【2020×東洋大学】東京五輪は、交通・輸送の課題に取り組み、解決策を考える良い機会

東洋大学

2020年7月20日

東洋大学

<NewsLetter Vol.08>

東洋大学は研究成果である「知」で2020へ貢献します

東京五輪は、交通・輸送の課題に取り組み、
解決策を考える良い機会

 本ニュースレターは、東洋大学が2020年から未来を見据えて、社会に貢献するべく取り組んでいる研究や活動についてお伝えします。

 今回は、総合情報学部総合情報学科 尾崎晴男 教授に、東京五輪において混雑や混乱が懸念される交通・輸送の課題や対策状況について聞きました。

総合情報学部 総合情報学科 尾崎晴男 教授1

総合情報学部 総合情報学科 尾崎晴男 教授

Point

1.東京五輪の交通・輸送を円滑にするためにできること

2.地域の企業や自治体、住民の理解と協力が不可欠

3.東京五輪が交通・輸送に残すレガシーとは

東京五輪の交通・輸送を円滑にするためにできること

尾崎先生は、交通工学を専門領域にされています。東京五輪の交通・輸送については、会場周辺の混雑や混乱が懸念されていますが、どのような見解をお持ちでしょうか。

 東京五輪開催中は、選手などの大会関係者の車両移動や観客の鉄道やバス移動によって、道路・鉄道ともに混雑が予想されます。特に競技会場が集中する都内の臨海副都心エリアは、オフィスビルや高層住宅の大規模立地が進んでおり、通勤通学のラッシュと大会関係者や観客の移動が重なると、大変な混雑になりかねません。また、この臨海副都心エリアはもとより、神奈川、千葉、埼玉などの周辺会場は、幹線道路に沿って物流拠点が集中する地域でもあり、配送の遅延などへの影響も懸念されています。一方で、前回の五輪以降も道路や鉄道など交通インフラは整備されてきており、交通量などのデータが長年蓄積されているため、混雑への対策シナリオは比較的立てやすい条件を備えています。とはいえ、1か月半にわたる大規模な国際イベントです。予測を超える人出や事故の発生、台風や天候の影響などでシナリオ通りにいかない可能性もあります。臨機の対策変更が必要な場合、具体的対応を現場レベルにまで徹底する手段を構築するなど、さまざまな施策を準備しておく必要があります。

期間中の道路交通の混雑や混乱を避けるために、進められる施策とはどのようなものがあるのでしょうか。

 道路交通において特に混雑が予想される、都心部の地域では大会前の交通量の30%減、東京圏の広域(圏央道の内側)では大会前の交通量の10%減、が掲げられています。そして、実現する方法が「交通需要マネジメント(TDM)」です。これは交通需要の5W1Hに働きかけるもので、企業の輸送ルートや時間の変更、地域住民の時差通勤・通学やテレワーク、宅配利用の時期変更、レジャーの行き先やルート変更など、さまざまな変更の例が挙げられます。これに協調して首都高速道路では、TDM期間中の効果継続に配慮して夜間割引を行うとともに、日中の時間帯の料金上乗せを実施して車両の分散利用を促す予定です。さらに、特に大きな混雑が予想される都心エリアの流入交通量を調整するため、首都高の入口閉鎖や一般道の信号調整などを実施するほか、大会専用・優先レーンを設ける「交通システムマネジメント(TSM)」によって、アスリートをはじめとする大会関係者の移動ルートについて、円滑な交通環境を目指しています。

総合情報学部 総合情報学科 尾崎晴男 教授2

地域の企業や自治体、住民の理解と協力が不可欠

これらの施策についての先生の見解やご意見をお聞かせください。

 これらの施策は適切で有効な内容だと考えます。私がプランナーでもそうするでしょう。ただ課題もいくつかあります。TDMやTSMは、関連する地域の企業や自治体、住民の理解と協力が得られなければ、うまく機能しないのです。2019年7月に都内の幹線道路で予行演習を行った時のことです。事前に周知されていたはずですが、当日はドライバーの方々にあまり対応してもらえず、想定した需要削減には至りませんでした。1年前で本気になれなかったのかもしれません。交通は「人の意思に基づく、人やモノの移動」です。交通需要の管理では、人に対して訴求することがとても重要です。お願いレベルであっても、人々の理解と協力、行動変容を得るには、筋道を立てて熱意をもって語りかけることが、大切なのです。決して他人事ではなく、自らにとっても重要なことだと認識してもらえるように、企業や自治体の協力も得て、各種メディアや情報技術も利活用しながら適切な情報をタイムリーに発信していくこと、これが不可欠です。

総合情報学部 総合情報学科 尾崎晴男 教授3

東京五輪が交通・輸送に残すレガシーとは

東京五輪が交通・輸送の面で残すレガシーとは何でしょうか。

 大会組織委員会が輸送運営計画を公表しています。300ページをこえる計画の最後に、大会の成功に向けたバリアフリー化、交通ネットワーク、テレワークや時差通勤などをレガシーとして次世代に継承していく、と記されています。私が注目するのは、ロードプライシング(混雑域や時間帯の道路使用の有料化)です。公道は無償の自由使用が原則ですし、東京でもかつてアイデアは提起されましたが実現していません。しかし近年、全国で物流や観光などの道路混雑が深刻化しており、ロードプライシングはその対応策として期待できます。大会開催中には首都高の昼間の通行料金が引き上げられます。自動車利用の認識と行動変容のきっかけになるでしょう。また、組織委員会が提起するテレワークや時差通勤も、なかなか前進しなかった課題でした。働き方改革や都市機能の分散化などを考えるきっかけにしたいですね。東京五輪のように影響力の大きいイベントは、交通・輸送の抱える課題を認識し、その解決に取り組む良い機会になります。そして、情報技術は解決の支援ができます。

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尾崎 晴男(おざき はるお)

東洋大学 総合情報学部 総合情報学科  教授/博士(工学)

専門分野:土木工学、土木計画学・交通工学

研究キーワード:交通工学、都市計画、情報利活用

著書:交通工学における交通流研究 [応用数理 第12巻第2号] ほか

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