AIにより画像からアルミニウム合金の強さを予測
深層学習を用いてアルミニウム合金の組織画像から機械的特性を予測する技術を開発
ポイント
・ 光学顕微鏡を用いて撮影したアルミニウム合金の微視組織の画像から、深層学習AIを使うことで材料の強度を予測する技術を開発
・ 20条件、1条件当たり12画像のデータから精度の高い特性予測を実現
・ 高性能なアルミニウム合金の開発、特にリサイクルアルミニウム合金の開発に貢献
概 要
国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)マルチマテリアル研究部門 村上 雄一朗 主任研究員、古嶋 亮⼀ 研究グループ長、尾村 直紀 研究グループ長、志賀 敬次 主任研究員、宮島 達也 キャリアエキスパートは、深層学習AIによりアルミニウム合金の微視組織の画像からアルミニウム合金の強さを予測する技術を開発しました。
リサイクルアルミニウム合金の製造は、原料からのアルミニウム合金の製錬と比べて温室効果ガスの排出量を20分の1以下に削減できますが、さまざまな元素が混入するため用途が限られることが課題でした。本技術ではリサイクルの容易な、合金元素を多く含む鋳造用アルミニウム合金を対象とし、その特性を予測することが可能です。従来の合金開発では膨大な実験と評価が必要でしたが、本技術を用いることにより特性評価に要する工程を減らすことが可能となり、開発期間の短縮が期待されます。また、本技術を利用して新たなリサイクルアルミニウム合金を開発することにより、資源循環型社会の構築と温室効果ガス削減に貢献します。
なお、この技術の詳細は、2024年12月25日に「Acta Materialia」にオンライン掲載されました。
下線部は【用語解説】参照
開発の社会的背景
近年の気候変動問題に対して温室効果ガス発生量の低減が必要とされている中、金属の中でも軽量なアルミニウム合金の重要性が高まっています。さらに、アルミニウム合金はさびにくく、加工しやすいといった特長があります。このため、自動車など輸送機器の燃費向上や、建材に利用することによる長寿命化を目的として使われています。今後需要はさらに増加することが予測されており、2040年までに2020年の1.5倍以上となる見込みです*。
しかし、アルミニウム合金を製造する際には、製錬の過程で温室効果ガスを大量に発生するという課題があります。これに対し、リサイクルアルミニウム合金の場合は、製造時の温室効果ガスの発生量が20分の1以下であり、原料からアルミニウム合金を製錬するよりも大幅に低減させることが可能です。
アルミニウム合金はその用途に応じてさまざまな種類の合金が開発されてきたため、リサイクルするアルミニウム合金には多様な合金元素が含まれています。したがって、リサイクルアルミニウム合金は合金元素の含有量が多く、固体での加工が難しいなどの理由により缶材や鋳造用などに用途が限られていました。このため、合金元素の含有量の多いリサイクルアルミニウム合金の特性を最適化し、適用範囲を広げていく必要があります。しかし、最適なアルミニウム合金をつくるには非常に多種の合金元素について調査する必要があり、開発期間がかかることが課題でした。
研究の経緯
産総研は、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成事業「アルミニウム素材高度資源循環システム構築事業」(2021~2025年度)において、不純物元素除去によるアルミニウム素材の資源循環技術の開発を進めています。また、窒化ケイ素の微細構造から壊れにくさの指標である破壊靭性を予測するAIを開発してきました(2022年9月30日 産総研プレス発表)。今回、この技術をアルミニウム合金の開発に応用し、光学顕微鏡による微視組織画像から特性を予測する技術を開発しました。
研究の内容
産総研でこれまでに開発を行ってきた組織画像から深層学習を用いて破壊靭性を予測する技術を応用し、アルミニウム合金の引張強度や伸びなど機械的特性のAI予測システムを開発しました。対象として、合金元素を多く含み、リサイクル材として使いやすい鋳造用アルミニウム合金を用いました。異なる組成のアルミニウム合金10種について、金型鋳造、砂型鋳造の2種類の方法で鋳造した材料から、合金1種につき試験片を各条件4本作製しました。これらの試験片を用いて、各条件12画像の組織画像を取得しました。一方、それぞれの合金の組織画像を光学顕微鏡で観察し、組織画像と機械的特性の関係を関連付ける深層学習モデルを構築しました。構築したモデルに対し、学習に用いた組織画像とは異なる画像データを与えることで、機械的特性の予測精度の検証を行いました。図1に強度と伸びの予測値と実測値を比較した結果を示します。
組織画像のうち、どの領域が予測値に関与したかを調べたところ、組織画像の濃淡から結晶の種類(結晶相)を判別していることが分かりました(図2)。図2のうち、赤色の部分は物性予測に大きく寄与する領域、青色の部分は物性予測への影響度は小さい領域です。これらの領域は異なる種類の結晶相であり、結晶相の種類に応じて予測値への寄与が異なっていることを示しています。
このように、画像のみからでも高い精度で強度と伸びの予測を可能とするAIモデルを構築しました。組織画像にはさまざまな結晶相が含まれており、これらの大きさや形状、存在割合および分散度合いが機械的特性に大きな影響を与えます。今回開発した技術では結晶相の違いを判別できるため、組織画像から高い精度で機械的特性を予測できたものと考えられます。本手法では、シリコンや銅、マグネシウムといった元素の含有量の異なる組織画像を対象とし、画像の特徴をより正確に評価することにより数百枚程度と少ない画像から特性の予測を可能としました。合金開発においては、機械的特性の評価、特に評価用の試験片作製にも多くの工程を必要とします。本技術により、組織写真から機械的特性を推測することができ、機械的特性評価用の試験片の作製数を減らすことが可能となります。このため、材料開発における評価に関する工程を削減することができ、材料開発の効率化が期待できます。
今後の予定
今後は本技術をアルミニウム合金の材料開発に適用することにより、高性能なアルミニウム合金の開発、特にリサイクルアルミニウム合金の開発に貢献します。また、AIに学習させるデータを拡張することにより、より広い範囲での材料特性の最適化を目指します。
論文情報
掲載誌:Acta Materialia
論文タイトル:Mechanical property prediction of aluminium alloys with varied silicon content using deep learning
著者:Yuichiro Murakami, Ryoichi Furushima, Keiji Shiga, Tatsuya Miyajima and Naoki Omura
DOI:https://doi.org/10.1016/j.actamat.2024.120683
用語解説
深層学習
コンピューターによる機械学習で、人間の脳神経回路を模したニューラルネットワークを多層的にすることで、コンピューター自らがデータに含まれる潜在的な特徴をとらえ、より正確で効率的な判断を実現させる技術や手法。(「デジタル大辞泉」より)
微視組織
光学顕微鏡などを用いて観察した金属・合金材料の微細な組織。本技術では、光学顕微鏡で観察できる倍率30倍程度の画像を用いている。
合金元素
ある金属元素を主原料とした材料において、これに一定の特性を与えるため意図的に制御された量だけ添加される元素。
鋳造用アルミニウム合金
鋳造(高温で液体となったアルミニウムを型の中に流し込み成形する手法)に用いるのに適したアルミニウム合金。一般に、ケイ素などを多く加えることによって融点を下げ、成形性を高めている。合金元素の許容量が大きいものが多いため、リサイクルアルミニウム合金を使うことが可能。
破壊靭性
き裂・き裂状の欠陥を有する材料に力学的な負荷が加わったときの、き裂の進展度合い、および破壊に対する抵抗。
引張強度
材料に引張力が加わったときの材料の強さ。棒状の試験片を軸方向に引っ張ったとき、試験片が破断するまでに耐えた最大の荷重を試験片の最初の断面積で除した値。
伸び
材料に引張力が加わったとき、破断するまでの材料の変形量。棒状の試験片を軸方向に引っ張ったとき、試験片が破断した際の変形後の長さの変化量を元の長さで除した値。
機械的特性
力学的な観点からみた物体の性質。引張や衝撃、疲労に対する強さや材料の硬さ、変形のしやすさ、加工のしやすさなどの性質。
組成
合金の中に含まれる元素とその割合。
金型鋳造
鋳造法の一種で、金属製の型を用い、高温で液体となった金属を流し込んで成形する手法。型の熱伝導度が高いため冷却速度が速く、組織が微細になるため強度の高い鋳造品が製造できる。
砂型鋳造
鋳造法の一種で、砂で作製した型を用い、高温で液体となった金属を流し込んで成形する手法。形状の自由度が高い一方、型の熱伝導度が低いため冷却速度が遅く、組織が粗く強度が低いなどの欠点がある。
結晶相
結晶の構造や組成が均質で一定の物理的状態にあると規定できる物質。
注釈
*Global Aluminium Cycle(https://alucycle.international-aluminium.org/public-access/public-global-cycle/)(International Aluminium Institute)より
プレスリリースURL
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2025/pr20250205/pr20250205.html
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このプレスリリースを配信した企業・団体
- 名称 国立研究開発法人産業技術総合研究所
- 所在地 茨城県
- 業種 政府・官公庁
- URL https://www.aist.go.jp/
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