる」= 「 Drink water ( oral rehydration solution)

脱水状態は、身体の免疫機能を低下させます。

室内でも、屋外でも、意識して水分をとるよう指導し、授業中を含め、「喉が渇いたらいつでも水分を摂っていい」というルールにするのが望ましいでしょう。ただし、小学校低学年だと、水分摂取量の目安を自分で判断できず不足したり、逆におもらしをしてしまうなどの可能性もあるので、その子ごとの傾向を教師や親が気づかいアドバイスするようにしましょう。

 

マスク着用時は、喉の渇きに気づきにくくなることを自覚し、休み時間など外に出られるタイミングなどを決めてマスクを外して水分補給を摂ることを習慣づけるのもいいでしょう。

 

1日に3回のバランスのとれた食事を心がけるのが基本ですが、当校前や体育前には必ず、水筒に適切な水分補給と、必要に応じて水分や塩分の補給をできる準備を。終了後の水分補給も忘れずに。

 

『経口補水療法』について教員が正しく理解することも重要

軽い頭痛やめまいを感じたら、先生がすぐに『経口補水療法』を行えるよう、すべての学校において経口補水液の常備と正しい使用法の浸透がなされるべきです。

経口補水液は塩分・ブドウ糖・カリウム等が小腸からもっとも効率よく吸収できる濃度で配合されている飲料で、熱中症の初期段階で経口補水液を飲ませて脱水を解消することで、熱中症を初期段階で食い止められます。

もしも熱中症の初期症状が出たら、まずしっかり経口補水液を飲ませ、あとは少しずつ摂って重症化を防ぎましょう。

また、学校から帰ってきたら熱中症を起こしていた、というケースも少なくありません。家庭においても、いつ子どもが熱中症を起こして帰宅しても応急処置ができるように経口補水液を常備しましょう。

 

学校においての「3とる」生活を教師が正しくリードしてあげることで、熱中症により後遺症が残ったり、死亡したりする悲しい事故を防ぐことができます。熱中症による救急搬送者を出さないことは、新型コロナ感染症対策で疲弊している救急医療の現場の混乱を防ぎ、守ることにも直結します。感染症対策と熱中症対策を両立させて、はじめてのウィズコロナの学校生活を乗り切りましょう。

 

 

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7/19【ライブ配信】現場で役立つ脱水症と経口補水療法の基礎知識

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