オンラインセミナー「神々の島バリの多文化共生: インドネシア国内移民との共存の物語」を開催

多文化共生のキーワードは「寛容」

日本GIF

2025年1月15日

 

セミナーで使用されたスライドより(C)岩原紘伊

 

 公益財団法人日本グローバル・インフラストラクチャー研究財団(所在地:東京都港区、理事長:中山幹康、略称:日本GIF)は、2024年11月28日(木)午後2時から、Zoomを利用したオンライン形式にて、聖心女子大学現代教養学部人間関係学科の岩原紘伊専任講師をお招きし、「神々の島バリの多文化共生:インドネシア国内移民との共存の物語」と題し、セミナーを開催しました。

 

開催趣旨

 「神々の島」として知られるバリ島は、独自のヒンズー教文化と観光業で知られる経済的に発展した地域で、その特異性から、住民には「バリ人」としての強いアイデンティティが形成されています。1990年代以降、観光産業の急成長により、他地域からの国内移民が増加しました。

 民族的多数派であるバリ人と移民の間に摩擦が生じることもありますが、バリ人の寛容さと相互扶助の精神、そして移住者の適応努力により、共存の知恵が育まれてきました。

 日本GIFは、バリ島の多文化共生の事例が、気候変動適応策としてのインフラ建設とそれに伴う移住の問題を考える上で貴重であると考え、注目しています。

 今回のオンラインセミナーでは、聖心女子大学現代教養学部人間関係学科の岩原紘伊先生をお招きし、バリ島における経済移民の歴史とその背景、多文化共生のプロセス、そして現在の状況についてわかりやすく解説していただきました。

 

講演要旨

1.インドネシア・バリ島の概要

・バリ島はインドネシアのバリ州に属し、人口は約400万人、面積は5,632㎢、主要産業は観光業、農業、建設業

・2019年の国際観光客数は620万人に達し、国内観光客も1,000万人に及ぶ

 

2.バリ島民と「バリ人」

・地域社会は特徴的な構成を持つ。村(desa)は慣習村(desa adat)と行政村(desa dinas)から成る。その下に位置する慣習集落(banjar adat)は住民の生活や帰属意識の中心で、慣習(adat)が重要な規範となっている

・「バリ人」とは、「バリ語を母語とし、ヒンズー教を信仰する人々」

・国全体ではイスラム教が多数派だが、バリ州では人口の83%がヒンズー教徒(2010年)で、バリ・ヒンズー教徒は土着化した独自の信仰を持っている

 

3.ニャマ・スラム

・バリで生まれ暮らしてきたイスラム教徒「ニャマ・スラム」は、バリの旧王国から正式に土地を付与され居住してきた歴史を持つ

・ニャマ・スラムは現在もバリ島の各地で独自の居住地域(カンプン)を形成

 

4.新しい国内移住者たち

・1990年代後半以降、観光産業の成長により他島からバリ島への移住者、特にイスラム教徒の移住者(pendatang)が都市部で急増。バリ・ヒンズーは宗教構成の急変に危機感を抱き、アイデンティティの強化へと向かったが、対立ばかりではない

・観光開発は環境問題にも影響を及ぼした。2000年代以降は持続可能な観光に注目が集まり、バリ島では環境NGOの組織化や他島からの環境アクティビストの集結が進んだ

・4つの環境NGOによるWorld Silent Dayキャンペーンの推進など、出身や宗教、民族アイデンティティを超えた良好な関係が築かれている

 

5.「寛容」のゆくえ

・バリ島の都市部では異なる宗教や民族の混住が「当たり前」化

・イスラム教徒のカンプンと隣接するヒンズー教徒の村(desa)では、ゲジョット(ngejot)という互いの祝祭日に食べ物を分け合う伝統があり、共生関係にある

・「Toleransi(寛容)」が法制化され、国民文化を発展させる原則の1つに位置づけ

・バリ・ヒンズーとイスラム教徒による共生関係の模索と形成を今後も理解していくことが重要

 


 講演後の質疑応答では、多様な宗教と民族の人々がバリで平和的に共存できた最大の理由、今後のバリの伝統文化はどのように変容していくのか、環境アクティビストなど外からの新しい提案に対するバリ人の反応はどのようなものか等について、活発な質問が飛び交いました。

 セミナー終了後のアンケートによると、「新しい国内移住者たち」や、「ニャマ・スラム」のパートへの関心が高かったことがわかりました。この他にも参加者から多くの質問や意見が寄せられ、バリ島の今後の行方への高い関心が見て取れました。

 

セミナー概要

主  催: 公益財団法人日本グローバル・インフラストラクチャー研究財団(日本GIF)

日  時: 2024年11月28日(月)14:00~15:30

名  称: オンラインセミナー「神々の島バリの多文化共生:インドネシア国内移民との共存の物語」

開催形式: Zoomを利用したオンライン形式(ウェビナー)

講演者: 聖心女子大学現代教養学部人間関係学科専任講師 岩原紘伊

司会者: 坂本晶子(日本GIF事務局長)

参 加 費: 無料

動  画: https://gif.or.jp/seminar_youtube/bali-2/

 

講師略歴 

 

岩原紘伊

 

聖心女子大学現代教養学部人間関係学科専任講師。文化人類学、観光研究、インドネシア地域研究を専門とする。東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻博士課程修了。日本学術振興会特別研究員(2021年~2022年)、東京大学特任講師(2019年~2021年)。主な著書に、『村落エコツーリズムをつくる人びと──バリの観光開発と生活をめぐる民族誌』(2020年)、『観光人類学のフィールドワーク──ツーリズム現場の質的調査入門』(第15章 エコツーリズム・プロジェクトの現場 担当執筆)(2021年)、『基本概念から学ぶ観光人類学』(第12章 持続可能な観光 担当執筆)(2022年)など。

 

 

 

 

 





セミナーで使用されたスライドより(C)岩原紘伊

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