『第9回 歯科プレスセミナー』を開催
2018年10月26日
一般社団法人 日本私立歯科大学協会
~急発展を遂げる、歯科医療が見据える国民健康の最前線について講演~
『第9回 歯科プレスセミナー』を開催
講演1 : 原因不明の歯痛への対応 -非歯原性歯痛の臨床-
講演2 : 歯科医学教育の今とこれから -超高齢化時代の歯科医師を育てる
~それぞれのエキスパートが、研究分野の最前線を紹介~
一般社団法人 日本私立歯科大学協会(所在地:東京都千代田区、会長:三浦 廣行)は、2018年10月23日(火)に、コンファレンススクエア エムプラス 「サクセス」(東京都千代田区)において、『第9回 歯科プレスセミナー』を開催いたしました。
これは、歯科医療の見地から、皆様の健康的な生活を考え、サポートすることを目指し、当協会が2010年から開催しているプレスセミナーです。毎回、口腔衛生の最前線の情報をお伝えする講演を行っており、今回で9回目を迎えます。
今回は、歯に原因がないにもかかわらず、歯が痛いと訴える、あるいは歯に痛みがあると感じてしまう「非歯原性歯痛」についてご説明する「原因不明の歯痛への対応 -非歯原性歯痛の臨床-」と、超高齢社会における歯科医療の変化と、歯科医学教育の最前線をご紹介する「歯科医学教育の今とこれから-超高齢化時代の歯科医師を育てる」をテーマに、講演を行いました。
それぞれの専門家による最前線の情報を、ご参加いただいた36名の報道関係者の皆さまにお伝えいたしました。
「第9回 歯科プレスセミナー」講演風景
■講演 1
テーマ : 「原因不明の歯痛への対応 -非歯原性歯痛の臨床-」
講師 : 日本大学松戸歯学部 口腔健康科学講座(顎口腔機能治療学分野) 教授
付属病院 口・顔・頭の痛み外来 責任者 小見山 道 氏
●歯に原因がないにもかかわらず歯痛を訴える「非歯原性歯痛」
私が勤務する日本大学松戸歯学部付属病院の「口・顔・頭の痛み外来」は、首から上の痛みに対応する外来で、歯科医師が中心になり、口腔外科や歯科麻酔科の歯科医師、さらに耳鼻・咽喉科、脳神経外科などの医師と共に治療にあたっている。
一般に、歯の痛みは、虫歯や歯周炎など原因疾患を治療することでおさまる。しかし、患者さんのなかには、歯に原因がないにもかかわらず歯痛を訴える「非歯原性歯痛」の人がいる。
歯の痛みで歯科医院を訪れた人のうち3%が「非歯原性歯痛」で、9%が「歯原性歯痛と非歯原性歯痛の混合」というデータもある。非歯原性歯痛は、痛みの場所とその原因部位が一致しないことに起因するが、その原因の一つと考えられる現象は「異所性疼痛」と呼ばれ、歯痛以外の内臓疾患等でも生じることがある。
●脳の勘違いで引き起こされることが多い「非歯原性歯痛」。その原疾患は8パターンに分類される
「非歯原性歯痛」は、歯に痛みを感じる経路のどこかに問題があり、“神経の混線による脳の勘違い”が原因であることが多い。
その原疾患は、日本口腔顔面痛学会による『非歯原性歯痛診療ガイドライン』で、8つに分類されている。
1)筋・筋膜性歯痛(咀嚼筋によるものが多い)、2)神経障害性歯痛(三叉神経痛、帯状疱疹、など)、3)神経血管性歯痛(片頭痛、群発頭痛など)、4)上顎洞性歯痛、5)心臓性歯痛(狭心症、心筋梗塞など)6)精神疾患による歯痛、7)特発性歯痛(非定型歯痛を含む)、8)その他のさまざまな疾患により生じる歯痛
●「非歯原性歯痛」の診断・治療の例
「非歯原性歯痛」の原疾患の中で、主なものを紹介したい。
【筋・筋膜性歯痛】
咀嚼筋(咬筋や側頭筋といった噛む筋肉)の炎症が原因で、歯に痛みを感じてしまうケースである。
<診断例>
歯痛を訴える患者さんの痛む歯や、その周囲、他の歯を確認しても問題がなく、歯の局所麻酔を打っても痛みが変わらなかった。その一方、噛む筋肉の触診で痛みが表れ、咬筋への麻酔により歯痛が消失した。このため、咬筋の筋・筋膜性歯痛と診断。温罨法やマッサージ、姿勢の指導などにより痛みが緩和した。
【神経障害性歯痛】
三叉神経痛や顔の帯状疱疹などによる痛みを、歯の痛みと感じてしまうケースである。三叉神経痛は歯がツーンとしみたり、瞬間的な激痛が走り洗面や歯磨きができないなど、生活への影響が大きい疾患である。
<診断例>
口の中に激痛が走る患者さんに対し、唇に刺激をしたところ疼痛発作が発生することを確認。神経の根本への麻酔により発作が消えることから、三叉神経痛と診断。薬の服用により痛みが緩和した。
【神経血管性歯痛】
片頭痛、群発頭痛が原因で、歯に痛みを感じてしまうケースである。群発頭痛は、痛みに時間的な規則性があり、目の奥の痛みが特徴である。群発頭痛では歯科受診を受けることが多く、11%の人が歯科疾患の診断名が最初につけられている。
<診断例>
群発頭痛では1日に数回、奥歯から右の顔全体までアイスピックで突かれているような激痛に襲われる。群発頭痛の薬が効果を見せることがわかり、服用により痛みが緩和した。
<診断例>
片頭痛では2、3週間に数回、歯から始まった痛みが、こめかみ、頭部に広がる。悪心、嘔吐を伴い、寝込む状態だが、発作時以外は日常生活を営める。頭痛日記をつけてもらったところ、片頭痛の発作と同期していることが判明したため、内服薬で経過観察をした。
【その他のさまざまな疾患により生じる歯痛】
口腔領域への転移がんや白血病、糖尿病など全身疾患が原因であるケースである。致命的な全身疾患であることもあるので、原因不明の歯の痛みに対し安易な診断をせず、専門的な検査や連携を行うべきである。
<診断例>
歯が痛くて眠れず、食事もとれない患者さんに対し、CT検査を行ったところがんの頸部リンパ節への転移や、中咽頭側壁部の腫瘍などが確認された。ただちにがんの専門病院での治療を始めたが翌月に他界された。
●歯の痛みから多様な原因疾患を探るのは歯科医師の使命
以上のように、患者さんが歯の痛みを訴えても、歯が原因でないケースがあり、その診断は難しい。歯だけでなく、口を中心とした顔の筋肉・神経・血管・骨などの構造や機能、疾患に関する専門的な知識をもっている歯科医師だけが、歯の痛みの原因にアプローチできる。そして、歯科医師とさまざまな分野の医師が連携することで、初めて原因不明の歯痛を診断し、治療することが可能となる。
このような患者さんに対応できるよう、日本私立歯科大学協会では、歯科と医科の架け橋となることのできる歯科医師の育成を応援している。
■講演 2
テーマ : 「歯科医学教育の今とこれから -超高齢化時代の歯科医師を育てる」
講師 : 大阪歯科大学 高齢者歯科学講座 教授 髙橋 一也 氏
●超高齢社会において歯科の役割が変化。高齢者が栄養摂取できるように“消化器としての口腔を守る” 仕事が求められる
日本の高齢化率は27.7%(2017年10月1日時点)。2050年には生産年齢人口と老年人口(65歳以上)の割合が、1.3人対1人になると予測され、今後、認知症患者や高齢者の独居・夫婦のみ世帯の増加、慢性疾患の増加が社会の課題となる。
それに伴い、歯科医師の役割が変化している。在宅療養患者に対して“かかりつけの歯科医”となり、口腔機能管理(オーラルマネジメント)を行う時代へと向かっていく。入院患者に対しては、口腔ケアにより誤嚥(ごえん)性肺炎・発熱が予防でき、在院日数短縮に貢献することができる。疾病の傾向を見ても、虫歯の患者が減少する一方、歯が残っている高齢者の増加に伴い、高齢者の歯周病の罹患率が増えてきた。今後は、「栄養摂取」を行う消化器としての口腔を守ることが歯科医師の大きな仕事になっていく。
また、近年の研究で、歯周病と糖尿病などの関わりが明らかになっており、口腔ケアは全身疾患のリスク軽減に貢献する。要介護状態の前段階である「フレイル」(身体の衰え)でも、歯科医師の役割は大きい。従来行われてきた歯の咬合(こうごう)回復だけでなく、機能訓練や食事の調整に関わることで問題解決に貢献できる。
●環境の変化に合わせ「歯科教育モデル・コア・カリキュラム」を改定。「多様なニーズに対応できる医師・歯科医師の養成」を推進
以上のような、環境の変化を反映し「歯科教育モデル・コア・カリキュラム」(文部科学省)が2016年に6年ぶりに改定された。そこでは、高齢社会に対応する教育として、以下の4点が掲載された。
1)「患者中心のチーム医療」の実現:他の医療従事者との連携を身につける。
2)「地域医療への貢献」:地域医療・地域保健の在り方と現状、課題を理解し、地域医療に貢献するための能力を身につける。
3)「保健・医療・福祉・介護の制度」の理解:限られた医療資源の有効活用の視点を踏まえ、適切に保健・医療・福祉・介護を提供するために、関連する社会制度、地域医療及び社会環境を理解する。
4)臨床実習としての「チーム医療・地域医療」:チーム医療、地域医療、病診連携についての知識、技能及び態度を修得する。
また、全ての歯科大学・歯学部(29校)では、「老年歯科」に関する講義を行っており、26校が老年歯科に関する実習、24校が訪問歯科診療に関する実習を実施し、老年歯科医学教育が実践されている。
●高齢者のニーズに合う多角的なカリキュラムを提供し、口腔の健康を守る医師を育成
私が勤務する大阪歯科大学を例として、高齢者歯科の学生教育について説明をしたい。当大学では、1912年に「大阪歯科医学校」の開校以来、歯科医学教育に関わり、1949年から高齢者にニーズの高い義歯やブリッジを作る「歯科補綴学第一講座」を開設し、2000年に「高齢者歯科学講座」に転換し、2015年からは「口腔リハビリテーション実習」を開始している。その内容は以下である。
<口腔内装置の製作実習>
舌の障害により摂食・嚥下障害や構音障害を起こしている患者に用いる口腔内装置「口蓋床(PAPの原型)」の製作実習を行う。
<嚥下障害を診断するスクリーニング法の習得、嚥下内視鏡の取り扱いの習得>
摂食嚥下機能の状態について診察・検査・診断を行えるように実習を行う。検査のための嚥下内視鏡の使い方や治療方針策定のためのスキルを習得し、リハビリテーションを実習。
<口腔ケア・プラン作成>
高齢者の器質的口腔ケアの立案、指導、介助口腔ケアを習得。具体的には、ケア用具の説明や指導、義歯のケア方法指導などを習得する。
<間接訓練・直接訓練・食事介助>
「間接訓練」(食べ物を使わないで飲み込む力を鍛える訓練)や、「直接訓練」(食べ物を使った摂食嚥下の訓練)、安全に食事を摂るための「食事介助」の方法を習得する。
<車椅子実習・高齢者体験>
高齢者や要介護者に対して安全で最適な介助が行えるように、車椅子の取り扱いを学ぶ。また、低下した身体機能を体験できる特殊なスーツを着用して、高齢者の身体の状態を理解する。
<訪問歯科診療の実習>
急性期病院や、回復期病院のリハビリテーション科に訪問し、高齢者の口腔ケアや口腔リハビリテーションを学ぶ。
このほか、本大学では、卒業後の歯科医師に対し、高齢者歯科の研修を行っている。高齢者施設を訪問し、口腔の診断を行った後、食事観察(ミールラウンド)を実施。食事の食べやすさのほか、姿勢や食べるスピードなども評価して指導を行い、安全な嚥下に導く。
●地域包括ケアシステムとの連携が今後の課題
今後の課題は、地域包括ケアシステムの中での教育を充実させ、介護・介護予防の点で貢献することである。訪問診療に対応する「在宅療養支援歯科医院」は増加傾向にあるが、その数は、全歯科診療所の約9%にとどまっているのが現状だ。居宅で過ごす人の療養管理や経口維持支援(食事観察・指導)に関わり、地域ケア会議にも積極的に参加し、高齢者の健康維持や生活の質の向上に貢献する歯科医師を育成したい。
【開催概要】
日 時 : 2018年10月23日(火) 14:00~15:30
会 場 : コンファレンススクエア エムプラス 1F 「サクセス」(東京都千代田区丸の内2-5-2)
主 催 : 一般社団法人 日本私立歯科大学協会
内 容 :
■講演 1
テーマ : 原因不明の歯痛への対応 -非歯原性歯痛の臨床-
講師 : 日本大学松戸歯学部口腔健康科学講座(顎口腔機能治療学分野)教授
付属病院 口・顔・頭の痛み外来 責任者 小見山 道 氏
■講演 2
テーマ : 歯科医学教育の今とこれから -超高齢化時代の歯科医師を育てる
講師 : 大阪歯科大学高齢者歯科学講座 教授 髙橋 一也 氏
写真左: 小見山 道 教授 写真右: 髙橋 一也 教授
【ご参考】
一般社団法人 日本私立歯科大学協会について
日本私立歯科大学協会は、昭和51年に社団法人として設立しました。歯科界に対する時代の要請に応えられる有用な歯科医師を養成していくため、全国17校の私立歯科大学・歯学部が全て集まりさまざまな活動を展開しています。また、加盟各校では、私立ならではの自主性と自由さを生かして、それぞれに特色を発揮しながら歯科医学教育を推進しています。
日本の歯科医学教育は、明治以来、私立学校から始まったもので、現在も歯科医師の約75%が私立大学の出身者であるなど、加盟校は歯科界に大きな役割を果たしてきました。本協会ではこのような経緯を踏まえながら、今後とも歯科医学教育、研究および歯科医療について積極的に情報提供を進めていきます。
<加盟校>
日本全国の全ての私立歯科大学・歯学部(15大学17歯学部)が加盟しています。
○北海道医療大学歯学部 ○岩手医科大学歯学部 ○奥羽大学歯学部
○明海大学歯学部 ○東京歯科大学 ○昭和大学歯学部
○日本大学歯学部 ○日本大学松戸歯学部 ○日本歯科大学生命歯学部
○日本歯科大学新潟生命歯学部 ○神奈川歯科大学 ○鶴見大学歯学部
○松本歯科大学 ○朝日大学歯学部 ○愛知学院大学歯学部
○大阪歯科大学 ○福岡歯科大学
【所在地等】 〒102-0074 東京都千代田区九段南3-3-4 ニューライフビル内
TEL.03-3265-9068 FAX.03-3265-9069
E-mail : jimkyoku@shikadaikyo.or.jp
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このプレスリリースを配信した企業・団体
- 名称 一般社団法人日本私立歯科大学協会
- 所在地 東京都
- 業種 各種団体
- URL http://www.shikadaikyo.or.jp/
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