エレクトロスピニング法で紡いだ酵素糸メッシュでガス成分の直接可視化に成功
―簡単につくれて、すぐにつかえる、バイオセンシング酵素メッシュ―
「エレクトロスピニング法で紡いだ酵素糸メッシュでガス成分の直接可視化に成功」
―簡単につくれて、すぐにつかえる、バイオセンシング酵素メッシュ―
詳細は 早稲田大学Webサイト をご覧ください。
【ポイント】
・高分子溶液をマイクロ・ナノ繊維化するエレクトロスピニング法でガス測定用酵素メッシュを開発しました。
・通常は溶液中ではたらく酵素でも、乾燥したエレクトロスピニング酵素糸中では気相サンプルに対しても活性が得られ、バイオセンサへと応用できることを示しました。
・本技術により、生体ガス計測用バイオセンサデバイスの実用化促進が期待できます。
東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 センサ医工学分野の三林教授と飯谷助教の研究グループは、早稲田大学 先進理工学部 生命医科学科 武田教授の研究グループとの共同研究で、非侵襲に疾患診断や代謝評価を行うための「生体ガス計測用の新規バイオセンサ用酵素メッシュ」を開発しました。酵素や補酵素を含んだ水溶性高分子溶液をエレクトロスピニング法により繊維化することで、通常は溶液中で活性を示す酵素を、乾燥した「エレクトロスピニング酵素糸」中で用いることが可能となり、生体ガス計測用バイオセンサの実用化の促進が期待できます。この研究は文部科学省科学研究費補助金ならびに生体医歯工学共同研究拠点、大川情報通信基金研究助成、三菱マテリアル株式会社—早稲田大学理工学術院包括協定研究助成、早稲田大学特定課題研究助成費、JST・SCORE 大学推進型の支援のもとで行われた内容で、その研究成果は、国際科学誌Biosensors and Bioelectronics(バイオセンサーズアンドバイオエレクトロニクス)に、2022年6月7日にオンライン版で発表されました。
【研究成果の概要】
上述の課題を解決するため、高分子を繊維状に加工するエレクトロスピニング法にて、基質特異性を有する酵素および補酵素を含む水溶性高分子を材料として「エレクトロスピニング酵素糸」を紡ぎ、「作ったその場で、すぐに使える酵素糸メッシュ」を開発しました(図1A)。エレクトロスピニング法では、材料とする高分子溶液に印加した高電圧に起因する電気的な反発力によって高分子溶液を糸状に高速で引き出し、その際に液体が瞬間的に揮発することで微細な繊維を作製する技術です。このような「エレクトロスピニング酵素糸」は見かけ上は乾燥状態ですが、水溶性高分子を用いることで、気相中でのガス検出にそのまま利用できます。この現象について研究グループでは「水溶性高分子が有する極性官能基」と「エレクトロスピニング過程での瞬間的な繊維形成」の二つの要素によって、高分子でできた繊維の中でも、酵素の立体構造および触媒活性を維持することが可能であるためと考えています。研究グループではこの新規な「エレクトロスピニング酵素糸」を積層し、広い比表面積を有する「酵素糸メッシュ」を用いることで、エタノールガスを選択的かつ視覚的に検出するガスイメージングに成功しました。バイオセンサでありながら溶液の添加などの前処理を必要とすること無く、直接利用することも可能です。
酵素糸メッシュがエタノールガスを検出する仕組みでは、補酵素ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)依存型アルコール脱水素酵素(ADH)の触媒反応を用いたバイオ蛍光法を用いています。カメラの前方に酸化型NAD (NAD+)およびADHを含む酵素糸メッシュを設置し、エタノールガスを負荷すると酵素反応により還元型NAD (NADH)が生じます。このNADHは波長340 nmの紫外光照射により波長490 nmの蛍光を生じ、蛍光の強度が負荷されたエタノールガス濃度と相関することからADH酵素糸メッシュ上の蛍光強度分布をカメラで撮像することで、エタノールガス濃度分布の動画像化が可能となります(図1B, C)。
【研究成果の意義】
一工程で作製できる「エレクトロスピニング酵素糸」の生産ラインへの組み込みは容易であり、利用する際にも面倒な前工程が不要なため、生化学式ガスセンサの社会実装に資する技術と考えられます。今回、ガスイメージングを行ったエタノールガスは、アルコール代謝のモニタリングに有用です。また、酵素の種類を選択し変更することで、他のガス成分のイメージングにも応用が可能です。本研究グループではこれまでにも、脂質代謝に応じて生体ガス中の濃度変化が生じるアセトンガスをはじめ、イソプロパノールガス、ホルムアルデヒドガス、メタノールガス、アセトアルデヒドガスなど様々なVOCsの選択的な計測を進めており、今後はこれらガス検出のための「酵素糸メッシュ」の開発や、非侵襲な代謝評価デバイスへの開発応用が期待されます。
また、高分子基質中でタンパク質の活性を維持しながら、気相中でも使用可能な複合材料を作製する方法を提供する点でも意義が高く、様々なタンパク質と水溶性高分子からなる複合材料の構築への展開が期待されます。
図1 (A)エレクトロスピニング酵素糸の作製方法、(B)エタノールガスをイメージングするための実験系、 (C)エタノールガスを負荷した際の蛍光画像より算出したガス分布の時空間変化
【論文情報】
掲載誌:Biosensors and Bioelectronics
掲載日:2022年6月7日
掲載URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0956566322004936
DOI:10.1016/j.bios.2022.114453
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