岐阜大学発のGIF化合物が複数の神経変性疾患原因タンパク質の凝集を抑制

― イヌやヒトの神経変性疾患治療への応用に期待 ―

岐阜大学

令和4年3月8日

国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学

岐阜大学発のGIF化合物が複数の神経変性疾患
原因タンパク質の凝集を抑制
― イヌやヒトの神経変性疾患治療への応用に期待 ―

 

 岐阜大学 糖鎖生命コア研究所 鎌足雄司助教、連合獣医学研究科4年生 木村慎太郎さん、神志那弘明准教授、工学部 森田洋子教授、古田享史教授、慶應義塾大学 理工学部 古川良明教授らの研究グループは、岐阜大学発のオキシインドール化合物であるGIF化合物が複数の神経変性疾患(注1)タンパク質の凝集を抑制することを報告しました。複数のタンパク質の凝集抑制に効果を発揮する新たな化合物として、ヒトや動物の神経変性疾患の治療への応用が期待されます。

 本研究成果は、2022年2月22日(火)にBiochimica et Biophysica Acta (BBA) - General Subjects 誌のオンライン版で発表されました。

 

【発表のポイント】

・岐阜大学発のオキシインドール化合物であるGIF化合物が、イヌの変性性脊髄症(以下、「DM」)(注2)の原因タンパク質であるイヌスーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)(注3)タンパク質の凝集を抑制しました。

・ヒトの筋萎縮性側索硬化症(以下、「ALS」)(注4)の原因タンパク質であるSOD1タンパク質や、プリオン病(注5)の原因タンパク質であるプリオンタンパク質(PrP)を含む複数の神経変性疾患原因タンパク質においても、凝集抑制効果がみられました。

・GIF化合物は、異常型構造と相互作用し、複数のタンパク質の凝集抑制に効果を発揮するという新たなカテゴリーの凝集抑制化合物として、ヒトや動物の神経変性疾患の治療への応用が期待されます。

 

【研究背景】

 アルツハイマー病やALS、プリオン病などの神経変性疾患は、超高齢化社会を迎えた我が国において大きな社会問題となっています。これらの神経変性疾患では、病変部位に特定のタンパク質の凝集体(アミロイド線維(注6))が形成されることが知られています。例えば、ヒトのALSやイヌのDMではスーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)が、プリオン病ではプリオンタンパク質(PrP)が誤った構造に折り畳まれ凝集体を形成しています。この凝集体形成を抑制する薬剤の開発は現在までに数多く行われてきていますが、まだ決定的な治療薬は開発されておらず、効果的で安全な神経変性疾患治療薬の開発が必要とされています。神経変性疾患が問題となっているのはヒトだけに限りません。例えば、愛玩犬であるペンブローク・ウェルシュ・コーギー、ジャーマン・シェパード、ボクサーでは致死性疾患であるDMの発生頻度が高く、動物医療においても大きな問題となっています。ヒトのALS もイヌのDMもSOD1の凝集が関与するため、DMに対する治療薬開発は、ヒトの神経難病である ALS の患者を救うことにも繋がります。

 GIF化合物は、岐阜大学発の化合物であり、酸化ストレスおよび小胞体ストレスを緩和し神経細胞死を抑制する効果があることが報告されています。本研究では、このGIF化合物(図1)について、神経変性疾患原因タンパク質である、ヒトおよびイヌのSOD1とヒトPrPの凝集を阻害する能力を評価しました。

 

 

1 GIF化合物の化学構造式

 

【研究成果】

 GIF化合物は、DMを引き起こす変異E40Kを持つSOD1タンパク質の凝集体(アミロイド線維)形成を阻害しました。このことは、アミロイド線維に結合すると蛍光を発するチオフラビン-T(ThT)色素を用いた実験により示されました(図2)。GIF-0725-r、GIF-0874-r、およびGIF-0875-rを除くほとんどのGIF化合物添加はThT蛍光を抑制しました。つまり、これらの化合物はイヌSOD1のアミロイド線維形成を抑制することを示しています。今回調べた16の化合物のうち、GIF-0854-rとGIF-0890-rが特に効果的でした(図2B)。

 


2 GIF化合物によるイヌSOD1タンパク質のアミロイド線維形成阻害実験

 

 これらの化合物の効果は、E40K変異を持つSOD1遺伝子を導入した細胞の実験でも示されました(図3)。GFPタグ付きのイヌSOD1を導入したNeuro2a細胞を観察し、凝集体を含む細胞の数を比較しました。凝集体をもつ細胞は、細胞中に輝点が観測されます。この輝点を持つ細胞の数が、GIF-0854-rやGIF-0890-r添加により減少しました。

 


3 GIF化合物によるイヌSOD1タンパク質の細胞内での凝集阻害実験

 

 非常に興味深いことに、この凝集阻害効果は、ヒトALSの原因タンパク質であるヒトSOD1タンパク質や、プリオン病の原因タンパク質であるヒトPrPに対しても効果を示しました(図4)。特に、GIF-0827-rとGIF-0856-rは、ヒトPrPの凝集を有意に抑制しました。

 

 

図4 GIF化合物によるヒトPrPタンパク質のアミロイド線維形成阻害実験

 

 GIF化合物の効果は、異なるタンパク質であるイヌSOD1 E40KとヒトPrPの間で正の相関を示しました(図5A)。さらに、この凝集抑制効果は、ツニカマイシンによって誘導される小胞体ストレスによる細胞死抑制効果との間にも正の相関を示しました(図5B)。このことは、GIF化合物がタンパク質凝集阻害を通じ小胞体ストレスを抑制していることをも意味しています。

 

 

 

5. (A) イヌSOD1 E40Kに対するGIF化合物の凝集抑制効果とヒトPrPの抑制効果の間の相関、

図5. (B) イヌSOD1E40K凝集に対するGIF化合物の抑制効果とツニカマイシン誘発細胞死に対する

抑制効果の相間

 

 異なるタンパク質の天然構造は異なるため、一つの化合物が複数のタンパク質の天然構造と特異的に結合することは困難であると考えられます。これに対して、凝集体(アミロイド線維)はいくつかの共通の構造的特徴を持っています。そのため、GIF化合物は凝集体と相互作用するのではないかと考えられます。実際に、我々はGIF-0890-rがイヌSOD1の凝集体と相互作用することをNMR分光法を用いて示しました(図6)。GIF化合物は凝集体の共通の構造に結合することで、複数のタンパク質の凝集に対して効果を示すと考えられます。


6 イヌSOD1タンパク質存在下でのGIF化合物(GIF-0890-r)NMR信号
一般に、小分子のNMRスペクトルは鋭いNMR信号を示しますが、小分子がタンパク質に結合すると、小

分子の信号は広幅化しピークの高さは小さくなります。凝集したSOD1を含む試料中のGIF-0890-rのNMR信号(青)は、天然状態のSOD1を含むもの(黄)やGIF-0890-rのみのもの(赤)と比較して広幅化し、ピ

ークの高さは小さくなりました。つまり、GIF-0890-rは、凝集したSOD1と相互作用していることがわかります。

 

【今後の展望】

 岐阜大学発のオキシインドール化合物であるGIF化合物が、イヌDMの原因タンパク質であるイヌSOD1の凝集を抑制することを報告し、更にGIF化合物は、ヒトALSの原因タンパク質であるヒトSOD1やプリオン病の原因タンパク質であるPrPに対しても効果を発揮しました。特に、GIF-0827-r、GIF-0854-r、GIF-0856-r、およびGIF-0890-rは効果的であり、ヒトや動物の神経変性疾患の治療への応用が期待されます。

 GIF化合物は、異常型構造と相互作用し、複数のタンパク質の凝集抑制に効果を発揮するという新たなカテゴリーの凝集抑制化合物に分類できます。あるタンパク質のアミロイド化が別の種類のタンパク質のアミロイド化を促進させる(クロスシーディング)という現象も知られているため、GIF化合物は、複数の神経変性疾患を克服するための重要な可能性を秘めていると言えます。

 

【論文情報】

雑誌名: Biochimica et Biophysica Acta - General Subjects

タイトル: Novel oxindole compounds inhibit the aggregation of amyloidogenic proteins associated with neurodegenerative diseases

著者: Shintaro Kimura, Hiroaki Kamishina, Yoko Hirata, Kyoji Furuta, Yoshiaki Furukawa, Osamu Yamato, Sadatoshi Maeda, Yuji O Kamatari

DOI 番号: 10.1016/j.bbagen.2022.130114

論文公開URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0304416522000320

 

【用語解説】

(注1)神経変性疾患:

神経変性疾患とは、アルツハイマー病、パーキンソン病、ALS、プリオン病などの神経細胞に異常なタンパク質凝集が蓄積し、神経細胞が変性し、神経系の機能が損なわれる病気である。アルツハイマー病は80歳以上の5人に1人、パーキンソン病は65歳以上の100人に1人が発症するといわれており、超高齢化社会を迎えた我が国において大きな社会問題となっている。疾患の進行を遅らせる、あるいは止めることのできる根本的な治療法の開発が重要な課題となっている。

 

(注2)変性性脊髄症(DM):

変性性脊髄症(DM)とは、イヌにおいて脊髄の神経細胞が変性し、麻痺が徐々に進行していく慢性の神経疾患である。麻痺が進行すると、最終的に呼吸不全に陥り、死に至る。SOD1という健常な細胞にも存在するタンパク質が、異常な線維状の凝集体を形成し蓄積している。ヒトのALSに似た病気である。

 

(注3)スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1):

体内に発生する活性酸素の一種であるスーパーオキサイドを消去するタンパク質。SOD1をコードする SOD1遺伝子に変異が生じると遺伝性ALSを発症することが知られている。正常な SOD1 タンパク質は非常に安定な構造を保持しているが、変異に伴ってアミノ酸が置換されると、タンパク質の安定性が低下し、異常な構造をとりやすくなる。

 

(注4) 筋萎縮性側索硬化症(ALS):

筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは、ヒトにおいて脳や脊髄の運動ニューロンが選択的に変性する神経変性疾患。筋力低下や筋萎縮、嚥下障害、呼吸不全といった症状が現れる。一部のALS患者では、SOD1というタンパク質をコードする遺伝子に変異が見られ、変異型のSOD1タンパク質が運動ニューロンで凝集体を形成し蓄積している。

 

(注5)プリオン病:

プリオン病とは、ヒトではクロイツフェルト・ヤコブ病、ウシでは狂牛病などとも呼ばれる神経変性疾患の一つ。プリオンタンパク質(PrP)という健常な脳内にも存在するタンパク質が、異常構造に変わり中枢神経系に蓄積する。不可逆的な神経障害を生じ、最終的には死に至る。

 

(注6) アミロイド線維

タンパク質は、通常、生体内で特定の立体構造(天然構造)をとり特定の機能を発揮する。しかし、アミロイド線維と呼ばれる分子間で規則正しくβシート形成し重合した線維状の凝集構造をとる場合がある。このアミロイド線維は、アミロイド病と呼ばれる多くの神経変性疾患の原因となっている。

 

【研究者情報】

鎌足 雄司 (かまたり ゆうじ): 論文責任著者

岐阜大学 糖鎖生命コア研究所 助教

 

木村 慎太郎 (きむら しんたろう): 論文筆頭著者

岐阜大学 連合獣医学研究科 D4

 

神志那 弘明 (かみしな ひろあき)

岐阜大学 連合獣医学研究科 准教授

 

森田 洋子 (もりた ようこ)

岐阜大学 工学部 教授

 

古田 享史 (ふるた きょうじ)

岐阜大学 工学部 教授

 

古川 良明 (ふるかわ よしあき)

慶應義塾大学 理工学部 教授

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  • 所在地 岐阜県
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