海鳥の調査によって 海洋の環境変化をいち早く察知する【東洋大学 SDGs NewsLetter Vol.04】

東洋大学は“知の拠点”として地球社会の未来へ貢献します

東洋大学

2022年2月7日発行

東洋大学

東洋大学 SDGs NewsLetter Vol.04

東洋大学は“知の拠点”として地球社会の未来へ貢献します

 

海鳥の調査によって

海洋の環境変化をいち早く察知する

 

 

 本ニュースレターでは、東洋大学が未来を見据えて、社会に貢献するべく取り組んでいる研究や活動についてお伝えします。

 今回は、生命科学部応用生物科学科の伊藤元裕准教授に、海鳥の調査から予測できる海洋生態系や気候変動について聞きました。

 

 

生命科学部 応用生物科学科 

准教授 伊藤元裕

 

Point

1.最高次捕食者の海鳥は海洋環境・生態系の「のぞき窓」

2.海洋生態系に影響を与えるのは温暖化だけではない

3.世代・地域を越えて調査研究を続ける意義とは

 

 

 

 

最高次捕食者の海鳥は海洋環境・生態系の「のぞき窓」

海鳥を通して海洋環境・生態系を研究しておられます。なぜ海鳥から海の中のことが見えてくるのでしょうか。

 海鳥は、クジラなどと同様に海洋の生態系ピラミッドの一番上に位置付けられる生物です。海洋生態系では生物どうしの喰う喰われるの関係が連鎖しますが、その過程で海洋環境変化による生態系への影響が増幅されるため、最高次捕食者である海鳥をモニタリングすることで、いま海で何が起きているのか、今後何が起こりそうなのかなどを刻銘に捉えることができるのです。いわば、海鳥が海洋環境を知るための「のぞき窓」となるのです。

 

海鳥を対象にした研究で、実際にどのような海洋環境変化が明らかになったのでしょうか。

 私の研究はフィールドワークが主体で、なかでも長期にわたって実施しているのが、海洋環境と海鳥・ウトウの繁殖成績の関係の解明です。調査は、北日本の複数の島々で行っており、特にウトウの世界最大の繁殖地である北海道の天売島で複数の大学が共同で実施している調査研究には、18年以上携わってきました。調査では、親鳥を捕獲してヒナにどのようなエサを取ってきているのかを調べます。併せて、定期的なヒナの計量を巣立ちまで行い、その成長の度合いを調べます。順調に育っていればヒナの成長に適したエサ(魚)が周辺海域に豊富にいることがわかり、逆に成長スピードが遅い場合や巣立ちが失敗してしまう場合は、周辺海域に異変が起こっていると考えることができます。一つ一つは単純なデータですが、これらを毎年取り続けることで、ヒナのエサの構成や、成長の変化をいち早く察知し、海洋環境と海洋生態系に起こっている異変をうかがい知ることができるのです。

 そして、2014年、モニタリング調査を行っていたウトウにおいて、ヒナのエサと繁殖成績の激変が記録されました。1990年代から2010年代前半までは、主なヒナのエサはカタクチイワシであり、この割合が高いほど、ウトウの繁殖成績が良くなるという傾向が続いていました。しかし、2014年を境にこの状況が一変しました。カタクチイワシが全く観察されなくなり、それとともに、ウトウの繁殖成績の大幅な悪化が始まりました。この状況は、2021年現在も続いています。北海道周辺海域の大規模な海洋環境変化を海鳥から察知した瞬間でした。

 

▲雛に与えるホッケの稚魚をくわえているウトウ

 

 

海洋生態系に影響を与えるのは温暖化だけではない

今回明らかになった海洋環境の変化は地球温暖化が影響しているのでしょうか。

 そうではないと考えています。日本海と津軽海峡周辺の海域には対馬暖流と津軽暖流が流れています。初夏にかけてこれらの暖流勢力が北日本にまで及ぶことで、温かな12~15℃の水温を好むカタクチイワシも北上し、ウトウがエサとして利用できるようになっていました。しかし、2014年以降、ウトウのエサとして出現したのは、イカナゴやホッケ、ニシン、マイワシ、サケといった比較的冷たい海に生息する魚たちでした。エサの質や量、その分布の変化への対応に困難が生じ、ウトウはその繁殖に壊滅的な影響を受けてしまったようでした。

 海洋環境は寒冷期と温暖期を十から数十年スケールで周期的に繰り返す『レジームシフト』という、温暖化とは別のメカニズムによる変動を示すことが知られています。温暖期には温かい海を好む魚類が、寒冷期には冷たい海を好む魚種が優占します。現在、気象学や海洋物理学、魚類生態学などの見地から、2014年頃に起こった海洋環境変動は、寒冷期へのレジームシフトであるという見解か示されつつあります。ウトウのモニタリングは、これらに先んじて大規模な海洋環境変動の発生を察知し、その海洋生態系への多大な影響を示したと言えます。

 

世代・地域を越えて調査研究を続ける意義とは

世代・地域を越えて調査研究を続ける意義とは

 海洋生態系は、レジームシフトのほか、エルニ―ニョ・ラニーニャ、その他大小の海洋環境変動の影響を受けます。そこに、近年は急激にすすむ温暖化の影響が加わり、相互作用するため、その影響予測は困難を極めています。これまでの常識や予測が通用しない現象が、世界中の海洋生態系で見られるようになっています。 

 激変が起りつつある今、基礎データを長期的に複数個所で蓄積し、進行する気候変動と海洋生態系との関係を、メカニズムレベルで解明することこそ、高精度の将来予測と問題解決につながると考えています。

 先述の天売島での調査研究は、私の恩師(北海道大学)が現在まで中心的に実施し、日本で唯一、30年を超えるデータが蓄積されています。さらに、私たち東洋大学チームは、これまで大規模調査が実施されていなかった北海道や東北の無人島で調査を開始しています。北米の研究チームとの連携も始めており、地域間の長期的な調査研究を主導していくことで、気象変動対策や海洋生態系の保全に役立てられればと考えています。

 

▲学生とともにウトウを計測

 

 


伊藤 元裕(いとう もとひろ)

東洋大学生命科学部応用生物科学科 准教授

 

専門分野:海洋生態学、動物行動学、保全生態学

研究キーワード:地球環境変動と生態系と自然保護、バイオロギングサイエンス、

        漁業と動物との軋轢の解決

 

 

本News Letterは本学SDGs特設サイトでもご覧いただけます。

TOYO SDGs News Letter 

https://www.toyo.ac.jp/sdgs/

 

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