世界初、実環境下での結合型マルチコア光ファイバの光スイッチング実験に成功

将来の長距離光ネットワークの大容量化に期待

2023年5月11日

 

ポイント

■ 実環境に構築した光ネットワークにおいて結合型4コア光ファイバの光スイッチング実験に、世界で初めて成功

■ 結合型4コア光ファイバ対応の光スイッチを考案し、大容量光ファイバ通信システムを設計・構築

■ 新しい光スイッチング技術により、Beyond 5G以降の長距離・大容量光ネットワークの構築技術が大きく前進

 

 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー)、理事長: 徳田 英幸)ネットワーク研究所のソアレス・ルイス・ルーベン主任研究員らのグループは、ラクイラ大学(University of L'Aquila、イタリア)、ハインリッヒ・ヘルツ研究所(Heinrich-Hertz-Institute(HHI)、ドイツ)、フィニサー(Finisar Australia、オーストラリア)、住友電気工業株式会社(住友電工、日本)と共同で、イタリア・ラクイラ市内の実環境テストベッドに敷設された標準外径の結合型4コア光ファイバとこれに対応した光スイッチ試作機を用いて光スイッチ機能を備えた光ネットワークを構築し、世界で初めて実環境下での結合型マルチコア光ファイバの光スイッチング実験に成功しました。

 結合型マルチコア光ファイバは、長距離・大容量伝送に優れる新しい伝送媒体として期待されています。本実証では、実環境下において、結合型4コア光ファイバを流れる大容量データを光のままその方路を自在に切り替えることに成功しており、Beyond 5G以降の長距離・大容量光ネットワークの構築技術が大きく前進しました。

 本実験結果の論文は、第46回光ファイバ通信国際会議(OFC 2023)にて非常に高い評価を得て、最優秀ホットトピック論文(Postdeadline Paper)として採択され、現地時間2023年3月9日(木)に発表しました。

 

背景

  増大し続ける通信量に対応するため、新型光ファイバを用いた空間分割多重(SDM)伝送技術の研究が進められていますが、光ネットワークの構築には、伝送技術に加え、SDMに対応した光スイッチ技術も不可欠です。これまでNICTは、非結合型マルチコア光ファイバやマルチモード光ファイバに対応した光スイッチを開発し、光スイッチ機能を備えたSDM光ネットワークの実証を進めてきました。一方、更なる長距離・大容量化に向けては、非結合型よりも高度な技術を要する結合型マルチコア光ファイバで構成される光ネットワークも期待されています。これに対応する光スイッチは、実験室での光スイッチング実験の報告はあるものの、実環境下の光ネットワークにおける光スイッチング実証には至っていませんでした。 

 

図1 イタリア・ラクイラ市内の実環境テストベッドに構築した結合型4コア光ファイバネットワーク

 

今回の成果

 今回、NICTは標準外径の結合型4コア光ファイバに対応した光スイッチを、市販の波長選択スイッチをベースに独自に構成し、ラクイラ大学、HHI、フィニサー、住友電工と共同で、実環境テストベッドに構築した結合型マルチコア光ファイバネットワークにおいて、波長ごとの光スイッチング実験に世界で初めて成功しました。本実験で構築した光ネットワークは、ラクイラ大学内に設置した空間・波長多重信号に対応する光送受信器及び光スイッチ、ラクイラ市内に敷設された結合型4コア光ファイバ(62.9 km)などから構成され、メッシュ状の光ネットワークを模擬しています。

 本実験では、毎秒12テラビット(6波長多重、4空間多重、500ギガビット/波長チャネル)の多重信号を生成し、結合型4コア光ファイバで伝送させた後、光スイッチにより波長ごとに経路を切り替えました。結合型4コア光ファイバに対応した光スイッチは、3方路への切替えを想定し、1入力3出力(1x3)の波長選択スイッチ4台から構成されています(図2参照)。この光スイッチ4台でネットワークノードを構築し、19種のスイッチングパターン(全波長の挿入・分岐、全波長の通過、一部波長の挿入・分岐等)を評価しました。いずれもスイッチング後に正しく受信できることを確認しており、ネットワークノードに要求される基本的なスイッチ機能を全て実証しました。

 

図2 結合型4コア光ファイバ対応光スイッチ(1入力3出力)の構成

 

 非結合型マルチコア光ファイバではコア間の信号干渉を抑えるため、コア間隔を適切に離す必要がありますが、結合型マルチコア光ファイバではMIMOデジタル信号処理により、この影響を除去可能なため、標準外径光ファイバにおけるコア数(多重度)拡大の観点で優れています。さらに、マルチモード光ファイバと比較し、結合型マルチコア光ファイバは長距離伝送時の信号処理負荷(消費電力)を抑えられることからも、次世代の長距離伝送用光ファイバとして期待されています。比較的製造が容易な標準外径の光ファイバで構成することから、安価なシステム導入も期待されます。結合型マルチコア光ファイバに対応した光スイッチは、将来の長距離・大容量光ネットワークの構築に不可欠な技術であり、本成果により、Beyond 5G以降の多様な情報サービスをサポートする光ネットワークの構築技術が大きく前進しました。

 

今後の展望

 今後、標準外径の結合型マルチコア光ファイバをベースにするSDM通信に関しては、結合コア数や波長多重帯域の拡大による大容量化を進めるとともに、これに対応するための光スイッチの拡大を図り、将来の長距離・大容量光ネットワークの基盤技術を確立していきたいと考えています。

 なお、本実験の結果の論文は、アメリカのサンディエゴで開催された光ファイバ通信関係最大の国際会議の一つである第46回光ファイバ通信国際会議(OFC 2023、3月5日(日)~3月9日(木))で非常に高い評価を得て、最優秀ホットトピック論文(Postdeadline Paper)として採択され、現地時間3月9日(木)に発表しました。

 

各機関の担当

・NICT: 光スイッチング実証実験、結合型4コア光ファイバ対応光スイッチの試作、実験データ解析

・ラクイラ大学: 結合型4コア光ファイバ実環境テストベッドの構築

・HHI: 結合型4コア光ファイバ対応送受信部の構築

・フィニサー: 結合型4コア光ファイバ対応波長選択スイッチの制御プログラム開発

・住友電工: 標準外径結合型4コア光ファイバ・ケーブルの提供

 

採択論文

国際会議: 第46回光ファイバ通信国際会議(OFC 2023) 最優秀ホットトピック論文(Postdeadline Paper)

論文名: Colorless and Directionless ROADM for Meshed Coupled-Core Multicore Fiber Networks

著者名: R. S. Luis, G. Di Sciullo, G. Rademacher, B. Puttnam, A. Marotta, R. Emmerich, N. Braig-Christophersen, R. Stolte, F. Graziosi, A. Mecozzi, C. Schubert, T. Hayashi, T. Nagashima, C. Antonelli, H. Furukawa

 

関連する過去のNICTの報道発表

・2022年9月22日 「世界初、実環境テストベッドにおいて15モード多重信号の光スイッチング実験に成功」

 https://www.nict.go.jp/press/2022/09/22-1.html

・2019年10月8日 「世界初、毎秒1ペタビットスイッチング実験に成功」

 https://www.nict.go.jp/press/2019/10/08-1.html

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プレスリリース添付画像

図1 イタリア・ラクイラ市内の実環境テストベッドに構築した結合型4コア光ファイバネットワーク

図2 結合型4コア光ファイバ対応光スイッチ(1入力3出力)の構成

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