女性活躍推進に前向きな経営者は9割超、一方で半数以上が「期待通りの成果が出ていない」
研究レポート発表「女性活躍推進のための全員活躍職場(For All職場)とは」
2022年11月22日
「働きがいのある会社」に関する調査・分析を行うGreat Place to Work® Institute Japan(株式会社働きがいのある会社研究所、本社:東京都品川区、代表取締役社長:荒川陽子、以下GPTWジャパン)は、2022年11月、「女性活躍推進のための全員活躍職場(For All 職場)」の特徴や事例を分析した研究レポートを発表しました。
日本社会は、人口減少やグローバル競争の激化など大きな外部環境の変化の転換期にあり、経営にとって多様な人材登用と活躍は重要な取り組み課題です。一方で、現実を見ると日本では「女性活躍」一つを取ってみても努力は道半ばと思われます。例えば、2016年より開始された働き方改革を通じて女性の働く環境は整えられつつありますが、女性管理職比率は2020年までに女性管理職比率30%の政府目標は未達成となりました。
では今後、経営は女性活躍推進にどうアプローチしていくべきでしょうか。本研究では、GPTWが提唱する全員活躍職場(For All職場)を目指すことが解決の糸口にならないか検証しましたので、以下に報告いたします。
研究レポートサマリー
・企業の経営者・役員400名を対象としたインターネット調査によると、調査対象者の93.8%が女性活躍に「取り組む意向がある」と回答したことから、女性活躍推進は多くの企業で意欲的なテーマであることが分かった。
・一方で成果については「期待通りの成果が出ていない」(53.3%)が「成果が出ている」(40.5%)を上回っており、実際のところ成果が出ていない企業が多いのが現状である。
・今回は特に女性管理職を増やしていくための方法として、女性だけではなくすべての構成員が公正に扱われる「全員活躍職場」について注目した。全員活躍職場では、女性管理職比率が30%以上である高群の割合が24.1%となり、世の中平均8.9%を大幅に上回る結果が得られた。加えて、業績面でも一定の成果があることが確認できた。
・特定の属性だけに 焦点を当てた施策やプログラムに注力していくより、職場全体の個々の従業員の活躍に向けた施策の展開、運用上の工夫を凝らし、全員活躍職場(For all職場)を目指していくことを改めて提唱していきたい。
D&I推進の現状 - インターネット調査
まず日本国内企業におけるダイバーシティ&インクルージョン(以降、D&I)についての現状把握のために、従業員規模100名以上の企業の経営者・役員を対象に調査を実施した。
調査概要
対象 :従業員規模100名以上の企業の経営者・役員
有効回答数:400名
実施時期 :2022年8月
調査方法 :インターネット調査
(詳細は添付レポート「インターネット調査(概要)」参照)
1.D&I取り組みの現状と今後の意向
最初に「女性」「シニア」などの活躍推進など、D&Iについての取り組み意向を聞いたところ、多くの企業で前向きな意向が確認できた。どの企業規模群も、これまでの取り組み実績に関わらず、「今後も(は)注力したい」が8~9割で最も高い割合となり、999名以下ではこれから取り組もうとしているところが3割程度あり、多様な人材活躍推進についての意識の高さがうかがえる。
図表1 D&I取り組み現状と今後の意向
質問:性別・年齢・国籍など多様な人材の活躍推進について、貴社のこれまでの取り組み状況と今後の意向として最も当てはまるものを1つお選びください。<単一回答/n=400/%>
2.D&Iテーマ別取り組み意向と成果
次に、D&Iの4つのテーマ(「女性」「シニア」「外国人」「障がい者」)ごとに取り組み意向と成果について聞いたところ、女性活躍については、「取り組む意向がある」(「取り組む意向があり、期待どおりの成果が出ている」「取り組む意向があるが、期待どおりの成果がでていない」の合計)と回答した割合が93.8%となっており、最も高いことが分かった。一方で成果については、「期待通りの成果が出ていない」(53.3%)が「成果が出ている」(40.5%)を上回っており、多くの企業で奮闘していることがうかがえる。
図表2 D&Iテーマ別取り組み意向と成果
質問:多様な人材の活躍推進に関する以下のテーマについて、貴社の現在の取り組み意向と、成果をお答えください。<単一回答/n=400/%>
3.女性活躍推進に取り組む理由
女性活躍推進に取り組む理由については、「生産性や業績の向上が期待できる」(57.1%)が最も高く、経営面でのメリットを意識していることが考えられる。一方で「女性活躍推進法など政府要請への対応」(42.4%)なども相応に高く、義務としてとらえる傾向も見られた。
図表3 女性活躍推進に取り組む理由
質問:「女性の雇用、活躍推進」について「取り組む意向がある」と答えた方にお聞きします。それはなぜですか。理由として当てはまるものをすべてお選びください。<複数回答/n=375/%>
4.女性活躍推進における優先度の高い取り組み課題
女性活躍推進について、優先度の高い取り組み課題について聞いたところ、「本人の能力や希望を活かした公正な配置・異動」(37.3%)が最も多く、次いで「女性の管理職登用・評価」(33.9%)となった。
図表4 女性活躍推進における優先度の高い取り組み課題
質問:「女性の雇用、活躍推進」について「取り組む意向がある」と答えた方にお聞きします。優先度の高い取り組み課題は何ですか。当てはまるものを1つ~最大3つまでお選びください。<複数回答/n=375/%>
なぜ女性活躍推進は進まないのか
インターネット調査からも分かるように女性活躍は多くの企業が前向きに取り組む意向があるものの成果が出ていない実態が明らかになった。特に女性管理職登用については、優先課題であることが再確認できた。
なぜ成果が出ていないのか。日本の労働慣習(長時間)、両立支援不足、育成・経験不足、女性の意識、職場のアンコンシャス・バイアスなど多くの要因が語られてきたが、本研究では別の視点から「活躍の対象として、女性だけにこだわっていないか」と提示してみたい。
あらゆる立場の人が活躍する全員型モデルとは
ここで GPTWが提唱する全員型「働きがいのある会社」モデルを紹介する。私たちは、職場で働く一部の人の働きがいが高い状態だけでは十分であるとはいえず、所属するすべての構成員が立場に関わらず働きがいが高い状態であることを評価している。そして、調査の結果、一定水準を超えた企業を「働きがい認定企業」として認定している。
図表5 全員型「働きがいのある会社」モデル
出所:GPTWジャパン ホームページ(https://hatarakigai.info/hatarakigai/gptw_model/)
この働きがい認定企業に女性活躍に向けてどんな施策を実践しているのか聞いてみると、特定の属性に限定した施策を展開する会社は少ない印象がある。そうではなくさまざまな属性を対象にした施策の展開、あらゆる立場で活躍できる環境づくりに力を入れている。例えば、時短勤務制度は育児中の女性だけに適用されることが多いが、働きがい認定企業ではすべての従業員が利用できる制度になっている。コロナ禍になって、限定従業員向けの制度が全員対象に開放される傾向は益々強まっているようだ。
一部の従業員(育児中の女性など)だけでなく、全従業員が活躍し、働きがいを感じることができる職場(以下「全員活躍職場」)を目指すことが、女性活躍を推進する糸口にもなるのではないかと考え、GPTWに蓄積されたデータを用いて検証することを試みた。また本研究では、女性活躍推進の進展度合いを定量的に把握する指標としては「女性管理職比率」を用いた。
具体的には、以下について検討していく。
① 女性管理職が多い職場では、女性だけでなく男性の働きがいも高いのか
② 全員活躍職場では、女性管理職比率が高いのか
使用データは、2022年版GPTW調査参加企業のうち、「企業アンケート」での女性管理職比率の回答と、働きがいに関する「働く人へのアンケート」のデータがある165社である(詳細は添付レポートの「使用データ」参照)。
① 女性管理職が多い職場では、女性だけでなく男性の働きがいも高いのか
女性管理職比率の値をもとに高群(30%以上)、「中群」(8.9%以上30%未満)、低群(8.9%未満)に分け(文末「使用データ」使用変数※1参照)、働きがい(GPTW総合設問「総合的にみて働きがいがあると言える」のスコア)に違いがあるか確認した。その結果、働きがいスコアの高い順に高群(75.3%)、中群(72.5%)、低群(61.1%)となり、高群と低群、中群と低群の間には、それぞれ、統計的に有意な差が確認された。女性管理職比率の高い職場では、職場の働きがいが高いという結果になった。
図表6 女性管理職比率別 働きがいスコア <n=165/%>
2019年のGPTW研究(「女性管理職比率が高い会社と、従業員の働きがいは関係があるのか?」https://hatarakigai.info/library/analysis/20170601_114.html)において、女性管理職比率の高い職場ほど働きがい(総合設問「総合的にみて、働きがいがあると言える」)が高いことが確認できているが、今回も同様の結果が得られた。
この傾向は性別によって違いがあるのだろうか。女性管理職比率別に、「女性」および「男性」の働きがいについても確認した。その結果、女性管理職比率の高い職場では、職場の働きがいが高いという傾向は、女性の回答、男性の回答いずれにも確認され、性別による違いはなかった。
本来であれば、他の回答者属性の傾向についても確認したいところであるが、今回は回答数が十分に確保できた性別の回答傾向を確認した。
図表7 女性管理職比率別 働きがいスコア(女性・男性回答者ごとの傾向) <n=165/%>
② 全員活躍職場では、女性管理職比率が高いのか
続いて、職場においてすべての従業員が立場に関わらず働きがいを感じている全員活躍職場と女性管理職比率の関連を確認した。全員活躍職場については、「働きがい認定企業」のうち“多様な従業員が公正な機会のもと働きがいを感じている”状態を表現した設問が高得点である企業とした(文末「使用データ」使用変数※2参照)。
その結果、全員活躍職場では、女性管理職比率が30%以上である高群の割合が24.1%を占め、非全員活躍職場(9.3%)と大きな開きが見られた。また、低群の割合も全員活躍職場では17.2%と、非全員活躍職場の37.4%に比べて少ないことも特徴的である。
図表8 全員活躍職場と女性管理職比率 <n=165/%>
なぜ全員活躍職場で女性管理職比率がこれほど高いのか。おそらく女性だけが取り立ててフォーカスされたり優遇制度が適用されたりする職場より、全員が公正に扱われ、尊重されている職場の方が職場の一員として自分らしさを発揮しやすくなるのではないかと推察する。属性の区別でフォーカスされるとは、ある意味で「女性」という特定属性(他との違い)を強く意識することになり、それが個人の能力発揮を制限させるネガティブな要因にもなりうるのではないだろうか。
全員活躍職場の経営メリット
ここまでの分析により、全員活躍職場と女性管理職管理職比率との間に有意な関連が示された。全員活躍職場の効用について、他の指標からも確認しておきたい。
業績について、過去3年間の売上高の伸び率を業界平均との比較で実感値を確認したところ、全員活躍職場は、「業界平均と比べて高い」と回答した割合が61.1%となり、非全員活躍職場(27.5%)を大きく引き離した。
図表9 全員活躍職場と売上高の伸び率(過去3年間) <n=105/%>
全員活躍職場を目指すには
では、職場の誰もが活躍できることを目指すにはどのようなことをしていけばよいのか。一般的には限定された従業員を対象とする施策を多様な従業員にも開放したことで、職場によい効果が見られた事例について2つ紹介したい。
女性限定の勉強会をさまざまな層を対象とした内容にリメイクし、働き方改革を促進
医薬品メーカーのある会社では、育休後に職場復帰した従業員がロールモデルとしてスピーカーになり、両立の工夫などについて語る勉強会を女性向けに行っていたが、さまざまな層(育児世代・若手・シニアなど)を対象にする企画に変更。スピーカーも広く手挙げで募集することにした。男性の育休経験者や、介護経験者をパネラーにして「スマートワーク」と題して現在の働き方をレベルアップするトークセッションを行った。女性ばかりか男性参加者からも「(育休・介護事情の有無関わらず)労働時間を意識して効率よく働くことの重要性に気づいた」「社内には制約がありながらも高いナレッジやスキルを磨いて仕事に向き合っている人がいると知った」という感想が聞かれた。
重要なポストに多様な従業員を登用。個々の従業員が抱く「挑戦」を後押し
サービス業のある会社では、組織における重要ポストには、性別・年齢・採用経路(新卒・中途)・業務経験・育児中など家族の事情を問わず、あらゆる立場の従業員が登用され、抜擢人事もある。例えば、20代の若手従業員が新規事業の事業部長に就任した、育児中の女性が希望部署へリーダーとして配属された、中途採用の従業員が即戦力を見込まれた部署からさらに海外赴任したといった多様な人材がリーダーとなり活躍しているケースは多い。この会社では、採用と配置についての人事ポリシーが明確で、個人のやりたいことが最優先される。自己申告制度や上司との1on1などの仕組みが機能しており、本人の希望をタイムリーに吸い上げることで個々のチャレンジややってみたい仕事の実現を後押ししている。
まとめ
女性活躍推進は多くの企業で意欲的なテーマではあるものの、実際のところ成果が出ていないのが現状である。今回は特に女性管理職を増やしていくための方法として、女性だけではなくすべての構成員が公正に扱われる職場について注目してみたが、全員活躍職場では女性管理職比率が30%以上である高群の割合が24.1%であり、非・全員活躍職場(9.3%)より高いレベルで女性管理職が多いことが確認できた。加えて、業績面でも一定の成果があることが確認できた。
以上を考えると、今後D&I推進にむけては、特定の属性だけに焦点を当てた施策やプログラムに注力していくことも大事であるが、職場全体の個々の従業員の活躍に向けた施策の展開、運用上の工夫を凝らし、全員活躍職場(For all職場)を目指していくことを改めて提唱していきたい。
Great Place to Work® Institute Japanについて
「働きがい」に関する調査・分析を行い、一定の水準に達していると認められた会社や組織を「働きがいのある会社」ランキングとして発表する活動を世界約100カ国で実施している専門機関。米国では、1998年より「FORTUNE」誌を通じてランキングを発表しており、ここに名を連ねることが一流企業の証とされている。日本においては、株式会社働きがいのある会社研究所がGreat Place to Work® Instituteよりライセンスを受け、GPTWジャパンを運営。2007年より日本における「働きがいのある会社」ランキングを発表しており、2022年で16回目の発表。
会社概要
社名 : 株式会社働きがいのある会社研究所
会社設立 : 2009年4月1日
資本金 : 75,000千円
代表者 : 代表取締役社長 荒川 陽子
本社所在地 : 東京都品川区大崎1-11-1 ゲートシティ大崎 ウエストタワー7階
事業内容 : 「働きがいのある会社(Great Place to Work ®)」ランキングの発表、アンケート調
査結果を分析・活用した働きがい向上支援施策の提供
本プレスリリースは発表元が入力した原稿をそのまま掲載しております。また、プレスリリースへのお問い合わせは発表元に直接お願いいたします。
このプレスリリースには、報道機関向けの情報があります。
プレス会員登録を行うと、広報担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など、報道機関だけに公開する情報が閲覧できるようになります。
このプレスリリースを配信した企業・団体
- 名称 Great Place To Work (R) Institute Japan
- 所在地 東京都
- 業種 企業向けサービス
- URL http://www.hatarakigai.info/
過去に配信したプレスリリース
2024年版 アジア地域における「働きがいのある会社」ランキング発表!
8/29 14:00
職場の心理的安全性を高める鍵は「経営・管理者層の積極的な関わり」や「公正感」
2023/12/14
2023年版 アジア地域における「働きがいのある会社」ランキング発表!
2023/8/30