大マゼラン雲で巨大な「分子雲ジェット」を発見

ガンマ線連星のエネルギー生成メカニズムの解明に大きな一歩

岐阜大学

2026年10月30日

名古屋大学

岐阜大学

大マゼラン雲で巨大な「分子雲ジェット」を発見 ~ガンマ線連星のエネルギー生成メカニズムの解明に大きな一歩~

 

 

本研究のポイント

・大マゼラン雲 注1)にあるガンマ線連星「LMC P3」から伸びる、分子ガスの流れを大型電波望遠鏡アルマ(アルマ望遠鏡) 注2)で発見。大マゼラン雲で、このような高エネルギー現象に伴う分子ガスのジェットが捉えられたのは初めて。

・観測された分子ガスのジェットは、LMC P3から放出された、光速に近い高速ジェットによってつくられた可能性を示した。 これにより、ブラックホールや中性子星 注3)の周囲に形成される「降着円盤 注4)」が、巨大なエネルギーを生み出している可能性が示された。

・LMC P3は、ガンマ線連星の中でも非常に明るい天体。本成果は、ガンマ線連星がどのように高エネルギーの粒子や放射を生み出しているのか、その仕組みを解明する重要な手掛かりとなる。

 

 

研究概要

 名古屋大学大学院理学研究科の福井 康雄 名誉教授、岐阜大学大学院自然科学技術研究科の佐野 栄俊 准教授、同大学高等研究院のブヴァナ・ガディケレ・ラジェンドラ 研究員、柘植 紀節 特任助教らの研究チームは、大マゼラン雲のガンマ線連星LMC P3 が高エネルギージェットを噴出する天体であることを世界で初めて示しました。

 同チームは、南米チリの大型電波望遠鏡アルマ(アルマ望遠鏡)を用いて大マゼラン雲の星間雲の高分解能観測を実施し、観測結果を詳細に解析しました。その結果、ガンマ線連星LMC P3 に付随する分子雲ジェットが発見されました。この発見によって、同連星がブラックホール、あるいは中性子星に降着するガス円盤によって加速された高エネルギージェットを噴き出しており、周囲の星間ガスを衝撃波圧縮してジェット状分子雲を形成したことが明らかになりました。

 このジェットは既知の銀河系内最強のジェット天体SS433 注5)に匹敵する強力なものであり、ブラックホール等のコンパクト天体が駆動する降着円盤の存在が確実になりました。また、この天体は強力なガンマ線源でもあり、ジェット加速とならんで宇宙線源としても大マゼラン雲で最強であるとみられ、大マゼラン雲における宇宙線の起源と銀河進化の解明に大きな影響を与えるとみられます。

 本研究成果は、2026年10月30日午前0時(日本時間)付の天文学術雑誌「アストロフィジカルジャーナル」誌にて掲載されました。

 

図 1. 大マゼラン雲のガンマ線連星系  LMC P3 周辺で発見された分子雲ジェット

(左)大マゼラン雲の超新星残骸  DEM L241 と高エネルギー連星 LMC P3。赤はX 線、緑・青は可視光、黄線は分子ガスを示す。(右)白枠内をアルマ望遠鏡で拡大した画像。色は分子ガスの電波強度を表す。

 

 

【研究背景と内容】

 ガンマ線連星は、最高エネルギーの電磁波=ガンマ線を放つ二重星であり、これまでに全天で6個が見つかっています。そのうち最も光度の高い連星が大マゼラン雲のLMC P3 であり、残りは銀河系で見つかっています。ガンマ線連星は、ブラックホールまたは中性子星というコンパクト星と、通常の大質量星からなると考えられますが、その成り立ちとガンマ線放射機構についてはほとんど解明されていませんでした。

 これまでの研究によって、LMC P3 は周期約10日の公転軌道運動を示し、ガンマ線がそれに同期して周期的に光度変動していることが分かっていました。今回の発見によって光速に近い高エネルギージェットの存在が初めて明らかになり、降着円盤によるエネルギー解放の可能性が立証されました。降着円盤は、ブラックホールまたは中性子星というコンパクト星を取り巻いているとみられます。しかし、従来は中性子星のつくる高速度の星風が高エネルギー発生の原因であるとするシナリオが支持されており、降着円盤の存在は知られていませんでした。本研究によって状況は大きく書き換えられ、降着円盤によるエネルギー解放が中心的役割を果たしていることが明確になりました。

 

図 2. 高エネルギージェットによる相互作用の模式図

LMC P3のジェットが周囲の分子ガスと衝突し、細長い分子雲を形成した可能性を示す模式図。

 

 

研究成果

 本研究は、アルマ望遠鏡の約3光年という高い分解能で星間雲を分解し、長さ30光年、幅3光年の分子雲ジェットの分離に成功しました。このジェットは正確にLMC P3に一致した方向に直線状に伸びており、ガンマ線連星が起源であることが強く示唆されます。この領域にはより広い範囲に星間雲が広がっており、LMC P3から発射された高エネルギージェットがこの分子雲を衝撃波加速して分子雲ジェットを形成したとみられます。本解析からは、分子雲ジェット全体が高温に加熱されていることが明らかになり、光速に近い高エネルギージェットの存在が立証されました。また、そのエネルギーは既知のジェット天体SS433に匹敵することから、ブラックホールの可能性が示されました。さらに分子雲ジェットの向きについて新たな観測的制約が与えられ、ブラックホールの可能性がより高くなりガンマ線連星の大光度とも整合します。

 

図3: LMC P3 の伴星質量と軌道傾斜角から推定されるコンパクト天体の質量 (van Soelen et al. 2019) を改変。

伴星は太陽の25~42倍のO型星(黒色網掛け部分)。ジェット状分子雲の向きと整合する軌道傾斜角33度未満では、コンパクト天体は太陽の 2.2倍を超え、ブラックホールである可能性が高まる。

 

 

今後の発展

 同種の分子雲ジェットは、銀河系においても一例が最近報告されており、今後の展開が注目されます。これまで、高エネルギージェットの観測は、X 線やガンマ線という高エネルギー現象によって検出するものという考えが「常識」でした。しかし、本研究によって、分子雲ジェットが有力な観測手段であることが立証されました。高エネルギー現象は1万年以下の短時間に変動することが多く、長期にわたる活動の検証には不向きです。これに対して分子雲ジェットは100万年以上継続して過去の活動を記録できる「宇宙の化石」であり、広範囲の現象の検出が可能になります。大マゼラン雲は銀河系に最も近い隣の銀河であり、今後アルマなどによる追究観測によって新たな発見が期待されます。銀河進化の時間規模で、宇宙の高エネルギー活動に「メス」が入れられることが期待されます。

 

 

用語説明

注1) 大マゼラン雲:

 天の川銀河の近くにある伴銀河の一つ。

注2) 大型電波望遠鏡アルマ(アルマ望遠鏡):

 南米チリのアタカマ高地に設置された大型電波望遠鏡。10m級の高精度パラボラアンテナ60基余から構成され、ミリ波-サブミリ波帯で宇宙を観測する。日米欧の国際共同によって2010年に建設され、これまでの運用によって多くの研究成果があげられている。

注3) 中性子星:

 星の進化の最後につくられる超高密度天体。サイズは10kmと小さいが、質量は太陽の 1.4~2.2倍程度。これよりも重くなるとブラックホールになる。

注4) 降着円盤:

 ブラックホールなどの周囲に、物質が回転しながら落ち込むことで形成される円盤状の構造。

注5) SS433:

 降着円盤によって加速された高エネルギージェットを持つ最もよく知られた高エネルギー天体。マイクロクエイサーの代表格。

 

 

論文情報

雑誌名:The Astrophysical Journal Letters

論文タイトル:

ALMA Observations of DEM L241/LMC P3 in the Large Magellanic Cloud:Evidence for the Formation of Cool Molecular Jets Driven by a Microquasar

著者: 福井康雄(名古屋大学名誉教授)、Bhuvana Gadikere Rajendra(岐阜大学)、佐野栄俊(岐阜大学/名古屋大学)、柘植紀節(岐阜大学/名古屋大学/国立天文台)、馬場彩(東京大学)、Miroslav Filipovic(西シドニー大学)、Gavin Rowell(アデレード大学)、佐々木愛美(フリードリヒ=アレクサンダー大学)ほか、DEM L241/LMC P3 ALMA研究チーム

DOI: 10.3847/2041-8213/aea0cb

 

 

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  • 所在地 岐阜県
  • 業種 大学
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