『第10回 歯科プレスセミナー』を開催

2019年10月31日

一般社団法人 日本私立歯科大学協会

~急発展を遂げる、歯科医療が見据える国民健康の最前線~

「イグ・ノーベル賞」を受賞した研究など

「口や歯の健康を守る唾液の科学」について講演

『第10回 歯科プレスセミナー』を開催

 一般社団法人 日本私立歯科大学協会(所在地:東京都千代田区、会長:三浦 廣行)は、2019年10月25日(金)に、アルカディア市ヶ谷 3階 「富士」(東京都千代田区)において、『第10回 歯科プレスセミナー』を開催いたしました。

 これは、歯科医療の見地から、皆様の健康的な生活を考え、サポートすることを目指し、当協会が2010年から開催しているプレスセミナーです。毎回、口腔衛生に関するテーマを取り上げて、これからの歯科が担う役割の大きさや魅力について情報をお伝えしています。

 第10回目となる今回は、今年9月に独創的でユニークな科学研究などに贈られる「イグ・ノーベル賞」を受賞された、明海大学保健医療学部 渡部 茂 教授を講師にお迎えし、講演を実施しました。「口や歯の健康を守る唾液の科学」をテーマに、受賞された研究の内容なども交えながら、口腔機能のなかでも重要な機能の一つである唾液の働きについて、ご参加いただいた23名の報道関係者の皆さまにお伝えいたしました。

「第10回 歯科プレスセミナー」講演風景

<講演内容> 

テーマ:「口や歯の健康を守る唾液の科学」

講師:明海大学保健医療学部 渡部 茂 教授

●5歳児が1日に分泌する唾液量の研究により、イグ・ノーベル賞を受賞。

 今年9月、私が1995年に発表した研究「5歳児が1日に分泌する唾液量の測定」が、イグ・ノーベル賞化学賞を受賞した。

 イグ・ノーベル賞とは、「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる業績」に与えられる賞で、ノーベル賞のパロディである。

 選考委員は、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学の教授らが務め、1万件を超える論文から受賞者・団体が選出される。

 授賞式はハーバード大学のサンダーズ・シアターで行われ、プレゼンターとしてノーベル賞受賞者も多数参加する。賞金は10兆ジンバブエドルであるが、ハイパーインフレのためほとんど価値がないと言われている。

撮影:時事通信

●食べ物を吐きだして重量を図る方法で、5歳児の食事中の唾液量を測定。

 実験を行なった1990年頃は、睡眠時の唾液量は0mlで、子供(5歳児)の安静時唾液量は0.26ml/分(1日で208ml)であるという論文が発表されていた。しかし、子供の食事中の唾液量については研究されていなかったので、これに取り組もうと考えた。

 今回の受賞は、大人が5歳の子供にお願いして唾液を採取している様子が面白くて、選考委員たちの目にとまったのだと推測する。授賞式の講演では、聴衆から笑いをとることが要求されるのだが、25年前に実験に協力してくれた私の子供たちに当時の様子を再現してもらったところ、大いに笑いを取ることができた。

 食事中の唾液量の測定は、ご飯やソーセージなど6種の食べ物を咀嚼し、飲み込まずに吐き出してもらい、そこから食べ物の重量を引くという方法で行った。そこに、子供の食事のひと口の量や咀嚼時間を反映したほか、咀嚼(そしゃく)中に飲みこんだり口中に食べ物が残留することによる誤差も生じるため、食物回収率を求めてデータを調整している。そうして食事中の唾液分泌量の平均値(1分当たり)を割り出し、1日に食事に費やす時間と掛け合わせたところ、5歳児の1日の食事中の唾液量は288mlであることが明らかになった。

 このデータに、睡眠時の唾液量(0ml)と、安静時の唾液量(208ml)と合わせて、5歳児が1日に分泌する合計の唾液量は約500mで、中型のペットボトル1本分であることが明らかになった。

●唾液は口中の環境を整え健康に保つ機能を持つ。なかでも重要な役割の一つが、口内を洗浄・中和する「唾液クリアランス」。

 この研究を行った1990年当時、むし歯の子供が多数いたが、その予防の研究があまり進んでいなかった。そこで、酸から歯を守る機能を持つ唾液に着目することで、むし歯予防に貢献できると考えて研究に取り組んだ。

 唾液は、唾液腺の漿液性腺房で作られ導管を通じて口中に到達する。唾液腺は、顎下腺(がっかせん)と耳下腺、舌下腺、小唾液腺がある。成人の安静時には約0.3ml/1分が分泌されるが、なかでも顎下腺の分泌量は多く重要な役割を持つ(図1)。口中に到達した唾液は一定量が溜まると飲みこまれ、そして、徐々に分泌されて再び溜まるというサイクルを持ち、サイホンのような仕組みで供給される。

 唾液は分泌された段階は無菌で、約0.1mmの薄いフィルムになって口中を流れる。これにより、菌などを洗浄し、酸性に傾いた唾液を中和して口の健康を保つ「唾液クリアランス」を行っている。

 「唾液クリアランス」には個人差があり、唾液分泌速度が遅い人は、洗浄や中和の効率が悪くなる。こういった唾液の個人差を診断に生かすことが、今後は必要になると考えている。

唾液が最も早く到達するのは「下顎の前歯の舌側」。

最も遅い「上顎の前歯の唇側」は、むし歯リスクが高いので要注意。

 唾液により「口中クリアランス」が行われているにもかかわらず、実際は、歯の部位によって、その効果は異なる。例えば、下顎に比べて上顎の歯の方が汚れやすく、哺乳瓶を使う赤ちゃんでは上顎の前歯がむし歯になる「哺乳瓶齲蝕」が発生する。

 そこで、口中の7つの部位の「唾液クリアランス」の効率の違いを調査した。その結果、安静時の唾液の到達速度が最も早い部位は「下顎前歯部舌側」、最も遅い部位は「上顎前歯部唇面」であった。また、口中のpHが酸性からアルカリ性へ回復する時間を調べても同様で、「下顎前歯部舌側」が最も早く、「上顎前歯部唇面」が最も遅かった。従って、「上顎前歯部唇面」は、むし歯リスクの高い環境にあるので、歯磨きの際には注意をしていただきたい。

唾液分泌が抑制される睡眠中は、フッ素とマウスガードを使ったむし歯の予防法が有効

 唾液分泌量が0mlになる睡眠中についての研究にも取り組んでいる。むし歯を予防するためにマウスガードにフッ素を塗って睡眠中に装着する方法があるが、唾液分泌量が抑制される就寝中はフッ素が流されにくく、起床時まで口内に残っていることがわかった。部位別でみると、「上顎前歯部唇面」では多くのフッ素が残っており、むし歯予防に効果的であると考えられる。

 このほか、唾液を長時間モニタリングするため、唾液腺を直接刺激して測定するセンサーを開発し、唾液量とpHの変化、酸性の食品を摂取した後の部位別のpHの変化、睡眠中と覚醒時の唾液分泌素速度の変動などを明らかにした。睡眠中は唾液分泌が抑制されるが、粘液は止まることなく分泌されているためpHが大幅に酸性に傾くことはなく、この働きにより、歯は睡眠中もむし歯リスクから守られていることが明らかになった。

酸性の食べ物により歯が弱い状態になっても、数分で「再石灰化」が行われて回復。

「歯磨きは食後30分以上経ってから」とこだわる必要はなく、タイミングを気にせずに磨いてほしい。

 歯は唾液からカルシウムを吸収するが、唾液がpH5以下の酸性になると、逆に歯の中のカルシウムが唾液中に溶け出す「脱灰」が生じる。そして、唾液が酸から中性に戻ると唾液中のカルシウムが歯に吸収される「再石灰化」が行われる。

 このような作用がどのくらいのスピードで行われるか調査したところ、酸性のオレンジジュースを飲んだ場合、5秒以内に大量の唾液が分泌されていることがわかった。それに伴い、唾液は酸性から中性、アルカリ性へと回復し、約30分でもとのpHレベルに回復した。

 「歯は「再石灰化」するまでは弱い状態にあるので、歯磨きは食後30分以上経ってからの方がよい」という説もあるが、以上の実験の結果から「再石灰化」は数分で進むので、歯磨きの時間を遅らせる配慮はいらないと考えている。

唾液の役割の一つは、食べ物の水分量を増やし飲みこみを助けること。

高齢社会において、嚥下に不可欠な唾液はさらに重要なテーマになる。

 食べ物を噛み砕く際に、唾液が加わることで水分量が増し、飲みこみに適した「食塊」をつくることができる。「食塊」の水分量は「嚥下閾」と呼ばれるが、これは食品によって異なり、ご飯では65%、魚肉ソーセージでは67%である。

 また、唾液分泌を増加させる薬と、抑制する薬を服用した場合の比較調査では、分泌を抑制すると咀嚼時間が長くなることがわかっている。

 今後、高齢社会の進展により、唾液分泌量の少ないドライマウスの患者様も増えると推測される。食べ物を安全に飲みこんでいただくためにも、今後さらに唾液について研究し、理解する必要があると考えている。

【開催概要】

日時:2019年10月25日(金) 14:00~15:30

会場:アルカディア市ヶ谷 3階 「富士」(東京都千代田区九段北4-2-25)

主催:一般社団法人 日本私立歯科大学協会

内容:<テーマ >「口や歯の健康を守る唾液の科学」

   <講師>明海大学保健医療学部  渡部 茂 教授

【ご参考】

一般社団法人 日本私立歯科大学協会について

 日本私立歯科大学協会は、昭和51年に社団法人として設立しました。歯科界に対する時代の要請に応えられる有用な歯科医師を養成していくため、全国17校の私立歯科大学・歯学部が全て集まりさまざまな活動を展開しています。また、加盟各校では、私立ならではの自主性と自由さを生かして、それぞれに特色を発揮しながら歯科医学教育を推進しています。

 日本の歯科医学教育は、明治以来、私立学校から始まったもので、現在も歯科医師の約75%が私立大学の出身者であるなど、加盟校は歯科界に大きな役割を果たしてきました。本協会ではこのような経緯を踏まえながら、今後とも歯科医学教育、研究および歯科医療について積極的に情報提供を進めていきます。

<加盟校>

 日本全国の全ての私立歯科大学・歯学部(15大学17歯学部)が加盟しています。

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○大阪歯科大学         ○福岡歯科大学

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      (2019年7月に上記に移転しました)

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