<日本歯内療法学会 ニュースレターvol.3>歯の神経を再生させる「再生歯内療法」とは?

歯科領域においても再生医療に注目集まる

一般社団法人 日本歯内療法学会(所在地:東京都豊島区、理事長:阿南 壽)より、歯科の再生医療である「再生歯内療法」についてご紹介いたします。

「再生歯内療法」とは、歯の神経である「歯髄」が死んで、「歯根」の成長が止まってしまった歯(生活力を失った歯根未完成歯)に対して特別な処置を行うことで、「歯根」の成長を促す治療法です。「再生歯内療法」は現在保険適用には至っておりませんが、「歯髄」の再生医療として、今後が注目されている新しい治療法です。

 

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【サマリー】

①人の健康状態悪化のリスクにも繋がる「歯根未完成歯」

・歯の歯ぐきに埋まっている部分の「歯根」が成長段階にある幼少期に、歯の神経である「歯髄」が死んでしまうと「歯根」の成長が止まり「生活力を失った歯根未完成歯」となる。

・「歯髄」は、免疫細胞による細菌への抵抗や、侵襲時に防御を高める第三象牙質の形成など、重要な役割を果たす。

・「生活力を失った歯根未完成歯」は強度が劣り、割れたりぐらついて抜歯に至る原因になり、患者さんのQOL低下にも繋がるリスクとなる。

 

②「歯根未完成歯」の原因と現在の治療方法

・「歯髄」が死んでしまうのは、「むし歯」、「外傷」、「中心結節の破折」が主な原因。

・現在の治療は「アペキシフィケーション」という歯の根の中に水酸化カルシウムやMTAセメントを詰め、根の尖端を硬組織で封鎖する治療法が主流。

・「アペキシフィケーション」は「歯根」の補強には繋がらず、破折やヒビが入るため、経過不良による抜歯のリスク回避が現在の課題。

 

③注目される様々な「再生歯内療法」と今後の課題

・歯の根の内側である根管内に血液を誘導し、血餅を土台に血管を再生し血液循環を促す、「リバスクラリゼーション」という再生医療が、臨床現場で行われることもある。

・様々な生細胞、足場(スキャホールド)となる材料、ならびに細胞に機能(働き)の発現を促す生理活性物質(細胞や生体に影響をもたらす種々の生体内物質)を組み合わせ、人工臓器・組織を創出する生体組織工学を応用した「ティッシュエンジニアリング」と呼ばれる再生医療がある。

・細胞には、自らを複製したり様々な細胞に変化できる特性を持つ幹細胞があり、ノーベル賞を受賞した山中伸弥先生が人工的に作製したiPS細胞も幹細胞の一つである。歯内療法領域では、歯髄の幹細胞と最先端の医療技術を使って、失われた歯髄組織の形態や機能を再現する歯髄の再生医療がある。

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【詳細】

「再生歯内療法」とは

「再生医療」は、疾病、外傷、腫瘍あるいは先天性奇形などによって失われた組織や器官を修復し、機能の回復を目的とする医療です。歯内療法領域では、歯髄の一部あるいは全部を除去した症例への適用が試みられています。ここでいう再生歯内療法とは、歯の神経である「歯髄」が死んで、「歯根」の成長が止まってしまった歯(生活力を失った歯根未完成歯)に対し特別な処置を行うことで「歯根」の成長を期待する治療法です。


「歯髄」と「歯根」

①人の健康状態悪化のリスクにも繋がる「歯根未完成歯」

■「生活力を失った歯根未完成歯」とは?

幼児期に歯は歯ぐきから出てきますが、生えたばかり歯の歯根は引き続き歯ぐきの中で成長し、その後、歯ぐきの中でしっかり根を伸ばします。こうした歯根の成長段階で、「歯髄」が死んで歯根の成長が止まった状態の歯を指します。

 

生活力を失った

歯根未完成歯

■「歯髄」が果たす役割とは?

「歯髄」は根の尖端から歯の中に入り、歯の成長発育を促す重要な役割を果たします。 また、免疫細胞による細菌への抵抗や、侵襲時に防御を高める「象牙質」の形成など、歯を守る重要な役割を果たします。しかし、成人になり歯が完全に成長したあとは、「歯髄」がなくても根のまわりからの栄養供給によって歯は機能を果たせます。

 

■「歯髄」が死んでしまうとどうなるのか?

「歯髄」が死んでしまうと、「根管」は尖端が開いた状態で歯根形成が止まり、「象牙質」が薄く脆弱な状態となるため、通常の根管治療ができません。また強度が劣るため、歯が割れたり、ぐらついて抜歯に至る原因になり、患者さんのQOL低下にも繋がります。「生活力を失った歯根未完成歯」を抜歯せずに永年にわたり保存することは、歯数を確保し、歯列の安定を図り、生涯にわたり適切な咬合機能を維持するために非常に重要です。

 

②「歯根未完成歯」の原因と現在の治療方法

■「歯髄」が死んでしまう主な原因は?

・むし歯

「歯根」の成長中にむし歯が深くなり、細菌感染により「歯髄」が死んでしまうと「歯根」の成長が止まってしまいます。

 

・歯の外傷

転倒や、何かにぶつかり歯が大きなダメージを受けた際、「歯髄」が死んでしまうと「歯根」の成長が止まってしまいます。

 

・中心結節の破折

下顎の小臼歯の咬合面に「中心結節」と呼ばれる突起が出現することがあります。この中には歯髄の一部が潜り込んでいます。この中心結節が折れ、内部の「歯髄」が露出し、細菌に感染して死んでしまうと「歯根」の成長が止まってしまいます。

 

■現在の「生活力を失った歯根未完成歯」への治療法は?

現在の治療は「アペキシフィケーション」という歯の根の中に水酸化カルシウムやMTAセメントを詰め、根の尖端を硬組織で封鎖する治療法が主流です。

アペキシフィケーション

 

■「アペキシフィケーション」の課題は?

アペキシフィケーションは、生活力を失った歯根未完成歯に対して、「根尖」の閉鎖を促す処置であるため、歯根の成長は期待できず、もともとの歯の条件によっては歯冠と歯根の長さの比率が悪くなります。またその処置は「歯根」の補強には繋がらず、歯根の破折やヒビを生じやすくなり、結果として抜歯になるリスクが生じます。

つまり、生活力を失った歯根未完成歯に対するアペキシフィケーションは、「歯根」の伸長ならびに歯質の厚みの増加を必要とする症例に対しては、満足できる治療効果が得られないという課題が残ります。

 

③注目される様々な「再生歯内療法」と今後の課題

■すでに臨床現場に導入されている「リバスクラリゼーション」

リバスクラリゼーションは、歯の根の内側である根管内に血液を誘導し、血餅を用いて血管再生を促します。結果的に硬組織によって根管の厚みを増しつつ、根尖孔を閉鎖させる比較的簡便な方法として世界的に症例報告が相次いでいます。一方、「歯根未完成歯」に対するリバスクラリゼーションは、歯の歯髄が死んだ原因と感染の程度によって、その予後が左右される可能性が大きいとされています。また、リバスクラリゼーションの治療術式には現在いくつかの方法があり、その予後において良好な経過を保証する「唯一の術式」というものは確立されていません。つまり、リバスクラリゼーションの予後を左右する診断や治療術式については、今後さらに進展していくための課題でもあります。このような状況下でも、リバスクラリゼーションによって、根管内の血液循環が回復した症例の報告がすでにあることや、近年では「根完成歯」に対してもリバスクラリゼーションが有効であるとした報告が見られはじめました。リバスクラリゼーションに関しては、今後、ますます新たな知見が得られることによって、より効果的な治療方法となることが、大きく期待されています。

 

リバスクラリゼーション

 

■研究が進む「ティッシュエンジニアリング」

歯髄の再生に関するティッシュエンジニアリング研究は、歯髄の血管新生から象牙質/歯髄複合体の再生まで、様々な基礎研究が盛んに行われていますが、いまだ十分な臨床応用の段階には至っていないようです。しかしながら、前述した「リバスクラリゼーション」をはじめとした「リバイタリゼーション」、「リジェネレーション」といった歯髄の再生医療や医療技術には、ティッシュエンジニアリングの手法や材料が広く応用されつつあります。今後、さらに研究が進むことで、実際の臨床現場における様々な方面への応用が期待されています。

 

■「歯髄幹細胞移植」の可能性

歯髄幹細胞の最大の利点は、他の幹細胞に比べ採取がとても容易な点です。これまで医療廃棄物となっていた、智歯や矯正治療のために抜去された歯の一部、あるいは脱落しかけている乳歯からも採取ができます。採取した歯髄幹細胞を利用して、神経を除去してしまった歯の根管内で、歯髄組織を再生する治療法の研究が続いています。いざ使用する時のために“歯の銀行”や“歯髄バンク”といった長期間保存する施設なども設置されています。我が国では厳しい安全基準が設定されていますが、体外で細胞に様々な処理を加え、体内に戻すのですからトラブルが起きる可能性も皆無ではありません。また、保存から様々な処理を経て歯髄の再生医療を行うためには、少々高額な費用が掛かることもあります。現在、幹細胞を体外で培養する際に得られる培養上清を用いて、傷ついた組織を修復する治療なども研究されています。

 

■歯内療法専門医のコメント

 

日本歯内療法学会 副理事長・佐久間歯科医院 院長

佐久間 克哉

【略歴】

1982年神奈川歯科大学卒業。歯学博士。

昭和大学客員教授、2003年~2017年総合診療歯科学講座、2018年~歯科放射線学講座。日本歯科医学会評議員。

          

【所属学会】

日本歯内療法学会 専門医・日本顎咬合学会 認定医・日本歯科放射線学会 会員・日本臨床歯周療法集談会 会員

 

・歯内療法における再生医療研究への期待

平成25年11月に再生医療等を適切に実施するために必要な安全性の基準等を整備した「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」が公布され、翌年11月25日より施行されました。これにより再生医療が現実のものとなり身近な存在となっています。

歯科医療の分野でも盛んに研究が重ねられています。歯髄幹細胞は骨髄幹細胞より多分化能が高いことが知られています。これは多方面にわたり利用可能であるということで、歯髄幹細胞の利用は治療法の確立されていない全身の疾病への応用が現実的な期待と言えましょう。一方、歯科医療ではすでに今回ご紹介したように幹細胞を利用しない方法での歯髄再生で対応しており、多額の費用を伴う幹細胞を扱った歯髄再生より現実的な方法として扱われています。広く国民の皆様にご提供できる技術としてより成功率を高め、歯の機能する期間を延ばすことが現実的な着地点と思われます。

日本歯内療法学会は研究家、臨床家の集まる臨学一体の学会として、研究・技術の研鑽を目指し、もって国民の健康に寄与する目的の学会です。今後も国民目線での啓発を目指していきます。

 

 

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プレスリリース添付画像

「歯髄」と「歯根」

生活力を失った歯根未完成歯

アペキシフィケーション

リバスクラリゼーション

日本歯内療法学会 副理事長・佐久間歯科医院 院長 佐久間 克哉

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