最先端材料科学研究:機械学習を用いX線回折データからポリマーの力学特性を予測
X線回折パターンに力学物性の情報
2024年8月26日
図の説明: 機械学習を応用したポリマー物性の高精度予測によって,破壊的な物性試験を不要に.
ポリプロピレンなどのポリマーは現代では身近に利用されている材料であり,コンピューターから車まで様々な製品で使われています.その汎用性ゆえ,開発された材料がどのような加工状況でどのような力学物性を示すかを知ることが重要です.ポリマーの化学組成は基本的な情報ですが,引っ張り強度や曲げ柔軟さといった力学的性質は化学組成だけでは決まらないため,できあがった材料に対する力学物性の測定が必要でした.これには時間も手間もかかります.今回,物質・材料研究機構(NIMS)の田村亮・永田賢二・中西尚志と化学系企業(旭化成、住友化学、三井化学、三菱ケミカル)の合同研究チームは,X線回折実験の結果に機械学習を適用することにより,ある種のポリマー材料の力学物性を精度良く予測できることを示しました.
X線回折の結果は回折角の関数としてX線強度が記録されるスペクトル様のものなので,これから機械学習の入力となる記述子を抽出する必要があります.研究チームは,このために「ベイズ推定に基づくスペクトル分解」を採用し,回折パターンから自動的に回折角,強度,ピーク幅などの記述子を抽出する方法を用いました.さらに,抽出した記述子の中から予測に重要な記述子を,次世代計算技術であるイジングマシンを利用することで,選定しました.こうして得られた記述子と力学物性を入力に,機械学習による予測を行ったところ,ある種のポリプロピレン材料について,予測対象とした9種の力学物性のうち,7種で良好な予測が可能でした.一方,破断時の延びを含む2種の予測は困難でした.これらの予測困難な力学物性は実際にもばらつきが大きな量であるという特徴がありました.
図の説明: ポリプロピレンの成型過程における構造変化を簡便な実験結果に基づき抽出.
今回の研究により,非破壊で簡便に実施できるX線回折の実験結果から記述子を自動的に抽出して機械学習によって力学物性を予測できることが示されたので,材料開発における時間とコストの削減が見込まれます.一方で,力学物性の多くは,X線回折で観測できない大きさ、次元性のポリマー高次構造が深く関わると考えられてきたので,今回の発見はポリマーの基礎科学においても重要な足がかりとなり得るものといえます.
論文情報
タイトル:Machine learning prediction of the mechanical properties of injection-molded polypropylene through X-ray diffraction analysis
著者:Ryo Tamura*, Kenji Nagata*, Keitaro Sodeyama, Kensaku Nakamura, Toshiki Tokuhira, Satoshi Shibata, Kazuki Hammura, Hiroki Sugisawa, Masaya Kawamura, Teruki Tsurimoto, Masanobu Naito, Masahiko Demura & Takashi Nakanishi*
*Materials Open Platform for Chemistry, National Institute for Materials Science, Ibaraki, Japan (E-mails: tamura.ryo[at]nims.go.jp, nagata.kenji[at]nims.go.jp, nakanishi.takashi[at]nims.go.jp)
引用:Science and Technology of Advanced Materials: Methods Vol. 25 (2024) 2388016
最終版公開日:2024年8月15日
本誌リンク https://doi.org/10.1080/14686996.2024.2388016(オープンアクセス)
Science and Technology of Advanced Materials誌は、国立研究開発法人 物質・材料研究機構(NIMS)とEmpaが支援するオープンアクセスジャーナルです。
本プレスリリースは発表元が入力した原稿をそのまま掲載しております。また、プレスリリースへのお問い合わせは発表元に直接お願いいたします。
このプレスリリースには、報道機関向けの情報があります。
プレス会員登録を行うと、広報担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など、報道機関だけに公開する情報が閲覧できるようになります。
このプレスリリースを配信した企業・団体
- 名称 国立研究開発法人物質・材料研究機構
- 所在地 茨城県
- 業種 各種団体
- URL https://www.nims.go.jp/
過去に配信したプレスリリース
最先端材料科学研究:機械学習によるポリマー合成条件の最適化
11/29 11:00
最先端材料科学研究:機械学習を用いX線回折データからポリマーの力学特性を予測
8/26 11:00
最先端材料科学研究:二重化治療法が口内がんに有望
8/2 11:00
最先端材料科学研究:材料分析に新たな風
5/13 11:00
最先端材料科学研究:セルロースフィルムを「切り紙」ハイドロゲルに
4/25 11:00
最先端材料科学研究:触らないタッチセンサーを開発
3/22 11:00
最先端材料科学研究:外力に対する細胞の応答を、ナノサイズのプローブで明らかに
2023/11/27
最先端材料科学研究:機械学習で材料のX線分析法を改良
2023/11/21
最先端材料科学研究:ヤモリの足裏を模倣した接着盤の脱着をひねりで制御
2023/11/20
最先端材料科学研究:人工知能GPT-4が化学分野で能力を発揮
2023/10/16
最先端材料科学研究:機械学習による分子設計と反応経路の同時発見
2023/5/23