岩手県久慈市から発見された 恐竜時代の哺乳類化石とその重要性

早稲田大学

 

                 岩手県久慈市から発見された

恐竜時代の哺乳類化石とその重要性

 

久慈琥珀博物館の琥珀採掘体験場および隣接する脊椎動物化石凝集層(ボーンベッド)からは今から約9000万年前の恐竜の歯化石や、カメ類やワニ類の骨格など30種類を超える脊椎動物化石が2025年8月現在、あわせて3700点以上も発見されており、日本の恐竜時代(中生代白亜紀)の生物相を解明するための重要な地域となっています。今回は、久慈市で発見された哺乳類化石の研究成果について詳細を発表いたします。当該標本は国内でも極めて希少な中生代哺乳類の顎と歯の化石であり、岩手県からは初報告になります。

 

これまで、岩手県久慈市からは、多種多様な動・植物化石が報告されており、東アジアにおける中生代白亜紀の生物相を理解するうえで重要な化石産地として認識されています。脊椎動物の化石以外にも昆虫類や植物などの化石が数多く確認されており、後期白亜紀における陸上生態系の多様性を解明するうえで重要な成果が続々と報告されています。そのような中で、久慈層群(玉川層)から新たに哺乳類の化石が発見されました。久慈層群が堆積した後期白亜紀は、哺乳類の多様化が進む重要な時代であり、本報告によって、二つのグループ(多丘歯類と真獣類)の進化史の解明に大きく貢献できることが期待されます。国内の恐竜時代(中生代)の哺乳類化石は極めて希少であり、今回は7県目の報告となります(福島、石川、福井、兵庫、熊本、および鹿児島県から既報)。岩手県からは初めての報告となります。

 

化石が発見された場所と地層

 

今回の化石が発見された場所は、久慈琥珀博物館と早稲田大学が共同で発掘調査を行っている久慈市小久慈町にある露頭です。この地域に分布する久慈層群玉川層(後期白亜紀;約9000万年前.火山灰の放射性年代測定による)では、2012年3月から平山廉教授らによる発掘調査が実施されてきました。これまでに竜脚類(大型植物食恐竜)、獣脚類(肉食恐竜)、カメ類、ワニ類、コリストデラ類(絶滅した水性爬虫類)、サメ類など30種類、3500点を超える脊椎動物化石が発見されています。

 また、久慈琥珀博物館が運営する琥珀採掘体験場からは、新種として報告されたカメ類(アドクス・コハク)のほぼ完全な甲羅(2008年)をはじめとして、小型植物食恐竜(鳥盤類)の腰骨(2008年)、翼竜の翼の一部(中手骨:2010年)、肉食恐竜ティラノサウルス類の歯化石(2018年)、古代ザメ・ヒボダスの背棘(2019年)などの貴重な化石が200点ほど発見されています。このように,久慈琥珀博物館の周辺は、恐竜時代の琥珀と化石が数多く共産する世界でも稀な地域です。

 

 

久慈層群玉川層から発見された主な脊椎動物などの化石

 

2012年3月 早稲田大学による発掘調査地より大型植物食恐竜(竜脚類)の歯化石を発見

2015年3月 調査地より後期白亜紀ではアジア初となる「コリストデラ類」(絶滅した水生爬虫類)を日本古生物学会で発表、同年7月久慈市で記者発表

2016年3月 調査地より平山教授のゼミ生が岩手県初の肉食恐竜の歯化石を発見、記者発表

2018年6月 琥珀採掘体験場より高校生がティラノサウルス類の歯化石を発見(2019年4月に記者発表)

2019年5月 日本国内の後期白亜紀では初の古代ザメ ヒボダス類の棘化石を琥珀採掘体験場から一般の体験者が発見(2020年7月に記者発表)

2021年4月 カメ類の新種(アドクス・コハク)を記者発表

2022年7月 竜脚類の歯に残された微細な傷から植物食であることを記者発表

2023年3月 カメ類リンドホルメミス科の下顎を小学生が発見(同年7月に記者発表)

2024年7月 ワニ類の分類や歯に残された微細な傷に基づく食性について記者発表

2025年7月 琥珀の中に保存された昆虫シリボソクロバチ類について記者発表

2026年3月 2種類の鳥盤類恐竜(角竜類とイグアノドン類)について記者発表

 

 

久慈産哺乳類化石の分類の研究成果について

 

標本(久慈琥珀博物館所蔵)

・OSD2202 (多丘歯類) :右下顎第四小臼歯:長さ約3.9 mm

・OSD7119 (真獣類) 第五小臼歯と第一大臼歯が植立した右下顎の一部:長さ約4.4 mm、高さ約3.5 mm

化石産地:岩手県久慈市小久慈町を流れる大沢田川支流沿いの発掘現場

産出層準・時代:久慈層群玉川層上部のボーンベッド(後期白亜紀:約9000万年前)

 

久慈産哺乳類の発見と研究経緯について(所属は発見当時)

2018年8月: 町田悠輔(愛媛大学)が多丘歯類の歯化石を発見

2025年8月: 中村英人(福井県立大学)が真獣類の下顎を発見

2025年9月: 福井県立恐竜博物館において歯化石の詳細な観察とCT撮影を開始

 

発見された哺乳類の化石記録

多丘歯類は白亜紀末の大量絶滅を生き延びたが、後に絶滅した。真獣類(有胎盤類とその祖先)と後獣類(有袋類とその祖先)は姉妹の関係で、現生種の主体となっている。Luo (2007)を一部改変。画像提供:福井県立恐竜博物館。

 

多丘歯類の化石について

多丘歯類は、中生代の中期ジュラ紀から新生代の始新世(約1億6500万~約3500万年前)まで生息していた哺乳類の絶滅グループです。今回報告の化石は多丘歯類の典型的な歯で、次のような特徴があります。

 

久慈市産の多丘歯類の復元図 (© 小田 隆)

口の中に見える丸ノコのような形の歯が実際に見つかった部位。画像提供:小田 隆。

 

 

久慈市産の多丘歯類化石

右の下顎の第四小臼歯の歯冠(OSD2202、上段左: 頬側面観、上段右: 舌側面観)とCTデータから構築した三次元復元画像(下段) 。スケールは 1 mm。画像提供:楠橋 直・久慈琥珀博物館

 

 発見された化石(OSD2202)は右下顎の第四小臼歯です。歯冠はほぼ保存されていますが、歯冠基部や歯根は欠損しています。

 当該標本(OSD2202:下顎の第四小臼歯)は、前方へ張り出し、その最前縁の位置が歯冠全体において比較的低いという特徴があります。このことから、第四小臼歯の前方に位置していた第三小臼歯は小さく、その上を覆うように第四小臼歯がオーバーハングしていたか、あるいは第三小臼歯は本来ない種類のものかと推定されます。このような第三と第四小臼歯は、多丘歯類の中でも派生的なグループであるキモロドン類の特徴です。また、歯冠の上縁に並ぶ鋸歯 (小さなギザギザ) の数が14あること、歯の頬側の遠心 (後の方向)にある咬頭(歯の突起)の位置から考えて、第四小臼歯の上縁は後方の大臼歯よりも上方へ突出していたと考えられます。当該標本はモンゴルの後期白亜紀の地層から報告されているキモロドン類とは異なり、むしろ北米から報告されているキモロドン類の一部と形態的に類似します。上縁の鋸歯が後方でやや大型化し、上縁が後方に向かうにつれて直線的に伸びる点も、北米のキモロドン類と似ています。したがって、当該標本は北米のキモロドン類かそれに近縁な種のものである可能性が高いと考えられます。新種の可能性もありますが、今後の検討課題です。

 

多丘歯類の化石発見の意義

 多丘歯類は下顎の小臼歯の数などにより、基盤的(原始的)な “プラギオラックス類”と派生的なキモロドン類に分けられます。“プラギオラックス類” はジュラ紀から前期白亜紀にかけて、またキモロドン類は後期白亜紀以降に栄えたグループで、特にキモロドン類は後期白亜紀のアジアや北米において繁栄した哺乳類グループです。しかし一方で、“プラギオラックス類” からキモロドン類への進化は、化石記録が乏しいため、依然としてわかっていません。

 アジアにおいては、前期白亜紀の後期に “プラギオラックス類” が多様化していたことが知られていて、日本でも手取層群桑島層(石川県白山市) や北谷層 (福井県勝山市) から前期白亜紀の多丘歯類の化石が報告されています。しかし、久慈市のような後期白亜紀の前期の多丘歯類は、アジアでは中央アジアからわずかに知られているだけです。前期白亜紀のアジアのキモロドン類の化石はこれまで確認されていません。久慈市産の多丘歯類は、アジア最古のキモロドン類の可能性がある貴重な資料なのです。

 

真獣類の化石について

 真獣類は、現生哺乳類の主要グループである有胎盤類(お腹の中に胎児を宿し、大きな子を生む哺乳類。ヒトもこのなかま)と、その祖先的な化石種を含むグループです。

 

久慈市産真獣類の復元図(© 小田 隆) 画像提供:小田 隆

 

久慈市産の真獣類の化石(OSD7119

 

化石発見時の様子を示す。画面中央に下顎の骨の一部と歯が2つ見える。画像提供:平山 廉

 

 当該標本(OSD7119)は右の下顎の一部であり、形が異なる2つの歯が保存されています。側面から見た歯の一つは矢尻のような形のものと、もう一方は3つの突起で囲まれた窪みが2つある歯です。前者の歯は最後方の小臼歯(下顎第五小臼歯)であること、また後者の歯は下顎第一大臼歯と判断されます。顎の骨のなかに代生する歯はなく、成体のものと思われます。

哺乳類化石の種類を見分ける上で、大臼歯にはその種類の特徴が色濃く表れます。大臼歯の前半部(小臼歯に近い側)にある三つの突起で囲まれた高い部分をトリゴニッドと呼び、歯の後半部にも同様な突起と窪みがあり、それをタロニッドと呼びます。大臼歯の中央はトリゴニッドの高い壁(突起をつなぐ稜)が横切り、タロニッドとの段差となります。これは「トリボスフェニック」とよばれる大臼歯の構造です。特にタロニッドの窪みは、上あごの大臼歯の突起を受けて食べ物を砕く臼としての役目を、中央の段差となる壁は、上あごの大臼歯の縁とすり合う事で食べ物を断ち切ります。久慈市から産した真獣類の化石には、白亜紀に見られる典型的なトリボスフェニック型臼歯の特徴が表れています。トリボスフェニックの歯を持つ哺乳類は、古くは後期ジュラ紀(約1億6000万年前)もしくは白亜紀の初め(約1億4300万年前)から記録があり、「トリボスフェニダ類」と呼びます。

 

久慈市産真獣類化石(OSD7119)の三次元復元画像

 

第五小臼歯と第一大臼歯が植立した右下顎の一部。左の画像:頬側からみたもの(画像の左方が後方となる)、右の画像:舌側からみたもの(画像の右方が後方となる)。マイクロフォーカスCTの画像から復元したもの。小臼歯は単純な矢尻形だが、大臼歯は窪みがある2つの部位(前半のトリゴニッド、後半のタロニッド)からなる。スケールバーは1 mm。画像提供:福井県立恐竜博物館・久慈琥珀博物館

 

 トリボスフェニダ類は前期白亜紀(約1億4300 万~約1億年前)までに、真獣類(後に人類を含む有胎盤類を生み出す)と後獣類(後に有袋類を生み出す)に分かれて進化してきました。後期白亜紀(約1億~約6600万年前)には原始的な有胎盤類と有袋類がそれらのグループから現れます。彼らは、白亜紀末(約6600万年前)を生き延びて、現在の有胎盤類と有袋類へとさらに多様化しました。

 当該標本(OSD7119)は、前期と後期白亜紀の真獣類に見られる中間的な特徴を持ちます。1)第五小臼歯に臼状の窪みはなく、やや単純な構造をしていること、2)第一大臼歯に見られる突起はやや華奢で、トリゴニッドの窪みは白亜紀のなかまと比べてやや開いていること、3)タロニッドにある突起の配置や頑丈さは、より進歩したなかまに見られるほど際立った特徴は無いなど、比較的原始的な特徴があげられます。一方で、4)タロニッドはトリゴニッドよりもやや幅広く、その窪みに深みもあること、5)トリゴニッドの後方壁の中央部にタロニッドの稜がつながるなど、やや進歩的な特徴もあります。しかし、後期白亜紀の進歩的な真獣類よりは原始的です。以上の特徴から、北半球でも繫栄していた白亜紀の後獣類とも異なります。

 

真獣類の化石発見の意義

 久慈市の化石は、地質年代が約9000万年前と判明しており、同時代の哺乳類化石が世界的に乏しいことから、注目すべき存在です。その歯の特徴は、前期白亜紀の原始的な段階から、後期白亜紀に我々人類を含む有胎盤類を生み出す段階に移行する中間的なものです。したがって真獣類の進化とその多様性を知る上で重要な資料となります。この年代に相当する哺乳類の化石資料は、アジアではウズベキスタンなどの中央アジアの一部や、北米ではアメリカのユタ州など、限られた地域からしか資料がありません。当該標本に類似した哺乳類の化石はこれまで見つかっておらず、新種の哺乳類である可能性が考えられます。

 

まとめ

岩手県久慈市の久慈層群玉川層(後期白亜紀の初期:約9000万年前)から、2種類の哺乳類化石が発見され、共に哺乳類の進化と多様性に関する重要な資料であると判明しました。2種のうち一つは、植物を主食とする絶滅哺乳類(多丘歯類)の化石であり、もう一つは現生哺乳類の祖先に近い種類(原始的な真獣類)の化石です。今回の哺乳類化石は、白亜紀の久慈における動物相を理解するうえで重要な化石記録であり、本標本によって白亜紀の久慈には多様な哺乳類が生息していたことが示唆されました。また、白亜紀の後半は真獣類など哺乳類の多様化が顕著に進み始める重要な時代であり、とりわけ人類の祖先を含む真獣類の進化史の解明に対し大きな貢献が期待できます。

 

日本から知られている白亜紀の真獣類化石(参考)

 国内からは、これまで12種の恐竜時代の哺乳類化石の既報があり(福島1種、石川4種、福井3種、兵庫1種、熊本2種、鹿児島1種)、全て白亜紀のものです。真獣類の化石は久慈市以外の2か所(熊本1種と兵庫1種)から知られ、それぞれ新種の哺乳類として報告されました。久慈の化石はこれら過去報告のあった真獣類とは別の種類になります。

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