若年成人男性における脂肪性肝疾患の実態と食行動との関連を調査

岐阜大学

2024年1月31日

国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学

若年成人男性における脂肪性肝疾患の実態と 食行動との関連を調査

【本研究のポイント】

・2023年に脂肪性肝疾患の新定義としてmetabolic dysfunction-associated steatotic liver disease(MASLD)が提唱されたが、その実態や食行動との関連については明らかではない。

・本研究では、322名の健康診断データを用いて、若年成人男性の約16%に非アルコール性脂肪性肝疾患が存在し、約11%にMASLDがあることを明らかにした。

・食行動との関連については、日本肥満学会の推奨する食行動問診表で合計点数が高いほどMASLDのリスクが増加し、特に「体質や体重に関する認識」がリスク上昇との関連が強いことが示唆された。

・本研究により、脂肪性肝疾患につながる食行動を把握し、若年から食行動を是正することで将来的な肝疾患リスクの低減に寄与することが期待される。

 

【研究概要】

 近年、肥満人口の増加により非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD) 1)に伴う肝硬変、肝発癌、心臓血管病などが問題とされています。また、NAFLDの名称における差別や偏見の解消を目的として2023年に脂肪性肝疾患の新定義metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease(MASLD) 2)が提唱されました。岐阜大学保健管理センター 山本眞由美教授、三輪貴生医師らのグループは、若年成人男性のMASLDの実態と食行動との関連を明らかにしました。

本研究では、健康診断を受診した男子大学院生322名を対象とし、腹部超音波検査によりMASLDの実態を明らかにし、日本肥満学会の推奨する食行動問診表3)を用いて食行動との関連を検討しました。年齢中央値22歳の若年成人男性において11%が MAFLD、16%がNAFLDをそれぞれ有していました。MASLDを有する者の食行動問診表の合計点数はMASLDのない者と比較して有意に高いことが明らかとなりました。また、restricted cubic spline analysis 4)では食行動問診表の合計点数が上昇するにしたがって、MASLDおよびNAFLDのリスクが上昇することが示されました。さらに、決定木解析5)およびランダムフォレスト解析6)の結果、食行動の評価項目のうち「体質や体重に関する認識」がMASLDを規定する第一の食行動評価項目でした。個別の質問項目を含む決定木解析およびランダムフォレスト解析では、「他人よりも肥りやすい体質だと思う」という項目がMASLDの層別化に最も寄与する質問項目でした。

 三輪貴生医師らの研究により年齢中央値22歳の若年男性の11%MASLDがあり、MASLDの有無と食行動に関連があることが示唆されました。本研究成果から、食行動問診表を用いてMASLDにおける食行動の「くせ」や「ずれ」を抽出することで、MASLD改善のための食行動改善のポイントを明らかにし、認識や行動の変容につながることで、脂肪性肝疾患の改善と健康寿命の延長に寄与することが期待されます。

 本研究成果は、日本時間2024年1月25日にScientific Reports誌で発表されました。

 

【研究背景】

 肥満人口の増加に伴い、非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease; NAFLD)は世界的に増加傾向であり、本邦でも増加することが見込まれています。近年、NAFLDの名称における差別や偏見を改善する目的で脂肪性肝疾患の新定義であるmetabolic dysfunction-associated steatotic liver disease(MASLD)が提唱されました。MAFLDは脂肪肝と「過体重」、「糖代謝異常」、「高血圧」、「脂質異常症」を併発することで診断し、NAFLDの高リスク因子を考慮した疾患概念として定義されました。しかし、若年世代におけるMASLDの実態と食行動との関連については明らかではありません。本研究では、若年成人男性を対象としてMASLDの実態と食行動との関連について検討しました。

 

【研究成果】

 本研究では本学入学時健康診断を受診した男子大学院生322名を対象とし、通常の健康診断項目に加えて腹部超音波検査、日本肥満学会の提唱する食行動問診表を行い、MASLDの実態と食行動との関連について検討しました。参加者の年齢中央値は22歳、body mass index(BMI)中央値は20.7 kg/m2でした。腹部超音波検査により、16%がNAFLD、11%がMASLDと判定されました。また、11%はNAFLDおよびMASLDの両者を有していました。一般的に日本人の約30%がNAFLDを有するとされており、我々は2023年に若年成人男性の約17%にNAFLDが存在することを報告しました。しかし、診断基準の変遷により若年世代での脂肪肝の新定義であるMASLDの実態は明らかではありませんでした。本研究結果により若年成人男性においても約1割以上がMASLDを有することが明らかとなりました。MASLDは肥満や糖尿病などの代謝異常との関連が強いため、生活習慣の是正により改善する可能性があり、若年世代からの食事・運動療法を含めた生活指導が必要である可能性が示唆されました。

 次に若年成人男性におけるMAFLDと食行動との関連について検討しました。日本肥満学会の推奨する食行動問診表は、55の質問からなり、それぞれの質問を「そんなことはない:0点」、「時々そういうことがある:1点」、「そういう傾向がある:2点」、「まったくその通り:3点」の4段階で評価します。結果から「体質や体重に関する認識」、「食動機」、「代理摂食」、「空腹・満腹感覚」、「食べ方」、「食事内容」、「食生活の規則性」の7項目を評価します。食行動問診表は肥満症外来などで用いられており、患者の食習慣の「くせ」や「ずれ」を把握することで具体的な対策を練ることを可能とします。食行動問診表の合計点数は、MASLDを有する者でMASLDのない者よりも有意に高く(102 vs. 90; p = 0.009)、NAFLDにおいても同様の結果でした(97 vs. 90; p = 0.007)。また、restricted cubic spline analysisでは食行動問診表の合計点数が上昇するにしたがって、MASLDおよびNAFLDのリスクが上昇することが示唆されました(図1)。

 

 食行動問診表の各項目について比較すると、MASLDを有する者はMASLDのない者よりも「体質や体重に関する認識」、「食べ方」に関する点数が有意に高く、同様にNAFLDを有する者はNAFLDのない者よりも「体質や体重に関する認識」、「食動機」、「食べ方」に関する点数が有意に高いことが示されました(図2)。食行動問診表の各評価項目に関する多変量解析では「体質や体重に関する認識」と「食べ方」がMASLDに関与しており、「体質や体重に関する認識」がNAFLDに関与していることが示唆されました。食行動問診表の各項目を含む決定木解析では、「体質や体重に関する認識」が12点以上であると16%がMASLDを有するのに対し、12点未満では2%のみがMASLDを有することが明らかとなりました。また、ランダムフォレスト解析も同様に「体質や体重に関する認識」がMASLDに最も寄与する項目でした。NAFLDに関する解析も同様の結果でした。「体質や体重に関する認識」の評価については「肥るのは甘いものが好きだからだと思う」、「食べてすぐ横になるのが太る原因だと思う」、「風邪をひいてもよく食べる」、「水を飲んでも肥る方だ」、「肥るのは運動不足のせいだ」、「他人よりも肥りやすい体質だと思う」、「それほど食べていないのに痩せない」などの質問が含まれており、これらの誤った「体質や体重に関する認識」が脂肪性肝疾患に強く関与している食行動であることがわかりました。

 

 

 さらにMASLDのリスクを層別化するのに有用な質問を明らかにするため、食行動問診表に含まれるすべての質問項目を用いて決定木解析およびランダムフォレスト解析を行いました。決定木解析では「他人よりも肥りやすい体質だと思う」という質問に対する回答が2点以上であると21%がMASLDであるのに対して2点未満では4%のみがMASLDでした。またランダムフォレスト解析の結果も同様であり、「他人よりも肥りやすい体質だと思う」という質問がMASLDに最も寄与する質問項目でした。NAFLDに関する解析も同様の結果でした。

 以上のことから、年齢中央値22歳の若年成人男性において11%がMASLDを有し、MASLDのある者はMASLDのない者と比較して食行動に問題がある可能性が高いことが示されました。食事は肥満や脂肪性肝疾患の原因や介入において重要であり、まずは食行動における「くせ」や「ずれ」を把握した上で適切な生活習慣改善につなげる必要があることが示唆されました。本研究結果により、若年成人男性における脂肪性肝疾患の現状が明らかになり、個人の食行動に応じた生活習慣改善の方針の策定に寄与することが期待されます。

 

【今後の展開】

 本研究により、若年成人男性の1割以上にMASLDがあり、食行動と関連していることが明らかになりました。また、特に「体質や体重に関する認識」はMASLDと強く関連していることから、誤った認識に対する介入が必要であることが示唆されました。食行動問診表を用いたMASLDにおける食行動の把握が、病態を改善するための食行動改善のポイントを明らかにし、食に対する認識の是正あるいは行動変容につながることで、脂肪性肝疾患の改善と健康寿命の延長に寄与することが期待されます。

 

【用語解説】

1)非アルコール性脂肪性肝疾患:

従来脂肪肝は非アルコール性脂肪性肝疾患肝硬変(nonalcoholic fatty liver disease; NAFLD)とアルコール関連肝疾患に大別されてきた。NAFLDの診断は脂肪肝の原因となる他の肝疾患の除外に基づく。NAFLDの診断概念より過度な飲酒やウイルス性肝疾患などがなくとも肝硬変や肝発癌を来たす可能性があることが広く認知された。

 

2) Metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease(MASLD):

MASLDは2023年に欧州肝臓学会、米国肝臓病学会、ラテンアメリカ肝疾患研究協会などが合同で、NAFLDなどの脂肪性肝疾患の病名を新しく定義したものである。変更理由は従来のNAFLDに含まれる“alcoholic”および“fatty”は不適切用語であると見なされたためである。MAFLDは脂肪肝に加えて「肥満」、「2型糖尿病」、「高血圧」、「脂質異常症」のいずれかが併存することで診断する。

 

3) 日本肥満学会の推奨する食行動問診表:

日本肥満学会の推奨する食行動問診表は、55の質問からなり、それぞれの質問を「そんなことはない:0点」、「時々そういうことがある:1点」、「そういう傾向がある:2点」、「まったくその通り:3点」の4段階で評価する。質問に対する回答から「体質や体重に関する認識」、「食動機」、「代理摂食」、「空腹・満腹感覚」、「食べ方」、「食事内容」、「食生活の規則性」の7項目を評価する。食行動問診表により食習慣の「くせ」や「ずれ」を把握することで食行動における具体的な対策を練ることを可能とする。

 

4) Restricted cubic spline analysis:

Restricted cubic spline analysisは、統計学において非線形関係をモデリングするための一手法である。この分析手法は、特に医療統計や生物統計学でよく用いられ、リスク因子とアウトカム間の関係を探る際に有用な手法である。

 

5) 決定木解析:

決定木解析はデータの中から決定木と呼ばれる樹形図を作成して解析する方法である。決定木は目的の予測や目的に影響している因子の検証に活用することが可能であり、機械学習、マーケティング、意思決定などの場面で利用される。

 

6) ランダムフォレスト解析:

ランダムフォレスト解析はデータ全体の中からランダムにデータを抽出して複数の決定木解析を行い、最終的に複数の決定木の平均を求めることで精度の高い結果が得られる解析方法である。

 

【論文情報】

雑誌名:Scientific Reports

論文タイトル:Usefulness of a questionnaire for assessing the relationship between eating behavior and steatotic liver disease among Japanese male young adults

著者: Takao Miwa1,2,3, Satoko Tajirika1,2,3, Tatsunori Hanai2,3, Nanako Imamura1, Miho Adachi1,3, Ryo Horita1,3, Taku Fukao1,3, Masahito Shimizu2,3, and Mayumi Yamamoto1,3,4

1 岐阜大学保健管理センター

2 岐阜大学大学院医学系研究科内科学講座消化器内科学分野

3 岐阜大学医学部附属病院

4 岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科

DOI: 10.1038/s41598-024-52797-8

 

【研究者プロフィール】

氏名: 三輪 貴生 (Miwa Takao)

機関: 東海国立大学機構 岐阜大学

所属・職名: 岐阜大学医学部附属病院第一内科・医員(非常勤)

       岐阜大学保健管理センター・非常勤講師

学歴(大学):

2015年:岐阜大学医学部医学科卒業

2021年~:岐阜大学大学院医学系研究科医科学専攻(消化器内科学分野在学中)

勤務歴:

2015年4月~2016年6月:岐阜市民病院(研修医)

2016年7月~2017年3月:岐阜大学医学部附属病院 (研修医)

2017年4月~2018年3月:岐阜大学医学部附属病院第一内科(医員)

2018年4月~2020年9月:中濃厚生病院内科(医員)

2020年10月~2022年3月:岐阜大学医学部附属病院第一内科(医員)

2022年4月~2023年4月:岐阜大学保健管理センター(助教)

2023年4月~:岐阜大学医学部附属病院第一内科(医員)、岐阜大学保健管理センター(非常勤講師)

所属等学会:

日本内科学会(認定内科医・総合内科専門医)

日本消化器病学会(専門医)

日本肝臓学会(専門医)

日本消化器内視鏡学会(専門医)

日本臨床栄養代謝学(認定医)

日本病態栄養学会

日本門脈圧亢進症学会

日本超音波医学会

表彰:

2017年度:第233回日本内科学会東海地方会 若手優秀演題賞

2017年度:第234回日本内科学会東海地方会 若手優秀演題賞

2018年度:第237回日本内科学会東海地方会 若手優秀演題賞

2019年度:第239回日本内科学会東海地方会 若手優秀演題賞

2021年度:JDDW2021 若手奨励賞

2022年度:JDDW2021 The Best Presenter Award in International Session 

  第26回日本病態栄養学会年次学術集会 若手研究特別賞

2023年度:第39回日本臨床栄養代謝学会学術集会 Young Investigator Award 2024

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  • 所在地 岐阜県
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