インドネシアで熱帯泥炭地の修復と管理の実証事業を開始

~メガライスプロジェクト跡地で先端技術を活用し経済と環境両立のモデルを構築~

住友林業

2024年9月17日

住友林業株式会社

インドネシア・カリマンタン島の地図

 

 住友林業株式会社(社長:光吉 敏郎 本社:東京都千代田区)の100%子会社のインドネシア住友林業(PT. Sumitomo Forestry Indonesia)は8月17日、インドネシア環境林業省の環境破壊管理総局(PPKL)・泥炭マングローブ復興庁(BRGM)と事業協力協定(PKS)を締結しました。インドネシア中央カリマンタン州メガライスプロジェクト※1跡地で先端技術を活用した新たな泥炭地管理技術の実証を開始します。日本の環境省とインドネシアの環境林業省で締結した協力覚書(MoC)の下、メガライスプロジェクト跡地のうち約1万haで荒廃した熱帯泥炭地の修復と管理の実証事業を2027年8月まで実施します。植林事業の検証も行い、経済と環境が両立した森林経営を目指します。

 

 本事業は経済産業省グローバルサウス未来志向型共創等事業(大型実証ASEAN加盟国)で採択された取り組みです。住友林業グループはこれまで西カリマンタン州で培ってきた独自の熱帯泥炭地管理技術を活用し、泥炭火災の防止、CO2排出量削減、生物多様性の保全、地域住民の雇用に繋がる取り組みを行ってきました。本事業では最先端の衛星・ドローン・AIを使って技術を実証し一時的な熱帯泥炭地の修復ではなく、持続可能な熱帯泥炭地管理モデルの構築を目標としています。新たなモデルを構築し、世界で唯一の日本の技術を展開することで、国際的な熱帯泥炭地の課題解決やインドネシアの温室効果ガス削減目標(NDC※2)達成に寄与することを目指します。

 

※1. 1996年にインドネシア政府が食糧問題に対応するため、中央カリマンタン州南部の100万haにおよぶ泥炭湿地林を水田に転換することを目的にプロジェクトを始めましたが、泥炭生態系の知見、管理技術の不足から失敗に終わりました。その後の度重なる泥炭火災によって、森林がごく一部を残して消失しました。

※2. Nationally Determined Contribution. (国が決定する貢献) パリ協定に基づき各国が作成・通報・維持しなければならない温室効果ガスの排出削減目標。

 

■概要

 本事業は住友林業グループの熱帯泥炭地管理技術に最先端の衛星・ドローン・AIを活用した排出削減型の泥炭地管理手法を加えた新たな取り組みに対して技術と経済性を検証します。また熱帯泥炭地管理によるCO2排出削減効果のインベントリ方法論構築※3と国際標準化を目指します。日本の環境省とインドネシアの環境林業省で締結した協力覚書(MoC)に「泥炭地の修復と管理」が協力分野の一つとして追加され、2国間で取り組むプロジェクトとなりました。

 

※3. 一国が1年間に排出・吸収する温室効果ガスの量を取りまとめたデータ。CO2、N2O、メタンなどの温室効果ガスの種類や活動によって排出、吸収する収支を示すデータ算出方法を構築。

 

 

泥炭火災などで荒廃したメガライスプロジェクト跡地

 

 

■熱帯泥炭地

 熱帯泥炭地は枯死した植物が過湿(水分量の多い状態)の環境下で分解されずに有機物のかたまりとして堆積した土壌で、大量の水と炭素を含んでいます。インドネシア、アマゾン、コンゴ盆地に分布する熱帯泥炭地の面積は全世界で82百万ha※4(日本の国土面積の約2倍)以上、貯蔵する炭素量は少なくとも890億トン※5(2017年の世界の炭素排出量の約10倍)と言われています。

 熱帯泥炭地の管理には地下水位の維持が重要で不適切な土地管理や農業開発、プランテーションのために水が排水されると土壌が乾燥し、微生物による分解が進む他、火災発生によって大量のCO2が大気中に放出されます。一方で地下水位が高くなりすぎると樹木の生育を妨げるため地下水位の管理が非常に重要です。

 

※4. 出典:PEATMAP: Refining estimates of global peatland distribution based on a meta-analysis(Xu et al., 2018)

※5. 出典:Age, extent and carbon storage of the central Congo Basin peatland complex(Dargie et al., 2017)

 

■背景

 2015年に採択されたパリ協定に則って各国政府・企業・投資家の2050年脱炭素社会の実現に向けた動きが加速。日本政府も2030年までの温室効果ガスの削減目標を2013年比26%から46%減に引き上げることを表明しています。熱帯泥炭地の修復による排出削減や森林保全によるCO2吸収はグローバルな気候変動対策だけでなく、社会課題に対する自然を基盤とした解決策Nature-based Solutions(NbS)※6として期待されています。

 

 本事業の検討は2022年12月にインドネシアのジョコ大統領から泥炭火災やヘイズ(煙害)防止に繋がる技術であるとして、熱帯泥炭地管理の支援要請を受けたことが始まりです。支援要請に基づき火災防止の必要性が最も高く、新首都ヌサンタラへの煙害リスクが高いメガライスプロジェクト跡地に熱帯泥炭地管理技術を導入し、展開することを計画しました。2023年12月のアジア・ゼロミッション共同体(AZEC)二国間会談ではインドネシアのジョコ大統領が3つの国家優先プロジェクトの一つとして当社の熱帯泥炭地管理に言及しました。

 

 住友林業グループの熱帯泥炭地管理の水路設計・管理はこれまで再現性の高くない技術でしたが、衛星・ドローン・AIなど最先端の技術を活用することで、当社は属人的ではない持続可能な熱帯泥炭地管理につながる管理モデル構築を目指しています。このノウハウは長年西カリマンタン州で培ってきた熱帯泥炭地の膨大なデータ蓄積や経験に基づくもので、実証事業後の大規模事業化を可能にする技術と考えています。

 

※6. 自然を基盤とした解決策。国連気候変動枠組条約と生物多様性条約でも定着しつつある概念で、社会課題に効果的かつ順応的に対処し、人間の幸福および生物多様性による恩恵を同時にもたらす、自然及び人為的に改変された生態系の保護、持続可能な管理、回復のための行動と国際自然保護連合(IUCN)で定義されている。

 

■今後の展開

 2027年8月までの実証期間で事業性が認められれば今後、管理規模拡大を目指します。森林経営による収益に加えて、熱帯泥炭地からの排出削減による炭素クレジットの方法論を構築し、クレジット事業を新たな収益源とすることも視野に入れています。また泥炭地からの排出削減方法論構築は当社の収益だけなく、日本・インドネシア間の二国間クレジット制度(JCM)の推進に繋がります。当社は経済産業省、環境省、林野庁と合同勉強会を実施し、両国のNDC達成に寄与することを目指します。将来的にはインドネシアだけではなくブラジルやコンゴ共和国など他の熱帯泥炭地に展開することも検討し、世界で熱帯泥炭地の修復と管理を実施していきます。

 

 

 住友林業グループは森林経営から木材建材の製造・流通、戸建住宅・中大規模木造建築の請負や不動産開発、木質バイオマス発電まで「木」を軸とした事業をグローバルに展開しています。2030年までの長期ビジョン「Mission TREEING 2030」では住友林業のバリューチェーン「ウッドサイクル」を回すことで、森林のCO2吸収量を増やし、木造建築の普及で炭素を長期にわたり固定し社会全体の脱炭素に貢献することを目指しています。長期ビジョンで掲げた「循環型森林ビジネスの加速」に向けグローバル規模の森林ファンド組成や森林面積拡大を進めます。

 

■インドネシア住友林業 概要

本 社:Summitmas Ⅱ 8th Fl., JL.Jend. Sudirman Kav. 61-62Jakarta 12190, Indonesia

代表者:仲津 史英

設 立:2011年5月

事業概要:木材・建材の輸出入、卸販売

 

(参考)

 住友林業グループは2010年から西カリマンタン州で大規模な森林事業を展開しています。管理地は1960年代から1990年代前半まで商業伐採が行われ、違法な森林伐採や焼き畑が繰り返されて森林の荒廃化が進んでいました。5年もの歳月をかけて地形測量し、泥炭の分布を把握するためのボーリング調査を実施して水路を設計。地下水位を安定させながら森林経営を行う独自の熱帯泥炭地管理モデルを構築しました。地下水位の安定化で温室効果ガス排出や森林火災が抑制され、さらに水循環が適切に保たれるため、脱炭素社会の実現に大きく貢献しています。

参考HP:https://sfc.jp/treecycle/value/peatland.html

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