「きぼう」での宇宙火災安全テーマの成果が日本産業規格として発行
~日本発の材料可燃性評価手法の普及と国内素材産業の宇宙分野における国際展開を支援~
2024年3月28日
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
日本プラスチック工業連盟
国立大学法人北海道大学
国立大学法人東海国立大学機構岐阜大学
「きぼう」での宇宙火災安全テーマの成果が日本産業規格として発行
~日本発の材料可燃性評価手法の普及と国内素材産業の宇宙分野
における国際展開を支援~
国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟での軌道上実験を実施中のFLAREテーマ※1における地上研究成果を基に、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が日本プラスチック工業連盟等と協力して開発を進めてきた固体材料の燃焼性試験方法が、2024年2月20日、新規の日本産業規格(JIS)K7201-4※2として制定され、同日付で経済産業省より公示されました。
■経済産業省Webサイト(関連資料(資料1) 2024年2月20日公示リスト)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/hyojun-kijun/jiskouji/20240220001.html
JIS K7201-4は、2021年に国際標準化機構(ISO)の国際標準規格ISO4589-4※3として発行した国際規格※4を、日本の産業標準として技術的な変更を加えることなく制定したものとなります。
逃げ場のない閉鎖空間となる有人宇宙船等における火災を防ぐため、船内で使用する材料については、適切な可燃性評価が必要です。これまで、米国航空宇宙局(NASA)の定めた材料燃焼試験基準(NASA-STD-6001)が使用されていますが、民間ベースでの宇宙利用の拡大や月面への有人宇宙探査計画等の潮流を踏まえ、FLAREテーマでは微小重力環境における最新の研究成果に基づく新たな材料可燃性評価手法※5を構築し、「きぼう」での固体燃焼実験装置(SCEM)を用いた軌道上実験により、その妥当性検証を進めています。
FLAREテーマで構築した新手法は、プラスチックなどの固体材料の燃焼特性を示す定量的指標の一つとして国内外で広く利用されている酸素指数(OI)※6に関し、微小重力環境における値を算出するものです。ISO4589-4は、この目的のために必要となる、高流速条件における材料の酸素指数(HOI)※7の試験方法を定めたものとなります。
HOI試験法に係る今回のJIS規格制定により、産業界をはじめとする国内関係者の理解促進、及びこの規格から算出される微小重力環境での酸素指数の普及・活用を通じた国内素材産業の宇宙分野における国際展開の支援に寄与することが期待されます。
<補足①>
【日本産業規格発行に至る取組(経緯)】
JIS K7201-4の原案は、日本規格協会(JSA)による「2022年度(令和4年度)JIS原案作成公募制度」での採択を受け、JIS K7201-4原案作成委員会(委員長:吉田 公一 氏(日本舶用品検定協会、JAXA客員))において2022年4月から作成を開始しました。JAXAは、日本プラスチック工業連盟等と連携して原案作成を進めました。JIS原案は2022年末にJSAに提出され、日本産業標準調査会(JISC)での審議等を経て、2024年2月20日にJIS K7201-4として正式発行されました。
【関係者コメント】
●原案作成委員会委員長 吉田 公一 氏(日本舶用品検定協会、JAXA客員)
火災安全が極めて重要となる有人宇宙船内で使用する可燃性材料に関する試験方法ISO 4589-4の制定、及びその日本語版となるJIS K7201-4の制定は、有人宇宙船及びその船内機器、並びに対応する材料の開発と製造に、極めて有用な規格であります。今後は、この領域の国内における開発が、これらの規格に則って鋭意進行することを願っております。
<補足②>
用語解説
※1 FLAREテーマ(FLARE: Flammability Limits at Reduced Gravity Experiment)
2012年に「きぼう」利用テーマ重点課題区分として採択された、「火災安全性向上に向けた固体材料の燃焼現象に対する重力影響の評価」(代表研究者:藤田 修 教授(北海道大学))。本テーマには、JAXA、NASA、欧州宇宙機関(ESA)、フランス国立宇宙研究センター(CNES)、ドイツ航空宇宙センター(DLR)を含む4カ国、14機関が参画しています。
https://humans-in-space.jaxa.jp/kibouser/subject/science/70491.html
※2 JIS K7201-4
「プラスチック-酸素指数による燃焼性の試験方法-第4部:高速気流における試験」
※3 ISO4589-4
「Plastics, - Determination of burning behaviour by oxygen index – Part 4: High gas velocity test」
※4 JAXAプレスリリース「固体材料の燃焼性試験方法に関する日本発の国際標準が発行される―「きぼう」での宇宙火災安全テーマの地上研究成果を国際標準化―」(2021年(令和3年)4月20日)
https://www.jaxa.jp/press/2021/04/20210420-1_j.html
※5 FLAREテーマで構築した新たな材料可燃性評価手法
FLARE研究チームの一員である高橋 周平 教授(岐阜大学)の理論モデルをベースとし、地上の通常重力環境でのOI、HOI、および材料の物性値を用いることにより、微小重力環境で火炎燃え広がりが維持される最低の限界酸素濃度(OI_mg)を予測することができます(図1)。詳しくは※1にリンクを記載のJAXA公開Webサイトをご覧ください。
図1 FLAREテーマで構築した新しい材料燃焼性評価手法(概念図) ©JAXA
※6 酸素指数(OI)
規定の条件下で、試料が有炎燃焼を維持するのに必要な23℃±2℃の酸素と窒素との混合ガスの最小酸素濃度%(体積分率)。ISO4589-2に試験方法が規定されている。
※7 高流速条件における酸素指数(HOI)
OIと同様な酸素と窒素との混合ガスの最小酸素濃度%(体積分率)を、規定された流速条件において示すもの。図2に示すHOI試験装置により取得できます。また、図3に試験手順の概要を示します。NASA基準による材料燃焼試験に比べて簡易な設備・手順で実施できるため、試験コストの低減が可能であり、宇宙機関に限らず民間でも利用し易い特徴を持ちます。
図2 HOI試験装置の外観 ©JAXA
試験試料は金属製の試験片ホルダに挟み込まれた状態で、ガラス製の円筒(燃焼コラム)の上端から垂直に吊り下げられます。ガスボトルから供給された酸素と窒素ガスは、ガス制御装置により所定の酸素濃度および流速に調整され、燃焼コラムユニットの下部に供給されます。内部にハニカム等を有する縮流ノズルで整流されたガスは、燃焼コラム内を上方へ流れます。
図3 HOI試験の手順(概要) ©JAXA
試験の際には、試料の上端に炎点火器によるプロパン火炎で着火させます。この時、燃焼コラム内を下方から上方に流れるガス流は、着火を阻害させないように低速状態とします(上図の(a))。試料への確実な着火を確認後、ガス流速を試験条件に設定します(上図の(b))。その後、試料に沿った下方への火炎伝播挙動を観察し、火炎伝播距離が所定の距離以上となるか否かを判定します。火炎伝播距離が所定値を超えた場合は供給する酸素濃度を少し下げ、また逆に所定値を超えなかった場合には酸素濃度を少し上げて次の試験を行います。このような試験を繰り返すことで、当該気流速度におけるHOIとしての値を得ます。
【関連リンク】
[実験テーマ紹介] 火災安全性向上に向けた固体材料の燃焼現象に対する重力影響の評価(FLARE)
https://humans-in-space.jaxa.jp/kibouser/subject/science/70491.html
[装置紹介] 固体燃焼実験装置(SCEM)
https://humans-in-space.jaxa.jp/biz-lab/experiment/pm/scem/
日本プラスチック工業連盟
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- 名称 国立大学法人東海国立大学機構岐阜大学
- 所在地 岐阜県
- 業種 大学
- URL https://www.gifu-u.ac.jp/
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