国内外来種オヤニラミを滋賀県、三重県で初確認

在来生態系に影響の恐れ、安易な放流に警鐘

龍谷大学

国内外来種の純淡水魚・オヤニラミを

滋賀県宇曽川水系、三重県で相次ぎ初確認

在来生態系に影響の恐れ、安易な放流に警鐘

 

近年、自然分布域外での生息が多数報告されるオヤニラミは絶滅危惧種に指定されているが、

動物食性や“なわばり”性などの特徴から、対策が必要な国内外来種

 

本件のポイント

◆ オヤニラミ 1)は、国内の自然分布域の多くでは絶滅危惧種となっている一方で、近年は意図的と思われる放流等により、国内外来種として日本各地で分布を拡大

◆ その特性から在来生態系への影響が懸念されており、滋賀県では条例でオヤニラミを「指定外来種」に位置づけ、2007年から放流の禁止や飼育時の届け出を義務付ける

◆ 今回、本学理工学研究科の院生と研究員らが、滋賀県宇曽川水系と三重県北部の河川で相次いでオヤニラミを採集し、標本に基づいて記録した初の報告を、論文として発表

 

本件の概要

龍谷大学大学院理工学研究科 環境ソリューション工学専攻の太下 蓮さん、藤田 宗也さんと、龍谷大学 生物多様性科学研究センター 2)の伊藤 玄客員研究員は、滋賀県宇曽川水系と三重県北部の河川で採取した魚類の形態的特徴を観察したところ、オヤニラミと特定しました。両水域(三重県では県下全域)でオヤニラミが確認されたのは、今回が初です。本研究論文は、全国的な平野部の湿地環境について広く掲載し、外来種問題について取り上げることも多い「伊豆沼・内沼研究報告 3)」2023年17巻に投稿・掲載されました。

本調査で採集したオヤニラミには様々なサイズの個体が見られ、成魚のほか当歳魚(その年に生まれた魚)とみられる個体も複数個体採取されたことから、両水域においてオヤニラミは定着・再生産していると考えられます。また、滋賀県宇曽川水系で捕獲した個体の胃内容物分析の結果、ユスリカ科幼虫やカゲロウ目幼虫などの水生昆虫を頻繁に捕食しており、成魚とみられる個体の胃内容物からはエビ類と魚類を確認しました。これらのことから、在来水生昆虫類への捕食圧や水生昆虫類を餌資源とする在来魚類との競争など、在来生態系への危険性が示唆されます。

いずれも近年意図的に放流された国内外来種と考えられることから、「安易な放流は厳に慎まなければならい」という認識を高める上で、重要な論文です。

 

1.発表内容

論文①(和文)

標 題:滋賀県宇曽川水系における国内外来種オヤニラミ(スズキ目ケツギョ科)の初確認

著者名:

太下 蓮(龍谷大学大学院理工学研究科 環境ソリューション工学専攻)・

藤田 宗也(龍谷大学大学院理工学研究科 環境ソリューション工学専攻)・

伊藤 玄(龍谷大学 生物多様性科学研究センター)

 

調査水域:滋賀県宇曽川水系(幹線流路延長22km流域面積69.9 km2の一級河川)

調査時期:2021年2月21日〜10月15日(計7日間)

採集・確認数:計39個体 ※本研究で作成した標本の一部については、滋賀県立琵琶湖博物館に次の番号で登録・保管されている (LBM1210058663, 1210058664,1210059578–1210059589)。

 

論文②(和文)

標 題:三重県における国内外来種オヤニラミ(Coreoperca kawamebari)の初記録

著者名:

太下 蓮(龍谷大学大学院理工学研究科 環境ソリューション工学専攻)・

伊藤 玄(龍谷大学 生物多様性科学研究センター)

 

調査水域:三重県北部の河川および同河川に流入する水路

調査時期:2022年10月8日、10月31日〜11月2日(計4日間)

採集・確認数:計17個体

 

雑誌名:「伊豆沼・内沼研究報告」2023年17巻(論文①p.39- p.46/論文②p.29-p.37)

U R L:論文① https://doi.org/10.20745/izu.17.0_39 論文② https://doi.org/10.20745/izu.17.0_29

※2023年7月11日(火)Web掲載

 

2.用語解説

1)オヤニラミ

スズキ目ケツギョ科に属する純淡水魚で、学名は「Coreoperca kawamebari」。本種は、京都府桂川・由良川水系以西の本州、四国北東部、九州北部を自然分布域としますが、河川改修による生息地の消失や愛好家による採集圧等により個体数を減らし、環境省版レッドリストで絶滅危惧IB類に指定されている一方で、近年は、東京都や愛知県、滋賀県、宮崎県など自然分布域外からの生息が多数報告されています。本種は水生昆虫や甲殻類、魚類などを捕食する動物食性であること、雌雄ともに顕著な“なわばり”性を示し他の魚種に対して攻撃的な生態を示すことから、在来生態系への悪影響が懸念されます。 ※写真は2021年6月2日に宇曽川水系から採集された個体(79.6 mm SL:LBM1210058663) 

 

 

龍谷大学 伊藤玄客員研究員提供

 

2)龍谷大学 生物多様性科学研究センター

当センターは、これまで生物種の検出のみならず、種内の遺伝的多様性も「水から」の分析を可能にしてきました。近年では「生物の状態」まで知ることを狙い、環境RNA(環境中に含まれる生物の核酸で、DNA上の遺伝情報を有す)分析も開始し、総合的な生態系情報の分析へと発展しつつあります。これによりDNAだけではわからない、繁殖活動や病原菌への感染といった情報まで得られるようになると期待されます。本学の研究グループは世界的にも最古参に近く、世界をリードする研究を推し進めています。

 

3)伊豆沼・内沼研究報告

宮城県にあるラムサール条約登録湿地、伊豆沼・内沼を中心とした平野部の湿地に関する調査研究の成果を掲載し、日本の湿地生態系の将来にわたる保全対策の礎となることを目的とした研究報告書。公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団が発行しています。http://izunuma.org/5_2.html

 

 

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クレジット「龍谷大学 伊藤玄客員研究員提供」

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