マタタビはハチを欺く?
雌花は栄養価の低い偽花粉で資源を節約していた
2024年6月4日
岐阜大学
マタタビはハチを欺く?
雌花は栄養価の低い偽花粉で資源を節約していた
【本研究のポイント】
・マタタビの雌花は生殖能力のない花粉をつけてハチを誘引するが、その花粉生産に雄花と同様の栄養コストを払っているのかは不明だった。
・花粉の窒素含有量を雄花と雌花で比較したところ、雌花の方が窒素の量が顕著に少なかった。
・雌花の花粉は体積あたりの重量が低く、“かさ増し”されていることがあきらかになった。
・これらから、マタタビの雌花は花粉生産の上で資源を節約して、雄花より栄養価の低い花粉を報酬とすることでハチを欺いていると考えられる。
・植物と送粉者は互いに得をする相利共生の関係とされているが、このような資源の節約による欺きは、両者の駆け引きを理解する上で重要な知見といえる。
【研究概要】
新潟大学農学部の中山 晴夏 学部生(当時)、岐阜大学教育学部の高田 蘭子 学部生(当時)、岐阜大学教育学部の三宅 崇 教授、新潟大学農学部の崎尾 均 教授(現名誉教授)らの研究グループは、マタタビが送粉者であるハチを欺く戦略をとり、栄養資源を節約していることを明らかにしました。
雌雄異株植物のマタタビは、雄花だけでなく雌花にも雄しべがあり、生殖能力を持たない花粉を作ります。この偽の雄しべはハチを誘引する上で重要ですが、植物が花粉につぎ込む養分を減らして安上がりにしているのかどうかは不明でした。
研究グループは、植物にとって貴重な資源である窒素の量に着目し、雄花と雌花の雄しべや花粉で比較したところ、雌花の方が雄しべや花粉の窒素の量が少ないことが明らかになりました。さらに雌花の花粉は体積あたりの重量が低く、“かさ増し”されていることがわかりました。
一般に植物と送粉者の関係は、お互いに得をする相利共生の関係と考えられていますが、実際には常にそれぞれが自身の利益を最大化するように振る舞っています。本研究結果は、このような植物と送粉者の間にみられる進化的な駆け引きを理解する上で重要な知見といえます。
本研究成果は、日本時間2024年5月29日にPlant Species Biology誌のオンライン版で発表されました。
【研究背景】
マタタビは雌雄異株の植物で、雄株は雄花だけを、雌株は雌花だけをつけます(図1a, b)。どちらの花も花蜜を分泌しないため、訪花するのは花粉を幼虫の養育のために集めるハチです。これらのハチは、集めた花粉を幼虫の餌として用います。マタタビでは雄花だけでなく雌花にも雄しべがあり、花粉が作られているため、ハチは雌花にも花粉を集めにやってきます。このようにしてハチが雄花にも雌花にも訪花することで、雄花で体に付着した花粉の一部が雌花の雌しべに運ばれ、受粉が成立します(図2)。
一方で雌花の花粉は発芽能力をもたず受精できないため、雌株はハチを誘引するためだけに偽の雄しべと花粉を作っていることになります。実際に雌花が花粉を集めるハチを誘引する上で、この偽の雄しべの存在は重要で、取り除くとハチの訪花が減少することが知られています。この生殖器官としては機能を持たない偽の雄しべや花粉を作る上で、雌株が雄株と同様のコストを払っているのかは不明でした。
【研究成果】
研究グループは、まず雄花と雌花の花粉を観察し、雌花の花粉には発芽に必要な発芽孔がないこと、また花粉内部に細胞質がほとんど含まれていないことを確認しました(図1c-f)。
次に、花の窒素成分に着目しました。植物は光合成により炭素を空気中の二酸化炭素から取り込むことができますが、窒素成分は根からしか得ることができません。そのため、しばしば窒素は植物の生長を制限する要因となります。また、花粉を餌として成長するハチの幼虫にとっても、体を作るタンパク質の原料となる窒素成分は重要です。
図1 マタタビの花と花粉。雄花(a)と同様に雌花(b)にも雄しべがある。雄花の花粉(c)には発芽孔があるが、雌花の花粉(d)にはない。細胞質の染色が雄花の花粉(e)ではみられるが雌花の花粉(f)ではみられない。
図2 マタタビの雌花を訪花するトラマルハナバチ。後脚に集められた花粉が着いている。
そこで、研究グループは、窒素成分を雄花と雌花の各パーツで比較しました。その結果、雌花の雄しべは雄花の雄しべに比べて窒素の割合や量が少ないことが明らかになりました。さらに花粉の窒素成分を比較すると、雌花花粉は雄花花粉の1/4程度と低く、一花に含まれる花粉の平均窒素量は、雌花は雄花のわずか6%と違いは顕著でした(図3)。また、一花に含まれる花粉の体積は雄花と雌花でほぼ同じでしたが、乾燥重量では雌花の花粉の方が軽く、見た目だけ雄花と同じようにかさ増ししていることがわかりました。
図3 マタタビの雌花と雄花に含まれる花粉の中の窒素の割合(a)と、一花あたりの花粉の窒素含有量(b)。雌花花粉の窒素割合は雄花花粉の1/4で、雌花では一花あたりの花粉の窒素含有量は雄花のほんの6%にすぎない。
植物は花や葉が枯れる際に、一部の養分を再回収することが知られていますが、成熟すると植物体から離れてしまう花粉からは再回収することができません。そのため、生殖に使われない雌花の花粉ではなるべく栄養を投資しないようにし、その結果送粉の見返りとして幼虫の養育のために花粉を集めるハチを欺いていることになります。
【今後の展開】
植物と送粉者の関係では、送粉者を誘引する手段として花の広告(見た目や匂いなど)と報酬(花蜜や花粉、生育場所)は重要な形質とされています。花弁の大きさや花色など広告に関する形質は比較的容易に測定できるのに対し、花蜜の成分や花粉の窒素量など報酬に関する形質は定量的評価が難しいため研究が遅れています。今後、このような形質の定量的な分析を行うことで、植物と送粉者と利害関係の多様性の理解が一層深まることが期待されます。
【論文情報】
雑誌名:Plant Species Biology
論文タイトル:Floral deception in dioecious Actinidia polygama (Actinidiaceae) revealed by differential nitrogen investment in male organs
著者:Haruka Nakayama1, Ranko Takada1, Takashi Miyake2, Keiko Miyake, Takashi Nirei, Hitoshi Sakio(1筆頭著者、2責任著者)
【研究支援】
本研究は、日本学術振興会科研費(15K07217, 22K06389)、分子・物質合成プラットフォーム【文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム】(JPMXP09S20NU0016) 、および公益財団法人小川科学技術財団の支援を受けました。
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このプレスリリースを配信した企業・団体
- 名称 国立大学法人東海国立大学機構岐阜大学
- 所在地 岐阜県
- 業種 大学
- URL https://www.gifu-u.ac.jp/
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