研究成果「遺伝性重度発達障害の原因となる新たな遺伝子の同定」
新潟大学大学院医歯学総合研究科分子遺伝学分野の小松雅明教授、石村亮輔助教らは、UFM1システムと呼ばれる細胞内たんぱく質修飾機構の機能低下が小頭症や精神運動発達遅延等を伴う遺伝性の発達障害を引き起こすことを突き止めました。
2018年6月5日
国立大学法人新潟大学
遺伝性重度発達障害の原因となる新たな遺伝子の同定
新潟大学大学院医歯学総合研究科分子遺伝学分野の小松雅明教授、石村亮輔助教らは、UFM1システム注1と呼ばれる細胞内たんぱく質修飾機構の機能低下が小頭症注2や精神運動発達遅延注3等を伴う遺伝性の発達障害注4を引き起こすことを突き止めました。
この研究成果は、キング・ファイサル専門病院 研究センターのFowzan Alkuraya教授、ケンブリッジ大学のGeoff Woods教授らとの国際共同研究で得られたもので、2018年6月2日 (英国時間)のBrain誌(IMPACT FACTOR 10.292)に掲載されました。
<<Biallelic UFM1 and UFC1 mutations expand the essential role of ufmylation in brain development>>
【本研究成果のポイント】
1.小頭症や精神運動発達遅延等を伴う遺伝性発達障害の7家系から、原因遺伝子としてUFM1システムに必須なUFM1あるいはUFC1遺伝子の変異を同定した。
2.UFM1あるいはUFC1遺伝子のいずれの変異でもUFM1システムが抑制されることを試験管内で確認した。
3.UFM1あるいはUFC1遺伝子変異を持つ患者由来の細胞において、UFM1により修飾された細胞内たんぱく質の減少を確認した。
Ⅰ.研究の背景
重度発達障害をきたす疾患には未だ原因不明のものが多く、その原因遺伝子の同定と病態発症機序の解明が望まれています。
細胞内で生合成されたたんぱく質は、リン酸化、糖鎖付加、脂質付加、メチル化、アセチル化等により修飾され、これら修飾により機能や活性が調節されます。高等生物では遺伝子配列に基づき合成されたたんぱく質が、直接機能を発揮することは少なく、多くは様々な修飾を受けることで機能の多様性が発揮されます。UFM1は細胞内のたんぱく質修飾分子です。UFM1はUBA5酵素により活性化された後、UFC1酵素に移され、最終的に細胞内で生合成されたたんぱく質を修飾し、たんぱく質の機能の変換を担うと考えられています(参考図1)。
ごく最近、小松教授らをはじめ複数のグループにより独立に小頭症や精神運動発達遅延等を伴う遺伝性発達障害の原因遺伝子としてUBA5が同定され、UFM1システムの機能異常と重度発達障害発症との関連が注目されています。
Ⅱ.研究の概要
多人種、複数の家系において遺伝性重度発達障害の原因遺伝子としてUFM1そしてUFC1を同定するとともに、それらいずれの変異によってもUFM1システムの機能低下が起こることを突き止めました。
Ⅲ.研究の成果
今回、小松教授らは、小頭症や精神運動発達遅延等を伴う遺伝性発達障害患者を持つスーダンの2家系、サウジアラビアの4家系、そしてスイスの1家系の遺伝子解析により、UFM1システムを構成するUFM1およびUFC1をコードする遺伝子に変異を同定しました。試験管内において、変異UFM1たんぱく質はUBA5酵素による活性化、変異UFC1たんぱく質はUFM1の転移が著しく抑制されていることが判明しました(参考図2)。さらに、患者由来の細胞においてUFM1により修飾された細胞内たんぱく質の減少が確認されました(参考図3)。以前に同定したUBA5遺伝子変異も同様にUFM1システムを抑制することから、これらの研究成果は、UFM1システムの機能低下が小頭症や精神運動発達遅延等を伴う遺伝性発達障害を引き起こすことを意味します。
Ⅳ.今後の研究について
すでに研究グループは、横浜市立大学大学院医学研究科の松本直道教授(遺伝学)らとの共同研究により遺伝性発達障害患者を持つ日本の家系においてもUFM1システムを構成する遺伝子の変異を同定しています。今後も国内外のUFM1システム関連遺伝子変異を持つ家系の検索、そしてUFM1システムの活性を増加させる薬剤のスクリーニングを行うことで臨床応用を目指しています。
(用語解説)
注1 UFM1システム
UFM1と呼ばれる小さなたんぱく質による細胞内たんぱく質の修飾システム(参考図1)。細胞内たんぱく質にUFM1が結合することで機能の変換が起こると考えられている。
注2 小頭症
先天的な脳の発育不全や出生時における障害等が原因となり、頭蓋が異常に小さい疾患。
注3 精神運動発達遅延
知的能力と運動能力の発達が共に遅れている状態。
注4 発達障害
脳機能の障害により、精神面もしくは運動面の発達に問題がある状態。
Ⅴ.研究成果の公表
本研究成果は、2018年6月2日(英国時間)のBrain誌(IMPACT FACTOR 10.292)に掲載されました。
論文タイトル:
Biallelic UFM1 and UFC1 mutations expand the essential role of ufmylation in brain development
著者:
Michael S Nahorski*, Sateesh Maddirevula*, Ryosuke Ishimura*, Saud Alsahli, Angela Brady, Anaïs Begemann, Tsunehiro Mizushima, Francisco J. Guzmán-Vega, Miki Obata, Yoshinobu Ichimura, Hessa S Alsaif, Shams Anazi, Niema Ibrahim, Firdous Abdulwahab, Mais Hashem, Dorota Monies, Mohamed Abouelhoda, Brian F Meyer, Majid Alfadhel, Wafa Eyaid, Markus Zweier, Katharina Steindl, Anita Rauch, Stefan T. Arold, C Geoffrey Woods**, Masaaki Komatsu**, Fowzan S Alkuraya**
*These authors contributed equally to this work
**Co-corresponding author
doi:10.1093/brain/awy135
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このプレスリリースを配信した企業・団体
- 名称 国立大学法人新潟大学
- 所在地 新潟県
- 業種 大学
- URL http://www.niigata-u.ac.jp/
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