生命活動の燃料「ATP」を観察する3色の蛍光センサーの開発に成功

早稲田大学

早稲田大学理工学術院の新井敏研究院講師らの研究グループが、細胞の中のエネルギー代謝の中心であるATPをセンシングする、赤・緑・青(RGB)色の蛍光ATPセンサーの開発に成功。細胞内のATPのダイナミックな姿を高精度、且つ、簡便に捉える強力なツールとして期待できます。

2018年7月24日

早稲田大学

生命活動の燃料「ATP」を観察する3色の蛍光センサーの開発に成功

がんや肥満の創薬開発への貢献に期待 日本、シンガポール、アメリカの国際共同研究

早稲田大学理工学術院の新井敏(あらいさとし)研究院講師と東京工業大学 科学技術創成研究院の北口哲也(きたぐちてつや)准教授(論文投稿当時、早稲田大学重点領域研究機構研究院准教授)らの研究チームは、東京大学大学院総合文化研究科、シンガポール国立大学、ハーバード大学と共同で、細胞の中のエネルギー代謝で中心的な役割を果たしているアデノシン三リン酸(ATP)を検出する、赤・緑・青(RGB)色の蛍光ATPセンサーの開発に成功しました。

地球上のあらゆる生物は、栄養素の分解を通して獲得したエネルギーを、ATPの形に変換・保存し、必要に応じて、ATPからエネルギーを取り出すことで、生命体を構成する細胞の中の様々な化学反応を滞りなく進行させたり、必要な場所に必要な物質を輸送するシステムを動かしたりしています。このATPの細胞内の分布を理解するためには、細胞内のATP濃度の変化の情報を蛍光シグナル(蛍光の明るさの強弱)に変換する蛍光ATPセンサーを細胞の中に導入し、蛍光顕微鏡を用いて生きた細胞を観察する蛍光イメージング技術が最も有力な手法の1つです。

本研究チームは、標的とするATPに特異的に結合するタンパク質(ATP合成酵素の一部)と、蛍光を発する色素を含む蛍光タンパク質をペプチドリンカー(※1)で繋ぎ、その長さやリンカーを構成するアミノ酸の種類を独自の手法で最適化することで、青・緑・赤色の蛍光ATPセンサー(MaLionB, G, R)を開発しました。今回開発した蛍光ATPセンサーを自在に組み合わせることで、従来の技術では原理的に極めて困難であった「同じ細胞内の異なる場所のATPの動態の同時観察」や、「ATP以外の他のシグナルやタンパク質の動態との同時観察」などが可能になりました。

今回の開発した一連の蛍光ATPセンサーは、汎用性の高い研究ツールとして、創薬・医療技術開発にATPに関わるシグナル伝達経路のビジュアルエビデンスという新しい視点を加え、開発研究を加速度的に進めることが期待されます。本研究は、文部科学省科学研究費補助金、及び、日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業(PRIME)「メカノバイオロジー機構の解明による革新的医療機器及び医療技術の創出」研究開発領域における研究開発課題「人工オルガネラ熱源の作成細胞機能の温熱制御」(研究開発代表者:新井敏)の研究費によって行われました。

研究成果は、ドイツ化学会誌『Angewandte Chemie International Edition』オンライン版に2018年6月27日に掲載され、近日中に紙面掲載される予定です。

掲載論文

https://doi.org/10.1002/anie.201804304

詳細は早稲田大学ウェブサイトでご確認いただけます。

https://www.waseda.jp/top/news/60484

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プレスリリース添付画像

図1 ATPの濃度変化によって蛍光強度が変わるRGBカラーの蛍光ATPセンサー

図2 がん細胞のダイナミックなATPの濃度変化を捉えた成功例

図3 褐色脂肪細胞の熱産生に関わるシグナル伝達系の可視化

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