オンラインセミナー 「沈む国土と浮かぶ未来—海面上昇と国際法の最前線」を開催
人工島は海面上昇適応策の最適解となるか
2025年5月20日
セミナーで使用されたスライドより(C)加々美康彦
公益財団法人日本グローバル・インフラストラクチャー研究財団(所在地:東京都港区、理事長:中山幹康、略称:日本GIF)は、2025年3月28日(金)午後2時から、Zoomを利用したオンライン形式にて、中部大学国際関係学部の加々美康彦教授を講師にお招きし、「沈む国土と浮かぶ未来—海面上昇と国際法の最前線」と題したセミナーを開催しました。
開催趣旨
気候変動による海面上昇が進み、世界には国土が消失する危機に直面している国がいくつもあります。もし国土がすべて海に沈んでしまったら、その国はどうなるのでしょうか。国際法上の「国」として存続できるのか、排他的経済水域(EEZ)などの権益を維持できるのかについては、現在も議論が続いています。一方、海面上昇適応策の一つとして、人工島が注目されていますが、現在人工島は国際法上の「領土」とは認められておらず、どのような権利を持つのかも未確定です。
今回のオンラインセミナーでは、国際法、特に海洋法の専門家であり、島の問題に関する論考を多く発表されている、中部大学の加々美康彦教授をお招きし、海面上昇と国際法について解説していただきました。これまでの国際法は、既存の海図や自然の島を基準に運用され、気候変動による国土の消失や人工島建設といった問題を想定していませんでした。近年の事例を踏まえながら、島の定義や人工島の法的地位、将来の海面上昇適応策としてのインフラ建設や、フローティング・プラットフォームなど新たな技術と国際法の関係についても、最新の知見を交えて解説いただきました。
講演要旨
1. はじめに:基礎的な概念や用語「国連海洋法条約(UNCLOS)」
・1970年代に交渉され、1982年採択、1994年発効、現在170カ国が加盟
・「海の憲法」とも称され、領海や排他的経済水域(EEZ)、大陸棚といった管轄海域を定義し、沿岸国の主権や主権的権利が及ぶ範囲を定めている
・管轄海域の主張には「権原」と呼ばれる根拠が必要で、大陸や島といった陸地(海岸)が該当
2. 国際法に定める自然島と人工島(UNCLOSと基線、自然島、人工島)
・基線:通常基線(低潮線:潮が引いたときに現れる海岸線)と、複雑な海岸線に用いられる直線基線がある
・自然島の定義:UNCLOS(121条1項)は「自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるもの」と定義するが、自然と人工の境界は不明であり、「高潮時」の基準は決定されていない
・事例(1)2016年南シナ海仲裁判決(フィリピン対中国):「島」か「岩」かが争点。判決は、スプラトリー諸島最大の地形、イッアバ島は「岩」と判断
・UNCLOSに人工島、施設、構築物の定義はなく、人工島は領土と認められず、海域権原も持たない。沿岸国の領海内での人工島等の建設は自由で、EEZ 内では「経済目的」であれば建設が可能。他国の EEZ では許可なく建設できない
・事例(2)2016年南シナ海仲裁判決(フィリピン対中国):フィリピンのEEZ内で中国が無許可で人工島を造成した例では、仲裁裁判所は国際法に反すると判断。また、中国が低潮高地(LTE)を埋め立てて隆起させたミスチーフ礁は、権原を持たない人工島とされた
3. 海面上昇への適応
・領海基線の固定:領海基線は原則として、低潮線の後退に伴い移動するが、海面上昇による後退は想定していない。近年は太平洋諸島フォーラム(PIF)などで基線固定化の動きが進んでいるが、海岸後退の要因峻別が難しく、地殻変動で陸地が拡大した場合の扱いや、固定後の見直しの可否も不明確等、課題も多い。さらに、領土が完全に水没した場合に国家が消滅するかどうかも争点
・人工島の建設:海面上昇の適応策として、モルディブやUAEの領海内での建設事例、EEZ・公海での構想がある人工島が注目されているが、国際法における議論は乏しい。技術的には浮体式人工島は環境負荷が比較的低いとされるが、海底への固定(繋留)は生態系に影響する可能性がある。将来的に必要な選択肢となりうる「居住目的」の人工島をEEZや公海上で実現するには、国際的な合意形成が必要
・居住目的の人工島は万人のための技術として発展すべきであり、一部のエリートによる脱出策としてではなく、広く社会に貢献する形で進める必要がある
講演後の質疑応答では、LTEを人工島化する場合の問題点、フローティング・シティにおける行政サービスの負担、海面上昇への対応は慣習法によるべきかあるいは条例を作るべきか等、多様な視点から議論が行われました。
セミナー終了後のアンケートによると、「人工島の建設」や「領海基線の固定」「国際法に定める自然島と人工島」のパートへの関心が高かったことがわかりました。この他にも多くの質問や意見が寄せられ、海面上昇と国際法の今後の行方への高い関心が見て取れました。
セミナー概要
主 催: 公益財団法人日本グローバル・インフラストラクチャー研究財団(日本GIF)
日 時: 2025年3月28日(金)14:00~15:30
名 称: オンラインセミナー「沈む国土と浮かぶ未来—海面上昇と国際法の最前線」
開催形式: Zoomを利用したオンライン形式(ウェビナー)
講 演 者: 中部大学国際関係学部 教授 加々美 康彦
司 会 者: 坂本晶子(日本GIF事務局長)
参 加 費: 無料
動 画: https://gif.or.jp/seminar_youtube/interntional_law/
講師略歴
加々美康彦
中部大学国際関係学部教授(博士・国際関係)。関西大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得満期退学、海洋政策研究財団研究員、鳥取環境大学講師・准教授を経て現職。専攻は国際法、海洋法、海洋政策。日本海洋政策学会理事、太平洋諸島学会理事。国土交通省「海洋管理のための離島の保全・管理・利活用のあり方に関する検討委員会」ほか多くの委員会委員を歴任。近著に「島の制度をめぐる国際判例と国家実行—2010年代の展開」坂元茂樹ほか編『日本の海洋法制度の展望』(有信堂、2024年)、「マーシャルズ201号事件—国連海洋法条約第121条3項の解釈と米国」浅田正彦ほか編『国家と海洋の国際法〔柳井俊二先生米寿記念〕下巻』(信山社、2025年)など。
加々美康彦
セミナーで使用されたスライドより(C)加々美康彦
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このプレスリリースを配信した企業・団体

- 名称 公益財団法人日本グローバル・インフラストラクチャー研究財団
- 所在地 東京都
- 業種 各種団体
- URL https://gif.or.jp/
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